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第2章 訳ありバーテンダーとパティシエの秘密

◆2 符術

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「へえ、これはまた、思ったより……見た目も雰囲気も、随分可愛らしいね」

想定外の言葉を投げかけられ、蒼真は一瞬固まってしまう。

「第一声がそれか?」

この手のタイプは、男でもそういう括りに入るのか?と、ふと考え込んで、改めて自分の顎に手を当て――眠っている尊を、珍種の動物を観察するような目線で眺めてみる。

(……成程、これは一般的には「可愛いらしい」に分類されるのか……)

自分の価値基準が世間一般とはズレている自覚はある。
が、ここで「可愛いらしい」について悩むところが、すでにズレているということにまでは思い至らない。蒼真はそんな男だった。

「いや、お前がちょっとヤバそうな客が来た、なんて言うからさ。どんな澱んだ気を纏ってるのかと思ったら……やけに真っ白な"気"じゃないか。これで本当に何か憑いてるのかなって思うくらいだよ」
「確かに見た目ではよく分からないんだが――触った途端、痺れた。それに、俺の御神酒おみき入りカクテルを飲んでぶっ倒れるんだから、何かが憑いてるのは確かだろ」

清和は、ふうん、と半信半疑な顔をしながら目を凝らし、その「何か」を探ろうとしているようだ。

「……視えるか?」
「いーや、全然。お前に言われなきゃ普通の人だと思うレベルかな。まあ元々僕は『視る』方の力は、お前や由良より弱いし……同じには判断できないけど」

そうか、と蒼真は頷く。
清和の弟の由良は、とにかく『見鬼』の力が凄い。蒼真が邪霊、悪霊に敏感なのとは違い、神仏系に強く共鳴するタイプだ。

普通なら、取り憑いているモノは人の周りに纏わりついて視える。
そうでない場合は、何か特別な理由がある時だと思われる。宿主と霊に特別な繋がりがあるとか、取り憑く霊がかなり変わったモノだとか。

「……内側に、何がいるのかな」

清和の眼が、鋭さを帯びる。
ふむ、と考え込む仕種をして、エプロンのポケットから長方形の紙を取り出した。
そこには辰砂しんしゃの混ざる暗いあかの文様が躍っている。
辰砂は硫化水銀を含む鉱物で、自然界ではかなり強力な『毒』だ。
古来、神殿や神社仏閣の建物に、この辰砂を含んだ朱色が使われたのは魔除けのためだという。

『毒を持って毒を制する――』

それが、退魔術の基本理念だ。
蒼真のカクテルも、基本としてはそれが当てはまる。

その文様の上に『穢れ』に対抗する効果を持つ『咒文じゅもん』の描かれた札。
それを人差し指と中指で挟み、顔の前に立て――清和は目を閉じ呪詞のりとを唱え始める。

掛巻かけまくいとかしこき、北天に神留かむずまり妙見尊星王みょうけんそんしょうおう……』

ぱん、と小さく柏手を打ち、空気を震わせ――自分の霊力をこの場に広げる。

『……諸々もろもろ禍事罪穢まがごとつみけがれ、祓ひ給へ清め給へと、畏み畏みまおす……』

眠っている尊の胸の上に、ふわりと札を乗せた。

――が、何も変化は起きない。
2人の間に沈黙が落ちる。

「うーん、やっぱり反応無しかー」

清和は悪戯いたずらっぽく笑い……明らかに愉しんでいる様子に見える。
お互い、神社の神職を務める家系に生まれ育った人間。変わった霊障に興味を引かれるのは、持って生まれた業のようなもので仕方ない。
そして、共に霊能力を活かした「退魔師」としての貌も持つ2人だが、『穢れ』を捉える感覚は人それぞれで、視え方も感じ方も、対応の方法も変わってくる。

蒼真の能力は『ほむら』と呼ばれていた。
自身の霊力をほのおに変えて、対象に触れることで穢れを祓うタイプだが、清和の方は――


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