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第3章 『ななつ星』という結界
◆8 招かれた理由②
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「……蒼真から、詳しい説明はまだ聞いてないんだよね?この店のことや、僕達のこと」
清和の声は変わらずに穏やかだ。
なのに、どうしてなのか落ち着かない気分になってくる。
「――久我さんが、除霊ができる霊能力者で……この店には、悪いものが入れないようになっている、って話しなら聞きました」
「そう。話せば長くなるんだけど、僕の実家――千秋家は、二階堂の奥にある北辰妙見神社の神職を代々務める家系でね。この店はその神社の分社というか、裏窓口というか。お祓いとか、困り事とか、霊障関係の相談を受ける場所としての役目を担っているんだよ」
「このBarが、ですか?」
怪訝そうな尊に、清和はうんと小さく頷き、説明が続く。
「そうなんだ。時々、知り合いの伝手を通じて依頼を持ち込む人がいる。結界が張ってあるから、穢れ――悪霊とかが実際憑いている人はここには入れないけど、代理人とかね。神社の方にはそういう細々した厄介事を持ち込みたくないので、こっちで引き受けようってことになったんだ」
本当に別世界みたいな話だった。普通のお店とは違う裏の貌があるなんて。
「で、店の名前がどうして『ななつ星』なのかといえば、ウチの神社、北辰妙見神社が北極星と北斗七星を祀っているからでね。仏としては北辰尊星王だけど、御祭神としては天之御中主神と呼ばれていて……天の中心で全てを見通す力があるとも言われている、神様の中でも特別な存在で……」
「――清和」
立て板に水――そんな勢いで、話が止まらなくなってきた清和を、蒼真がたしなめた。
「それに帝釈天と同一視しされることもあって、歴史的にも非常に興味深く……!」
「――その位にしておけ」
しかしそれでも止まらない神社トークに、蒼真は直接口を塞ぐという行動に出た。
「ストップだ。素人にいきなり大量の情報を落とし込むな」
「むぐ」
「……こいつは根っからの神道、陰陽道好きのマニアだからな。その手の話を何か訊こうものなら、こういう事になるから気を付けろ」
「う、うん……」
清和の意外な一面を見てしまい、はは、と尊は小さく笑った。緊張が、少しだけ緩む。
ぷは、と蒼真の手から逃れて息を継ぎ、清和は咳払いをして場を改めた。
「……失礼したね。まぁ細かい話はまたいずれ……で、ここからが本題だけど――尊くん」
「はい」
「君、何かヤバいモノに取り憑かれているって、本当?」
「えっ!?」
余りにも突然の問い掛けに、一瞬、頭が空白になる。
「いや、俺に憑いてたモノならこの間……久我さんに祓ってもらいましたけど……?」
「うんうん、それじゃなくてね。もうひとつ、別のがいるって――蒼真がね」
微笑みのままの、衝撃告白だ。
「べ、別の……!!?」
思わず蒼真の顔を凝視した。
「そうだ。しかも、かなり問題がありそうなヤツだったぞ。俺がこの間確かめたかったのは、そいつのことだ。霊を引き寄せてるのも、そいつが原因なんじゃないかと俺はみている」
「……………っ」
別の、何か。
黒い着物の彼女以外で……!?
そんなことを言われるとは、全く思ってもみなかった、けど――
いや、でももしかすると……?
「俺、これまでにも何回か他人に憑いてる霊を引き寄せてるんですけど――過去のそういったものが未だに残ってるとか、ないですか?」
「うーん。蒼真はどう思う?」
「いや、アレは一般的な幽霊とは全く違う気配だった。そんな可愛らしいものじゃない」
「ええぇ……!?」
一般的な幽霊は可愛らしいのか……。
そうじゃない何かが憑いてるって、相当「ヤバいヤツ」なのか……!?
「お前、動物の霊を引き寄せたとか祟られたとか、そういう経験はあるか?」
「動物……?いや、それはないと思う。飼っていたこともないし」
「不空羂索観音、という言葉に聞き覚えは?親族が信奉しているとか」
「ふくう……??いや、それも初めて聞く単語」
「……ふん」
蒼真が黙り込む。
「何にせよ、このまま放っておくと――お前、マズいかもしれないぞ」
「マズい……とは?」
「取り殺されるかもしれない、ってことだ」
――――うん。またしても衝撃の告白。
それを、今すっごくサラッと言ったよね?
「え、あ、とりころされ……る??」
「うーん、困ったね。尊くん」
「あ、うん、それは、困る……困ります……ね?」
清和の声は変わらずに穏やかだ。
なのに、どうしてなのか落ち着かない気分になってくる。
「――久我さんが、除霊ができる霊能力者で……この店には、悪いものが入れないようになっている、って話しなら聞きました」
「そう。話せば長くなるんだけど、僕の実家――千秋家は、二階堂の奥にある北辰妙見神社の神職を代々務める家系でね。この店はその神社の分社というか、裏窓口というか。お祓いとか、困り事とか、霊障関係の相談を受ける場所としての役目を担っているんだよ」
「このBarが、ですか?」
怪訝そうな尊に、清和はうんと小さく頷き、説明が続く。
「そうなんだ。時々、知り合いの伝手を通じて依頼を持ち込む人がいる。結界が張ってあるから、穢れ――悪霊とかが実際憑いている人はここには入れないけど、代理人とかね。神社の方にはそういう細々した厄介事を持ち込みたくないので、こっちで引き受けようってことになったんだ」
本当に別世界みたいな話だった。普通のお店とは違う裏の貌があるなんて。
「で、店の名前がどうして『ななつ星』なのかといえば、ウチの神社、北辰妙見神社が北極星と北斗七星を祀っているからでね。仏としては北辰尊星王だけど、御祭神としては天之御中主神と呼ばれていて……天の中心で全てを見通す力があるとも言われている、神様の中でも特別な存在で……」
「――清和」
立て板に水――そんな勢いで、話が止まらなくなってきた清和を、蒼真がたしなめた。
「それに帝釈天と同一視しされることもあって、歴史的にも非常に興味深く……!」
「――その位にしておけ」
しかしそれでも止まらない神社トークに、蒼真は直接口を塞ぐという行動に出た。
「ストップだ。素人にいきなり大量の情報を落とし込むな」
「むぐ」
「……こいつは根っからの神道、陰陽道好きのマニアだからな。その手の話を何か訊こうものなら、こういう事になるから気を付けろ」
「う、うん……」
清和の意外な一面を見てしまい、はは、と尊は小さく笑った。緊張が、少しだけ緩む。
ぷは、と蒼真の手から逃れて息を継ぎ、清和は咳払いをして場を改めた。
「……失礼したね。まぁ細かい話はまたいずれ……で、ここからが本題だけど――尊くん」
「はい」
「君、何かヤバいモノに取り憑かれているって、本当?」
「えっ!?」
余りにも突然の問い掛けに、一瞬、頭が空白になる。
「いや、俺に憑いてたモノならこの間……久我さんに祓ってもらいましたけど……?」
「うんうん、それじゃなくてね。もうひとつ、別のがいるって――蒼真がね」
微笑みのままの、衝撃告白だ。
「べ、別の……!!?」
思わず蒼真の顔を凝視した。
「そうだ。しかも、かなり問題がありそうなヤツだったぞ。俺がこの間確かめたかったのは、そいつのことだ。霊を引き寄せてるのも、そいつが原因なんじゃないかと俺はみている」
「……………っ」
別の、何か。
黒い着物の彼女以外で……!?
そんなことを言われるとは、全く思ってもみなかった、けど――
いや、でももしかすると……?
「俺、これまでにも何回か他人に憑いてる霊を引き寄せてるんですけど――過去のそういったものが未だに残ってるとか、ないですか?」
「うーん。蒼真はどう思う?」
「いや、アレは一般的な幽霊とは全く違う気配だった。そんな可愛らしいものじゃない」
「ええぇ……!?」
一般的な幽霊は可愛らしいのか……。
そうじゃない何かが憑いてるって、相当「ヤバいヤツ」なのか……!?
「お前、動物の霊を引き寄せたとか祟られたとか、そういう経験はあるか?」
「動物……?いや、それはないと思う。飼っていたこともないし」
「不空羂索観音、という言葉に聞き覚えは?親族が信奉しているとか」
「ふくう……??いや、それも初めて聞く単語」
「……ふん」
蒼真が黙り込む。
「何にせよ、このまま放っておくと――お前、マズいかもしれないぞ」
「マズい……とは?」
「取り殺されるかもしれない、ってことだ」
――――うん。またしても衝撃の告白。
それを、今すっごくサラッと言ったよね?
「え、あ、とりころされ……る??」
「うーん、困ったね。尊くん」
「あ、うん、それは、困る……困ります……ね?」
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