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38話 稼いだ金の使い道
しおりを挟む第7エリア管理局、管理責任者室。
「え~倒されちゃったの~?」
「はい……第7エリアのとある酒場の近くでボウギャークから発せられるあんはぴエナジーのオーラが消えました」
「は? なんで酒場なんて行ってんの?」
「どうやら酒場の地下闘技場でギャンブルに夢中になっていたみたいでして……」
「は~なにやってんだアイツマジで……それで? ハイドロちゃん達の情報はなにか手に入ったの?」
「ボウギャークをデス・アームレスリングで倒した相手と一緒に行動しているみたいです。見た目の情報から、牢からハイドロを逃がしたのもそいつらだと思われます」
「ふ~ん……もうちょっと情報欲しいけど……とりあえず、もう一回ハイドロちゃん達を誘い出すか~」
「はあ、それは良いと思いますけど、どうやるんですか? よっぽどのことがないと表に出てこないと思いますが……」
「ふふ~ん。教会のシスターを誘い出すなんて簡単なんだよね~。次のボウギャ―クは……アレに決まり~」
……。
…………。
「というわけで、昨日の夜にボウギャークを倒してついでに資金も稼いできたですの~!」
「ガッポガッポなのじゃ!」
「俺が頑張ったんだ俺が」
第7エリアでボウギャークとの激戦を制した俺たちは、喫茶ペチカに大量の金が入った革袋と共に帰還した。
サタンとハイドロが酒場地下の違法賭博で俺の勝ちに賭けて稼いだ汚ねえ金だぜ。
「おはよー……あ! お金がたくさんある!」
「おいフレイムに汚いもんをみせるな」
「なんでなのじゃ!」
「汗水垂らして手に入れた真っ当なお金ですよ!」
汗水垂らしたのは俺だよ。
「お金があるとはぴねすエナジーもいっぱいなので大丈夫ルナ」
「大丈夫じゃねえよ」
フレイムには絶対ギャンブルなんてやらせたくない……頼むぜウェスタさん……
「それで、このお金はどうするの? ウチのお店に入れてくれるのかしら?」
「なにを言うとるんじゃウェスタは。これは拙者が勝ち取った金じゃぞ」
「そうルナ! これはサタン様のお金ルナ! だからルナの研究費にするルナ」
「ルナ? 嘘じゃよな?」
そういや俺も試合で勝ったときに貰った賞金があったわ。正直異世界に来てから欲しいもんとか無いんだよな。
ペチカで働いててお給金も貰ってるから、ニート時代とは違って金が貯まる一方だぜ。
「それで、ハイドロはその金どうするんだ? 元は教徒から集めた活動資金だったんだろ?」
第7エリアの大教会でシスターをやっていたハイドロは、大教会が管理局によって潰された後も各地に隠れ潜んでいるハーピィエルフ教の信者から集めた金を使って教会を復活させるために活動しているのだ。
で、さっきのデス・アームレスリングにその資金を全部つっこんだんだけど。頭ぶっ飛んでるってこのシスター。
「活動資金を援助してくださった教徒の皆様に感謝を……というわけで、このお金を使ってハーピィエルフ様の像を再建したいと思いますの」
「ハーピィエルフの像?」
「大教会にはハーピィエルフ様を模した非常に美しい石像がありましたの。しかし第7エリア管理局のゴミ、失礼……管理責任者、モッツァレルの指示により押収されてしまいましたの」
なるほど、ハーピィエルフ教を排除するために信仰対象のハーピィエルフ像を奪われてしまったから、それを再び……というわけだな。
「でもさ、それでまた建てた石像を管理局に見つかったらまた押収されたり、場合によっちゃ破壊されるかもしれないんじゃないか? どうするんだ?」
「今度はハーピィエルフ様の像に反撃機能とか付けるですの。素材もなんかめちゃめちゃ丈夫なやつにするですの。ミスリル鉱石とかいいですの」
「なんじゃ、ミスリルゴーレムならデビルアイランドにおるぞ。あやつはかなり丈夫じゃの」
「おいこら自分の仲間を素材にしようとするな」
てかミスリルとかあんのかよこの世界。ファイ〇ルファンタジーか? ミッドガルかここは。
「大丈夫ルナ。ゴーレムは身体の中心部にある魔核を破壊されない限り生命活動を停止しないルナ。1回溶かして見た目をハーピィエルフみたいに加工すれば動くハーピィエルフ像の完成ルナ」
「それは素晴らしいです! このお金はルナさんに預けますので、どうかお願いできませんか?」
「任せるルナ。最強のミスリルハーピィエルフ像を作り出して見せるルナ」
「いやエグイて」
こうしてルナとハイドロによるハーピィエルフ様の像……もとい、対管理局兵器の開発が裏で粛々と進められていくのであった。
「え……拙者のお金、ハーピィエルフの像の開発に使われるのか……? のうルナよ、ウソじゃよな?」
__ __
「それにしても、金の使い道ねえ」
一人、第7エリアの街を歩きながらふと考える。家で引きニートしてたときはそもそも使える金がなかったから対して悩みもしなかった。
ゲームとかアニメのブルーレイBOXとか欲しいものはまあ結構あったけど、この世界にはそういうのがなんにもないからな。
「うう、にいちゃん腹減ったよ……」
「すまん弟よ。いつもなら教会で炊き出しや配給をやってくれたんだけどな……」
軽く街を見渡すと、路頭に迷った孤児やホームレスたちが道の端にたむろしているのが目に入る。
セーフティーネットの役割を果たしていた教会が機能しなくなったことで、街は以前よりも廃れてきている、とハイドロが言っていた。これでははぴねすエナジーもかなり減少してしまっているはずだ。
「おい、そこの腹ペコキッズ」
「……ん?」
「なんだにーちゃん」
「俺はねーちゃんだ」
「えっ……」
なんだよ文句あんのかよ。
「腹減ってんだろ? これやるから元気出せ」
そう言って俺は近くのパン屋で買ってきたなんか固そうな細長いバゲットを渡す。
うーん、ヤマ〇キパンのパリジャンを思い出すな。コーンスープに浸して食うと美味いんだよなあれ。
「ありがとうに……ねーちゃん!」
「ふっ……死ぬなよ、ボウズ」
よし、クールな去り際を演出できたぜ。
「なにやっとんのじゃおぬしは」
「ましゅまろばやし、なんかかっこつけてる」
「…………」
知り合いに見られてた……消えたい……なんで二人してこっちまで来てんだよ……
「いや、ちょっとさ、第7エリアの教会が配給とかやってないからさ、俺の持ち金でなにかしてやれないかなってさ……」
「ほう、それは良い考えじゃ」
「みんなに食べもの配ってあげるの! そしたらはぴねすエナジーもいっぱいだよ!」
「そうじゃの、それじゃあホワイトよ、頑張るのじゃぞ」
「……へ?」
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