ゆるいイケメン。

はしもと

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ゆるいイケメン。

ゆるい花火大会。

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夏の夕方は明るい。

ちょっとずつ空が赤から紫に変わる頃に俺たちは集合した。

今回の花火大会にチャラ男くんは誘わなかった。
なぜかというと、チャラ男くんはたくさんの女子たちに花火大会に誘われていると思ったからである。

会場に着くと暗くなる前に席の確保と食料調達をしようということになる。

花ちゃんがはりきって焼きそばを買いに行こうとすると

「月岡ひとりじゃ持ちきれないだろう」

と飛鳥きゅんが花ちゃんの後を追って焼きそばの屋台へ向かった。

「あのふたり、けっこうお似合いよね」


黒澤さんがそう呟くが、花ちゃんの好きな人を知っている俺は割と複雑な顔でその言葉を聞いていたに違いない。

俺は気分を変えようと部室から借りてきたカメラを取り出す。

写真コンテストの題材に、「花火」というものがあったからだ。

「黒澤さん、香坂さん、並んで」

並んで座るように指示してシャッターを切る。
黒澤さんのキラキラした笑顔と、マカロンちゃんのふわふわした笑顔。

あとで花火があがったら花火と一緒にこの笑顔を撮りたいな、と思った。


さて、数十分後
飛鳥きゅんと花ちゃんが帰ってきたのだが花ちゃんの様子が明らかにおかしい。

「なにかあった?」

と黒澤さんが聞いても答えない花ちゃんは本当に珍しい。

口を閉ざす花ちゃんとは対照的に飛鳥が口を開いた。

「橋本新が女と腕を組んで歩いていたんだ」

え、それってもしかして彼女だろうか。
でもチャラ男くんって黒澤さんが好きなはずで‥‥なんて難しいんだろう。

好きな人がいても他の女の子と腕を組んで歩くことがあるのか。
それはいったいどういったシチュエーションなんだろうか。

考えてみても俺にはわからない。
けれど花ちゃんは今まで、チャラ男くんが好きなのが黒澤さんだから応援しようと決めていたに違いない。

それが急にどこぞの馬の骨だかもわからない女の子と歩いていたとしたら、傷ついたにちがいないのだ。

「この焼きそばおいしいね」

話を逸らすかのように花ちゃんが力ない笑顔で呟く。

きっとこの話をつづけて、黒澤さんがやっぱり橋本くんってチャラいのねって思ってしまったらどうしようって思っているんだろう。

どこまでも優しいギャルである。
自分が傷つくことに慣れてしまってるかのように、人のことだけ守ろうとしているのだ。

「焼きそばも美味いが、俺は月岡のハンバーグが食べたい」

飛鳥きゅんである。

「え?飛鳥きゅんどうしたの?」

なんというか、なんとも言えない雰囲気である。

「俺は月岡が優しいことも、月岡のハンバーグがすごいことも、月岡がすごい姉ちゃんだってことも知ってる」



「おまえのことは俺が見ている」

えええ

「俺は月岡のことが、」

ちょ、え?

「‥‥‥好きなのか?」

ズッコケである。

飛鳥きゅんよ、今気づいたのか。
そして気づいたノリで言ってしまったのか。

だがしかし、飛鳥きゅんに胸キュンしている俺がいる。

飛鳥きゅんと花ちゃんをキラキラの瞳で見つめている黒澤さんがいる。

ちょっと顔を赤くして焦っているマカロンちゃんがリスみたいで面白い。

そしてなにより、その言葉を聞いて涙を流しながら爆笑している花ちゃんがいる。

飛鳥はというと、膝に顔を深々と埋めて穴があったら入ろうとしている。

「飛鳥、おまえかっこいいよ」

「うるさい!ちょっと静かにしてろ!」

ほんとにかっこいいと思ったんだから仕方ないだろう。

「飛鳥きゅん」

花ちゃんの声に顔を下に向けたままビクっとする飛鳥。

「飛鳥きゅん、かっこいいよ!アハハハハハハ」

「笑いすぎだろぉ!」

「飛鳥きゅん、今日は家まで送ってくれる?」

「っっっっ!!!」

飛鳥の顔は真っ赤である。

「ふふふっ」

やっぱり飛鳥といるときの花ちゃんの顔が好きだ。
心の底から笑っている顔。

飛鳥は花ちゃんの笑顔をしばらく見つめたあとに、急に平静を取り戻して呟く。

「俺、月岡が好きって気づいちゃったからもう遠慮しないけどいいか?」

先ほどまで照れ照れだった飛鳥きゅんはどこへやら。
ちょっとニヤっと笑った飛鳥様がそこにはいたのである。

花ちゃんの笑顔を見て、きっとこの笑顔を守りたいって思ったんだろう。
こうなったら飛鳥はもう本気である。

真っ赤になった花ちゃんの向こう側で、真っ赤な花火が大きく咲いた。

本日一発目の花火である。

花火があがりはじめる前からなんというロマンチックな展開だっただろうか。

花火が終わったらあとはお若いお二人にお任せして、俺は黒澤さんとマカロンちゃんを送って帰ろう。

花火の光りで前に座る飛鳥と花ちゃんが黒いシルエットのように見えて、
そのシルエットの距離感が今はまだぎこちなくて、なんだか尊く見えて俺はカメラのシャッターを切った。

「花火と恋人未満」
コンテストにはこの写真を送ろうと思う俺であった。
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