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4章『恋路編』
72「そなたは唯一私が愛する者だ」
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それはここから3時間ほどかかる、ド田舎の林道で発見されたという情報。
俺は汚い袋を被せられ、林道脇に捨てられていたという。
たまたま通りかかった地元住民が見つけてくれたのだが、低速で走る車から捨てられたせいで、俺は体中に傷と痣を負っていた。命に別状はないが、全身痛い。
応急処置を終え、一応精密検査をした方がいいとのことで、俺は発見された田舎から大学病院に緊急搬送された。
検査が終わり、聴取などが終わるまでは会えないと言われていたが、天王寺は全てを無視して、診察中だった部屋に押し入った。
「姫っ!」
ものすごい勢いで診察室に入ってきた天王寺は、その勢いのまま俺に抱きつく。
「痛い、痛い……天王寺……」
「構わぬ。私にそなたを感じさせてほしいのだ」
「構うのは俺だろう……」
ガーゼやら包帯やらで、傷だらけの俺をただひたすら抱きしめる天王寺は、一切離す気がないだろう力で俺を抱き締めてくる。
「全く、診察中だと誰か言わなかったのかい」
「お止めしたのですが、全然聞いていただけなくて……」
医者があきれた様子で看護師に言えば、女性の看護師は困ったように眉を寄せる。医者はやれやれと息をつくと、席を立つ。
「外傷は、かすり傷と打撲だけだよ。塗り薬とシップ、念のため痛み止めも処方しておくけど、スキャンデータはまだ見てないから、後でまたおいで」
そう言った医者は、天王寺をそのままに診察室を出て行く。
「あ、ありがとうございます」
「お大事にね」
呆れたように診察室を後にする医者に、俺は乾いた笑いを返すことしかできなかった。
ギュウギュウと締め付けてくる天王寺。俺はどうしようかと思いつつも、痛む身体を離して欲しいと少しだけ抵抗してみる。
「なあ、俺、ケガ人なんだけど」
「分かっておる」
「……分かってないよな、絶対」
まったく緩まない腕の力に、俺は痛みも忘れて完全に途方に暮れた。こうなったら気が済むまで放っておくかと諦めかけたその時、耳元にわずかな嗚咽が聞こえた。
── 泣いてる ──
徐々に肩が震えだし、腕が震え、天王寺の身体全体が震えだす。
だから俺は慰めたくて、安心させたくて明るい声をだす。
「こんなの全然平気だって、なあ……」
「失ってしまうかと、二度と会えぬと考えていたのだぞ……」
嗚咽とともに吐き出された言葉は、絞り出すような声だった。
「……ごめん」
俺が悪いわけじゃないけど、何となく俺は謝っていた。きっとすごい心配をかけたと。
「姫を失いたくないのだ。……そなたは唯一私が愛する者だ」
「は、恥ずかしい台詞を言うなっ」
「私がどれほどそなたを想い、胸を痛めておったかわかって欲しいのだ」
抱きしめられたまま天王寺は、俺が誘拐されてからどれほど心配し、不安に埋め尽くされたか言葉では伝えきれないと、もっともっと抱きしめてくる。
声が震え、掠れ、きっと溢れる涙を抑えきれていないだろう、天王寺の想いが痛いほど伝わってきた。だから俺も天王寺の背に腕を回した。
「心配かけて、ごめんな」
だからもう悲しまないで、泣かないで欲しいと俺は思う。
「そなたしかいらぬのだ」
「あのなぁ~」
「姫さえいてくれるのなら、私は何も望まぬ」
これは、新手のプロポーズなのか、それとも斬新なテロリストなのか、俺は話半分に聞きながら、恥ずかしさに顔を赤く染めていた。
ああ、もう、なんでこいつはこんなに俺が好きなんだよ。訳わかんないと頭を悩ませる。
卒業したらどうせ終わる。これは一時の気の迷いなんだろうと、俺は男同士でこんな関係が続くとは思っていない。心のどこかで割り切っているはずだと思いつつも、天王寺の声に言葉に心が動いてしまう。
流されちゃいけない、これは甘い罠だ。後で傷つくのはきっと自分だ。俺は自分の気持ちに嘘をついていく。
「そういう台詞は、将来のためにとっておけよ」
「将来とは」
「可愛い未来のお嫁さんに言うに決まってんだろう」
そこまで言わせるな、と内心で叫んだ俺の身体が突然、天王寺から引き離された。
やはり泣いていたんだろう、赤くなっていた天王寺の瞳が真剣に俺を捉える。両肩をしっかりと掴まれ、天王寺はかなり近い距離で俺を見ている。
「ならばとっておく必要などないではないか」
「は……、い?」
「姫は、私が貰うのだから」
完全に言葉を失った。
ちょっと待て、待て待て待て──っ! お前は正気かぁぁぁ!
誰が誰を貰うって? 冗談も寝言も寝てから言えぇぇ。
「ばっ、そういう冗談はやめろ」
「本気だが」
目が、目が笑ってない。……お金持ちってなんか思考回路がおかしいのかな?
そもそも天王寺に俺の言葉って通じたっけ? 変な汗がどんどん流れ、俺の口角が震えだす。
「俺、男だって知ってるよな」
まさか忘れてる。
「幾度も身体を重ねたではないか、そのようなこと今更聞かずとも……」
「わぁ──、わかった。わかったからそれ以上言うな」
そうだこいつは恥ずかしいことを平気で口にできる奴だった。これ以上何かを口にされる前に俺はそれを食い止める。
俺は汚い袋を被せられ、林道脇に捨てられていたという。
たまたま通りかかった地元住民が見つけてくれたのだが、低速で走る車から捨てられたせいで、俺は体中に傷と痣を負っていた。命に別状はないが、全身痛い。
応急処置を終え、一応精密検査をした方がいいとのことで、俺は発見された田舎から大学病院に緊急搬送された。
検査が終わり、聴取などが終わるまでは会えないと言われていたが、天王寺は全てを無視して、診察中だった部屋に押し入った。
「姫っ!」
ものすごい勢いで診察室に入ってきた天王寺は、その勢いのまま俺に抱きつく。
「痛い、痛い……天王寺……」
「構わぬ。私にそなたを感じさせてほしいのだ」
「構うのは俺だろう……」
ガーゼやら包帯やらで、傷だらけの俺をただひたすら抱きしめる天王寺は、一切離す気がないだろう力で俺を抱き締めてくる。
「全く、診察中だと誰か言わなかったのかい」
「お止めしたのですが、全然聞いていただけなくて……」
医者があきれた様子で看護師に言えば、女性の看護師は困ったように眉を寄せる。医者はやれやれと息をつくと、席を立つ。
「外傷は、かすり傷と打撲だけだよ。塗り薬とシップ、念のため痛み止めも処方しておくけど、スキャンデータはまだ見てないから、後でまたおいで」
そう言った医者は、天王寺をそのままに診察室を出て行く。
「あ、ありがとうございます」
「お大事にね」
呆れたように診察室を後にする医者に、俺は乾いた笑いを返すことしかできなかった。
ギュウギュウと締め付けてくる天王寺。俺はどうしようかと思いつつも、痛む身体を離して欲しいと少しだけ抵抗してみる。
「なあ、俺、ケガ人なんだけど」
「分かっておる」
「……分かってないよな、絶対」
まったく緩まない腕の力に、俺は痛みも忘れて完全に途方に暮れた。こうなったら気が済むまで放っておくかと諦めかけたその時、耳元にわずかな嗚咽が聞こえた。
── 泣いてる ──
徐々に肩が震えだし、腕が震え、天王寺の身体全体が震えだす。
だから俺は慰めたくて、安心させたくて明るい声をだす。
「こんなの全然平気だって、なあ……」
「失ってしまうかと、二度と会えぬと考えていたのだぞ……」
嗚咽とともに吐き出された言葉は、絞り出すような声だった。
「……ごめん」
俺が悪いわけじゃないけど、何となく俺は謝っていた。きっとすごい心配をかけたと。
「姫を失いたくないのだ。……そなたは唯一私が愛する者だ」
「は、恥ずかしい台詞を言うなっ」
「私がどれほどそなたを想い、胸を痛めておったかわかって欲しいのだ」
抱きしめられたまま天王寺は、俺が誘拐されてからどれほど心配し、不安に埋め尽くされたか言葉では伝えきれないと、もっともっと抱きしめてくる。
声が震え、掠れ、きっと溢れる涙を抑えきれていないだろう、天王寺の想いが痛いほど伝わってきた。だから俺も天王寺の背に腕を回した。
「心配かけて、ごめんな」
だからもう悲しまないで、泣かないで欲しいと俺は思う。
「そなたしかいらぬのだ」
「あのなぁ~」
「姫さえいてくれるのなら、私は何も望まぬ」
これは、新手のプロポーズなのか、それとも斬新なテロリストなのか、俺は話半分に聞きながら、恥ずかしさに顔を赤く染めていた。
ああ、もう、なんでこいつはこんなに俺が好きなんだよ。訳わかんないと頭を悩ませる。
卒業したらどうせ終わる。これは一時の気の迷いなんだろうと、俺は男同士でこんな関係が続くとは思っていない。心のどこかで割り切っているはずだと思いつつも、天王寺の声に言葉に心が動いてしまう。
流されちゃいけない、これは甘い罠だ。後で傷つくのはきっと自分だ。俺は自分の気持ちに嘘をついていく。
「そういう台詞は、将来のためにとっておけよ」
「将来とは」
「可愛い未来のお嫁さんに言うに決まってんだろう」
そこまで言わせるな、と内心で叫んだ俺の身体が突然、天王寺から引き離された。
やはり泣いていたんだろう、赤くなっていた天王寺の瞳が真剣に俺を捉える。両肩をしっかりと掴まれ、天王寺はかなり近い距離で俺を見ている。
「ならばとっておく必要などないではないか」
「は……、い?」
「姫は、私が貰うのだから」
完全に言葉を失った。
ちょっと待て、待て待て待て──っ! お前は正気かぁぁぁ!
誰が誰を貰うって? 冗談も寝言も寝てから言えぇぇ。
「ばっ、そういう冗談はやめろ」
「本気だが」
目が、目が笑ってない。……お金持ちってなんか思考回路がおかしいのかな?
そもそも天王寺に俺の言葉って通じたっけ? 変な汗がどんどん流れ、俺の口角が震えだす。
「俺、男だって知ってるよな」
まさか忘れてる。
「幾度も身体を重ねたではないか、そのようなこと今更聞かずとも……」
「わぁ──、わかった。わかったからそれ以上言うな」
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