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10 2nd ミッション:デート(仮)に行こう(泉水Side)
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遅れないように、と10分前に待ち合わせ場所の改札に向かった。
桜木町の駅前に着くと、人混みの中でもすぐに分かる背の高い人物を発見する。
蓮だ。
(やっぱり目立つよね)
身長は多分180以上で、それだけでも人目を引くが。
服の上からでも分かる鍛えられた身体とスラリと長い脚。
甘い中性的な顔立ちに広い肩幅の男らしい体型が、アンバランスな魅力を湛えていて。
今日はいつものお散歩コーデとも、お仕事コーデとも違って、ラフさを感じさせつつ上品にまとめている姿が新鮮だった。
髪色が明るい蓮は黒やグレーを好んで着るが、今日のようなグリーンもよく似合っていた。まるでファッション雑誌からそのまま抜け出してきたモデルのようで……泉水は少し距離を取ったまま、ぼんやり眺めてしまう。
(こうして改めて見ると、圧倒的に綺麗だ……)
『Celestite』での蓮はのんびりしていて、ごく普通の青年だなと思うことも多い。
だが沢山の人間がいる中に紛れ込むと、改めて分かる。一瞬で視線を集める人間は、造形の美しさに加えて特別な雰囲気を持っているんだなと。
つい見詰めたくなるその煌びやかな違和感は、彼の内側から滲むものなんだろうか。
よくよく見ると、彼を中心として遠まきに佇む女子の輪がうっすらとできているのに気が付いた。
(え……太陽と惑星? この短時間で太陽系が誕生しちゃった?? 引力凄すぎない?)
いつもこうだとしたら毎日大変だなぁ…と思わず笑ってしまったが、当の蓮は全く気にする様子がなく手元のスマホに何やら夢中だった。
少し驚かせてみようと悪戯心が働き、凭れている柱の後ろ側からそっと声を掛けてみる。
「蓮くん」
「わあっ!」
予想以上に大きなリアクションで、目を丸くしてこちらを見詰めてくる。
心なしか顔も赤い。
そんなにビックリさせたかな?
「随分早いんだね。ごめん、待たせちゃったか」
「………」
どこか気の抜けた表情のまま返事がない。
「蓮くん?どうかした?」
蓮とは10㎝ほど身長差がある。その差を埋めようとして、仰向けた顔をぐっと近付けた。お互いだけを見詰め合う時間が、ほんの一瞬だけ生まれる。
(あ、この匂い――)
泉水は香水の類には詳しくない。普段、仕事の邪魔になるので自分は何もつけないからだ。
ただ、蓮がいつも愛用しているこの香りは記憶に残っている。
爽やかで、少し甘い。マリンノートと、上品なシトラス系の香りがいくつか混ざっているけれど、一番強いのはオレンジ……いやマンダリンだろうか?
職業柄、鼻は利くほうなので、つい匂いの分析をしてしまうのは泉水の癖だ。
こうして近付くと、香りの全容をもっと知りたくなって。
思わず首筋に吸い寄せられそうになる――が。
途端、弾かれたように蓮が顔を逸らしてしまう。
「いや大丈夫、何でもない…!じゃあ、早速行こうか」
急に大きな声を出して、改札に向かってスタスタと歩き出してしまう。
(不躾に近付きすぎたかな)
何をどう感じての反応なのか、よく分からなかった。
普段の蓮は感情が顔に出やすいタイプで、そこに安心するのだが。
(よく分からないけど外で会うのが初めてだから照れくさい…とか?
もしかして緊張してるんだとしたら――ちょっと可愛いな)
普段見られない姿を目にしているのかもしれないと思うと、何だかムズムズして本当のところを確認してみたい衝動に駆られる。
泉水は蓮の背中を追いかけた。
「さっき、「わぁっ」て言ったよね?そんなにビックリした?」
「言ってない、言ってない」
「いや、言ってたよ、思いきり。蓮くんて、もしかしてお化け屋敷とかダメな人?」
「そんな事ない、全然いけるって。泉水さんが背後から急に来たからでしょ。気配消しすぎ」
「そうかなぁ」
力の抜けた会話を交わしながら、桜木町の自動改札を抜けた。
前を見たまま視線を合わせずに隣を歩いているが、蓮は歩くスピードを落として歩幅を泉水と同じにしてくれた。
ラフな性格に見えて、そういう所がやっぱり彼らしいなと思う。
ちらりと顔色を窺うと、耳がほんのり赤らんでいるのが見えて――
泉水の口元に微笑が浮かぶ。
2人だけの時間を自然に楽しんでいる自分に、ふと気付いた。
(……あれこれ悩む必要なんて、何も無かったか)
蓮と、友人に――なれるだろうか。
向こうもそう望んでくれていたらいいなと思った。
桜木町の駅前に着くと、人混みの中でもすぐに分かる背の高い人物を発見する。
蓮だ。
(やっぱり目立つよね)
身長は多分180以上で、それだけでも人目を引くが。
服の上からでも分かる鍛えられた身体とスラリと長い脚。
甘い中性的な顔立ちに広い肩幅の男らしい体型が、アンバランスな魅力を湛えていて。
今日はいつものお散歩コーデとも、お仕事コーデとも違って、ラフさを感じさせつつ上品にまとめている姿が新鮮だった。
髪色が明るい蓮は黒やグレーを好んで着るが、今日のようなグリーンもよく似合っていた。まるでファッション雑誌からそのまま抜け出してきたモデルのようで……泉水は少し距離を取ったまま、ぼんやり眺めてしまう。
(こうして改めて見ると、圧倒的に綺麗だ……)
『Celestite』での蓮はのんびりしていて、ごく普通の青年だなと思うことも多い。
だが沢山の人間がいる中に紛れ込むと、改めて分かる。一瞬で視線を集める人間は、造形の美しさに加えて特別な雰囲気を持っているんだなと。
つい見詰めたくなるその煌びやかな違和感は、彼の内側から滲むものなんだろうか。
よくよく見ると、彼を中心として遠まきに佇む女子の輪がうっすらとできているのに気が付いた。
(え……太陽と惑星? この短時間で太陽系が誕生しちゃった?? 引力凄すぎない?)
いつもこうだとしたら毎日大変だなぁ…と思わず笑ってしまったが、当の蓮は全く気にする様子がなく手元のスマホに何やら夢中だった。
少し驚かせてみようと悪戯心が働き、凭れている柱の後ろ側からそっと声を掛けてみる。
「蓮くん」
「わあっ!」
予想以上に大きなリアクションで、目を丸くしてこちらを見詰めてくる。
心なしか顔も赤い。
そんなにビックリさせたかな?
「随分早いんだね。ごめん、待たせちゃったか」
「………」
どこか気の抜けた表情のまま返事がない。
「蓮くん?どうかした?」
蓮とは10㎝ほど身長差がある。その差を埋めようとして、仰向けた顔をぐっと近付けた。お互いだけを見詰め合う時間が、ほんの一瞬だけ生まれる。
(あ、この匂い――)
泉水は香水の類には詳しくない。普段、仕事の邪魔になるので自分は何もつけないからだ。
ただ、蓮がいつも愛用しているこの香りは記憶に残っている。
爽やかで、少し甘い。マリンノートと、上品なシトラス系の香りがいくつか混ざっているけれど、一番強いのはオレンジ……いやマンダリンだろうか?
職業柄、鼻は利くほうなので、つい匂いの分析をしてしまうのは泉水の癖だ。
こうして近付くと、香りの全容をもっと知りたくなって。
思わず首筋に吸い寄せられそうになる――が。
途端、弾かれたように蓮が顔を逸らしてしまう。
「いや大丈夫、何でもない…!じゃあ、早速行こうか」
急に大きな声を出して、改札に向かってスタスタと歩き出してしまう。
(不躾に近付きすぎたかな)
何をどう感じての反応なのか、よく分からなかった。
普段の蓮は感情が顔に出やすいタイプで、そこに安心するのだが。
(よく分からないけど外で会うのが初めてだから照れくさい…とか?
もしかして緊張してるんだとしたら――ちょっと可愛いな)
普段見られない姿を目にしているのかもしれないと思うと、何だかムズムズして本当のところを確認してみたい衝動に駆られる。
泉水は蓮の背中を追いかけた。
「さっき、「わぁっ」て言ったよね?そんなにビックリした?」
「言ってない、言ってない」
「いや、言ってたよ、思いきり。蓮くんて、もしかしてお化け屋敷とかダメな人?」
「そんな事ない、全然いけるって。泉水さんが背後から急に来たからでしょ。気配消しすぎ」
「そうかなぁ」
力の抜けた会話を交わしながら、桜木町の自動改札を抜けた。
前を見たまま視線を合わせずに隣を歩いているが、蓮は歩くスピードを落として歩幅を泉水と同じにしてくれた。
ラフな性格に見えて、そういう所がやっぱり彼らしいなと思う。
ちらりと顔色を窺うと、耳がほんのり赤らんでいるのが見えて――
泉水の口元に微笑が浮かぶ。
2人だけの時間を自然に楽しんでいる自分に、ふと気付いた。
(……あれこれ悩む必要なんて、何も無かったか)
蓮と、友人に――なれるだろうか。
向こうもそう望んでくれていたらいいなと思った。
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