上 下
38 / 44

38話 稼いだ金の使い道

しおりを挟む


 第7エリア管理局、管理責任者室。


「え~倒されちゃったの~?」


「はい……第7エリアのとある酒場の近くでボウギャークから発せられるあんはぴエナジーのオーラが消えました」


「は? なんで酒場なんて行ってんの?」


「どうやら酒場の地下闘技場でギャンブルに夢中になっていたみたいでして……」


「は~なにやってんだアイツマジで……それで? ハイドロちゃん達の情報はなにか手に入ったの?」


「ボウギャークをデス・アームレスリングで倒した相手と一緒に行動しているみたいです。見た目の情報から、牢からハイドロを逃がしたのもそいつらだと思われます」


「ふ~ん……もうちょっと情報欲しいけど……とりあえず、もう一回ハイドロちゃん達を誘い出すか~」


「はあ、それは良いと思いますけど、どうやるんですか? よっぽどのことがないと表に出てこないと思いますが……」


「ふふ~ん。教会のシスターを誘い出すなんて簡単なんだよね~。次のボウギャ―クは……アレに決まり~」


 ……。


 …………。


「というわけで、昨日の夜にボウギャークを倒してついでに資金も稼いできたですの~!」


「ガッポガッポなのじゃ!」


「俺が頑張ったんだ俺が」


 第7エリアでボウギャークとの激戦を制した俺たちは、喫茶ペチカに大量の金が入った革袋と共に帰還した。
サタンとハイドロが酒場地下の違法賭博で俺の勝ちに賭けて稼いだ汚ねえ金だぜ。


「おはよー……あ! お金がたくさんある!」


「おいフレイムに汚いもんをみせるな」


「なんでなのじゃ!」


「汗水垂らして手に入れた真っ当なお金ですよ!」


 汗水垂らしたのは俺だよ。


「お金があるとはぴねすエナジーもいっぱいなので大丈夫ルナ」


「大丈夫じゃねえよ」


 フレイムには絶対ギャンブルなんてやらせたくない……頼むぜウェスタさん……


「それで、このお金はどうするの? ウチのお店に入れてくれるのかしら?」


「なにを言うとるんじゃウェスタは。これは拙者が勝ち取った金じゃぞ」


「そうルナ! これはサタン様のお金ルナ! だからルナの研究費にするルナ」


「ルナ? 嘘じゃよな?」


 そういや俺も試合で勝ったときに貰った賞金があったわ。正直異世界に来てから欲しいもんとか無いんだよな。
ペチカで働いててお給金も貰ってるから、ニート時代とは違って金が貯まる一方だぜ。


「それで、ハイドロはその金どうするんだ? 元は教徒から集めた活動資金だったんだろ?」


 第7エリアの大教会でシスターをやっていたハイドロは、大教会が管理局によって潰された後も各地に隠れ潜んでいるハーピィエルフ教の信者から集めた金を使って教会を復活させるために活動しているのだ。
で、さっきのデス・アームレスリングにその資金を全部つっこんだんだけど。頭ぶっ飛んでるってこのシスター。


「活動資金を援助してくださった教徒の皆様に感謝を……というわけで、このお金を使ってハーピィエルフ様の像を再建したいと思いますの」


「ハーピィエルフの像?」


「大教会にはハーピィエルフ様を模した非常に美しい石像がありましたの。しかし第7エリア管理局のゴミ、失礼……管理責任者、モッツァレルの指示により押収されてしまいましたの」


 なるほど、ハーピィエルフ教を排除するために信仰対象のハーピィエルフ像を奪われてしまったから、それを再び……というわけだな。


「でもさ、それでまた建てた石像を管理局に見つかったらまた押収されたり、場合によっちゃ破壊されるかもしれないんじゃないか? どうするんだ?」


「今度はハーピィエルフ様の像に反撃機能とか付けるですの。素材もなんかめちゃめちゃ丈夫なやつにするですの。ミスリル鉱石とかいいですの」


「なんじゃ、ミスリルゴーレムならデビルアイランドにおるぞ。あやつはかなり丈夫じゃの」


「おいこら自分の仲間を素材にしようとするな」


 てかミスリルとかあんのかよこの世界。ファイ〇ルファンタジーか? ミッドガルかここは。


「大丈夫ルナ。ゴーレムは身体の中心部にある魔核を破壊されない限り生命活動を停止しないルナ。1回溶かして見た目をハーピィエルフみたいに加工すれば動くハーピィエルフ像の完成ルナ」


「それは素晴らしいです! このお金はルナさんに預けますので、どうかお願いできませんか?」


「任せるルナ。最強のミスリルハーピィエルフ像を作り出して見せるルナ」


「いやエグイて」


 こうしてルナとハイドロによるハーピィエルフ様の像……もとい、対管理局兵器の開発が裏で粛々と進められていくのであった。


「え……拙者のお金、ハーピィエルフの像の開発に使われるのか……? のうルナよ、ウソじゃよな?」


 __ __


「それにしても、金の使い道ねえ」


 一人、第7エリアの街を歩きながらふと考える。家で引きニートしてたときはそもそも使える金がなかったから対して悩みもしなかった。
ゲームとかアニメのブルーレイBOXとか欲しいものはまあ結構あったけど、この世界にはそういうのがなんにもないからな。


「うう、にいちゃん腹減ったよ……」


「すまん弟よ。いつもなら教会で炊き出しや配給をやってくれたんだけどな……」


 軽く街を見渡すと、路頭に迷った孤児やホームレスたちが道の端にたむろしているのが目に入る。
セーフティーネットの役割を果たしていた教会が機能しなくなったことで、街は以前よりも廃れてきている、とハイドロが言っていた。これでははぴねすエナジーもかなり減少してしまっているはずだ。


「おい、そこの腹ペコキッズ」


「……ん?」


「なんだにーちゃん」


「俺はねーちゃんだ」


「えっ……」


 なんだよ文句あんのかよ。


「腹減ってんだろ? これやるから元気出せ」


 そう言って俺は近くのパン屋で買ってきたなんか固そうな細長いバゲットを渡す。
うーん、ヤマ〇キパンのパリジャンを思い出すな。コーンスープに浸して食うと美味いんだよなあれ。


「ありがとうに……ねーちゃん!」


「ふっ……死ぬなよ、ボウズ」


 よし、クールな去り際を演出できたぜ。


「なにやっとんのじゃおぬしは」


「ましゅまろばやし、なんかかっこつけてる」


「…………」


 知り合いに見られてた……消えたい……なんで二人してこっちまで来てんだよ……


「いや、ちょっとさ、第7エリアの教会が配給とかやってないからさ、俺の持ち金でなにかしてやれないかなってさ……」


「ほう、それは良い考えじゃ」


「みんなに食べもの配ってあげるの! そしたらはぴねすエナジーもいっぱいだよ!」


「そうじゃの、それじゃあホワイトよ、頑張るのじゃぞ」


「……へ?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

魔法少女になれたなら【完結済み】

M・A・J・O
ファンタジー
【第5回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】 【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】 【第9回ネット小説大賞、一次選考突破!】 とある普通の女子小学生――“椎名結衣”はある日一冊の本と出会う。 そこから少女の生活は一変する。 なんとその本は魔法のステッキで? 魔法のステッキにより、強引に魔法少女にされてしまった結衣。 異能力の戦いに戸惑いながらも、何とか着実に勝利を重ねて行く。 これは人間の願いの物語。 愉快痛快なステッキに振り回される憐れな少女の“願い”やいかに―― 謎に包まれた魔法少女劇が今――始まる。 ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖
恋愛
 森で1人のんびり自由気ままな生活をしながら、たまに王都の冒険者のギルドで依頼を受け、魔物討伐をして過ごしていた”最強の魔法使い”の女の子、リーシャ。  ある依頼の際に彼女は3匹の小さな黒竜と出会い、一緒に生活するようになった。黒竜の名前は、ノア、ルシア、エリアル。毎日可愛がっていたのに、ある日突然黒竜たちは姿を消してしまった。代わりに3人の人間の男が家に現れ、彼らは自分たちがその黒竜だと言い張り、リーシャに自分たちの”番”にするとか言ってきて。  半信半疑で彼らを受け入れたリーシャだが、一緒に過ごすうちにそれが本当の事だと思い始めた。彼らはリーシャの気持ちなど関係なく自分たちの好きにふるまってくる。リーシャは彼らの好意に鈍感ではあるけど、ちょっとした言動にドキッとしたり、モヤモヤしてみたりて……お互いに振り回し、振り回されの毎日に。のんびり自由気ままな生活をしていたはずなのに、急に慌ただしい生活になってしまって⁉ 3人との出会いを境にいろんな竜とも出会うことになり、関わりたくない竜と人間のいざこざにも巻き込まれていくことに!※”小説家になろう”でも公開しています。※表紙絵自作の作品です。

【完結】少し遅れた異世界転移 〜死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく〜

赤木さなぎ
ファンタジー
 死体で異世界転移してきた記憶喪失の主人公と、敬語系×エルフ×最強×魔女なヒロインが結婚して、不老不死になった二人が持て余した時間を活かして、異世界を旅して巡る物語です。  のんびり旅をしていたはずが、気付けば神様との戦いに巻き込まれたりします。  30万文字超えの長編ですので、少しずつゆっくりと読んで、楽しんで貰えたらと思います!  おかげさまで、HOTランキング最高2位達成! 沢山読んで頂き、ありがとうございます! ―――――― ■第一章 (63,379文字)  魔女様とのんびり森の中での生活を楽しもう!  と思っていたら、どうやら魔女様には秘密が有る様で……。  まだ名前も無い頃の二人の出会いの物語。 ■第二章 (53,612文字)  二人は森の外の世界へと飛び出して行く。  様々な出会いをした、二人の旅の記録。 ■第三章 (28,903文字)  長い旅から森へと帰って来ると、何者かによって二人の家は破壊されていた。  二人は犯人を捜す為に、動き出す。  バトル要素有り。 ■第四章 (47,744文字)  旅の中で出会った龍に託された真実の目。  それを巡って、神との戦いへと発展して行く。  バトル要素有り。 ■第五章 (68,773文字)  二人の旅の舞台は、海を越えて東の大陸へ。  謎のメッセージ、そして黒い泥の事件を追う。  第二章のテイストで進む東の大陸出の旅の記録。 ■過去編 (約9万文字)  本編へと繋がる、かつての魔女エルと勇者アルが紡ぐ、冒険の物語。  一度は魔王討伐を諦めた勇者と、突然現れた最強の魔女が、魔王を討つ為、再び旅に出るお話です。 ■第二部  エピローグ②とエピローグ③の間の物語。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

~まるまる 町ごと ほのぼの 異世界生活~

クラゲ散歩
ファンタジー
よく 1人か2人で 異世界に召喚や転生者とか 本やゲームにあるけど、実際どうなのよ・・・ それに 町ごとってあり? みんな仲良く 町ごと クリーン国に転移してきた話。 夢の中 白猫?の人物も出てきます。 。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...