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第4章 境界の扉が開くとき
◆21 由良と尊③
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驚かされて悔しかった私は、動揺など、一切していないように振舞ってみせた。
「……そんな簡単に『神様みたい』だなんて不遜なこと、言わない方がいい」
「あっ、すみません!つい心の声が……っ」
慌てて口を押え、顔を赤くしている……
この感じ、本当に天然なのか……?
よく分からないが、全く――迂闊な男だ……
深呼吸をして、心を落ち着かせる。
そして、ピントの合わないものを眺める時のように目を眇めながら――気持ちを集中させて、もう一度、彼を視た。
「……白いモノと黒いモノが、その身に同居してる……そんな気配がする」
「! 何か……視えますか?」
「いいや、視えない。ただ感じるだけ」
私が首を振ると、期待と違ったようで葉室尊は肩を落としている。
「感じるけど、視えない……こんなことは初めてだ……成程ね、清兄が術式を使いたくなる気持ちが、だんだん分かってきたよ」
二人が、彼を傍に置きたがった理由が理解できてきた。
多分、そういうことだろう。
私たちが出会ったことのない珍しいタイプ。「珍種」と言えばいいのか。
霊力があるくせに知識はなさそうで、私のような相手に憧れの目をむける。
なんの裏もない純粋そうな貌をして、得体のしれない何かを身の内に飼っているなんて――反則じゃない?
正体が、魂の質が、分からない。そんな人間、霊能者からすれば、この上ない誘惑を感じてしまう。
それが、この男……葉室尊っていうことなの?
彼の中の「秘密」が、あの二人を惹きつけている。
悔しいことに、この私でさえ――
思わず、笑いが込み上げた。
私は、それを許せない。
認めたくない――……
「――のんびりしていて、何も知りませんて感じのところが、私たちみたいな能力者を煽るって……気付いていないらしいね」
「え」
「……ねぇ、キミ」
攻撃的な言葉を口にしながら、柔らかな声で私は呼びかけた。口許には笑みを浮かべたまま。
「今すぐ、あの店を辞めてくれないかな?」
「ええっ!?」
余りにも突然過ぎる申し出に、彼は大きな声を上げた。
「いや、それは無理――です」
「……どうして?」
「さっきも言ったけど、俺があそこで働いてるのはお店同士のコラボ企画でもあるんです。新しいスイーツメニューを開発する、っていう」
「うん、それは聞いたけど、分かった上で言ってる」
「――これは、俺がきちんとした仕事として引き受けたことなので、途中で辞めることは出来ません……ごめんなさい」
キッパリと断言して頭を下げる葉室尊に、私は笑みを消した。
「………そうか、私のお願いは聞いて貰えないか……」
低くなった声音に変化を感じて、彼はハッとしたようだ。
私は俯き、自分の表情を隠した。
その場の空気が変わって――お互いの間に緊張が生まれる。
彼が身を固くするのが分かった。
「由良さん?」
「……分かったよ」
髪をかき上げ天を仰いだ私は、その視線をゆっくりと――葉室尊に戻した。
にっこりと、先刻よりも深い笑みを浮かべてみせる。
「君が、あの店にいなくちゃいけない理由が無くなればいい……そういう事だよね」
君の中にいる何かが、消えてしまえば。
二人の傍にいる必要もない。
「……!?」
「あの二人から、キミを引き剥がすことにする」
視ることは出来なくても、斬ることは出来る。
それが私の能力だ。
君がただの青年になれば、二人の執着だって無くなるだろう。
秘密は、明るみに晒してしまえば、不思議でも何でもなくなるのだから。
「私が君を、本当の『普通』に戻してあげるよ」
――それは、宣言だった。
彼を、自分の聖域から祓うことの。
「――どういう、意味ですか……?」
私から溢れ出す霊力を感じたらしく、葉室尊は後退った。
「……そんな簡単に『神様みたい』だなんて不遜なこと、言わない方がいい」
「あっ、すみません!つい心の声が……っ」
慌てて口を押え、顔を赤くしている……
この感じ、本当に天然なのか……?
よく分からないが、全く――迂闊な男だ……
深呼吸をして、心を落ち着かせる。
そして、ピントの合わないものを眺める時のように目を眇めながら――気持ちを集中させて、もう一度、彼を視た。
「……白いモノと黒いモノが、その身に同居してる……そんな気配がする」
「! 何か……視えますか?」
「いいや、視えない。ただ感じるだけ」
私が首を振ると、期待と違ったようで葉室尊は肩を落としている。
「感じるけど、視えない……こんなことは初めてだ……成程ね、清兄が術式を使いたくなる気持ちが、だんだん分かってきたよ」
二人が、彼を傍に置きたがった理由が理解できてきた。
多分、そういうことだろう。
私たちが出会ったことのない珍しいタイプ。「珍種」と言えばいいのか。
霊力があるくせに知識はなさそうで、私のような相手に憧れの目をむける。
なんの裏もない純粋そうな貌をして、得体のしれない何かを身の内に飼っているなんて――反則じゃない?
正体が、魂の質が、分からない。そんな人間、霊能者からすれば、この上ない誘惑を感じてしまう。
それが、この男……葉室尊っていうことなの?
彼の中の「秘密」が、あの二人を惹きつけている。
悔しいことに、この私でさえ――
思わず、笑いが込み上げた。
私は、それを許せない。
認めたくない――……
「――のんびりしていて、何も知りませんて感じのところが、私たちみたいな能力者を煽るって……気付いていないらしいね」
「え」
「……ねぇ、キミ」
攻撃的な言葉を口にしながら、柔らかな声で私は呼びかけた。口許には笑みを浮かべたまま。
「今すぐ、あの店を辞めてくれないかな?」
「ええっ!?」
余りにも突然過ぎる申し出に、彼は大きな声を上げた。
「いや、それは無理――です」
「……どうして?」
「さっきも言ったけど、俺があそこで働いてるのはお店同士のコラボ企画でもあるんです。新しいスイーツメニューを開発する、っていう」
「うん、それは聞いたけど、分かった上で言ってる」
「――これは、俺がきちんとした仕事として引き受けたことなので、途中で辞めることは出来ません……ごめんなさい」
キッパリと断言して頭を下げる葉室尊に、私は笑みを消した。
「………そうか、私のお願いは聞いて貰えないか……」
低くなった声音に変化を感じて、彼はハッとしたようだ。
私は俯き、自分の表情を隠した。
その場の空気が変わって――お互いの間に緊張が生まれる。
彼が身を固くするのが分かった。
「由良さん?」
「……分かったよ」
髪をかき上げ天を仰いだ私は、その視線をゆっくりと――葉室尊に戻した。
にっこりと、先刻よりも深い笑みを浮かべてみせる。
「君が、あの店にいなくちゃいけない理由が無くなればいい……そういう事だよね」
君の中にいる何かが、消えてしまえば。
二人の傍にいる必要もない。
「……!?」
「あの二人から、キミを引き剥がすことにする」
視ることは出来なくても、斬ることは出来る。
それが私の能力だ。
君がただの青年になれば、二人の執着だって無くなるだろう。
秘密は、明るみに晒してしまえば、不思議でも何でもなくなるのだから。
「私が君を、本当の『普通』に戻してあげるよ」
――それは、宣言だった。
彼を、自分の聖域から祓うことの。
「――どういう、意味ですか……?」
私から溢れ出す霊力を感じたらしく、葉室尊は後退った。
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