34 / 268
1章『恋着編』
34「馬鹿かッ」
しおりを挟む
「姫、それは真実であるか?!」
「あ、ああ」
「なんと嬉しい言葉なのだ。最高の昼食を用意するがゆえに、楽しみにしておるがいい」
パアァと表情に光が射し、天王寺の整った顔が崩れるほどの笑顔に変わる。どんだけ嬉しいんだよって、ツッコみたくなるレベルだ。
「……尚様」
すっかり存在を忘れ去られている桜井が、小さく声を掛けたが、すでに天王寺の耳には届いていない。
「時間はいかがするのだ?」
「そうだな、12時20分くらいなら、集まれそうかな?」
「了解した、12時過ぎに食堂へ参る」
すっかり元気になった天王寺は、俺の歩幅に合わせて歩きながら、ニコニコと上機嫌で隣に立つ。
許したわけじゃないと、触れることを禁止しているため、天王寺は微妙な距離感をあける。そういうところは忠実なのに、たまに全然言うことを聞かないのは困るんだよなと、少々困ったところもあると、俺はまるで大型犬を飼った気分になった。
それでも、天王寺の笑顔は嫌いじゃない。だって、俺にしか見せないんだこの顔。
まあ、桜井に嫌がらせができることが分かったし、俺は俺なりに復讐をしてやろうと、満足しながら授業に向かった。
いつも通り、授業を終え帰ろうとしたときだった。アレを見つけたのは。
跳ねるように廊下を歩く桜井を見つけた。
向かう方向から特別生徒室、天王寺に会いに行くとすぐに分かった。
「あいつ、ほんと神経太すぎるよな」
相手にされなくても、諦めないと言うか、往生際が悪い。いっそのこと全部ぶちまけてやりたいが、浅見に止められている。
ああ見えても桜井も御曹司だ、俺に危害を加えてくる可能性もあり、例の写真を本当に俺に仕立てて、社会的に、俺が不利な立場に立たされることもありえると忠告された。
けど、やっぱり仕返しとは言わないが、腹の虫は治まらない。
俺はこっそりと後をつけることにした。
「尚様、一緒に帰りませんか?」
小さくノックをして、顔を覗かせた桜井は、室内にいる天王寺に可愛く声をかけた。当然浅見が不在ということは把握済みで。
声を掛けられれば、嫌な顔一つしないで天王寺が顔をあげる。
「本日中に片付けておかねばならぬ件があるがゆえに、今しばらく帰路にはつけぬが……」
「だったら、終わるまで待ってますね」
「迷惑であろう」
「全然大丈夫ですよ、僕、お茶でも入れますね」
ぴょこんと、桜井は可愛く跳ねてお茶の用意を始める。ケトルのスイッチを入れて、無数にある茶葉からどれにしようかと、鼻歌でも歌い出しそうなほど楽し気にする。
「残念だな、一緒に帰ろうと思ったんだけどな」
ガタンッ
無性に邪魔したくなって、俺はひっこりと顔を出して、天王寺に声をかけたら、椅子が後ろにひっくり返った。
おい、驚きすぎだろうって、ちょっとだけ冷や汗が出る。
「私を誘いに参ったのか?!」
「仕事があるんだろう」
「そのようなもの、いつでも構わぬ」
早口に言った天王寺の行動は早い。机に散乱していた書類たちは、流れるように引き出しに吸い込まれ、筆記用具はペン立てにまとめて収められた。
「急ぎの仕事なんだろう」
放っていいのか、と、不安に声をかければ、天王寺は倒れた椅子を急いで戻し、俺の元にやってくる。
「姫から誘いに来るなど、私は幸福である」
「急ぎの仕事なんじゃないのか?」
「姫より優先すべきものなど、ありはしない」
どこまで俺優先なの? てか、マジで俺のこと好きすぎるだろう。やっぱ、こいつは危険人物だよな。
でも……、
「私は今、とても幸せである」
本気で幸せいっぱいの表情なんか見せられたら、嬉しくなるんだって。
「お前って、やっぱり普通じゃないよな」
「姫に相応しくないと申すのなら、欠点を直す」
そこまでして俺に好かれたいのかよ、って、もはや呆れるレベル。現在触れるなといった約束はきちんと守っている。時々触りたいって顔もするけど、見ないふりをしている。
琥珀色の瞳がすごく揺れて、口を結んで、怯えたように見てくる時がある、それが合図だ。
もしも触ったら、天王寺はどんな反応をするんだ? 驚く? 泣く? それとも満面の笑みをくれる? どちらにしても天王寺を喜ばせることに間違いはないと、変な自信過剰な想像までしてしまう。
「それじゃ、帰ろうぜ」
半空きだったドアを開けて、俺が誘えば、天王寺はお茶の準備をしていた桜井に声をかける。
「しばらくしたら冬至也が戻る、私は姫と先に戻ったと伝えて欲しい」
頼んだぞ、強く念を押してから天王寺がドアを閉めた。
「……プッ、……ふふ、ぷぷぷ……」
突如笑いが止まらなくなった。大嫌いな浅見に『俺と一緒に帰った』なんて伝達する命を受け、桜井の顔は歪みまくって、口元が引き攣ってた。
これが笑わずにはいられないだろう。頼まれた内容が浅見に伝わってなければ、天王寺からの信頼は失われる。よって、桜井はそれを実行せざる得ない。
驚きと、苛立ちと、放置されたことに対する虚無感は、きっと腹立たしいに決まってる。精々悔しがれよ、なんて、意地悪なことを考えながら、俺は清々しい気分さえ味わう。
「姫、何がそのように可笑しいのだ?」
「内緒。……ははは」
「秘密とは、寂しいではないか」
そんなに楽しいことなら、ぜひ教えて欲しいと天王寺がいうが、俺は人差し指を口元に宛がい、「内緒」と、絶対教えないと言った。
「姫、なんと愛らしい仕草をするのだ」
「はぁ?」
「先ほどの仕草、再度見せてはくれまいか?」
動画に収めると携帯を取り出す天王寺に、
「馬鹿かッ」
と、叱り飛ばす。
「あ、ああ」
「なんと嬉しい言葉なのだ。最高の昼食を用意するがゆえに、楽しみにしておるがいい」
パアァと表情に光が射し、天王寺の整った顔が崩れるほどの笑顔に変わる。どんだけ嬉しいんだよって、ツッコみたくなるレベルだ。
「……尚様」
すっかり存在を忘れ去られている桜井が、小さく声を掛けたが、すでに天王寺の耳には届いていない。
「時間はいかがするのだ?」
「そうだな、12時20分くらいなら、集まれそうかな?」
「了解した、12時過ぎに食堂へ参る」
すっかり元気になった天王寺は、俺の歩幅に合わせて歩きながら、ニコニコと上機嫌で隣に立つ。
許したわけじゃないと、触れることを禁止しているため、天王寺は微妙な距離感をあける。そういうところは忠実なのに、たまに全然言うことを聞かないのは困るんだよなと、少々困ったところもあると、俺はまるで大型犬を飼った気分になった。
それでも、天王寺の笑顔は嫌いじゃない。だって、俺にしか見せないんだこの顔。
まあ、桜井に嫌がらせができることが分かったし、俺は俺なりに復讐をしてやろうと、満足しながら授業に向かった。
いつも通り、授業を終え帰ろうとしたときだった。アレを見つけたのは。
跳ねるように廊下を歩く桜井を見つけた。
向かう方向から特別生徒室、天王寺に会いに行くとすぐに分かった。
「あいつ、ほんと神経太すぎるよな」
相手にされなくても、諦めないと言うか、往生際が悪い。いっそのこと全部ぶちまけてやりたいが、浅見に止められている。
ああ見えても桜井も御曹司だ、俺に危害を加えてくる可能性もあり、例の写真を本当に俺に仕立てて、社会的に、俺が不利な立場に立たされることもありえると忠告された。
けど、やっぱり仕返しとは言わないが、腹の虫は治まらない。
俺はこっそりと後をつけることにした。
「尚様、一緒に帰りませんか?」
小さくノックをして、顔を覗かせた桜井は、室内にいる天王寺に可愛く声をかけた。当然浅見が不在ということは把握済みで。
声を掛けられれば、嫌な顔一つしないで天王寺が顔をあげる。
「本日中に片付けておかねばならぬ件があるがゆえに、今しばらく帰路にはつけぬが……」
「だったら、終わるまで待ってますね」
「迷惑であろう」
「全然大丈夫ですよ、僕、お茶でも入れますね」
ぴょこんと、桜井は可愛く跳ねてお茶の用意を始める。ケトルのスイッチを入れて、無数にある茶葉からどれにしようかと、鼻歌でも歌い出しそうなほど楽し気にする。
「残念だな、一緒に帰ろうと思ったんだけどな」
ガタンッ
無性に邪魔したくなって、俺はひっこりと顔を出して、天王寺に声をかけたら、椅子が後ろにひっくり返った。
おい、驚きすぎだろうって、ちょっとだけ冷や汗が出る。
「私を誘いに参ったのか?!」
「仕事があるんだろう」
「そのようなもの、いつでも構わぬ」
早口に言った天王寺の行動は早い。机に散乱していた書類たちは、流れるように引き出しに吸い込まれ、筆記用具はペン立てにまとめて収められた。
「急ぎの仕事なんだろう」
放っていいのか、と、不安に声をかければ、天王寺は倒れた椅子を急いで戻し、俺の元にやってくる。
「姫から誘いに来るなど、私は幸福である」
「急ぎの仕事なんじゃないのか?」
「姫より優先すべきものなど、ありはしない」
どこまで俺優先なの? てか、マジで俺のこと好きすぎるだろう。やっぱ、こいつは危険人物だよな。
でも……、
「私は今、とても幸せである」
本気で幸せいっぱいの表情なんか見せられたら、嬉しくなるんだって。
「お前って、やっぱり普通じゃないよな」
「姫に相応しくないと申すのなら、欠点を直す」
そこまでして俺に好かれたいのかよ、って、もはや呆れるレベル。現在触れるなといった約束はきちんと守っている。時々触りたいって顔もするけど、見ないふりをしている。
琥珀色の瞳がすごく揺れて、口を結んで、怯えたように見てくる時がある、それが合図だ。
もしも触ったら、天王寺はどんな反応をするんだ? 驚く? 泣く? それとも満面の笑みをくれる? どちらにしても天王寺を喜ばせることに間違いはないと、変な自信過剰な想像までしてしまう。
「それじゃ、帰ろうぜ」
半空きだったドアを開けて、俺が誘えば、天王寺はお茶の準備をしていた桜井に声をかける。
「しばらくしたら冬至也が戻る、私は姫と先に戻ったと伝えて欲しい」
頼んだぞ、強く念を押してから天王寺がドアを閉めた。
「……プッ、……ふふ、ぷぷぷ……」
突如笑いが止まらなくなった。大嫌いな浅見に『俺と一緒に帰った』なんて伝達する命を受け、桜井の顔は歪みまくって、口元が引き攣ってた。
これが笑わずにはいられないだろう。頼まれた内容が浅見に伝わってなければ、天王寺からの信頼は失われる。よって、桜井はそれを実行せざる得ない。
驚きと、苛立ちと、放置されたことに対する虚無感は、きっと腹立たしいに決まってる。精々悔しがれよ、なんて、意地悪なことを考えながら、俺は清々しい気分さえ味わう。
「姫、何がそのように可笑しいのだ?」
「内緒。……ははは」
「秘密とは、寂しいではないか」
そんなに楽しいことなら、ぜひ教えて欲しいと天王寺がいうが、俺は人差し指を口元に宛がい、「内緒」と、絶対教えないと言った。
「姫、なんと愛らしい仕草をするのだ」
「はぁ?」
「先ほどの仕草、再度見せてはくれまいか?」
動画に収めると携帯を取り出す天王寺に、
「馬鹿かッ」
と、叱り飛ばす。
10
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる