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3章『邪恋編』
68「約束しますっ」
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【後日談】
「ちゃお」
迎えの車に乗り込もうとした桜井は、背後から声を掛けられ、振り向いて「げっ」と、思わず声が出てしまった。
声を掛けてきたのは、天王寺尚希。あの日ホテルで「二度と尚人に近づくな」と、脅されたのは脳裏に焼き付いている。だから、尚人には近づかないようにしていた。それなのに一体何の用があるのかと、つい怪訝な表情を浮かべてしまう。
「尚様のお兄様が、僕に何か御用ですか?」
「一つ言い忘れちゃったことがあってね」
「言い忘れたこと?」
「そう、姫ちゃんにも近づくなってね」
顔は笑っていたが、声は明らかに脅しだった。尚人に近づくのは危険だが、一般人の姫木に手を出せないなんて、納得ができない。腹の虫がおさまらないと、桜井は尚希を見るが、そんなこと口が裂けても言えず、とりあえず愛想笑いを浮かべる。
「分かりました」
素直に尚希の言葉を受け入れる振りをして、桜井はなんとか姫木に一泡吹かせてやろうとは考えていた。あんな下層な奴、少し突けばすぐに仕返しができると企んで。
「ねえ、コレすごく良く撮れてると思わない?」
そんな桜井の企みを予測していたのか、尚希は一枚の写真を見せびらかしてきた。そこには、桜井が知らない男性と抱き合っているシーンが映し出されていた。
全くもって身に覚えがなく、桜井はすぐに合成写真だと見抜く。
「そんな合成写真で、僕は騙されませんよ」
「動画もあるんだけど」
写真に続き、尚希は携帯を楽しそうに左右に振りながら、ここに証拠があると嫌味な笑みを見せる。もちろん動画だって身に覚えなどなく、作り物だと桜井は高を括るが、尚希は自信満々に画面をクリックする。
そして見せられた動画に、桜井は驚愕するとともに、青ざめる。
完成度が半端なく高く、クオリティの精度が桁違いで、声まで自分そっくりだった。しかも、男を誘うシーン。
「どう、気に入ってくれた?」
ワンシーンを見せつけて、尚希はニヤリと笑う。
「こんなの、全部合成じゃないですかッ」
「桜井カンパニーは、いくらで買ってくれるかな?」
「まさか、売りつけるつもりじゃ……」
息子の痴態を高額で買い取ってもらうと、尚希は真っ黒な笑顔をつくる。合成だと分かっていても、この完成度ではおそらく信じてしまうだろうと、桜井は真っ青な顔で尚希を睨む。こんな写真や動画をバラまかれたら、叱られるだけでなく、勘当されかねない。
いくら合成だと訴えたところで、声色まで似せてあり、言い訳が出来るレベルじゃなかった。
天王寺家の次男には裏がある。そんな噂があることを今更思い出した桜井は、背中に大量の汗を流して、一歩後ろに下がる。
「さあ、どうする?」
「どう、するって……」
「姫ちゃんにも近づかないって、約束してくれるよね」
二人の邪魔するなと、尚希は鋭く瞳を光らせた。口調も優しく、笑顔だったが、真意は凄まじく恐ろしかった。桜井カンパニーに売りつけるだけでは事足りず、尚希は世間にもお披露目しようか? なんて、悪魔の囁きまでしてきた。
ゴクリと唾を飲み込む桜井は、心の底から尚希が恐ろしいと思った。
「約束しますっ」
大声で尚希に、姫木にはもう二度と近づかないと叫んだ。何のとりえもないような一般人を相手にして、自分の将来が闇に落ちるくらいなら、もう関わるのは止めようと選択する。
尚様のことは大好きだけど、やっぱり自分が一番可愛いし、大事だから、尚希を敵に回すのは絶対に得策じゃないと、桜井は潔く頭を下げると、
「姫木君には、もう二度と近づきません」
だから、もう見逃して、許してくださいと懇願する。そうすれば尚希が覗き込むように、腰を屈めてくる。
「それ、信じてもいいやつ?」
「本当です」
「それじゃあ、約束破ったら、本気でバラまくから」
にこ~と、悪魔の笑みを見せた尚希の言葉は、何よりも冷めていた。噂は本当の本物なのか、と、桜井は生唾を飲み込んで尚希を見る。
天王寺家の次男には気をつけろ。闇で囁かれている噂。ふとそんな言葉が頭を過り、桜井は身震いをするように身を縮ませて、愛想笑いを作る。
「尚様にも、姫木君にも二度と近づきません」
絶対の絶対ですと、訴えれば、尚希がさらに笑顔になった。
「証言とったからね」
そう言いながら取り出したのは、ボイスレコーダー。用意周到すぎるだろうと、桜井はさらにゴクリと唾を飲み込んで、
「ごめんなさい」
と、謝罪すると、そのまま逃げるように車に乗り込んで逃走した。
もう絶対二人には近づかないと心に決めて。
「ちょっと脅かしすぎちゃったかな?」
真っ青な顔で逃げて行った桜井を眺めながら、尚希はこれで邪魔者は排除できたでしょうと、可愛い弟の恋を全力で応援すると同時に、どうか想いが届きますようにと願った。
4章『恋路編』へ続く。
「ちゃお」
迎えの車に乗り込もうとした桜井は、背後から声を掛けられ、振り向いて「げっ」と、思わず声が出てしまった。
声を掛けてきたのは、天王寺尚希。あの日ホテルで「二度と尚人に近づくな」と、脅されたのは脳裏に焼き付いている。だから、尚人には近づかないようにしていた。それなのに一体何の用があるのかと、つい怪訝な表情を浮かべてしまう。
「尚様のお兄様が、僕に何か御用ですか?」
「一つ言い忘れちゃったことがあってね」
「言い忘れたこと?」
「そう、姫ちゃんにも近づくなってね」
顔は笑っていたが、声は明らかに脅しだった。尚人に近づくのは危険だが、一般人の姫木に手を出せないなんて、納得ができない。腹の虫がおさまらないと、桜井は尚希を見るが、そんなこと口が裂けても言えず、とりあえず愛想笑いを浮かべる。
「分かりました」
素直に尚希の言葉を受け入れる振りをして、桜井はなんとか姫木に一泡吹かせてやろうとは考えていた。あんな下層な奴、少し突けばすぐに仕返しができると企んで。
「ねえ、コレすごく良く撮れてると思わない?」
そんな桜井の企みを予測していたのか、尚希は一枚の写真を見せびらかしてきた。そこには、桜井が知らない男性と抱き合っているシーンが映し出されていた。
全くもって身に覚えがなく、桜井はすぐに合成写真だと見抜く。
「そんな合成写真で、僕は騙されませんよ」
「動画もあるんだけど」
写真に続き、尚希は携帯を楽しそうに左右に振りながら、ここに証拠があると嫌味な笑みを見せる。もちろん動画だって身に覚えなどなく、作り物だと桜井は高を括るが、尚希は自信満々に画面をクリックする。
そして見せられた動画に、桜井は驚愕するとともに、青ざめる。
完成度が半端なく高く、クオリティの精度が桁違いで、声まで自分そっくりだった。しかも、男を誘うシーン。
「どう、気に入ってくれた?」
ワンシーンを見せつけて、尚希はニヤリと笑う。
「こんなの、全部合成じゃないですかッ」
「桜井カンパニーは、いくらで買ってくれるかな?」
「まさか、売りつけるつもりじゃ……」
息子の痴態を高額で買い取ってもらうと、尚希は真っ黒な笑顔をつくる。合成だと分かっていても、この完成度ではおそらく信じてしまうだろうと、桜井は真っ青な顔で尚希を睨む。こんな写真や動画をバラまかれたら、叱られるだけでなく、勘当されかねない。
いくら合成だと訴えたところで、声色まで似せてあり、言い訳が出来るレベルじゃなかった。
天王寺家の次男には裏がある。そんな噂があることを今更思い出した桜井は、背中に大量の汗を流して、一歩後ろに下がる。
「さあ、どうする?」
「どう、するって……」
「姫ちゃんにも近づかないって、約束してくれるよね」
二人の邪魔するなと、尚希は鋭く瞳を光らせた。口調も優しく、笑顔だったが、真意は凄まじく恐ろしかった。桜井カンパニーに売りつけるだけでは事足りず、尚希は世間にもお披露目しようか? なんて、悪魔の囁きまでしてきた。
ゴクリと唾を飲み込む桜井は、心の底から尚希が恐ろしいと思った。
「約束しますっ」
大声で尚希に、姫木にはもう二度と近づかないと叫んだ。何のとりえもないような一般人を相手にして、自分の将来が闇に落ちるくらいなら、もう関わるのは止めようと選択する。
尚様のことは大好きだけど、やっぱり自分が一番可愛いし、大事だから、尚希を敵に回すのは絶対に得策じゃないと、桜井は潔く頭を下げると、
「姫木君には、もう二度と近づきません」
だから、もう見逃して、許してくださいと懇願する。そうすれば尚希が覗き込むように、腰を屈めてくる。
「それ、信じてもいいやつ?」
「本当です」
「それじゃあ、約束破ったら、本気でバラまくから」
にこ~と、悪魔の笑みを見せた尚希の言葉は、何よりも冷めていた。噂は本当の本物なのか、と、桜井は生唾を飲み込んで尚希を見る。
天王寺家の次男には気をつけろ。闇で囁かれている噂。ふとそんな言葉が頭を過り、桜井は身震いをするように身を縮ませて、愛想笑いを作る。
「尚様にも、姫木君にも二度と近づきません」
絶対の絶対ですと、訴えれば、尚希がさらに笑顔になった。
「証言とったからね」
そう言いながら取り出したのは、ボイスレコーダー。用意周到すぎるだろうと、桜井はさらにゴクリと唾を飲み込んで、
「ごめんなさい」
と、謝罪すると、そのまま逃げるように車に乗り込んで逃走した。
もう絶対二人には近づかないと心に決めて。
「ちょっと脅かしすぎちゃったかな?」
真っ青な顔で逃げて行った桜井を眺めながら、尚希はこれで邪魔者は排除できたでしょうと、可愛い弟の恋を全力で応援すると同時に、どうか想いが届きますようにと願った。
4章『恋路編』へ続く。
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