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第5章 夜明けの胎動
◆7 回想:蒼真の記憶②
しおりを挟む「……ねえ、どうしてあんな子がここにいるの?何か変なものが憑いてるのに、千秋の家の子なの?僕、一緒の部屋にいたくないよ……!」
突然、叫び声といってもいいような大きな声が、部屋中に響いた。
「あんな子」が自分のことだと、蒼真にはすぐに分かった。
その子供は、汚れたものを見てしまったような怯えた目をして、隣りに座っている母親の肩に縋りついている。
母親は、こちらにチラチラと視線を送り「そうなの?」とか「嫌ね」とか言いながら、落ち着かない息子の背中を撫でている。
「早く誰かに言って、外に出してよ…っ」
そんな言葉が聞こえた時――蒼真の心は、スッと一段、暗く沈んだ気がした。
ほら……やっぱり。
だから、言ったのに。勘の鋭い人が沢山いる場所になんか、僕が来たら行けなかったんだ。
汗が滲む手のひらを、ぎゅっと握りしめる。
今日は雨で、陽射しがない。
だからアレが視えてしまう気がしていた。
闇夜を照らす光みたいに、いつも輝いている伯父さんがずっと傍にいてくれたら良かったけど――今はここにはいないから。
畳の部屋で正座をしている自分に向けて、まばらにいる子供、大人、全ての人の視線が集まっている気がした。誰とも目を合わせたくなくて、思わず下を見ると、握りしめすぎて白くなった自分の指があった。
心が、身体が、どんどん冷たくなる。
自分はここにいたらいけないんだと思い、立ち上がりかけたその時。
「黒川の、おば様」
大人びた静かな声が、蒼真の動きを止めた。
「麟也くんは気分が悪いみたいですから、少し外で散歩でもして来たらどうですか?」
「……えっ?」
驚いたのは子供の親だ。
一瞬、状況が飲み込めないという顔をする。
ニコリと微笑んでそう促したのは、まだ10歳にも満たない子供だったから。
「え……ええ!そうね、そうするわ。行きましょう、麟也」
「何で!?外は雨だよ?――出て行くならアイツの方……」
「いいから来なさい!!」
母親に一喝されて、ビクリと身体を震わせた子供は涙目になる。強く手を引かれて渋々立ち上がり、こちらを睨みつけるようにしながら部屋を出て行く。
「あの、ごめんなさいね、清和さん」
「いいえ」
涼しい笑みで大人の謝罪を受け流している。
そのことに蒼真はとてもびっくりして、従兄弟の顔を穴が開くほど見詰めてしまった。あんなことを大人相手に言って、大丈夫なんだろうかと心配になった。
――清和のそんな一面――千秋家の長男であることを強く感じさせる姿を見たのは、その時が初めてだった。
「正座がツラい?でもちゃんと座っていないと。蒼真は僕の弟なんだし」
清和はそう言って、何ごともなかったように微笑んでいた――
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