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50話 己の道は己で決めろ
しおりを挟む「よし、もう一度水晶を見てみましょうか……」
彩見の水晶に被せていた布を取り、鏡面の妖精と対峙する。
「見せられないよー」
「こ、こんにちは妖精さん。わたしはベルベル。あなたのお名前は?」
「名前はまだなーい」
夏目漱石みたいなこと言ってるわね。いや夏目漱石が言ってたわけじゃないんだけど。
「じゃあウォーリーちゃんって呼ぶわね」
「いいよー」
「ウォーリーちゃんは、どうして占いの結果を見せてくれないの?」
「うらない、好きかー?」
「わたし? そうねえ、星座占いとかは結構見てたかなー」
「女ってそうだよなー」
急に嫌いな上司ランキング常連の男性みたいなことを言い出した。いや知らないけど。
占い、嫌いなのかな。
「い、いいじゃない。女の子は占いとか風水とか好きな子が多いのよ」
「おのれの道はおのれで決めろー?」
「厳しいこと言うじゃない」
なるほど、どうやら鏡面の妖精さんは、占いとかで他人に人生の道程を定めてもらうことを良しとしない性格なのね。
「ベルベルちゃん、さっきからその水晶に向かって話しかけてるけど、妖精の言葉が分かってるの?」
「あ、はい。これがわたしのスキル『フェアリーテレパス』の効果でして」
「へえ~。妖精さん、なんて言ってる?」
「占いなんかで自分の人生を他人任せにするなって言ってますね」
「なんというか、漢って感じね」
わたし、この子を今から説得しないといけないのかしら。
ちょっと厳しいわね……主にわたしの人生経験とか。
「女って、服とかも選ばしてくるよなー」
「ああ、『これとこれ、どっちが良いかな~』みたいなやつ?」
「自分の服くらい自分で選べよなー」
この妖精さんは考え方や喋り方からして、結構人生経験積んでるタイプなのかしら。
座敷わらしちゃんみたいに『ころころー』とか言わないから話が分かりやすいのは分かりやすいんだけど、なんだか思考が凝り固まってるというか。
「……いやでも、服を選ばせてくるのはちょっと違うんじゃない?」
「なにがー?」
あれはなんというか、自分ではどっちにするか決まってるんだけど、聞いた相手に後押しして欲しいというか、自分が選んだのと同じ方を選んで欲しい乙女心的な……
「サントリナさん、その……恋愛とか、そういうのって詳しかったりします……?」
「え? そうねえ、まあそこそこ経験豊富よ」
「じゃあ恋人に『どっちの服が良い?』とか『ごはんどこ行く?』とか聞くときって、正解、不正解あると思います?」
「そりゃあもちろんあるわよお。大衆酒場とか選んだらそこで終わりね」
終わりなんだ。それはそれで判定がシビアすぎる気がするけど。
「でも、アサツキさんとかなら大衆酒場でも喜んで行くんじゃ……」
「あの子はどっちかっていうと女の子に聞かれる側でしょ」
「えっそれは……そうなんですか?」
うーん、アサツキさんに彼氏……確かにあまり想像できないかも。
だ、だからって彼女さんがいるっていうのも想像できないけどね? ええ、それはもう本当に。
「女は共感を求める生き物なのよ。自分と違う選択をされるとちょっと不安になっちゃうの」
「な、なるほど」
あれかしら、昔は男が狩り、女は集団で家を守るから輪を乱さないことが大切ってやつ。
「まあそれは置いといて……こほん、というわけでウォーリーちゃん。女の子が占いとか人に助言を求めるときって、意外ともう自分の中で答えが出てたりするのよ」
「ええー」
どうやら妖精さんはあまり納得してないみたい。
それならちょっと、実際に体験してもらうのが良いかしら。
「ねえウォーリーちゃん」
「んー?」
「これからちょっと、わたしとお出かけしましょうか」
「おでかけー?」
「ウォーリーちゃんの共感力を確かめてあげる。デートよデート」
「めんどくせー」
おい。
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