詩「春の影」

有原野分

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春の影

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交差する腕が多すぎて
目の前の禿げた爪が誰のものか
ぼくは突然、迷子のように分からなくなる

鏡に映る反射した光
窓の隙間から流れ込む
カーテンの揺らぎに慌てながら
あの下品な光

そこにぼくがいないことを
ぼくはいつも願う
心から桜を見上げていた春の雨
光の粒子が砕けて下水道に流される
その心地いい音
ぼくは病院になんて行きたくないけど
行けば、
行かなくてはいけない場所に
行かなくていいことを知っている顔が
鏡の中で歪んだ笑顔を見せるから

空気の漏れたボールを
二階の窓から落としてみる
そんな夢をずっと見てきた
見たくないなんて意志は関係ない
処方箋を薄く朝日に透かすと
向こう側に昨日の影が揺れている

叫びたい腕、腕の中で
ぼくは自分の爪を噛みながら
吐き気を催しながらどうしても
漠然とした不安に甘えてしまう春

春は、疚しい
新品の日記帳に
爪痕のような文字を刻みながら
テレビの音が階下から
ぼくの名前を呼んでいる
その名前を呼ばれたぼくは
迷子のように名前を失って
ここまでの道のりを忘れようとする
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