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2章『狂恋編』
36「断られたのだ」
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初夏の風が心地よい季節。もうすぐ夏季休み。
特別生徒室内では、浅見俊至也が眼鏡を押し上げて、委員長様の天王寺尚人に怪訝な表情を向けた。
「6回目だ」
「6回とはなんのことだ」
「尚人のため息だ。……課題に不安でもあるのか」
秀才に向かっていう台詞でもなかったが、浅見は休み前の課題くらいしか思い浮かばず、そう尋ねた。
天王寺の想い人、姫木陸との交際? はおそらく順調であることから、浅見はため息の理由がそれくらいしか思いつかなかったのだ。
ここまでいろいろあったが、天王寺と姫木は現在恋人未満友達以上の関係となっていると思う。
「課題などよりも、私にとっては大問題なことがあるのだ」
「大問題?」
「そうだ、もうすぐ夏季休暇になってしまうのだ」
天王寺はそういいながら、またもやため息を吐いた。
夏休みを前に喜ぶ者はあっても、落ち込むとはいったいどういう訳なのかと、浅見は視線を天王寺に向けて、椅子に深く腰かけると話をする体勢をとった。
「今年も海外で過ごすんじゃないのか?」
毎年海外にいくつもある別荘のうちの一つに赴き、夏休みを優雅に過ごすのが天王寺の夏なのだが、今年はまったく浮かない顔をしてため息の連発。
優雅に過ごす夏休みに一体どんな不満があるというのか、浅見は半ば呆れた声で質問する。
「不安なのだ」
「尚人、頼むから主語をつけてくれ」
「姫と長期間会えないと考えただけで、私はどうしたらいいのかわからないのだ」
ため息の訳がようやく判明し、浅見の方がため息を吐きたくなった。およそ一か月ほどある夏休み。もちろん学校が休みでは、姫木に会うことはないだろう。
つまり、姫木に会えないことと姫木の事が心配で休みに入れないと項垂れてたわけだ。
「別荘に誘ったらいいだろう」
そんなに一緒に居たいなら、広い広い別荘へ招待すればいいと、浅見はさらりと解決策を述べたのだが、天王寺はさらに深く息を吐くと、どんどん落ち込んでいった。
「断られたのだ」
「誘ったのか?」
「無論だ。できることなら一時も離れたくはない」
一途というよりは、もはやストーカーになりえそうな天王寺に、浅見は冷や汗とため息しかでてこない。姫木のためならなんでもしてしまいそうでむしろ怖いとさえ感じた。
天王寺は姫木に対し、過ちを犯してしまい触れることを禁止されていたが、最近やっと手に触れてもいい許可が下りたと舞い上がっていたくらい乙女なところもあるのだが。
「断られた理由はなんだったんだ」
眼鏡を押し上げて、浅見は一応聞いておこうと思った。
「夏季休暇は火月や水月、家族と過ごし、勉学に励むと申しておった。それと市民プールと図書館にも行くと言っていたが……」
「妥当な夏休みだな」
「私も一緒に赴くと言ったのだが、絶対に嫌だとそれも断られた」
「そうか……」
姫木の気持ちを察した浅見は、可哀そうだとは思うが天王寺が相手では断るだろうと同感してしまう。天王寺グループの息子が市民プールに行くなどありえず、まして近所の遊園地など行ったことなどないはずで、しかも尚人をそんなところに連れて行ける訳ないだろうと、姫木は姫木なりに気をつかった結果だと容易に推測できた。
何かあってからでは遅い、姫木もちゃんとそこをわきまえての返答だったと、浅見は姫木の選択は間違っていないと理解できた。
だが、地の底まで落ちていく天王寺をどうやって救い出せるのか、浅見はとりあえず何か策を見出さないとマズイと危機感だけ覚えた。
このまま夏休みに入ってしまったら、天王寺は姫木に見つからないようにストーカー行為に走りそうで、浅見はさすがに犯罪者にするわけにはいかないと、未然に防ぐことを考える。
して思いつく策。
「久しぶりに再会すると、燃えると聞いたこともある。姫木の方から会いたかったとアプローチしてくれるかもしれないぞ」
しばらく会えなかった寂しさで、夏休みが明けたとき、姫木から天王寺になにかアプローチがあるかもしれないと、美味しい餌で釣ってみた。
だが、ガタンッ と派手な音を立てて椅子が音を立てた。
天王寺は嬉しいというより、怒っていた。
「離れている間に、姫に何かあったらどうするのだっ」
「……尚人」
「私ではなく、別に恋人などができていたらどうするつもりなのだ」
「恋人って……」
「姫は可愛い、可愛すぎるのだ。誰かに奪われてしまったら、私はその者に何をするかわからぬぞ」
完全に目が座っていた。可愛くないとは言わないが、天王寺の思っている可愛いとはまた別物であり、姫木が別の男に取られる心配はどこにもないだろうと分かるがゆえに、浅見はなんて返答すべきか悩む。
ここで下手に可愛くないから大丈夫だ、とは言えない。けれど、男を好きになる者もいないとも言えない、現に目の前に姫木に恋しちゃってる男がいるのだから、説得力はゼロ。
「分かった、俺が監視している。それでいいか」
浅見は思わず自爆していた。
実家に戻るつもりもなかったが、まさか姫木の監視役を自ら買って出るなど、珍しくしくじったと眼鏡を曇らせたが、これで天王寺を犯罪者にしなくて済むのなら、仕方ないと潔く諦めた。
だがしかし、一般人とはどこかズレている天王寺は、身を乗り出す勢いで浅見に食って掛かった。
「冬至也、まさか私の不在をいいことに姫に手を出すのではあるまいな」
こいつはもう。浅見はため息を通り越して脱力。
「何度も言うが、姫木は俺のタイプではない。俺は大人しいのが好みだ」
「ならばいい」
そう言った天王寺は椅子を戻し、席につく。
「ちゃんと日々報告してやるから、尚人は大人しくバカンスしてこい」
浅見は、例年どおりの夏休みを過ごして来いと天王寺の背中を押した。
ついでに浅見は水月に協力を願おうとも心に決めた。
さすがに夏休みを全部台無しにするつもりはないと、ひそかに計画を立てた。
特別生徒室内では、浅見俊至也が眼鏡を押し上げて、委員長様の天王寺尚人に怪訝な表情を向けた。
「6回目だ」
「6回とはなんのことだ」
「尚人のため息だ。……課題に不安でもあるのか」
秀才に向かっていう台詞でもなかったが、浅見は休み前の課題くらいしか思い浮かばず、そう尋ねた。
天王寺の想い人、姫木陸との交際? はおそらく順調であることから、浅見はため息の理由がそれくらいしか思いつかなかったのだ。
ここまでいろいろあったが、天王寺と姫木は現在恋人未満友達以上の関係となっていると思う。
「課題などよりも、私にとっては大問題なことがあるのだ」
「大問題?」
「そうだ、もうすぐ夏季休暇になってしまうのだ」
天王寺はそういいながら、またもやため息を吐いた。
夏休みを前に喜ぶ者はあっても、落ち込むとはいったいどういう訳なのかと、浅見は視線を天王寺に向けて、椅子に深く腰かけると話をする体勢をとった。
「今年も海外で過ごすんじゃないのか?」
毎年海外にいくつもある別荘のうちの一つに赴き、夏休みを優雅に過ごすのが天王寺の夏なのだが、今年はまったく浮かない顔をしてため息の連発。
優雅に過ごす夏休みに一体どんな不満があるというのか、浅見は半ば呆れた声で質問する。
「不安なのだ」
「尚人、頼むから主語をつけてくれ」
「姫と長期間会えないと考えただけで、私はどうしたらいいのかわからないのだ」
ため息の訳がようやく判明し、浅見の方がため息を吐きたくなった。およそ一か月ほどある夏休み。もちろん学校が休みでは、姫木に会うことはないだろう。
つまり、姫木に会えないことと姫木の事が心配で休みに入れないと項垂れてたわけだ。
「別荘に誘ったらいいだろう」
そんなに一緒に居たいなら、広い広い別荘へ招待すればいいと、浅見はさらりと解決策を述べたのだが、天王寺はさらに深く息を吐くと、どんどん落ち込んでいった。
「断られたのだ」
「誘ったのか?」
「無論だ。できることなら一時も離れたくはない」
一途というよりは、もはやストーカーになりえそうな天王寺に、浅見は冷や汗とため息しかでてこない。姫木のためならなんでもしてしまいそうでむしろ怖いとさえ感じた。
天王寺は姫木に対し、過ちを犯してしまい触れることを禁止されていたが、最近やっと手に触れてもいい許可が下りたと舞い上がっていたくらい乙女なところもあるのだが。
「断られた理由はなんだったんだ」
眼鏡を押し上げて、浅見は一応聞いておこうと思った。
「夏季休暇は火月や水月、家族と過ごし、勉学に励むと申しておった。それと市民プールと図書館にも行くと言っていたが……」
「妥当な夏休みだな」
「私も一緒に赴くと言ったのだが、絶対に嫌だとそれも断られた」
「そうか……」
姫木の気持ちを察した浅見は、可哀そうだとは思うが天王寺が相手では断るだろうと同感してしまう。天王寺グループの息子が市民プールに行くなどありえず、まして近所の遊園地など行ったことなどないはずで、しかも尚人をそんなところに連れて行ける訳ないだろうと、姫木は姫木なりに気をつかった結果だと容易に推測できた。
何かあってからでは遅い、姫木もちゃんとそこをわきまえての返答だったと、浅見は姫木の選択は間違っていないと理解できた。
だが、地の底まで落ちていく天王寺をどうやって救い出せるのか、浅見はとりあえず何か策を見出さないとマズイと危機感だけ覚えた。
このまま夏休みに入ってしまったら、天王寺は姫木に見つからないようにストーカー行為に走りそうで、浅見はさすがに犯罪者にするわけにはいかないと、未然に防ぐことを考える。
して思いつく策。
「久しぶりに再会すると、燃えると聞いたこともある。姫木の方から会いたかったとアプローチしてくれるかもしれないぞ」
しばらく会えなかった寂しさで、夏休みが明けたとき、姫木から天王寺になにかアプローチがあるかもしれないと、美味しい餌で釣ってみた。
だが、ガタンッ と派手な音を立てて椅子が音を立てた。
天王寺は嬉しいというより、怒っていた。
「離れている間に、姫に何かあったらどうするのだっ」
「……尚人」
「私ではなく、別に恋人などができていたらどうするつもりなのだ」
「恋人って……」
「姫は可愛い、可愛すぎるのだ。誰かに奪われてしまったら、私はその者に何をするかわからぬぞ」
完全に目が座っていた。可愛くないとは言わないが、天王寺の思っている可愛いとはまた別物であり、姫木が別の男に取られる心配はどこにもないだろうと分かるがゆえに、浅見はなんて返答すべきか悩む。
ここで下手に可愛くないから大丈夫だ、とは言えない。けれど、男を好きになる者もいないとも言えない、現に目の前に姫木に恋しちゃってる男がいるのだから、説得力はゼロ。
「分かった、俺が監視している。それでいいか」
浅見は思わず自爆していた。
実家に戻るつもりもなかったが、まさか姫木の監視役を自ら買って出るなど、珍しくしくじったと眼鏡を曇らせたが、これで天王寺を犯罪者にしなくて済むのなら、仕方ないと潔く諦めた。
だがしかし、一般人とはどこかズレている天王寺は、身を乗り出す勢いで浅見に食って掛かった。
「冬至也、まさか私の不在をいいことに姫に手を出すのではあるまいな」
こいつはもう。浅見はため息を通り越して脱力。
「何度も言うが、姫木は俺のタイプではない。俺は大人しいのが好みだ」
「ならばいい」
そう言った天王寺は椅子を戻し、席につく。
「ちゃんと日々報告してやるから、尚人は大人しくバカンスしてこい」
浅見は、例年どおりの夏休みを過ごして来いと天王寺の背中を押した。
ついでに浅見は水月に協力を願おうとも心に決めた。
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