上 下
28 / 36

27 蓮、悶々とする

しおりを挟む
『お客様と一度交わした約束だから』

断れない、とそう言われてしまった。

泉水のオブリビオン来店から2日経った今日。
水曜日の夜に、泉水はセレスタイトの閉店後、藤田右京と二人だけで出掛けることになっていた。

――勿論、営業の一環とそう言われれば嫌とは言えないし、蓮が口出しなどすることではなく。

そう、頭では理解しているが。

(あの人、下心が丸見えだったからなぁー)

少し前にメッセージをやり取りした時にも、蓮は注意を促した。

『自宅まで送らせちゃダメだからね。少し前で降りるようにして』

『今日はやり残したことがあるから、セレスタイトに戻る予定。ちょっと心配しすぎじゃない?』

そう言って呆れられてしまったが……危ないと分かっている相手と一緒に送り出すことのツラさを、泉水は分かっていないと、蓮は思う。
そして、泉水が休みの日以外、2人きりで会うことが叶わないという事情。
泉水の仕事は朝が早いし、蓮の仕事は深夜に及ぶ。
つまり、結局は今まで通りセレスタイトに蓮が顔を出す以外、会える時間がない。

正式に付き合い出したにもかかわらず、前と全く状況が変わっていない……というジレンマが、蓮をさいなんでいるのだった。

悶々としている蓮を見たユキが「情けないです」と言い放つ。

「想いが叶ったんだから、もっとラブラブモードで惚気のろけてくると思って、それを受け流す心の準備までしてたのに……どうしてそんな停滞モードなんですか。オブリビオンの蓮夜の名が泣きますよ」

舌鋒が鋭い。今日のユキは、まるで蓮夜の軍師のような口ぶりだ。

「そう……そうだよな?俺もそうなる気満々だったのに……!一緒にいられる時間が無さすぎて、前よりおかしくなりそうだよ。両想いになったらなったで、心配の種も尽きないし」
「……さては先輩、恋愛するとかなり面倒くさくなるタイプ……?」
「いや!違う。断じて違う。これはただの嫉妬じゃなくて、俺の勘というか――危険を察知するセンサーが機能してるというか」

はいはい、とユキに流される。

「泉水さん、確かに優しくて素敵な人でした。先輩の気持ちも分かりますけど……あまり過保護だと、嫌がられますよ?」

またしても至極真っ当な意見を言われ、蓮はソファーに沈んでいく。
分かってはいても何故か落ち着かない。

「そう言えば……高城さんが泉水さんに絡んだ理由、訊けました?」

ユキはずっと気になっていた。あの時の高城は、泉水が蓮の恋人だと分かっているような口ぶりだった。
一体どうしてそう思ったのだろうかと。

「いやそれが……」

『お前の仕事がヌルい原因が、彼なのかと思った』

「って言われたんだよ!いや、別に泉水さんのことだけが理由じゃないけど――どうしてそう思ったかは、はぐらかされて教えてもらえなかった。ひと目見ただけで俺との仲を見抜いたとしたら、怖すぎるよな?」
「あの人、自分で自分のこと『魔王』って言ってましたよね……」
「……冗談に聞こえない」

背筋に冷たいものが走った。
高城の行動はいつも予測不能だ。触らぬ神に祟りなし――という言葉が2人の頭に同時に浮かぶ。これ以上あの人を追及しても、良いことは無いかもしれない。

だが考えが途切れると、蓮は泉水のことに思いを馳せてしまう。
――今頃、2人で目的の場所に向かっている頃だろうか?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...