オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星

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第3章 『ななつ星』という結界

◆2 早すぎる再会

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「え……っ!!?」

扉の隙間から見えたのは――

たった今まで散々頭を悩ませていた問題の元凶。
例のあの人、危なすぎる男「久我蒼真」である。

心臓が急に早鐘を打ち、一気に顔が熱くなった。
上下黒のシャツとパンツ、さらに黒のトレンチコートを纏ったスラリとしたシルエット。
明るい陽射しの中でも、蒼真は夜を纏ったような独特の雰囲気を持っている。黒尽くめのその姿は、朝の爽やかさとは程遠い。
こんな男が立っていたら、ご近所の善良な常連さんが怯えて近寄れないのも……ムリはないかもしれない。

そして、まさかこんなに早く再会するとは夢にも思わず――尊はびっくりし過ぎて、固まってしまった。

(ど、どど、どうしよう!?何でここに……!?)

だが扉が開いたことに素早く気付いた蒼真は、不穏な微笑を浮かべて近付いてきた。自分から店の扉に手をかけて強引に押し開き、尊の目の前に立ちはだかる。

「どうした?幽霊にでも会ったような顔をして……昨日の今日で、もう俺のことを忘れたのか?」
「……っ!!」

忘れるわけないだろ!と反論したいが、言葉が出ない。身体全体が熱くなっていく気がした。
会いたいけど、会いたくなかった――尊にとって、蒼真は複雑な感情を呼び起こす、特別な相手だと改めて思い知らされる。
男らしく整った顔が、悪魔的な微笑みを浮かべながら自分を見詰めていた。

「随分近くで働いていてるんだな」
「……何でここに?どうして、ここで働いてるって分かったんだ……!?」
「わざわざ会いに来たっていうのに、そんな対応か?――これを手掛かりに探したら、すぐだったぞ」

男がピッと手首を返すと、そこにカードが現れた。それを指の間に挟んで見せてくる。そこにあったのは尊のサイフにしまってあった筈の、ショップカードだ。

「これだけ何枚も入っていたからな。自分の店なんだろうと当たりを付けて、従業員を確認したらあっという間だった」
「それ、いつの間に……!」

そういえば、勝手に免許証を探られてたんだっけと、昨夜のやりとりを思い出して、カッと頭に血が昇る。こういうことを平気でする男だから、近寄りたくないと思うのも当然だ。

――それなのに。

一晩中、眠れずに。
どんな人間なのかとずっと考え続けていた相手が、目の前に現れて。

(……俺を探して――わざわざ、ここまで?昨日別れた後も、俺のことを考えていた、とか?)

……自分と同じように、ずっと?
そんな風に思って、気持ちが――たかぶってしまうのを感じた。

(いやいや!俺はまた、自分勝手な期待を……くそっ)

尊は、ぎゅっと強く唇を噛んだ。

「……こんなに朝早くから、一体何しに?また昨日の言い合いの続きをしたいってこと?何度聞かれても、眠ってる間の記憶なんてないんだけど……」

自分の中の怯えや期待を表に出さないように、わざとそっけない言葉を投げかける。

「お前には目覚めるまでの記憶がない、というのは理解してる」

あっさり引き下がったのは意外だった。

「だからその代わり、借りを返して貰おうと思ってな」
「借り?」
「昨夜のカクテル代と除霊代と、俺の身体に傷をつけた分の慰謝料だ。それをお前の身体で返して貰うことにした」
「……うん???」


この人、何を言ってるのかな?

意味が……よく分からないんだけど??


「え、待って待って……確かに俺は昨夜のカクテル代を払ってない……ないけど!払わなきゃいけないのはそれだけで――それに除霊はあんたが勝手にやったことだって、自分で言ってたよな??」
「ほう、俺が勝手にやったことだから、自分には全く責任がないと?」
「ううっ、いや、そうは言わないけどっ……あと身体に傷って何のこと……??」

慌てる尊に、蒼真がずいと顔を近付ける。ビクッとして尊は仰反のけぞった。
その反応を無視して自分の唇を指でとんとん、と指し示してくる。よく見ると、唇の端に傷があった。

「これはお前にやられたんだが?」
「え……ええええっ!!?」

全く予想もしていなかったことを言われ、大きな声が出てしまった。

「えっ、俺が……?どういうこと??殴ったとかそういう……!?」

余りにもショックが大きくて、クラクラと目眩めまいがした。頭を抱えてよろめく。

酔って暴れるとか、そんなことこれまでなかったのに――!?
俺って実は酒乱なのか……!??
いやそれとも除霊される時に、無意識に暴れた……??

呆然として青褪める尊に対し、蒼真はふっと口元をゆるめて笑う。尊はそれには気付かなかった。

「今日の帰りに『ななつ星』に来い」
「!?」
「話がある……色々な。お前の重大な秘密も教えてやる」
「え?ちょっと待てって……!そんな勝手なこと言って、俺が簡単に行くとでも……!?」
「――お前は、絶対に来ることになるさ」
「……!!」

自信たっぷりな様子なのが憎らしい。その自信はどこからくるのか。
身を翻してその場から去ろうとした蒼真は、もう一度尊を振り返り、

「じゃあまた後でな、尊」

そう名前を呼び捨てると、勝手に去って行ってしまった。

………取り残された尊は、ポカンとしてその後ろ姿を見送るしかなく。
ぶるぶると身体を震わせて――思い切り叫んだ。

「……何なんだよ、もう~~~!?」

自分勝手で強引で……全然説明が足りないだろー!!!と思う。
こちらの気持ちは全く無視され、振り回されるばかりで。
何を考えているのか――尊には全然分からない。

(霊能力者かどうかって事より、人格的に問題ありすぎなのでは……!?)

――それにしても。

(重大な秘密……って?一体、何のことだ?俺も知らない何かを、あいつが知ってるってことなのか……?)

会う前よりも、さらに気持ちが乱れて……悩みがもっと深くなったじゃないかー!!
……と、大声でそう文句を言ってやりたい気分だった。

確かにこのまま無視もできない。
だが言われるままに『ななつ星』に行けば、またあの男の領域に足を踏み入れることになって……何をされるか分からない。それに加えて、自分の中の恐れや怒り、勝手な期待感とも向き合うハメになるのだ。

果たしてそれが良いことなのか、どうか。
尊は激しく動揺してしまい、混乱するばかりだった――


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