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27 蓮、悶々とする
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『お客様と一度交わした約束だから』
断れない、とそう言われてしまった。
泉水のオブリビオン来店から2日経った今日。
水曜日の夜に、泉水はセレスタイトの閉店後、藤田右京と二人だけで出掛けることになっていた。
――勿論、営業の一環とそう言われれば嫌とは言えないし、蓮が口出しなどすることではなく。
そう、頭では理解しているが。
(あの人、下心が丸見えだったからなぁー)
少し前にメッセージをやり取りした時にも、蓮は注意を促した。
『自宅まで送らせちゃダメだからね。少し前で降りるようにして』
『今日はやり残したことがあるから、セレスタイトに戻る予定。ちょっと心配しすぎじゃない?』
そう言って呆れられてしまったが……危ないと分かっている相手と一緒に送り出すことのツラさを、泉水は分かっていないと、蓮は思う。
そして、泉水が休みの日以外、2人きりで会うことが叶わないという事情。
泉水の仕事は朝が早いし、蓮の仕事は深夜に及ぶ。
つまり、結局は今まで通りセレスタイトに蓮が顔を出す以外、会える時間がない。
正式に付き合い出したにもかかわらず、前と全く状況が変わっていない……というジレンマが、蓮を苛んでいるのだった。
悶々としている蓮を見たユキが「情けないです」と言い放つ。
「想いが叶ったんだから、もっとラブラブモードで惚気てくると思って、それを受け流す心の準備までしてたのに……どうしてそんな停滞モードなんですか。オブリビオンの蓮夜の名が泣きますよ」
舌鋒が鋭い。今日のユキは、まるで蓮夜の軍師のような口ぶりだ。
「そう……そうだよな?俺もそうなる気満々だったのに……!一緒にいられる時間が無さすぎて、前よりおかしくなりそうだよ。両想いになったらなったで、心配の種も尽きないし」
「……さては先輩、恋愛するとかなり面倒くさくなるタイプ……?」
「いや!違う。断じて違う。これはただの嫉妬じゃなくて、俺の勘というか――危険を察知するセンサーが機能してるというか」
はいはい、とユキに流される。
「泉水さん、確かに優しくて素敵な人でした。先輩の気持ちも分かりますけど……あまり過保護だと、嫌がられますよ?」
またしても至極真っ当な意見を言われ、蓮はソファーに沈んでいく。
分かってはいても何故か落ち着かない。
「そう言えば……高城さんが泉水さんに絡んだ理由、訊けました?」
ユキはずっと気になっていた。あの時の高城は、泉水が蓮の恋人だと分かっているような口ぶりだった。
一体どうしてそう思ったのだろうかと。
「いやそれが……」
『お前の仕事がヌルい原因が、彼なのかと思った』
「って言われたんだよ!いや、別に泉水さんのことだけが理由じゃないけど――どうしてそう思ったかは、はぐらかされて教えてもらえなかった。ひと目見ただけで俺との仲を見抜いたとしたら、怖すぎるよな?」
「あの人、自分で自分のこと『魔王』って言ってましたよね……」
「……冗談に聞こえない」
背筋に冷たいものが走った。
高城の行動はいつも予測不能だ。触らぬ神に祟りなし――という言葉が2人の頭に同時に浮かぶ。これ以上あの人を追及しても、良いことは無いかもしれない。
だが考えが途切れると、蓮は泉水のことに思いを馳せてしまう。
――今頃、2人で目的の場所に向かっている頃だろうか?
断れない、とそう言われてしまった。
泉水のオブリビオン来店から2日経った今日。
水曜日の夜に、泉水はセレスタイトの閉店後、藤田右京と二人だけで出掛けることになっていた。
――勿論、営業の一環とそう言われれば嫌とは言えないし、蓮が口出しなどすることではなく。
そう、頭では理解しているが。
(あの人、下心が丸見えだったからなぁー)
少し前にメッセージをやり取りした時にも、蓮は注意を促した。
『自宅まで送らせちゃダメだからね。少し前で降りるようにして』
『今日はやり残したことがあるから、セレスタイトに戻る予定。ちょっと心配しすぎじゃない?』
そう言って呆れられてしまったが……危ないと分かっている相手と一緒に送り出すことのツラさを、泉水は分かっていないと、蓮は思う。
そして、泉水が休みの日以外、2人きりで会うことが叶わないという事情。
泉水の仕事は朝が早いし、蓮の仕事は深夜に及ぶ。
つまり、結局は今まで通りセレスタイトに蓮が顔を出す以外、会える時間がない。
正式に付き合い出したにもかかわらず、前と全く状況が変わっていない……というジレンマが、蓮を苛んでいるのだった。
悶々としている蓮を見たユキが「情けないです」と言い放つ。
「想いが叶ったんだから、もっとラブラブモードで惚気てくると思って、それを受け流す心の準備までしてたのに……どうしてそんな停滞モードなんですか。オブリビオンの蓮夜の名が泣きますよ」
舌鋒が鋭い。今日のユキは、まるで蓮夜の軍師のような口ぶりだ。
「そう……そうだよな?俺もそうなる気満々だったのに……!一緒にいられる時間が無さすぎて、前よりおかしくなりそうだよ。両想いになったらなったで、心配の種も尽きないし」
「……さては先輩、恋愛するとかなり面倒くさくなるタイプ……?」
「いや!違う。断じて違う。これはただの嫉妬じゃなくて、俺の勘というか――危険を察知するセンサーが機能してるというか」
はいはい、とユキに流される。
「泉水さん、確かに優しくて素敵な人でした。先輩の気持ちも分かりますけど……あまり過保護だと、嫌がられますよ?」
またしても至極真っ当な意見を言われ、蓮はソファーに沈んでいく。
分かってはいても何故か落ち着かない。
「そう言えば……高城さんが泉水さんに絡んだ理由、訊けました?」
ユキはずっと気になっていた。あの時の高城は、泉水が蓮の恋人だと分かっているような口ぶりだった。
一体どうしてそう思ったのだろうかと。
「いやそれが……」
『お前の仕事がヌルい原因が、彼なのかと思った』
「って言われたんだよ!いや、別に泉水さんのことだけが理由じゃないけど――どうしてそう思ったかは、はぐらかされて教えてもらえなかった。ひと目見ただけで俺との仲を見抜いたとしたら、怖すぎるよな?」
「あの人、自分で自分のこと『魔王』って言ってましたよね……」
「……冗談に聞こえない」
背筋に冷たいものが走った。
高城の行動はいつも予測不能だ。触らぬ神に祟りなし――という言葉が2人の頭に同時に浮かぶ。これ以上あの人を追及しても、良いことは無いかもしれない。
だが考えが途切れると、蓮は泉水のことに思いを馳せてしまう。
――今頃、2人で目的の場所に向かっている頃だろうか?
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