29 / 268
1章『恋着編』
29「ふざけんなッ!」
しおりを挟む
このまま特別生徒室まで連行するつもりなのか?! と、俺は全力で抵抗を試みる。だって、まだ心の準備とか、納得も出来ていないと、足を踏ん張って留まる。
「これはお前の使命だ」
「なんで、俺がッ」
「告白されただろう」
「うっ、それは……」
「誠意を見せろ、姫木!」
自分で終止符を打てと、浅見が声を荒げる。このまま、後味の悪いまま別れてもいいのか? と言われ、それは嫌だと思う。
解決などしなくても、何らかの結末は欲しい。こんなあやふやなまま天王寺と別れて、数年、もしくは一生こんな気持ちを抱えていきたくはない。
けど……
「手紙、手紙じゃダメですか」
面と向かって会話をする気にはなれないと、提案すれば、
「却下する」
と、即答された。
「なんでだよ」
「尚人には、普通の文面では伝わらない」
それはお前がよく知っているだろうと、睨まれる。
確かに日本語がいまいち伝わらないというか、天王寺が勝手な解釈で内容を捉える傾向がある。つまり、手紙を書いたところで、姫木の気持ちは一文も伝わらない可能性があると、浅見に指摘され、思わず納得。
そういえば、天王寺って俺の言葉通じなかったと。
「でもっ」
「駄々を捏ねるな。お前なんか愚劣の極みで、人間の屑だとでも言ってやれ」
さすがに立ち直れないだろうと、浅見が助言するが、
「そこまで言うかッ」
さすがにそこまで酷い言葉は言えないと、言い返す。ほんと浅見は容赦ねえと、少しだけ背筋が冷える。
「ならば、気色悪いと、気持ち悪いとでも言ってやれ」
「だから、そこまでは……」
「そこまで言わなければ、伝わらないぞ」
天王寺にはそこまで言う必要があると、むしろそこまで言わなければ駄目だと、さらに言い返された。
面と向かって、『お前は人間の屑で、気持ち悪いんだよ』なんて、あのキラキラした天王寺に言えるのか? 否、答えはNOだ。
「さっきから煩いんだけど」
ズルズルと引っ張られて、特別生徒室に近づいたころ、桜井が部屋から出てきて両腕を組んで仁王立ちした。
まあ、廊下であれだけ騒いでいれば、必然と騒がしい声は響くわけで。
「それは失礼した」
眼鏡を中指で押し上げた浅見は、俺の腕を解いて桜井と対峙する。
「尚様のお仕事の邪魔しないでよ」
「俺にはお前が邪魔しているようにしか見えないがな」
「僕は、尚様のお世話してるの」
邪魔してるなんて変な言いがかりはしないでほしいと、桜井は浅見を睨みつける。天王寺の秘書的なポジションなのだと、腹が立つほどの高飛車な態度で。
「フッ、……こんなちんちくりんが付き人なんて、尚人も可哀想だな」
鼻で笑った浅見は、負けずと言い返す。当然頭にきた桜井は、一歩前に出ると、
「尚様は、陰湿眼鏡より、可愛い方がいいって」
めいっぱいの皮肉を込めて反論する。
「可愛い? 憎たらしいの間違いだろう」
「冬至くんの視力落ちたんじゃないの。僕より可愛い子なんているわけないじゃん」
「鏡がないのなら、送ってやろうか?」
自分の姿を見たことがないんだろうと、浅見も負けじと皮肉を込める。廊下の空気はさっきから絶対零度。誰も口出しを出来る状態ではなかった。
そんな言い争いが少し続いて、突然桜井が腰を折って、浅見の後ろを覗き込む仕草をした。
「それより、もう乗り換えたんだ。さすが手慣れてるね」
視線の先は姫木だった。つまり、その台詞は俺に向けて言われたもので、一瞬何を言われたのか分からなくて、きょとんとしてしまった。
それを横目に、浅見が怪訝な顔をする。
「何が言いたい」
「尚様なんかより、冬至くんの方がお似合いだよってこと」
「お前は……」
「ねえ、今度はどんな手を使って冬至くんを落としたの?」
桜井は意地悪な笑みを作って、天王寺から浅見に乗り換えるのが早いと、クスクスと笑い出す。
なんだこいつ、本当にムカつく。俺は何か言い返そうと口を開いたが、それよりも桜井の方が早く、もっと酷いことを言われた。
「お前なんかが尚様に釣り合うとでも思ったの。どうやって誑かしたかは知らないけど、下層な奴は引っ込んでなよ」
口調まで荒くして、身に覚えのない言いがかりをつけられ、罵られた。
さすがにカチンときた。言いがかりも甚だしい、どうみたって天王寺に付きまとわれてたのは、俺だ!
「ふざけんなッ!」
つい怒鳴っていた。だが、桜井は余裕な笑みを浮かべたまま、近くまでやってくる。
「身長が低くて、目が大きいからさ、尚様は僕と重ねただけなんだよ」
「は?」
「よく見れば、全然可愛くない、ゴミみたいなのにね」
クスクスと鼻で笑って、人のことをゴミだと言い出した。マジでなんなのコイツ!!
俺は可愛いのを売りにしているわけじゃない、むしろ、捨てたいんだと、つい右手が上に上がっていた。
「これはお前の使命だ」
「なんで、俺がッ」
「告白されただろう」
「うっ、それは……」
「誠意を見せろ、姫木!」
自分で終止符を打てと、浅見が声を荒げる。このまま、後味の悪いまま別れてもいいのか? と言われ、それは嫌だと思う。
解決などしなくても、何らかの結末は欲しい。こんなあやふやなまま天王寺と別れて、数年、もしくは一生こんな気持ちを抱えていきたくはない。
けど……
「手紙、手紙じゃダメですか」
面と向かって会話をする気にはなれないと、提案すれば、
「却下する」
と、即答された。
「なんでだよ」
「尚人には、普通の文面では伝わらない」
それはお前がよく知っているだろうと、睨まれる。
確かに日本語がいまいち伝わらないというか、天王寺が勝手な解釈で内容を捉える傾向がある。つまり、手紙を書いたところで、姫木の気持ちは一文も伝わらない可能性があると、浅見に指摘され、思わず納得。
そういえば、天王寺って俺の言葉通じなかったと。
「でもっ」
「駄々を捏ねるな。お前なんか愚劣の極みで、人間の屑だとでも言ってやれ」
さすがに立ち直れないだろうと、浅見が助言するが、
「そこまで言うかッ」
さすがにそこまで酷い言葉は言えないと、言い返す。ほんと浅見は容赦ねえと、少しだけ背筋が冷える。
「ならば、気色悪いと、気持ち悪いとでも言ってやれ」
「だから、そこまでは……」
「そこまで言わなければ、伝わらないぞ」
天王寺にはそこまで言う必要があると、むしろそこまで言わなければ駄目だと、さらに言い返された。
面と向かって、『お前は人間の屑で、気持ち悪いんだよ』なんて、あのキラキラした天王寺に言えるのか? 否、答えはNOだ。
「さっきから煩いんだけど」
ズルズルと引っ張られて、特別生徒室に近づいたころ、桜井が部屋から出てきて両腕を組んで仁王立ちした。
まあ、廊下であれだけ騒いでいれば、必然と騒がしい声は響くわけで。
「それは失礼した」
眼鏡を中指で押し上げた浅見は、俺の腕を解いて桜井と対峙する。
「尚様のお仕事の邪魔しないでよ」
「俺にはお前が邪魔しているようにしか見えないがな」
「僕は、尚様のお世話してるの」
邪魔してるなんて変な言いがかりはしないでほしいと、桜井は浅見を睨みつける。天王寺の秘書的なポジションなのだと、腹が立つほどの高飛車な態度で。
「フッ、……こんなちんちくりんが付き人なんて、尚人も可哀想だな」
鼻で笑った浅見は、負けずと言い返す。当然頭にきた桜井は、一歩前に出ると、
「尚様は、陰湿眼鏡より、可愛い方がいいって」
めいっぱいの皮肉を込めて反論する。
「可愛い? 憎たらしいの間違いだろう」
「冬至くんの視力落ちたんじゃないの。僕より可愛い子なんているわけないじゃん」
「鏡がないのなら、送ってやろうか?」
自分の姿を見たことがないんだろうと、浅見も負けじと皮肉を込める。廊下の空気はさっきから絶対零度。誰も口出しを出来る状態ではなかった。
そんな言い争いが少し続いて、突然桜井が腰を折って、浅見の後ろを覗き込む仕草をした。
「それより、もう乗り換えたんだ。さすが手慣れてるね」
視線の先は姫木だった。つまり、その台詞は俺に向けて言われたもので、一瞬何を言われたのか分からなくて、きょとんとしてしまった。
それを横目に、浅見が怪訝な顔をする。
「何が言いたい」
「尚様なんかより、冬至くんの方がお似合いだよってこと」
「お前は……」
「ねえ、今度はどんな手を使って冬至くんを落としたの?」
桜井は意地悪な笑みを作って、天王寺から浅見に乗り換えるのが早いと、クスクスと笑い出す。
なんだこいつ、本当にムカつく。俺は何か言い返そうと口を開いたが、それよりも桜井の方が早く、もっと酷いことを言われた。
「お前なんかが尚様に釣り合うとでも思ったの。どうやって誑かしたかは知らないけど、下層な奴は引っ込んでなよ」
口調まで荒くして、身に覚えのない言いがかりをつけられ、罵られた。
さすがにカチンときた。言いがかりも甚だしい、どうみたって天王寺に付きまとわれてたのは、俺だ!
「ふざけんなッ!」
つい怒鳴っていた。だが、桜井は余裕な笑みを浮かべたまま、近くまでやってくる。
「身長が低くて、目が大きいからさ、尚様は僕と重ねただけなんだよ」
「は?」
「よく見れば、全然可愛くない、ゴミみたいなのにね」
クスクスと鼻で笑って、人のことをゴミだと言い出した。マジでなんなのコイツ!!
俺は可愛いのを売りにしているわけじゃない、むしろ、捨てたいんだと、つい右手が上に上がっていた。
10
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる