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6 1st ミッション:デートに誘う①

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仕事が終わり、帰宅したのは午前3時。
蓮の勤める店は関内近辺にある。
そこから近い場所に部屋を借りているので、この時間に家に戻っていることもたまにあった。
もちろんミーティングや客とのアフターなどがない日に限るが、夜シフトのホストとしては早い帰宅だろう。

高級マンションでも何でもなく、ごく普通の2DKのアパート。
自分のモチベーションを上げるために、あえて高い部屋を借りるホストもいるが、蓮は貯金を目的にこの仕事をしているので家賃は安い方がいいと思っていた。
ある程度のセキュリティさえ守られていて、人並みに暮せればいい。母親と2人きりで生きるのに必死だった子供時代に比べれば、快適すぎて天国のようだ。

風呂から上がり髪を乾かしながら、女の子からのLINEに返信して行く。
沢山のメッセージが流れてくる。
今日は楽しかったとか、次は何日に行くとか、まだ起きてる?とか――
女の子って些細な感情を共有したがるのが可愛いなと思う。
ふと、今日橘と交換したLINE宛てに、思い立ってメッセージを送ってみた。

――『泉水さんて、休みの日はどう過ごしてる?』

全く返事を期待せずにいたら、すぐにスマホが低く唸ってメッセージの着信を伝える。

――『店で商品のこと考えてるか、勉強のために外に食べ歩きに行くとかが多い』

ふっと笑みが溢れる。
らしいよなぁ、と思った。
ホント仕事が好きなんだ。
それにしても、橘はこんな時間にも普通に起きているのか。即レスだったのも意外だった。物書きという人種は想像通り夜型で、言葉のやり取りには特に敏感なのかもしれない。一般人とは違うサイクルで動いている自分と同じような匂いもした。そういう意味でも付き合いやすい相手かな、と思う。

とにかく、橘のおかげで自分の気持ちと今後やることが明確になった訳だが。

――「泉水さんをデートに誘う」

これが最初の課題だ。
ファーストミッション。
さて、どうしようか?

こちらの恋愛モードを悟られると警戒されて断わられる可能性もある、とのことだし。
ここが最初の難関だ。
いかにさりげなく、かつ不自然ではない誘い方が出来るか?
疑似恋愛を仕事にしている身としては、腕の見せ所といえる。

(……食事の美味しいところ?いや、珈琲の美味しいところに誘う方が興味持ってくれるかな。でもこの辺の有名店なら、すでに行ってる可能性あるよなぁ)

あらためて考えてみると……「誰かを誘う」ことにそんなに苦労した記憶がないと気付く。
男友達に言えば殴られそうな話だが、これまでの恋愛では女の子から口説かれることが殆どで。
自分からこんなに積極的になったのは、ほぼ初めてかもしれない、と思い至る。
ちなみに男の時は――ワンナイトやセフレっぽいことばかりで、ちゃんと付き合った相手はいない。

(俺のこれまでの恋愛経験って……身体の欲求ありきで始まってるのがほとんどだし、やっぱり偏ってるよな)

恋愛経験豊富なようでも、じっくり付き合えた人があまりいないのだ。
別れ方もあっさりしていて、今でも友達として付き合えている相手は何人かいる。
好きになったタイプは、話が合う、ノリが似ている人間ばかり。つまりは一緒にいてラクな相手だ。それはそれで楽しかったし、良い思い出もたくさんあるが。

だが、いざ自分より年上の真面目な泉水を口説こうと思ったら……自分の手持ちのカードはほとんど通用しない気がした。身体的な欲求に訴えることがNGだと言われた訳だし、自分の取り柄の8割くらいは封じられているのではないだろうか。

(泉水さんが俺を好きになる要素って、本当にあるのか……?)

……冷静に考えだしたら段々ネガティブになってきた。
おかしい。顔以外では、負けん気の強さとポジティブだけが取り柄だと思っていたのに。

それにどうして今、「泉水さん」なのかと自分でも不思議な気がした。
これまでお互いが生きてきた世界や、交友関係に、ほとんど接点がなさそうな人。
ドロドロした人間関係とか裏切りとか貧しさとか、縁がなさそうなキレイな人……。

恋愛のあれこれを思い返しつつ、かつてない程真剣に悩んでいたら、もう一件橘からメッセージが届いた。

――『あいつを誘うなら、いい情報ネタあるぞ』と。

蓮は思わずスマホに飛びついた。
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