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第2章 訳ありバーテンダーとパティシエの秘密

◆6 妙見神の呪いと、加護と

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掌に、熱を集めるイメージを思い浮かべながら。
五感の全てを研ぎ澄ませて――自身の信奉する神の力を降ろすために。
精神を集中する。

蒼真の一番の守護神は、母の血筋である千秋家が祀っている妙見神。
妙見菩薩と一般には呼ばれていて、北極星、または北斗七星を神格化した神だ。

――蒼真は、この神に。
愛憎入り混じった感情を、物心ついた時からずっといだいている……



(ふざけやがって、どうして俺が好きでもない神に従わなきゃならない?)

そんな不遜ふそんな悪態も、よく吐いた。
それでも祈りが通じるのだから、おかしな事だと思う。
この神の力を降ろす時、ぶつける場所のない怒りのようなものを未だに感じてしまうのも事実だ。

望むと望まざるとに関わらず、この身に与えられた力。こんなものはいらないと幾度思ったかしれない。
それが、どんなに人が羨むほどの力だとしても。自分から欲しいと願ったことは一度もない。



『……妙見様の力は、全てを見通す力』

『蒼真は、神様から贈り物をもらったのよ』

そう言って、暗闇を怖がる俺をあやした母。
千秋の家の力は男に顕現けんげんすることが多いらしく、母は霊能力のない普通の人だった。
それでも息子に霊力があることを喜んでくれたのは、やはり神職の家の出だったからだろう。俺をいつくしんで、育ててくれた。

――でも父は違った。
父はそれこそ普通のサラリーマンで、母と知り合ったのも偶然で。
母の実家が神社だ、という認識しかなかったようで、『見鬼』の力など知識も何もない人だった。

気付けば、俺と2人きりになることを避け、次第に瞳を合わせる事すら少なくなって。俺はいつも、そんな父の態度を見るたびに、この力のせいだと思った。

一番身近な人に恐れられている、と。

そう気付いてしまったのは、俺が子供らしくない子供だったからか――



10歳で両親を亡くし、伯父の家である千秋家に引き取られたのが18年前。
それまでは普通の暮らしをしていた蒼真だが、そこからは北辰妙見神社が自分の家となって、当たり前のように神職になるための修行をする日々を過ごした。

この力と千秋の家から逃げ出した時期もあった。
それでも、この星、この神の支配から逃れられない宿命なのか……今はまた、どういう訳か。こうしてその庇護下ひごかにいる。


――たとえ神の力でも、人の身には過ぎれば『毒』となり得るものだと。


蒼真はそれをよく知っている。
これが『血』なのか、と思った。
逃れられない呪いのようで、その業に辟易へきえきとしながら。
だが、これが母から遺されたものだという想いが、不思議と自分を奮い立たせることもある。

あんなに神職になるのを拒否していたくせに、退魔師の真似事などしている自分に呆れて、半ば諦めの境地だなと、自分をわらいたくもなる。

それでも――

扱いの難しい厄介な危険物を、生まれた時から背負わされているこの身だから、出来ることもあるんだろう……と信じて。
今は、この力を有効利用するだけだと、心に決めている。


……修験道の真言を呪詞のりとに混ぜ、言葉を紡いでいく。

自分を護り、そして縛る――尊くも呪わしい神の力を降ろすために。



「……――北天をべる神」


眼前に手をかざし、両手で印を結ぶ。


(……来い)


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