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19話 座敷妖精
しおりを挟む「ここの部屋じゃよ」
「2-4……って、わたしのふたつ隣じゃないですか」
宿屋『金の糸車』に棲みついているという座敷妖精。今は使われていない部屋に閉じ込めているというので、妖精さんに会うために案内してもらったらまさかのご近所さんだった。
「昔はそこまで気にせんかったんじゃが、『4という数字は死を連想させるので縁起が悪い』だとかなんとかでこの部屋を嫌う旅人が増えてきてな。めんどくさいんで今は使っていないんじゃ」
「まあ、ゲン担ぎは大切ですよ」
手術前は神頼みとかもやってたけど、結局失敗しちゃったのよね……でも女神様に拾われたからやっぱり神頼みは良い事だわ。
「鍵は開けてあるから、自由に入ってよいぞ」
「妖精さんが勝手に出たりはしないんですか?」
「出るなら壁をすり抜けて出てくるからのう。座敷妖精がここから出られない理由は、この“香り”じゃ」
「あ、もしかしてこのなんか良い香りのする……」
最初に泊まる部屋に案内された時に、廊下がなんか良い香りだな~って思ったのよね。
お香かなんかを焚いてるのかと思ったのだけれど、これがもしかして妖精除けの香りなのかしら。なんか蚊取り線香みたい。
「この香りは“マジックアロマ”という魔道具でな……ほれ、そこの角にあるロウソクがそうじゃ」
「あ、ほんとだ。このロウソクの匂いだ」
「香りづけの薬草や花のエキス、果実の精油なんかをロウと混ぜ、更に魔石から抽出した魔力を込めて作るんじゃ。魔力の込められてない普通の香水なんかは効果ないんじゃが、このマジックアロマは魔力が含まれることで妖精が苦手な香りとなるんじゃよ」
どうしても妖精を家に住まわせたくない人はこのマジックアロマを使うらしい。
食器の妖精がいた『ビストロ・コロポックル』は使ってなかったけど、飲食店だとこういう香りのするものは置けないわね。
「あれ、でもマスターさん、夜になったら1階で酒場をやってるんですよね。こういう香りがいっちゃうと飲食店的には良くないんじゃ……」
「風魔法で2階の中だけで循環するようにしておるから大丈夫じゃ」
さ、さすが最前線で活躍した元魔法使い。とても器用な魔法の使い方。
「というわけで、あのマジックアロマを消さない限りはヤツはこの部屋から出てこんでの。好きに入ると良い。まあ、もしヤツがイタズラをしないようになったら、マジックアロマは消そうかの」
「本当ですか? わたし、俄然やる気が出てきました! それじゃあちょっとがんばってみます! 妖精さんのために!」
「気を付けるんじゃぞ」
こうしてわたしは、2-4に閉じ込められているという、座敷妖精さんとやらに会いに行くのであった。
__ __
コンコン、ガチャッ。
「し、失礼しま~す……」
恐る恐る部屋に入る。いきなり妖精さんがおどかしてきたらちょっとびっくりしちゃうから。
内装はわたしの借りてる部屋とおんなじだ。なんというか、窓に封印のお札が貼ってたりもしてないし、床に魔法陣があるわけでもない。
「だれ?」
「あ……」
部屋の角にあるベッドの上に、1人の女の子が座っていた。
女の子というか、少し大きなお人形さんみたいな感じ。黒髪の可愛らしいボブカットに、紅色の着物のようなものを見に付けていて、まるでお雛様みたい。
座敷わらしちゃんって呼ぼうかしら。
「この世界にも和服っぽいのがあるのね。いいなあわたしも着てみたい……」
「だれ? だれだれだれ?」
「えっと、わたしはベルベル。あなたが座敷妖精さん?」
「あそぼ! あそぼあそぼあそぼ!」
妖精さんがベッドからぴょんっと飛び降りてこちらに近寄ってくる。か、かわいい……
「いいよー。なにして遊ぶ? あ、座敷わらしちゃんって呼んでいい?」
なんだ、全然かわいい妖精さんじゃないの。
今まで会った妖精さんよりも言葉が分かりやすいし、本当に小さな子供と接してるみたい。
「いいよ! えっとねーえっとねー」
「うんうん、それじゃあ座敷わらしちゃん、なにして遊」
「おまえをころす」
「うんうん、おまえを……うん?」
「おまえをころころす」
……んん?
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