オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星

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第4章 境界の扉が開くとき

◆19 由良と尊①

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――皎月こうげつが、夜を照らしている。
小さな星は、その強い明かりにかき消されて見えなくなってしまう。
星を淘汰する白光だ――

浮かぶ雲の合間から除く月が、殊更に美しい夜だと思った。
それなのに気分は最悪だった。
私はずっと苛立ちを抑えていたから。
目の前の、この――「至って普通に視えるけれど、何となくモヤっとする気配」の持ち主。「葉室尊」に。
のほほんとした少年っぽいビジュアル。特筆すべきところもない平凡そうなこの青年が。来るもの拒まずの清兄はともかく、気難しい蒼兄の傍にどうして入り込めたのだろう?
私にはそれが不思議でならなかった。

「私の名前は千秋由良。千秋清和の妹で久我蒼真の従兄妹……っていうのは、もう分かってるよね」

白い輝きを仰ぎ見ながら、とても簡単で形式的な自己紹介をした。
言葉の端々に、冷たい感情が滲み出てしまう。
相手にも、多分それが伝わっているだろう。

「はい……俺は、葉室尊って言います。『プチ・エトワール』っていうパティスリーの――」
「パティシエなんでしょ?君のことはもう知ってる」
「あれっ、誰から聞いたんですか?」
「店で見慣れない人が働いているって教えてくれた人がいて、調べたから」
「………そ、そうですか」

葉室尊は肩を竦めて気まずそうな表情を浮かべる。
いつの間にか素性を調べられて、気分を害したかもしれない。でもそんな事は、今の私にはどうでも良かった。

「……ところで君、清兄のこと――どう思ってるの?」
「えっ?」

店を出て、いきなりそんなことを訊かれ、どういう意図なのか分からない彼は面食らっている。私は憮然としたまま、じっと葉室尊を見詰めた。

「えっと、その……すごく良くしてもらってますし、人間として好きですよ?」
「……いきなりあんな事されたのに?」
「いや、確かにあれはびっくりしましたけど……でも普段の清和さんは気遣いのできる優しい人だから。あれはちょっと悪ノリが過ぎたって感じですよね」

あははと笑って、人の良さそうな雰囲気を醸し出している。
それに対して、私の心の中のモヤモヤはどんどん大きくなるばかりだった。ますます葉室尊を睨みつけてしまう。

「二人の間でキスなんて何でもないこと……そう言いたいの?」
「いやいや!?さっきのは、急に身体が動かなくなったからであって……いくら、俺の事調べるためとはいえ、あんな不意打ちは無しですよっ」

マウントを取られているのかと思ったけど……はっきりしないわね、葉室尊。

「……ふうん、じゃあ蒼兄のことは?」
「………!」

会話の流れとして訊かれることは想像がついたと思うが、何故か彼は言葉を詰まらせた。

「同じ……ですよ?普通に、まあ、面倒みてもらっていて――世話にはなってます」
「……なんだか微妙な答えだね」
「いえごく普通です!普通の仲です」

妙に力いっぱい「普通」を強調してくる。何故だろう……余計にモヤモヤしてしまう。私と違って自分は普通だと言いたいのだろうか。

「それはともかく――で?君は、どうして『ななつ星』で働いてるの?」
「それは、話すと少し長くなるんですけど――」


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