詩「青い街灯」

有原野分

文字の大きさ
上 下
1 / 1

青い街灯

しおりを挟む
街灯。の光の下に飛んでいる、蛾、こども、
その声と、青白い影が描く螺旋の光。ぼくは
引っ越しを考える(一緒に住みたい人がよう
やく見つかったんだ)安堵の月夜、その悲し
さは最後の一滴になって、電話、目薬、ホト
トギスの旅、「一緒に暮らさないか」だってさ、
                   ね
                   え
              、聞いてる? 
きみは九月の引っ越しに対して、まだ早いと
言った。ぼくはそれまでに鬱を治すからと言
った。きみの娘は言った「三人で暮らしたい
ね」と、確かに言った、その瞬間。にぼくの
青白い街灯は粉々に砕け散って、霧散した。
そして時は流れて、今、ぼくはとても幸福で
 ある。
椅子に座って、本を閉じて、薄いカーテンの
向こう側にぼんやりと光る空を眺めながら、
遠くから聞こえる鳥の声に「ねえ、今度の週
末は沖縄に行かない?」きみからの言葉。は
群青だ(揺れるクラシックの音に合わせて観
葉植物は明日も育つ明後日もそのまた次の日
も)愛があればなんでもできると信じていた
                   け
                   ど
                、現実は
「ある程度の金が必要なんだね」大切な人を
守るためにはお金。がいるんだと、ぼくが言
って聞かせるその傍らで、微笑んでいるのは
過去ではないことをただ祈るばかりだった。
 ありがとう――。
(青い光。は月。の光だけだと思っていた大
昔の自分はもうこの世にはいなくて、石畳の
ある田舎の町の隅っこではまだそんな風がき
っと吹いているとぼくは思っているんだよ)
「まるで映画ね…」(そうだとも!)
そうだとも! ぼくはここにいたんだ。この
包まれるような白波の彼方からやってくる町、
その緑道とトンネル、それがぼくだったんだ。
 ――さようなら。
 つぶやいて、ささやいて、ときめいて、羽
をやすめて、あたたかいまぶしさ、その悲し
さに、物語をつけるとしたら、きみはきっと
涙なしでは――「今日はなにを見るの?」「ボ
ンド、ジェームズボンド」(ああ、好きだ、悲
しさが)月明かりを部屋に、窓に、カーテン
に。さようなら、とお休みなさい。の言葉の
影に、ぼくはきみと確かな愛が悲しかった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

詩「赤い情景」

有原野分
現代文学
※2022年8月の作品です。 読んでいただけると幸いです。 いいね、スキ、フォロー、シェア、コメント、サポート、支援などしていただけるととても嬉しいです。 これからも応援よろしくお願いします。 あなたの人生の 貴重な時間をどうもありがとう。

詩「線香花火」

有原野分
現代文学
※2022年8月の作品です。   読んでいただけると幸いです。 いいね、スキ、フォロー、シェア、コメント、サポート、支援などしていただけるととても嬉しいです。 これからも応援よろしくお願いします。       あなたの人生の 貴重な時間をどうもありがとう。

詩「春と娘」

有原野分
現代文学
※2021年4月の作品です。

詩「冬の猫」

有原野分
現代文学
※2022年11月の作品です。   読んでいただけると幸いです。 いいね、スキ、フォロー、シェア、コメント、サポート、支援などしていただけるととても嬉しいです。 これからも応援よろしくお願いします。       あなたの人生の 貴重な時間をどうもありがとう。

小説「木を隠すなら、森の中。」

有原野分
現代文学
2015年頃の作品です。

詩「月末」

有原野分
現代文学
※2021年7月の作品です。

詩「夏、洗面台にて」

有原野分
現代文学
・詩と思想2023年10月号に入選した作品です。 ※2023年7月の作品です。 読んでいただけると幸いです。 いいね、スキ、フォロー、シェア、コメント、サポート、支援などしていただけるととても嬉しいです。 これからも応援よろしくお願いします。 あなたの人生の 貴重な時間をどうもありがとう。

ショートショート「それぞれのガイアたち」

有原野分
現代文学
※2023年1月の作品です。 読んでいただけると幸いです。 いいね、スキ、フォロー、シェア、コメント、サポート、支援などしていただけるととても嬉しいです。 これからも応援よろしくお願いします。 あなたの人生の 貴重な時間をどうもありがとう。

処理中です...