詩「海に続く窓辺から」

有原野分

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海に続く窓辺から

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夜に取り残された
現実という小さな窓から見える
砂浜の面影にたたずむ母は
いまでも見失い続けている

ぼんやりとした過去の虚像を
透き通るような青い海辺を目の前に
落とした貝殻を探しているかのよう
その顔はたまにしか笑わない

思えば兄の死から何年経ったのか
わたしは海のある家を捨て
海のない場所で新しい家を建てた
ここは決して波の音が聞こえない

だからかもしれない
世界はより鮮やかに
より繊細に過去の夢を見させてくれる
まだお互いに笑えていたあの日ですら

生暖かい風の匂いも
底に手が届きそうな透明な海も
葬儀の日に見せた母の涙も
どこまでも歩いていけそうな遠浅の

感情が追いつかないその向こう側
わたしは母を永遠の過去に取り残してしまっ
 たのかもしれない
朽ちていく美しさを忘れたくて

それでもたまに
どうしても見たくなるときがある
青い空が溶けてしまったかのような
どこまでも果てしなく広がる青い海の果て

そこにたたずむ
古ぼけた新聞紙を手にした母が
電球の切れた部屋でそっと目を閉じる姿を
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