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蓮夜の告白
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『6月28日 蓮夜先輩から、ショックな話を切り出される。』
ーー紫陽花。
スイートピー、トルコキキョウ、デルフィニウム。
南国の花、バンダは、この中で一番存在感が強い。店でいうなら№1……高城のようなものだろうか。
ブルーや紫でまとめられた花のアレンジは涼しげで、ユキの好みだった。
自分だったら紫のカラーも入れたいなと、ふと思う。重くなりそうなら、グリーンを増やしてバランスを軽くして……と、ついそんな事まで考えてしまった。
ホストクラブ『オブリビオン』の奥に置かれた大きな花瓶は、アール・ヌーヴォー様式のガラス製。
これも他のインテリア同様オーナーのこだわりで、その時代を代表する作家ドーム兄弟の本物だと聞いている。
そこには毎日美しい花が活けられていた。ホストクラブの華やかさを演出するのに生花は欠かせないし、女性客の心を和ませる効果もあるからだ。造花を飾る店もあるが、この店には出入りの花屋が2日に一度は手入れに来ている。
ユキは昔から花が好きだ。
店内で一番目立つ場所に飾られるこのアレンジをゆっくり眺めるのが、仕事前のルーティーンになっていた。
「ユキ、ちょっといいか?」
そんなタイミングで先輩ホストの蓮夜が現れ、突然、声を潜めてこう告げられたのだ。
「ーー実は、もうすぐ店を辞めようと思ってて」
一瞬、ユキの頭は真っ白になった。
元々大きな瞳をさらに大きく見開いてーー目の前の蓮を食い入るように見詰めた。
「……いつ、ですか」
「予定としてはあと1ヶ月後くらい。元々、貯めたい目標金額をクリアしたらと思ってはいたんだよな」
ユキは、「ああそうか」と思った。
そう、覚悟だけは随分前からしていたのだ。
連夜は最初から月の目標金額を無理のない設定にしていて、働き方に計画性があった。それに、泉水という大事な人ができたこともあったし、何となくその気配はユキにも伝わっていて。
いつその時がきてもおかしくないと予想はしていたが……やはり落胆している自分に気付く。
けれど、それは絶対に見せないようにしなければならない。いつものポーカーフェイスを崩さないようにユキは細心の注意を払った。
「何か……やりたい事があるんですよね」
お前にはバレてたかと蓮が笑う。
「実は俺、昔からパン屋さんをやりたかったんだよね。まぁすぐには難しいと思うけど、少しずつ修行はしてて。移動販売とかマルシェとか、そういう所から始めようかなと」
……「パン屋さん」。ユキは心の中で反芻した。
蓮夜先輩の口から出るそのワード、可愛いすぎませんか?
「もしもキッチンカーとかで販売出来るとしたら、泉水さんとこのコーヒーを一緒に売ってもらうのも悪くないなって思ってて」
えっ、もしかして2人で一緒に売ることを思い描いてたり……?
もう何なんですか、乙女の夢ですか?
可愛い以外の言葉が見当たらないんですけど、どう返事をしたら??
「……成程」
こんな言葉しか出て来ない僕の語彙力。
……申し訳ないです。
泉水さんと蓮夜先輩が2人並んで販売なんてしていたら、もう何を売っていようが関係なく僕は絶対爆買いしますけどね?
素敵な夢です。絶対実現して欲しいです……。
ーー紫陽花。
スイートピー、トルコキキョウ、デルフィニウム。
南国の花、バンダは、この中で一番存在感が強い。店でいうなら№1……高城のようなものだろうか。
ブルーや紫でまとめられた花のアレンジは涼しげで、ユキの好みだった。
自分だったら紫のカラーも入れたいなと、ふと思う。重くなりそうなら、グリーンを増やしてバランスを軽くして……と、ついそんな事まで考えてしまった。
ホストクラブ『オブリビオン』の奥に置かれた大きな花瓶は、アール・ヌーヴォー様式のガラス製。
これも他のインテリア同様オーナーのこだわりで、その時代を代表する作家ドーム兄弟の本物だと聞いている。
そこには毎日美しい花が活けられていた。ホストクラブの華やかさを演出するのに生花は欠かせないし、女性客の心を和ませる効果もあるからだ。造花を飾る店もあるが、この店には出入りの花屋が2日に一度は手入れに来ている。
ユキは昔から花が好きだ。
店内で一番目立つ場所に飾られるこのアレンジをゆっくり眺めるのが、仕事前のルーティーンになっていた。
「ユキ、ちょっといいか?」
そんなタイミングで先輩ホストの蓮夜が現れ、突然、声を潜めてこう告げられたのだ。
「ーー実は、もうすぐ店を辞めようと思ってて」
一瞬、ユキの頭は真っ白になった。
元々大きな瞳をさらに大きく見開いてーー目の前の蓮を食い入るように見詰めた。
「……いつ、ですか」
「予定としてはあと1ヶ月後くらい。元々、貯めたい目標金額をクリアしたらと思ってはいたんだよな」
ユキは、「ああそうか」と思った。
そう、覚悟だけは随分前からしていたのだ。
連夜は最初から月の目標金額を無理のない設定にしていて、働き方に計画性があった。それに、泉水という大事な人ができたこともあったし、何となくその気配はユキにも伝わっていて。
いつその時がきてもおかしくないと予想はしていたが……やはり落胆している自分に気付く。
けれど、それは絶対に見せないようにしなければならない。いつものポーカーフェイスを崩さないようにユキは細心の注意を払った。
「何か……やりたい事があるんですよね」
お前にはバレてたかと蓮が笑う。
「実は俺、昔からパン屋さんをやりたかったんだよね。まぁすぐには難しいと思うけど、少しずつ修行はしてて。移動販売とかマルシェとか、そういう所から始めようかなと」
……「パン屋さん」。ユキは心の中で反芻した。
蓮夜先輩の口から出るそのワード、可愛いすぎませんか?
「もしもキッチンカーとかで販売出来るとしたら、泉水さんとこのコーヒーを一緒に売ってもらうのも悪くないなって思ってて」
えっ、もしかして2人で一緒に売ることを思い描いてたり……?
もう何なんですか、乙女の夢ですか?
可愛い以外の言葉が見当たらないんですけど、どう返事をしたら??
「……成程」
こんな言葉しか出て来ない僕の語彙力。
……申し訳ないです。
泉水さんと蓮夜先輩が2人並んで販売なんてしていたら、もう何を売っていようが関係なく僕は絶対爆買いしますけどね?
素敵な夢です。絶対実現して欲しいです……。
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