小説「みんなの物語」

有原野分

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みんなの物語

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 遠くから、僕たち、私たちは、地球を眺めていました。
 ここは、汚れのない世界。みんな、ここで暮らしています。キレイな光に包まれて、自由で、楽しくて、なんの心配もいりません。
 あるとき、誰かが言いました。
 「ねえ、あの星に、行ってみない?」
 みんなの物語は、ここから始まります。あの星とは、地球のことです。地球に行くには、どんな生き物になりたいのか、どのように暮らしたいのかを選択しなければいけません。
 誰かが、言いました。
 「みんなは、どんな生き物になりたい?」
 がやがやと楽しい声がたくさん聞こえます。
 「僕は、ウミガメになりたいな。そうしたら、毎日プカプカ泳いで暮らせるもん。」
 「私は、大きな木になって、キレイな花を咲かせたいな。みんな、きっと驚くよ。」
 「俺は、やっぱり人間がいいな! だって一番楽しそうなんだもん!」
 もう、みんな夢中です。ワクワクし過ぎて、時間がどのぐらいたったのかも分かりません。
でも、中にはこわがりの子もいます。
 「ぼくは、行かない。こわいもん。ずっとここがいい。」
 「わたしも、行きたくない。前に行こうとしたときも、途中でこわくなって、やめちゃったもん。」
 そのときです。大きなまぶしい光がみんなのところにやってきました。そして、優しい声で、一人ひとりに語りかけるように言いました。
 「さあ、みんな、準備はできたかな? ふむ、今回もまた人間を希望する子が多いのう。よし、それでは、人間になりたい子はこっちに集まっておくれ。他の子たちは、今から出発してもいいぞ。」
 人間になりたい子たちは、その大きな光のところに集まりました。空を見上げると、ワイワイと楽しそうな声が、流れ星と一緒に地球に向かってたくさん流れていきました。
「ねえ、僕たちも早く地球に行きたいよ。」
「まあ、そう慌てないでおくれ。人間になるには、少し準備が必要だからね。まず、生まれる地域と、お母さんを決めておくれ。そして、どんな人生を歩みたいのか、決めなくてはならない。」
「行く前から、決めるの?」
 みんなは、不思議に思いました。
「それがルールだからね。そして、向こうに着いて少ししたら、この世界の記憶を忘れるようになっている。」
 みんなは、少しドキドキしてきました。
「忘れるの? なんで? せっかく決めたのに?」
「選ぶのは、みんなの自由だからね。どんなお母さんのところに産まれたい? どんなお父さんに抱きしめられたい? まあ、中にはひねくれた子もいるがのう。」
 「ひねくれた子?」
 「そう、例えば以前も人間を経験して楽しんだ子は、次は少し違う人生を送りたいと言って、自分から苦しい人生を選ぶ子もいる。また、ある子は、少し地球に行くだけでいいと言って、お母さんのお腹の中から産まれる前に帰ってきた子もいる。」
 みんなは、少し静かになって考えました。
 楽しいって、なんだろう。
 苦しいって、なんだろう。
 誰かが、静かに口を開きました。
 「ねえ、人間って、なんなの?」
 光がふわりと、さらに大きくなりました。
 「人間はね、みんな仲よしで、そして独りで、楽しくて、苦しくて、嬉しくて、悲しめる生き物なんだよ。」
 みんなは、ドキドキしてきました。
 「お母さんって、どんな人? お父さんってこわい人?」
 「それは、みんなが決めるんだよ。さあ、そろそろ準備をして! 出発の時間だよ!」
 流れ星が、ニッコリと笑って迎えに来てくれました。みんな、希望と不安を持って、流れ星に乗りました。
 お母さん、僕たちを笑顔で抱き締めてくれますか?
 お父さん、私たちを笑顔で守ってくれますか?
 僕たちの顔にがっかりしないでね。
 私たちの身体が変でも見捨てないでね。
 みんな、あなたたちを愛します。一緒に笑って、悲しんで、ご飯を食べて、眠りに誘われて――。
 僕たち、私たちは、地球に産まれて幸せです。
 それはね、あなたたちに出会い、愛され、たくさんの物語をつくっていけるから。
 大きな空に、流れ星が今日もふっています。
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