49 / 268
2章『狂恋編』
49「聞き耳持たぬ」
しおりを挟む
絶対に天王寺家に行くわけには行かない。俺はこの状況を打破するべく、標的を増やすことを考える。
「浅見さんと一緒がいいっ」
ヤケクソでそう叫べば、天王寺の視線は自然と浅見に向く。当然巻き込まれた浅見は、ズレた眼鏡を正しながら、一歩だけ下がった。
「姫木、俺を巻き込むな!」
「助けてください、浅見さん」
天王寺から逃れるには、もう浅見の手を借りるしかないと、俺も必死だ。このままでは天王寺のいいようにされてしまう。本当に冗談じゃ済まされなくなる。
あんなことまでしちゃった仲だけど、まだ戻れるんじゃないかって、僅かな望みを捨てた訳じゃないんだ。
「冬至也、どういうことなのだ」
冷たい、冷たい声が浅見にかかる。俺が一緒にいたいなんて言ったから、天王寺の機嫌が下降したのは一目瞭然。
「俺は姫木といるつもりはない」
「姫が共にいたいと申しておるのにか」
「断る」
きっぱりと断られ、俺は泣きそうな顔でさらに助けを求める。
「嫌だよぉ、浅見さんといる、絶対一緒にいるッ」
もう何でもいい、誰でもいい、俺を天王寺から助けてくれと、藁にも縋る思いで俺は顔を歪める。この状況から救い出して欲しいと。
「姫、何ゆえに冬至也がよいのだ」
泣きそうな声をあげた俺に、天王寺は眉を下げて俺に問う。
「水月でもいいからぁ~」
「誰でもよいというのかっ」
「いい、お前じゃなきゃ誰でもいいからっ」
混乱して錯乱中の俺は、天王寺以外なら誰でもいいと叫び出していた。当然、誰でもいいなどといった俺に罰が……
「んんっ、ん――ッ!!」
腕に抱いた俺に、天王寺はいきなりキスをしてきたんだ。しかも噛みつくような激しい口づけ。
「そのような戯れ言、聞き耳持たぬ」
ピシャリと言い放った天王寺は、さらに俺に口づけを与える。
「やぁ、……ぁ、やめ……ろって、んあぁ、んふっ……」
「止めぬ、姫が私を選ばぬというのなら、私しか見えぬようにするまで」
「だから、んんっ……、お前なんか選ばないって、ぁ、んんっ……っ」
何か声を発するたびに塞がれる唇に、俺は何度も首を振ったけど、獣のように追ってくる天王寺からは逃げられず、俺は周りに人がいるのも忘れて、激しい口づけを何度も何度も受け入れる羽目になっていた。
いつしか唇は赤く腫れ、俺の焦点もあやふやに。腕の中でくったりとしてしまった俺を満足そうに抱える天王寺は、垂れた腕に俺から力が抜けたことを知ると、「姫を医者に診せるがゆえ、私は戻る」などと、どこか嬉しそうに吐き捨てると、スタスタと資料室を出て行く。
もちろん残された者は、その後姿をただただ呆然を眺めるだけ。
俺の身に何が起こったのだろうか……。気だるい身体を天王寺に預けたまま、俺は運ばれていく。
が、しかし、外に出た瞬間、一際強い風が吹き、俺はなぜかそこで唐突に覚醒し、いきなり暴れ出して天王寺の腕から逃れた。
「姫ッ!」
背後から俺を呼び止める声がしたが、俺は全力疾走で走り抜け、停留所に止まっていた出発目前のバスに乗り込んだ。
とりあえず、天王寺の足がどれだけ早くても、バスには追いつけない。
俺は立ち尽くす天王寺を窓から眺めながら、呼吸を整えて空席に着く。
(ほんと、何考えてんだあいつは)
羞恥心を持っていないのか?! 心で叫んだ俺は、そっと唇に触れていた。
甘く溶かされる天王寺のキス。それが嫌ではないと、自覚したら急に恥ずかしくなって、俺は鞄を抱きしめて蹲る。
あいつは男だ、男なんだぞ。それも超金持ちで、イケメンで、女の子が放っておかないほどのルックスと秀才。なのに、なんで俺なんだ。
全然分からないと、俺は揺れるバスの中で一人身もだえていた。明日、どんな顔して学校に行けばいいのか、そんなことばかり考えてしまうあたり、自分も大概だと、全身を赤く染めていった。
3章『邪恋編』へ続く。
「浅見さんと一緒がいいっ」
ヤケクソでそう叫べば、天王寺の視線は自然と浅見に向く。当然巻き込まれた浅見は、ズレた眼鏡を正しながら、一歩だけ下がった。
「姫木、俺を巻き込むな!」
「助けてください、浅見さん」
天王寺から逃れるには、もう浅見の手を借りるしかないと、俺も必死だ。このままでは天王寺のいいようにされてしまう。本当に冗談じゃ済まされなくなる。
あんなことまでしちゃった仲だけど、まだ戻れるんじゃないかって、僅かな望みを捨てた訳じゃないんだ。
「冬至也、どういうことなのだ」
冷たい、冷たい声が浅見にかかる。俺が一緒にいたいなんて言ったから、天王寺の機嫌が下降したのは一目瞭然。
「俺は姫木といるつもりはない」
「姫が共にいたいと申しておるのにか」
「断る」
きっぱりと断られ、俺は泣きそうな顔でさらに助けを求める。
「嫌だよぉ、浅見さんといる、絶対一緒にいるッ」
もう何でもいい、誰でもいい、俺を天王寺から助けてくれと、藁にも縋る思いで俺は顔を歪める。この状況から救い出して欲しいと。
「姫、何ゆえに冬至也がよいのだ」
泣きそうな声をあげた俺に、天王寺は眉を下げて俺に問う。
「水月でもいいからぁ~」
「誰でもよいというのかっ」
「いい、お前じゃなきゃ誰でもいいからっ」
混乱して錯乱中の俺は、天王寺以外なら誰でもいいと叫び出していた。当然、誰でもいいなどといった俺に罰が……
「んんっ、ん――ッ!!」
腕に抱いた俺に、天王寺はいきなりキスをしてきたんだ。しかも噛みつくような激しい口づけ。
「そのような戯れ言、聞き耳持たぬ」
ピシャリと言い放った天王寺は、さらに俺に口づけを与える。
「やぁ、……ぁ、やめ……ろって、んあぁ、んふっ……」
「止めぬ、姫が私を選ばぬというのなら、私しか見えぬようにするまで」
「だから、んんっ……、お前なんか選ばないって、ぁ、んんっ……っ」
何か声を発するたびに塞がれる唇に、俺は何度も首を振ったけど、獣のように追ってくる天王寺からは逃げられず、俺は周りに人がいるのも忘れて、激しい口づけを何度も何度も受け入れる羽目になっていた。
いつしか唇は赤く腫れ、俺の焦点もあやふやに。腕の中でくったりとしてしまった俺を満足そうに抱える天王寺は、垂れた腕に俺から力が抜けたことを知ると、「姫を医者に診せるがゆえ、私は戻る」などと、どこか嬉しそうに吐き捨てると、スタスタと資料室を出て行く。
もちろん残された者は、その後姿をただただ呆然を眺めるだけ。
俺の身に何が起こったのだろうか……。気だるい身体を天王寺に預けたまま、俺は運ばれていく。
が、しかし、外に出た瞬間、一際強い風が吹き、俺はなぜかそこで唐突に覚醒し、いきなり暴れ出して天王寺の腕から逃れた。
「姫ッ!」
背後から俺を呼び止める声がしたが、俺は全力疾走で走り抜け、停留所に止まっていた出発目前のバスに乗り込んだ。
とりあえず、天王寺の足がどれだけ早くても、バスには追いつけない。
俺は立ち尽くす天王寺を窓から眺めながら、呼吸を整えて空席に着く。
(ほんと、何考えてんだあいつは)
羞恥心を持っていないのか?! 心で叫んだ俺は、そっと唇に触れていた。
甘く溶かされる天王寺のキス。それが嫌ではないと、自覚したら急に恥ずかしくなって、俺は鞄を抱きしめて蹲る。
あいつは男だ、男なんだぞ。それも超金持ちで、イケメンで、女の子が放っておかないほどのルックスと秀才。なのに、なんで俺なんだ。
全然分からないと、俺は揺れるバスの中で一人身もだえていた。明日、どんな顔して学校に行けばいいのか、そんなことばかり考えてしまうあたり、自分も大概だと、全身を赤く染めていった。
3章『邪恋編』へ続く。
10
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
少年売買契約
眠りん
BL
殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。
闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。
性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。
表紙:右京 梓様
※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
獅子帝の宦官長
ごいち
BL
皇帝ラシッドは体格も精力も人並外れているせいで、夜伽に呼ばれた側女たちが怯えて奉仕にならない。
苛立った皇帝に、宦官長のイルハリムは後宮の管理を怠った罰として閨の相手を命じられてしまう。
強面巨根で情愛深い攻×一途で大人しそうだけど隠れ淫乱な受
R18:レイプ・モブレ・SM的表現・暴力表現多少あります。
2022/12/23 エクレア文庫様より電子版・紙版の単行本発売されました
電子版 https://www.cmoa.jp/title/1101371573/
紙版 https://comicomi-studio.com/goods/detail?goodsCd=G0100914003000140675
単行本発売記念として、12/23に番外編SS2本を投稿しております
良かったら獅子帝の世界をお楽しみください
ありがとうございました!
ホントの気持ち
神娘
BL
父親から虐待を受けている夕紀 空、
そこに現れる大人たち、今まで誰にも「助けて」が言えなかった空は心を開くことができるのか、空の心の変化とともにお届けする恋愛ストーリー。
夕紀 空(ゆうき そら)
年齢:13歳(中2)
身長:154cm
好きな言葉:ありがとう
嫌いな言葉:お前なんて…いいのに
幼少期から父親から虐待を受けている。
神山 蒼介(かみやま そうすけ)
年齢:24歳
身長:176cm
職業:塾の講師(数学担当)
好きな言葉:努力は報われる
嫌いな言葉:諦め
城崎(きのさき)先生
年齢:25歳
身長:181cm
職業:中学の体育教師
名取 陽平(なとり ようへい)
年齢:26歳
身長:177cm
職業:医者
夕紀空の叔父
細谷 駿(ほそたに しゅん)
年齢:13歳(中2)
身長:162cm
空とは小学校からの友達
山名氏 颯(やまなし かける)
年齢:24歳
身長:178cm
職業:塾の講師 (国語担当)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる