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第3章 『ななつ星』という結界

◆9 その手を取るか、否か①

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パクパクと口を開けたり閉めたり。
「取り殺される」??
それ、俺のことを言ってるんだよね……?

「『餌を横取りされるとは思わなかった』……俺が黒い着物の女を消した時、お前の中のヤツが言っていた言葉だ」

蒼真が悔しそうな表情を浮かべながら、説明をする。
その時のことを思い出すと、少なからず感情的になるらしい。
唇に傷をつけられていたし、よっぽど腹の立つことがあったのだろうか……地雷を踏みそうなのが怖くて、尊は自分からは訊けずにいた。

「……もしかしてアレは――引き寄せた霊魂を喰ってるんじゃないか?そのせいで、お前の具合が悪くなるなら……いずれ、もっと重大な体調不良に陥ることも、充分考えられるだろ」
「…………」

死んだ霊を――食べてる……?

その言葉から、とんでもなく恐ろしいイメージが浮かんでしまった。
冷たいものが背筋に奔る。
自分の中にそういうモノが、本当にいるとしたら――
考えただけで、ゾクリとして怖くなった。
尊は無意識に、自分の身体を抱きしめるような仕種をする。

「だけど、本当に他の霊魂を呼び寄せて、自分の中に取り込んでるんだとしたら――それこそ、絶対に普通の一般人の霊なんかじゃない。立派な妖魔の類として、認定できちゃうレベルだよ」

清和のその台詞がダメ押しだった。
それは確かに普通じゃない。
そうなのかもしれないと、自分でも思ってしまった。
――もし、この推測が当たっているのだとしたら。

肉食動物のような凶暴さが、この身体のどこかに潜んでいるのかも、と――

色々な妄想が勝手に肥大していく。
自分の存在そのものが、危ういモノに感じられてくる。
気付けば、尊は黙って俯いていた。

自分に対する違和感は、昔からあった。
いわゆる霊感みたいなものに、波があるのだ。
何も感じなくなる時もあるし、その反対に、突然、あらゆる感覚が全解放されるような時もある。
五感が鋭くなって、光や、音や、匂いが強く感じられて、自分だけが別の世界を覗いているみたいな、あの感じ。

あれが、もしも、自分の中にいる何かが獲物を捕らえる時の、動物的な感覚なのだとしたら――……?


「……――おい」

呼ばれていることに、しばらく気付かなかった。

「しっかりしろ、一人で暗くなってる場合か」

肩に蒼真の手が触れて、ハッとする。

「うん分かる。分かるよー、その反応。急に取り殺されるかもなんて、そんなこと言われたらね?何言ってるんだってなるし、怖くもなるよ。多分そうなると思ったからこそ――今回のお仕事の依頼なんだよ」
「……?」

つまり、と蒼真が言葉を引き継ぐ。

「しばらく俺たちと一緒にいれば、お前に憑いてる何かの正体を突き止められるだろうし、どうしたらいいのか、対策も考えられるって事だ」
「えっ、あ……そういう理由で……仕事を使って俺を呼んだの……!? いやでも、普通に店の外で見てもらう時間を作るとかじゃ、ダメだったのか?」
「身近で、お前の様子を観察する時間が欲しい」
「かなり時間が必要、ってこと……?」
「それと、僕たちの作る物を食べたり飲んだりして欲しいんだよね。毎日、連続して。だから2週間、君の身柄を預かりたいってお願いしたんだ」

そうなのか、と。いろいろと納得できなかった部分が腑に落ちた。
……こうして話を聞けば、何もかも自分の為に考えてくれていること、らしく。
もちろんそれは、二人の言う「ヤバいヤツが憑いている」という事が真実ならば――であるが。

「そんな事、考えてたなんて……」

尊は驚きで、目をぱちぱちと瞬かせた。

自分の中の「何か」の正体を突き止めることが――この二人ならできる、のか?


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