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1話 女の子になっちゃった!?

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「いけ、そこだー!」


 ここは平和な国、日本。


「ああっ……! 敵の攻撃が!」


 待ちに待った、日曜日。まあ俺は毎日が日曜日みたいなもんだけど。


「くそっ! 卑怯な手を使いやがって!」


 早起きをして、大好きなテレビアニメを視る。至福の時間ってやつだ。


「いいぞー! 負けるな! 頑張れ!」


 なんのアニメかって? 日曜の朝、ニチアサに視るアニメなんて決まってるだろ? それは……


「がんばえ~! ぷ〇きゅあ~!!」


 (オマエが頑張るのじゃクソニート!!)


 パアアアアアアアア……!!


「えっ?」


 なんかモニターが急に光り出した。あれ? 俺のニチアサは?


「う、うわあー! 吸い込まれる! テレビから謎の吸引力が!」


 (オマエも働くのじゃ!!)


「うわっちょっもう体半分入っちゃってるって! い、嫌だあ! 俺は働かない! 働いたら負けなんだああ!!」


 パアアアアアア……


 こうして俺は、唐突にテレビに吸い込まれて異世界に飛ばされたのだった。やっぱダメだな、ダイソ〇製のテレビは。


 ……。


 …………。


「はっ!」


 目が覚めると知らない天井だった。


「え、なんか身体が動かないんだけど。あれ?」


 かろうじて動く頭を傾けて、周りを見渡す。……なんか手足を台の上に固定されてるっぽい。なにこれ、ガリバー?


「ふん、やっと目を覚ましおったか」


「あ、あんたはテレビから聞こえた声の……って、ええー!? でっか!! 顔こっわ!! ツノ生えてる!!」


 なんかゲームのラスボスみたいなやつがこっちを覗き込んでいた。もしかして俺、ここで死ぬんか?


「オマエ、自分のことは覚えておるかの? ちょっと自己紹介してみるのじゃ」


「俺? 俺の名前はマシュマロ林ホワイト! 21才! 拳も唸る男の中の漢! ネオニートだぜ!」


「あー覚えておるようじゃな。てかなんじゃマシュマロ林って。ふざけた名前じゃの」


 しょうがねえだろ苗字は。全国のマシュマロ林さんに謝れ。


「それで、俺はなんでこんなことになってんだ?」


「拙者は魔王サタン! ここ“デビルアイランド”の主である!」


「人の話聞けよ! ……え、なに? 魔王? デビル?」


 なんとなく、転生して異世界に来ちゃったかな~、コイツ見た目的に悪魔側かな~とか思ってたけど、マジで王国貴族とか勇者とかじゃなくて魔王サイドなの? なんで?


「オマエはこの魔王サタンが召還したのじゃ!」


「ええ……? 何故に?」


 勇者が攻めてきたときの囮にでもする気か?


「それはじゃな……ルナ! ルナ博士はいるか!」


「ははっ。魔王様。ルナはこちらに」


「えっなに? ウサギ? なんで白衣着てんの?」


 白衣を着たウサギの着ぐるみみたいなヤツが現れた。首からガスマスク下げてる……何故に?


「こやつはルナ。デビルアイランドの技術開発責任者にして、大天才のジーニアスなのじゃ」


「いやそれ同じ意味じゃ……」


「マシュマロ林、アナタは今から改造手術によって、最強のダークヒーローに生まれ変わるのです」


「手術!? ダ、ダークヒーロー!?」


 麻酔は!? 全身麻酔はないんですか!?


「お、おい魔王サタンとかいったな、どういうことか説明してくれよ!」


「よかろう、お主には聞く権利がある。手術の前に全てを話すのじゃ」


 手術は確定なのかよ。


「ここは、終末世界ウィーケンド。お主からしたら、異世界っていうやつじゃの」


「異世界、ウィーケンド……」


 終末ってか週末じゃねえか。


「この世界にあるのは、大きな大陸と小さな島が1つずつ。人間族が住むワンデイ大陸と、魔族が住むデビルアイランドじゃ」


「なるほどな、それで人間族と魔族は血で血を洗う争いを繰り広げて……」


「いや、別に戦争とかはしておらんぞ。お互い船とかで行き来できるしの。そのうち水中トンネルも建設する予定じゃ」


「仲良いのかよ!!」


 えっ!? そんなことある!? 血沸き肉躍る人魔戦争は!?


「それが、今はそうでもなくての……最近はあんまり会ってすらもいないのじゃ」


 別れる寸前のカップルかよ。


「それで、俺がダークヒーローになるって話はどっからきたんだ?」


 まあ仲良いに越したことはないけど、お互いに干渉してないなら別によくないか?


「拙者たち魔族の栄養源は、人間族が幸せを感じたときに出る“はぴねすエナジー”なのじゃ」


「はぴねすエナジー……?」


 魔王サタンの話では、この世界の魔族は人間族、つまり人が幸福を感じたときに出す、はぴねすエナジーというものを吸収して生きているという。
ちなみに魔族がはぴねすエナジーを吸収したとしても、人間が不幸になったり、なにか影響が出ることはないらしい。


「そして拙者たちは考えた。デビルアイランドをテーマパーク化して、人間族に遊びに来てもらって、はぴねすエナジーを増やしてもらおうとな!」


「ディスティニーランドのキャストかアンタは」


 それかモンスターズ〇ンク。


「ドラゴンに乗って島を一周したり、イッツアゴブリンワールドなんかが人気アトラクションじゃな。魔王城をホテルに改築してあるからお泊りもできるぞ!」


 なんだよそれ。めっちゃ楽しそうじゃん。


「少し前までは、観光に来た人間族で賑わっておってな。みな楽しんでくれて、はぴねすエナジーも大量で、お互いWIN-WINって感じだったんじゃが」


「最近は違うのか?」


「大陸には、エール王国という大国があっての。そこの国王が変わったのじゃ。そしたら、その国の人間たちがバッタリと来なくなってしまっての。今となっては、国外の小さな集落や、村の人間たちがたまに来るくらいじゃ」


 はぴねすエナジーを吸収するのに物理的な距離は影響しないので、王国内で国民が幸せでいるならそれでOKです。という感じではあるらしい。


「デビルアイランドに来てくれなくても、国民達が日々を謳歌してくれていれば、拙者たちは干渉せずともよいのじゃが……」


「そう言うってことは、もしかしてはぴねすエナジーが減ってきてるのか?」


「その通りじゃ。そして拙者は、エール王国に住んでいる魔族たちと連絡を取り合い、王国の現状を知ったのじゃ」


「お、王国はどうなっていたんだ……?」


「続きは手術後で」


「うおおおい待ってくれよ!! めっちゃ気になるじゃん最後まで話してくれよ! 手術! 手術ちゃんと受けるから!」


「まったくしょうがないの~」


 俺はすべてが知りたくなったのだ。改造手術で記憶を失い、無差別破壊する悲しきモンスターになる前に。いやどうなるか知らんけど。


「新しく国王になったやつがちょっと良くないらしくての。国民に圧政を強いて、一部の貴族連中だけが良い暮らしをしておるらしい。しかも魔族嫌いとかで、デビルアイランドへの行き来を禁止しておるのじゃ」


 国内に住んでいた魔族たちも追い出されないよう、隠れるようにひっそりと暮らしているらしい。


「そんなことをすれば、はぴねすエナジーが減ってしまうのも当たり前だな」


「魔族嫌いの国王のことじゃ、そうやって間接的に魔族を弱らせているのかもしれん」


 なるほどな……。国王、見たことないけどいけ好かない野郎ってことは間違いねえな。彼女とかいなそう。俺もいないけど。


「というわけでマシュマロ林ホワイトよ! ダークヒーローになって国民を圧政から救い出すのじゃ!」


「フルネームやめろや! って、あーなるほどそういうふうにつながるのね! いやーどうでしょうねぇ俺なんかが行ったところで」


「ルナ! ルナ博士! こやつに処置を」


「ははっ魔王様。準備は出来ております」


「嫌だー! 平和なニチアサジャパンに帰してくれー!」


「大天才ジーニアスのルナが開発したこのケミカルDを飲むのだけじゃ! それでお主は勧善懲悪のダークヒーローじゃ」


「それダークヒーローじゃねえよ! てかケミカルDってなんのD? デビル? ダーク?」


「デストロイですね」


「うわあああやめろおおおお!!!!」


「オイこら暴れるなっこのっ」


 ポーンッ


「あっ」


「まずい! ケミカルDがなんか精密そうな機械に!」


「伏せるのじゃー!!」


「えっ!? 伏せって、ちょっ無理、待っ」


 ドッカアアアアアアアアアン!!!!


 ……。


 …………。


 ああ……俺、死んだんかな……こんなわけわからん世界で……せめて今シーズンのニチアサを完結まで見たかった……


「……ん、死んでない?」


 爆発によって、縛られていた台から落ちたらしい。手足も自由に動かせる。


「よっしゃラッキー! 天は俺に味方した! 今のうちに逃げ……ん?」


 なんか、声の調子がおかしい。声変わりする前に戻ったみたいだ。


「いや、声変わりどころか、なんか普通の女の子みたいな……」


 ぷにっ


「あれ?」


 なんだか身体がぷにぷにしている気がする。鍛えてないとはいえ、もうちょっと筋肉質だった気がするんだが。


「手もなんだか小っちゃくなった気がするし……視界も低くなった、かも」


 ど、どういうことだ……?


「ふぃ~、ひどい目にあったわい」


「ま、魔王サタン! いや違うか、誰だアンタ?」


 魔王の声はもっと渋くてハードボイルドな感じだ。こんな萌え萌え☆きゃぴきゃぴボイスじゃない。


「いや、何を隠そう拙者こそが魔王サタンじゃが……って、オマエもしかしてマシュマロ林か!? わーっはっはっは! なんじゃその姿は! オマエ、女になっとるじゃないか!」


「魔王サタン!? アッハッハッハ!! お前なんだよそのロリロリ幼女な見た目は!?」


「……え?」


「……は?」


 もしかして俺たち、女の子になっちゃった……!?


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