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第五幕 ―― 神滅覚醒
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「ーーーっ!? 詞御さん、大丈夫ですか?」
「問題ない。一体ここは、どこだ?」
依夜は驚いて周囲を見ていた。詞御には、依夜が驚いている理由は既に分かっている。拇印を押す前から集中していたのもあってか、周囲の変化は直ぐ分かった。いや、この場合は、突きつけられた、というのが正しいか。
詞御たちは、見た事も感じた事も触れた事も無い硬い質感の材質で敷き詰められた床の上に立たされていた。これだけでも十分異質な光景だが、それ以上の物が眼に飛び込んで来ている。周囲一面、全てが雲で覆われているからだ。しかも、雲の先の景色が全く見えない。これは、相当に分厚いという事を示しているに他ならない。また雲までの距離も遠い。〝闘いの儀〟で戦った会場の百倍はあろうかという広大な空間だった。
本当に、一体ここはどこなのだろうか? 今まで見たことが無い光景で、異常な空間に詞御たちは飛ばされていた。
詞御と依夜は、己が半身たる倶纏を出しながら、自身が放つ昂輝を薄く纏い始める。
セフィアもルアーハも等身大の姿をとった。大人の女性体と巨躯を誇る竜人へと。
顕現した後、セフィア達も状況を把握すべく周囲を見渡してくれる。
「これくらいの巨大な空間なら、本来の大きさの方が効果的じゃ」
「そうですね、力を振るうという点では一番いい形態です。しかし、逆に考えるならば、ここが〝神の試練〟の場という事は、戦う相手もそれ相応の体躯か力を振るう存在、と思って良いでしょう。っ、詞御!」
上を見ていたセフィアが、大きな声を上げる。
つられて詞御たちも見上げた。遥か視線の先には、茶褐色の大空が見えた。いや、【それは】、空では無かった。
あれは――
「――陸地じゃ! あれは空ではない!」
「という事は、ここは雲の中で大陸の真下だとでも言うのですか、ルアーハ!?」
依夜の気持ちは詞御たちも同じ。正直、信じたくは無かった。
しかし、否定するものはなく、陸地だと思う以外に、他に思い当たるものが無い。
「ソノ通リダ、選バレシ者達ヨ」
その時だった。
床のとある一面が崩れ落ちる。その穴は大きい。直径はゆうに二十メートルは超えているか。その穴から身の丈がセブラルのレコルテン以上、少なく見積もっても十五メートルはあろうかという、巨大な物体が飛び出てくるのが詞御の視界には見えた。その物体は、無事な床の上に着地するとその全貌を明らかにする。床はいつの間にか穴が消え、元に戻っていた。
「蟷螂、いや百足? いや両方ですかっ!!」
異形の光景に依夜が叫ぶ。
だが、詞御とセフィアは出現した物を冷静に分析する。修行と浄化屋の経験で培った観察眼をもって。
巨体の胴体は複数の大節に区切られていた。黄金色に輝くその円筒形の胴体。その体節ひとつひとつからは一対の刃のような肢が伸びている。計八つの節から、十六本の肢が地面を捉えていた。尻尾から徐々に視線を動かしていくと八つの節の終わりから徐々に上に持ち上がり大きくなっていく物体が視界に入る。
それは、緑色に輝く昆虫特有の複眼を持ち、鋭い二本の触覚を揺らす頭部を持っている。頭部の下には人間の身体とは違い、鋭利で八つの節を持つ円形の同体をもう一回り大きくした人間で言うところの上半身ともいえる体躯を備えていた。そして、その両端にはひときわ目を引く物がある。人間で言うところの腕の部位に巨大な一対の前肢。その先に八つ節の胴体と同等の長大な、それでいてゆるやかな弧を描く刃を装着したシルエットが、詞御たちの眼前に姿を現す。
(機械か? 身体を覆う物質が光沢を放っている。あれは装甲なのか?)
詞御は最大限の警戒をしながらも、蟷螂の上半身を持ち、百足の下半身を持つ物体を注視し続け可能な限りの情報を得ていく。それを知ってか知らずか、眼前の巨躯は、顔の大きさからすれば小さい口角を開いた。
『ココハ、大陸ヲ支エル柱ノ中ナリ。コレヨリ、ソナタ等ガ〝神ノ試練〟ニ耐エラレルカドウカヲ、我ガ見定メル。ソナタラガ勝テバ、国ノ存続ハ認メヨウ。ダガ、負ケタ時ニハ、コノ国諸共、雲ノ底ニ沈ンデモラオウ』
拡声器で出した声のようにエコーが掛かった声が、現われた蟷螂もどきの機械物体から発せられる。感情はこもっていない抑揚の無い声。けれども、上から見下したと言わんばかりの物言いと、さっきの言葉に、詞御の中に静かだが確かな怒りがこみあがってくる。
「成る程、な……。これで、拒否した国や負けた国が雲の中に沈むという理由がやっと分かったよ。拒否をしたり、負けたりすれば、ここが破壊されて、大陸全部が雲の中に沈んでいくという訳か……っ!」
だが、詞御の憤怒を多分に含む問い掛けにも一切返事が来なかった。その代わりに無慈悲ともいえるルールが巨躯から提示される。
『勝敗ノ付ケ方ハ単純。我ヲコノ砂時計ノ砂ガ落チ切ル前、制限時間内ニ倒ス事。制限時間内ニ倒セナケレバ汝ラノ敗北ガ決定スル。マタ倒セタトシテモ時間ガ掛カリスギレバ、現在ノ位置ヲ移動スル。光ノ柱カラ近クナルカ遠クナルカハ運次第』
頭上高くに、両端が閉じ、中央がくびれた管でできており、その中には本体の容積の半分の砂が封入されている巨大な砂時計が出現する。今は、上が空っぽで下には、乳白色の砂が敷き詰められていた。上の空っぽのケースには二色のラインが均等に刻まれている。くびれから端に向かって、赤色・緑色という順番だ。
「問題ない。一体ここは、どこだ?」
依夜は驚いて周囲を見ていた。詞御には、依夜が驚いている理由は既に分かっている。拇印を押す前から集中していたのもあってか、周囲の変化は直ぐ分かった。いや、この場合は、突きつけられた、というのが正しいか。
詞御たちは、見た事も感じた事も触れた事も無い硬い質感の材質で敷き詰められた床の上に立たされていた。これだけでも十分異質な光景だが、それ以上の物が眼に飛び込んで来ている。周囲一面、全てが雲で覆われているからだ。しかも、雲の先の景色が全く見えない。これは、相当に分厚いという事を示しているに他ならない。また雲までの距離も遠い。〝闘いの儀〟で戦った会場の百倍はあろうかという広大な空間だった。
本当に、一体ここはどこなのだろうか? 今まで見たことが無い光景で、異常な空間に詞御たちは飛ばされていた。
詞御と依夜は、己が半身たる倶纏を出しながら、自身が放つ昂輝を薄く纏い始める。
セフィアもルアーハも等身大の姿をとった。大人の女性体と巨躯を誇る竜人へと。
顕現した後、セフィア達も状況を把握すべく周囲を見渡してくれる。
「これくらいの巨大な空間なら、本来の大きさの方が効果的じゃ」
「そうですね、力を振るうという点では一番いい形態です。しかし、逆に考えるならば、ここが〝神の試練〟の場という事は、戦う相手もそれ相応の体躯か力を振るう存在、と思って良いでしょう。っ、詞御!」
上を見ていたセフィアが、大きな声を上げる。
つられて詞御たちも見上げた。遥か視線の先には、茶褐色の大空が見えた。いや、【それは】、空では無かった。
あれは――
「――陸地じゃ! あれは空ではない!」
「という事は、ここは雲の中で大陸の真下だとでも言うのですか、ルアーハ!?」
依夜の気持ちは詞御たちも同じ。正直、信じたくは無かった。
しかし、否定するものはなく、陸地だと思う以外に、他に思い当たるものが無い。
「ソノ通リダ、選バレシ者達ヨ」
その時だった。
床のとある一面が崩れ落ちる。その穴は大きい。直径はゆうに二十メートルは超えているか。その穴から身の丈がセブラルのレコルテン以上、少なく見積もっても十五メートルはあろうかという、巨大な物体が飛び出てくるのが詞御の視界には見えた。その物体は、無事な床の上に着地するとその全貌を明らかにする。床はいつの間にか穴が消え、元に戻っていた。
「蟷螂、いや百足? いや両方ですかっ!!」
異形の光景に依夜が叫ぶ。
だが、詞御とセフィアは出現した物を冷静に分析する。修行と浄化屋の経験で培った観察眼をもって。
巨体の胴体は複数の大節に区切られていた。黄金色に輝くその円筒形の胴体。その体節ひとつひとつからは一対の刃のような肢が伸びている。計八つの節から、十六本の肢が地面を捉えていた。尻尾から徐々に視線を動かしていくと八つの節の終わりから徐々に上に持ち上がり大きくなっていく物体が視界に入る。
それは、緑色に輝く昆虫特有の複眼を持ち、鋭い二本の触覚を揺らす頭部を持っている。頭部の下には人間の身体とは違い、鋭利で八つの節を持つ円形の同体をもう一回り大きくした人間で言うところの上半身ともいえる体躯を備えていた。そして、その両端にはひときわ目を引く物がある。人間で言うところの腕の部位に巨大な一対の前肢。その先に八つ節の胴体と同等の長大な、それでいてゆるやかな弧を描く刃を装着したシルエットが、詞御たちの眼前に姿を現す。
(機械か? 身体を覆う物質が光沢を放っている。あれは装甲なのか?)
詞御は最大限の警戒をしながらも、蟷螂の上半身を持ち、百足の下半身を持つ物体を注視し続け可能な限りの情報を得ていく。それを知ってか知らずか、眼前の巨躯は、顔の大きさからすれば小さい口角を開いた。
『ココハ、大陸ヲ支エル柱ノ中ナリ。コレヨリ、ソナタ等ガ〝神ノ試練〟ニ耐エラレルカドウカヲ、我ガ見定メル。ソナタラガ勝テバ、国ノ存続ハ認メヨウ。ダガ、負ケタ時ニハ、コノ国諸共、雲ノ底ニ沈ンデモラオウ』
拡声器で出した声のようにエコーが掛かった声が、現われた蟷螂もどきの機械物体から発せられる。感情はこもっていない抑揚の無い声。けれども、上から見下したと言わんばかりの物言いと、さっきの言葉に、詞御の中に静かだが確かな怒りがこみあがってくる。
「成る程、な……。これで、拒否した国や負けた国が雲の中に沈むという理由がやっと分かったよ。拒否をしたり、負けたりすれば、ここが破壊されて、大陸全部が雲の中に沈んでいくという訳か……っ!」
だが、詞御の憤怒を多分に含む問い掛けにも一切返事が来なかった。その代わりに無慈悲ともいえるルールが巨躯から提示される。
『勝敗ノ付ケ方ハ単純。我ヲコノ砂時計ノ砂ガ落チ切ル前、制限時間内ニ倒ス事。制限時間内ニ倒セナケレバ汝ラノ敗北ガ決定スル。マタ倒セタトシテモ時間ガ掛カリスギレバ、現在ノ位置ヲ移動スル。光ノ柱カラ近クナルカ遠クナルカハ運次第』
頭上高くに、両端が閉じ、中央がくびれた管でできており、その中には本体の容積の半分の砂が封入されている巨大な砂時計が出現する。今は、上が空っぽで下には、乳白色の砂が敷き詰められていた。上の空っぽのケースには二色のラインが均等に刻まれている。くびれから端に向かって、赤色・緑色という順番だ。
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