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36話 王都から魔女の街へ
しおりを挟む「マスターさん、お世話になりました」
「こちらこそ。妖精の問題まで解決してもらって本当に助かったよ。また王都に寄ることがあったらウチの宿屋を使ってくれ」
「はい、是非ともまた利用させてください」
「ベルベル、ばいばーい」
「うふふ。またね、座敷わらしちゃん」
アサツキさんと魔女の街『ビャクヤ』に行くことになったわたしは、旅の準備をしながら、追加で簡単なクエストを受けて旅の資金を少し増やしつつ、遂に王都ヘイリオスを出る日となった。
「マスター、景気づけにお酒を奢っておくれよ」
「これから旅に出るやつが酒なんて飲むんじゃない。また飲酒運転で街道警備隊に捕まるぞ」
「ア、アサツキさん、飲酒運転で捕まったことあるんですか……?」
「まあちょっとね。正面から来たお貴族様の馬車とぶつかりそうになっちゃってさ」
「なにやってんですか」
これから一緒に旅をするのに、行き先が警備隊の牢屋なんてことになったらたまらない。
アサツキさんには常識の範囲内でお酒をたしなんでもらうように目を光らせておかないと。
「……ちょっと待って、運転ってなに?」
アサツキさん、何を運転してたのかしら。
__ __
「さて、とりあえずヘイリオスを出たわけだけど……本当に呼んだら出てくるんだよね?」
「ええ、そのはずです。多分、おそらく……」
これから向かう『ビャクヤ』はサンベルク王国の西端にある小さな街で、普通だと乗り合いの馬車で5日ほどかかるという。
で、今回はどうやって行くかというと……
「デュラちゃーん、かもーん!」
「ずいぶんフランクに呼ぶじゃないか」
「……参上」
「うわっ本当に出た! え、いつの間に?」
「へへーん、どうです? これがわたしのスキル、『フェアリーテレパス』です」
「スキル関係あった?」
わたしが名前を呼ぶと、どこからともなく白馬……上半身が首なし鎧騎士の白馬こと、妖精デュラハンのデュラちゃんが現れる。
というわけで、今回はこの子に乗って魔女の街まで行こうと思います。
「よいしょっと……うわあ、やっぱりデュラちゃんは視界が高い!」
しゃがんでくれたデュラちゃんに跨り、無事に乗ることができた。
デュラちゃんが立ち上がると、かなり視界が高くなる。
アサツキさんに付き合ってもらって、普通の馬で乗馬の練習はしていたのだけれど、それよりもデュラちゃんの方が背が高いので、かなり新鮮な気分だ。
「乗り心地も意外と良いわね。デュラちゃん、これからよろしくね」
「……御意」
「さてと、ベルベルちゃんの準備も出来たし、早速出発しようか」
「そういえば、アサツキさんはどうやって行くんですか? まさか徒歩?」
「そんなわけないじゃないか。ボクはこれだよ」
そう言うと、アサツキさんは手に持っていた少し大きめの旅行鞄にお尻を乗せる。
すると、なんと旅行鞄がふわっと浮き上がり、まるで魔女のホウキのように、アサツキさんを乗せて飛び始めた。
「えっ? ま、まさかその鞄……」
「これは空飛ぶ旅行鞄の魔道具なのさ。荷物も結構入れられて、移動手段にもなる。便利だろう?」
風魔法が使えないとただの鞄とほとんど変わらないけどね、とアサツキさんは笑って話す。
す、すごい。この世界にきて1番ファンタジーを感じたかも。
というか飲酒運転って、この鞄のことだったのね。
「それじゃあ魔女の街『ビャクヤ』まで」
「れっつご~!」
……。
…………。
「おい見ろよ、あれって……」
「白い馬、いやケンタウロスか? なんだありゃあ……」
「間違いない、最近噂になってる“白馬の戦乙女”だ。おいアンタ転写魔道具持ってねえか? 転写紙を貴族様に見せりゃあ情報料が貰えるぞ」
「待ってろ、今撮ってやる……よし、撮れたぞ。後ろ姿だがまあいいだろ」
「西の街道を出てったって事は、レイキュリー中立国にでも向かったか? 早くしないといなくなっちまうな」
「よっしゃ、急いで貴族様に報告だ」
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