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ゆるいイケメン。
ゆるいイケメン、感動する。
しおりを挟むさて、本番である。
本番では毎年プロのカメラマンを雇うそうなのだが、だが、だがしかし、
チャラ男くんのとりまきのギャルたちによる
「えー、うちら専属のカメラマンいるじゃーん」
「わたなべっちが撮ってくれる写真のほうが良くなーい?」
という意見で俺が重役を担うことになった。
ところで、わたなべっちっていつから呼ばれてるんだろうか、俺。
ここまで練習を積み重ねてきた合唱は、あっという間に終わった。
どこか儚げな黒澤さんの歌声と、普段とのギャップに目を疑うチャラ男くんの堂々たる姿。
だれよりも変貌を見せたのはマカロンちゃんである。
鍵盤に触れる指先は優しく、どこか愛しそうにピアノを見つめるマカロンちゃんは、前よりもちょっとだけピアノが好きになったのだろう。
俺はその後のお疲れさま会にまで招待され、第二音楽室でみんなとオレンジジュースを飲みながら、相変わらずシャッターを切るのであった。
「渡辺くん、わたしたちを支えてくれてありがとう!」
黒澤さんからの言葉に、なにを言っているんだろう、とまじで思う(ちょっとギャルたちの言葉がうつった)。
「わたなべっちの写真のおかげでめっちゃ思い出残せたからねぇー」
「てゆうかこの写真、アタシめっちゃ盛れてるんだけどー!見て見て、わたなべっち!」
ギャルたちにも御満足いただけたようである。
「黒澤さーん」
そこへ登場したのはチャラ男である。
合唱での真剣な姿を全校生徒に見せつけたこの男は、真のモテ男へとランクアップした。
「あ、橋本くん‥」
「いやー、黒澤さんと最初のパート歌えて良かったよ!おつかれさま!」
「あ、あの、橋本くん‥合唱部に入ってくれて、ありがとう」
珍しいこともあるものだ。
ぎこちないが、チャラ男くんと黒澤さんの会話が成立した記念日である。
なんといっても、あのときチャラ男くんがマカロンちゃんに声をかけていなければ別の結果になったかもしれないのだ。
感謝したい気持ちもよくわかる。
チャラ男は固まったまま言葉を発せないほどに感動しているようだった。
おめでとう、チャラ男くん。
そしておつかれさま、チャラ男くん。
一方。マカロンちゃんはというと、ピアノにそっと手を置いて、ほっとした表情を見せる。
まるで「おつかれさま」と声をかけているようである。
その姿に自然とシャッターを切って近づく。
「マカロンちゃん」
「マカロンちゃん?」
あ、
「香坂さん」
「はい」
仕切り直しである。
「おつかれさま」
「渡辺くんも、写真ありがとう」
そういえば、俺は写真ばっかり撮ってたから、みんなの姿をじっくり見ていないな。
「渡辺くん、ずっと写真撮ってくれてた、よね?」
「あ、うん。もうちょっとじっくり合唱聴けたらよかったんだけどね」
するとマカロンちゃんはそっとピアノに指を滑らせる。
その指先から奏でられるのはアメイジンググレイスの一節である。
ピアノの音を聴いた合唱部の皆々は誰が何を言わずとも集まり、本番同様に並びだす。
何が始まるのか、せっかくだから撮影しようか、とカメラを構える俺の手をそっとマカロンちゃんが制した。
そしてカメラは没収され、マカロンちゃんに案内されるがままに椅子へと座らされた俺。
なにされるの俺。
「渡辺くん、わたしたちの歌、最後に聴いてくれる?」
そう呟いてピアノへと舞い戻るマカロンちゃん。
「わたなべっちー!カメラマンおつかれー!」
「今はわたなべっちが観客だよ!」
「わたなべっちのためだけに歌いまーす!」
「渡辺くん、ありがとう!」
最後の言葉は黒澤さんである。
その言葉にトドメを刺された俺は涙を堪えるのに必死だったが、ここで泣いたらギャルたちの餌食になる。
卒業までネタにされる。
泣くまいと天井を見上げた俺につられて、数名のギャルたちが泣いていた。
泣き声の混じった合唱は本番よりは劣っていたが、本番以上に心に残るものになったに違いない。
カメラを没収された俺は、この光景を忘れまい、と心の中でシャッターを切るのであった。
そして季節は進み、移り変わる。
夏休み前には校外学習のキャンプが控えているのだ。
さて、キャンプもなるべく参加すらしたくない俺だが、合唱部のカメラマンをやったおかげで他クラスにも知り合いがチラホラ増えた。
黒澤さんやマカロンちゃんのことも前よりわかった気がする。
今の俺なら楽しめる気がするのである。
「じゃあ、キャンプの班決めするよーん」
教室にはギャルの花ちゃんの明るい声が響いていた。
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