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第2章 訳ありバーテンダーとパティシエの秘密
◆11 謎の問診?
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「……自分から抱きついたクセに、その反応は失礼だと思わないのか?」
「あ、相手があんただって分かってたら、抱きつかなかったよっ!!」
飛び跳ねるように離れ、少しでも距離を取ろうとして、ベッドのヘッドボードに背中がくっつくまで素早く後退る。
その様子がおかしかったのか、男は笑っていた。
「まるで野良猫だな」
「得体のしれない人間と二人きりなんだから、当然の反応だろっ」
警戒心MAXで、尊は精一杯相手を睨みつける。
「今のお前には……別に何もする気はない」
「?」
その微妙な言い回しに、少し引っかかるものを感じた。
確かに、男はそのまま距離を詰めようともせず、何だか気の抜けた様子でこちらを見ている。
「――鬼の、夢を見たのか」
「え?」
「いや……何でもない」
何か言いたそうに見えたけれど、そのまま口を噤んでしまった。
……何を考えてるんだろう。俺をどうしたいのかな、この人?
背中を撫でられた時の感触と熱がよみがえって、今すぐ逃げ出すべきなのかどうか……迷ってしまう。うなされていた自分を落ち着かせてくれた。それは、確かだった。
……触れ方が優しかった。
あれは、あの手は、本当に目の前のこの男だったのか?と思いたくなるくらい。
でもこの男は、自分を眠らせて何かしようとした男で……
――昏睡強盗?
尊は勝手にそんな風に思っていた。
けれど、今、自分は縛られても脅されてもいない。
ただベッドに寝かされていただけだ。
「……あのさ」
あれこれ迷っていても埒が明かない。とにかく真相を確かめなければ、と自分から話しかける。
「俺に飲ませたお酒……あれには何か、普通じゃないものが入ってたのか?だとしたら何が目的で?……そもそも、アンタ一体何者?ただのバーテンダーとは思えないんだけど?」
「――――説明はする。だから、そう、キャンキャン吠えるな」
はぁ、と疲れたように大きな溜息を吐かれた。
まるでこちらの方が、迷惑をかけているとんでもない客みたいである。
それにさっきから、やけに怠そうなのはどうしてなのか?
そんな風に観察していると、蒼真はベッドサイドのテーブルに置かれたバインダーを取り上げる。
何かの紙が挟まれたそれを見ながら、一緒にセットされていたペンを手にした。
片膝を立てた状態でベッドに座り直し、どうするのかと思えば。
「……葉室尊」
改めて名前を呼んでくる。そういえば、うなされていた時にも名前を呼ばれていたかも……と、思い出す。
「――何で、俺の名前を知ってんの?」
「お前の名前は、免許証で確認した。まずはお互いの名前ぐらい知っておくべきだろう?俺は久我蒼真、『ななつ星』のバーテンダーだ……一応な」
「え、人の荷物を勝手に……?」
いやいや、そういうとこだよ、久我蒼真……!だから警戒しちゃうんだよ!と、心の中でツッコんだ。
「そういえば、俺の荷物は?」
「そこに置いてある」
蒼真がペンでベッドの脇を指し示す。
少し移動して下を覗くと、見慣れたリュックが無造作に置かれているのが見えた。
「お前、自分に死霊が取り憑いていた自覚はあったのか?」
「えっ!?」
荷物に気を取られていたら、いきなり予想外の質問がきた。
「アンタそれ――なんで?どうして知ってんの……!?」
「質問に質問で返すな。ちゃんと答えろ」
「え、あー、うん……それは、分かってた」
「自覚あり、と」
バインダーに挟まれた紙に何かを記した。
「??」
「こういうことはよくあるのか?」
「まぁ、普通の人に比べたら……多いのかな」
「どれ位の頻度で?」
「えー……?年に、2,3回とか?」
「どうして取り憑かれる?知らないうちにそうなるのか?」
「いや目が合うと、向こうが勝手に寄ってくるから」
「勝手に……?それは毎回か?」
「うん」
サラサラと、質問しながら情報を書き加えているようだ。
「えっ、ちょっと待って!何コレ。問診??何なの一体!」
雰囲気に流されて、ついつい素直に答えてしまっていた。
「とりあえず、お前に取り憑いていたあの黒い婚礼衣装の女は、祓っておいた。今の体調はどうだ?」
「え……っ?」
「あ、相手があんただって分かってたら、抱きつかなかったよっ!!」
飛び跳ねるように離れ、少しでも距離を取ろうとして、ベッドのヘッドボードに背中がくっつくまで素早く後退る。
その様子がおかしかったのか、男は笑っていた。
「まるで野良猫だな」
「得体のしれない人間と二人きりなんだから、当然の反応だろっ」
警戒心MAXで、尊は精一杯相手を睨みつける。
「今のお前には……別に何もする気はない」
「?」
その微妙な言い回しに、少し引っかかるものを感じた。
確かに、男はそのまま距離を詰めようともせず、何だか気の抜けた様子でこちらを見ている。
「――鬼の、夢を見たのか」
「え?」
「いや……何でもない」
何か言いたそうに見えたけれど、そのまま口を噤んでしまった。
……何を考えてるんだろう。俺をどうしたいのかな、この人?
背中を撫でられた時の感触と熱がよみがえって、今すぐ逃げ出すべきなのかどうか……迷ってしまう。うなされていた自分を落ち着かせてくれた。それは、確かだった。
……触れ方が優しかった。
あれは、あの手は、本当に目の前のこの男だったのか?と思いたくなるくらい。
でもこの男は、自分を眠らせて何かしようとした男で……
――昏睡強盗?
尊は勝手にそんな風に思っていた。
けれど、今、自分は縛られても脅されてもいない。
ただベッドに寝かされていただけだ。
「……あのさ」
あれこれ迷っていても埒が明かない。とにかく真相を確かめなければ、と自分から話しかける。
「俺に飲ませたお酒……あれには何か、普通じゃないものが入ってたのか?だとしたら何が目的で?……そもそも、アンタ一体何者?ただのバーテンダーとは思えないんだけど?」
「――――説明はする。だから、そう、キャンキャン吠えるな」
はぁ、と疲れたように大きな溜息を吐かれた。
まるでこちらの方が、迷惑をかけているとんでもない客みたいである。
それにさっきから、やけに怠そうなのはどうしてなのか?
そんな風に観察していると、蒼真はベッドサイドのテーブルに置かれたバインダーを取り上げる。
何かの紙が挟まれたそれを見ながら、一緒にセットされていたペンを手にした。
片膝を立てた状態でベッドに座り直し、どうするのかと思えば。
「……葉室尊」
改めて名前を呼んでくる。そういえば、うなされていた時にも名前を呼ばれていたかも……と、思い出す。
「――何で、俺の名前を知ってんの?」
「お前の名前は、免許証で確認した。まずはお互いの名前ぐらい知っておくべきだろう?俺は久我蒼真、『ななつ星』のバーテンダーだ……一応な」
「え、人の荷物を勝手に……?」
いやいや、そういうとこだよ、久我蒼真……!だから警戒しちゃうんだよ!と、心の中でツッコんだ。
「そういえば、俺の荷物は?」
「そこに置いてある」
蒼真がペンでベッドの脇を指し示す。
少し移動して下を覗くと、見慣れたリュックが無造作に置かれているのが見えた。
「お前、自分に死霊が取り憑いていた自覚はあったのか?」
「えっ!?」
荷物に気を取られていたら、いきなり予想外の質問がきた。
「アンタそれ――なんで?どうして知ってんの……!?」
「質問に質問で返すな。ちゃんと答えろ」
「え、あー、うん……それは、分かってた」
「自覚あり、と」
バインダーに挟まれた紙に何かを記した。
「??」
「こういうことはよくあるのか?」
「まぁ、普通の人に比べたら……多いのかな」
「どれ位の頻度で?」
「えー……?年に、2,3回とか?」
「どうして取り憑かれる?知らないうちにそうなるのか?」
「いや目が合うと、向こうが勝手に寄ってくるから」
「勝手に……?それは毎回か?」
「うん」
サラサラと、質問しながら情報を書き加えているようだ。
「えっ、ちょっと待って!何コレ。問診??何なの一体!」
雰囲気に流されて、ついつい素直に答えてしまっていた。
「とりあえず、お前に取り憑いていたあの黒い婚礼衣装の女は、祓っておいた。今の体調はどうだ?」
「え……っ?」
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