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1話 女神と死にかけ病弱少女

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「ん……ここはどこかしら……?」


 真っ白でフワフワしていてなんだかあたたかい。まるで雲の上の国みたい。
さっきまでゴツゴツした手術台の上に寝ていたはずなのに……


「ああ、そうか。わたしの手術は失敗してしまったのね……ということは、ここは天国なのかしら?」


 まあ天国に行けるほどの善い行いもしてないし、地獄行きになるほど悪いこともしてないのだけれど。
それなら、天国と地獄の間にあるといわれる楽園か煉獄あたりかしら。


「どちらかというと楽園っぽい気がするわ。だってフワフワで真っ白なんだもの」


「ここは死後の世界ではなく異空間ですよ」


「わっ! びっくりした!」


 急に声がした方を振り向くと、そこには背の高い綺麗な女の人がこちらを笑顔で見つめていた。


「あなたは、もしかして天使様?」


 女の人の背中には大きな白い翼が生えている。これからわたしを天国に連れてってくれるのかしら。


「私は女神。女神ミミエリです。ちなみにここは正確に言うと世界の狭間……女神の間とでも言いましょうか。つまり私の住処です」


「天国に行ってパトラッシュともっふもふ……えっ天使じゃない? 女神様? ここは女神様のおうち?」


「そうです。そしてあなたの名前は夜道鈴。合っていますか?」


「ええ、合っていますが……」


 わたしの名前は夜道鈴。鈴と書いて『ベル』と読む。
ちょっとキラキラした名前かもしれないけど、可愛いので気に入っている。


「ベル、私はあなたをスカウトに来ました。異世界で暮らしてみる気はありませんか?」


「い、異世界ですか……!?」


 __ __


「なるほど、魔王討伐の勇者候補としてわたしを異世界に召喚したいと」


「まあそんな感じです」


 この謎の空間に突然現れた女神、ミミエリ。
彼女はわたしが住む世界とは別の世界、異世界『ネオテイル』という所を管理する神様らしい。


「ネオテイルのとある王国で『勇者召喚の儀式』が行なわれました。この儀式の執行に伴い、私は勇者候補となる方を別の世界から連れてこないといけないのです」


「でも、そんな大切な儀式でわたしを選んでしまって良いんですか?」


 生まれつきの難病で身体も弱く、子供のころから入退院を繰り返してきた。
通信制の学校に通いながら、ようやく手術を受けられる準備が整って、いざ人生の大勝負!
……で、こんなところにいるってことは、多分ダメだったのだろう。難しい手術だと説明されたのを覚えている。


「身体も弱くて運も無い、こんなわたしが異世界で勇者としてやっていけるとは到底思えません」


「それは心配ありませんよ。もし承諾してもらえれば、病を治療し、元気いっぱい健康第一! な身体にしてあげましょう。運にしても、もうジョーカーを引き当ててしまったのですから。あとは上がるだけです」


「そういうものですか」


 健康な身体になれるのはとても魅力的だわ。でも異世界かあ。


「……現在のベルの状態ですが、まあぶっちゃけると絶賛死にかけです」


「随分ぶっちゃけますね。わたしもなんとなく思ってましたが」


「ベルが今いる世界で死んだらどうなるのかは、正直私にも分かりません。人間に生まれ変わるのか、それとも動物や植物か、はたまた幽霊として彷徨い続けるのか」


 少なくとも天国でゆったりのんびり死後生活とはいかなそうだ。


「それにベル、あなたはおとぎ話やファンタジーの世界に憧れていたでしょう?」


「う……ど、どうしてそれを」


「女神ですから」


 病気がちで、スポーツや外で遊ぶことがあまりできなかったわたしは、絵本やファンタジー小説を読んで過ごすことが多く、自然とそういったものを好きになっていた。
中学の時なんかは、魔法や魔術が出てくる異世界アニメにハマって、オリジナルの呪文を……ああダメだ、これは思い出してはいけない記憶だわ。


「……その、異世界では魔法とか使えたりしちゃったりしますか?」


「ええ、魔法も使えるし、魔物とだって戦えます。もちろん魔王もいます。そのための勇者候補ですから」


 魔物や魔王とは別に戦いたくないけど……そっか。よし、決めた。もう一度、人生の大勝負をしてみよう。


「わたし、異世界に行きます!」


「本当ですか! いやあ受けてくれてよかったです! またイチから探さないといけないところでした」


 女神様も色々と大変なのね。


「それではベル、あなたを異世界『ネオテイル』に召喚……する前に、ひとつ『特別なスキル』を授けましょう」


「特別なスキル?」


「勇者候補になってくれた者に、その人が望むスキルを1つだけ授けているの。今のまま召喚しても、その辺の魔物にも勝てないでしょう?」


「まあそれは、たしかにそうだわ」


 なんの力も無い今のわたしでは、多分野良猫くらいの大きさの魔物でも勝てない気がする。


「勿論、『どんな相手も一撃で倒す魔法が使える』とか『どんな攻撃も全て跳ね返す』みたいな小学生パワー溢れるのは無理ですよ。私もなんでも授けられるわけではないですから」


 何も思いつかなければ、ミミエリ様が戦いに役立つ良い感じのレアスキルを授けてくれるとのことだった。
特別なスキルか。異世界、勇者、魔物……


「ミミエリ様、わたしがこれから行く異世界『ネオテイル』には、人間や魔物の他にもなにかいますか?」


「そうですね、ヒト型種族としては、エルフやドワーフ、巨人族など。他には精霊、妖精……」


「妖精!? 妖精さんがいるんですか!? 可愛いですか!? お話ししちゃったりできますか!?」


「え、ええ。急に声が大きくなりましたね……ネオテイルでは妖精の言語は解明が進んでおらず、会話したりはできませんが……」


 妖精さんはいるけど、お話しできないの? それなら……!


「わたし、『妖精さんとおはなしできるスキル』が欲しいです!!」


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