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彩城あやと

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act1 虹のむこうに

act1 虹のむこうに②

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「……普通だな」
「え? 本当ですか? それなら、良かった」
 ほっとした。天羽さんに局部を、見られたのはどうかと思うが。でもゲイの言葉には妙な説得力がある。これほど信じられる言葉はないような気がするほどに。
 さて、服を着るか。そう思った時に、天羽さんがそら怖ろしいことを言った。
「でもこれじゃ、よく分からないな。勃たせろ」
「は?」
「勃たせろ。そう言ったんだ」
「いや、聞こえてますけど、それは無理……あ……っ!」
 天羽さんが俺の縮こまってしまった性器を握り締めた。
「勃ってる状態で勝負するんだろう? 手伝ってやろう。恥ずかしいなら目を瞑っていればいい。早くしないと休憩時間が終わってしまう」
 時計を見ると、ティータイムの時間に近づいてた。
 俺は彼女を長く付き合えない理由が、性的問題かもしれないとイキナリ言われて、焦ってた。
 そして俺は男としておかしいのか。おかしくないのか。答えが早く答えが欲しかった。
 俺はすでに下半身を剥き出しにされて、天羽さんに局部を見られてる。もうここまでくると、開き直ってもおかしくないのかもしれない。
 ギュッと目を閉じると、ふ、と天羽さんが耳元で笑った。
「素直なところが、真希のいいところだな」
 低いささやき声が脳髄に響いた。
 天羽さんの手が俺の性器を扱き始める。
「ん……」
 男の手だ。天羽さんの。
 木のぬくもりに包まれて、珈琲の香りが漂うカフェで、俺は天羽さんに性器を扱かれてる。
 窓の外から、通りに行き交う人の気配を感じる。異常な状況に、クラクラと眩暈がする。
「真希、そうだ大人しくしていろ」
 天羽さんが耳元で囁く。声は少しかすれてて、熱っぽくて。いつも爽やかさか、黒さしか感じない天羽さんが、艶やかに感じる。
「……ふ……っ」
 されてる事が、されてる事だ。吐息だって漏れてしまう。
「すぐに大きくなったな」
 天羽さんが熱っぽく耳元で囁きながら、耳たぶを、ねろりと舐めた。なんでそんな余計な事を。と思いながらも、体がビクリと跳ねた。
 下唇を噛み締めると、天羽さんが耳元でくすりと笑い、唇で俺の耳をくすぐられた。頬へ、顎へ天羽さんの唇が滑っていく。
 ゾクゾクと沸き起こる甘い痺れに、俺の性器は天羽さんの手の中で、完全に勃ち上がってた。
 天羽さんはゆっくりと大きさや形、手触りなんかを確かめるように、茎全体に指先を絡めてる。
「……あ、天羽さん、もう勃ちましたから……っ!」
「だから?」
「だ、だから……み、見て」
 別に変な意味で言ったんじゃない。勃ってるモノが普通なのか確かめてくれ。そう言った意味だ。
 でも自分の勃ってるモノを見てくれって、口にするなんて……どうかしてる。
「ああ。可愛いな」
「………!! そ、それはサイズ的に……?」
「違う。可愛いのは真希の顔だ。ココは真っ直ぐで、色も綺麗で遊んでないのが、よく分かる」
「あ……よ、良かっ……んんっ、あ、天羽さん、も、もう、いいですから、やめて下さ……い」
 天羽さんの親指が、先端をなぞると、すでに濡れているのが自分でも分かった。天羽さんが鈴口を嬲り始める。
 体の奥から初めてとも知れる沸き起こる熱に俺は焦った。
「あ、天羽さん、離して……」
「今から耐久性を見てやらないといけないのに、そんな可愛い声を出すな」
 次は耐久性!? このまま天羽さんの手の中でイけというのか!?
「天羽さ……、もう、いいです……!」
「逃げるな。じっとしてろ」
 逃げようにも、足にくくられた紐で逃げられない。
 何よりも自分の手で扱くのと、人に他人に扱かれるのでは気持ち良さが格段に違う。
 逃げる前に限界点がやってきた。
 でもこれは取り調べだ。天羽さんは耐久性を調べてる。そうやすやすとイク訳にはいかない。
 ゆっくりと擦り上げられる性器の先端からは雫が溢れてて、ぐちゅぐちゅと卑猥な音をカフェに響かせてる。
 イキたいのに、イキたくない。
 天羽さんは俺の性器を匠に扱き上げる。俺は息を乱して、天羽さんにしがみついた。
「く……ふ……、天羽さ、ん」
「くそ……!」
 天羽さんの切羽詰まったような声が、耳元で響くと、カッと全身に火が付いた。
 視線の先。天羽さんの下肢も張り詰めている。興奮している。
 俺は興奮した女の子にこんなことされて、全身に火がつくほど興奮したことがあるだろうか。
 いや、ない。
 でも天羽さんは男だ。ツボを心得てる。だからだ。性急にせき立てる方法も、もどかしく切なくさせる方法も知ってる。
 天羽さんは俺の限界が近い事を知ってて、ぬるぬるとした先端を五本の指先で弄び、鈴口を押し開いでくすぐり、雫が漏れると、敏感な部分に擦り付けてくる。
 首筋を天羽さんの唇が這い、ちりり、とした甘い痛みが走る。下肢に熱がこもって、天羽さんにしがみついた指先が震えた。
 イきたい。このまま天羽さんの手で、イきたくて……たまらない。
 天羽さんは男なのに。
 こんなのはやっぱり、おかしいんじゃないかと、俺は首をゆるゆると振った。 
「天羽さん……も、いい……やめて」
「やめて欲しかったら、顔を上げろ」
「あ………っ!」
 鈴口を親指で押し広げられて、敏感な部分を爪先でグリっと刺激された。
 それだけで、体が不規則に痙攣する。息は淫らに乱れた。イキたくて顔なんて作っていられない。
「真希、今の顔を見せろ」
 顔を上げても、天羽さんはきっと手を止めない。天羽さんはただ欲情した俺の顔が見たいんじゃないか、とそう思ったのに。
 それでも俺は顔を上げた。
 天羽さんは俺の顔を見下ろすと、軽く吐息を漏らし、熱っぽい目で俺を見つめてくる。俺は今、どんな顔をしているんだろう。
 興奮は伝わる。天羽さんの手の動きで、吐息で伝わる。
「は……、あ、もう……俺、俺……っ!」
「真希」
 俺の唇に天羽さんの熱い吐息が触れた。
 キスされる。
 そう思ったのに、天羽さんの唇は、俺の唇に触れるか触れないかのところでピタリと止まってしまった。
 キス……してくれないのか。
 何かひどいショックを受けて、そんな自分に驚き、天羽さんの腕を振り払おうとすると、天羽さんが熱く耳元で囁いた。
「舌を出せ」
 キスが欲しければ言いなりになるしか仕方ない。でも俺は欲しかった。天羽さんのキスが。
 ただ天羽さんに性器を扱かれてるだけの行為は、何故か寂しかった。
 俺がおずおずと舌を差し出すと、天羽さんの口が薄く開く。紅い舌が唇の中からちらりと見えた。
 ああ、天羽さんのキスがもらえる。
「あ……ああ………っ!」
 そう思ったら天羽さんの手の中でイっていた。
 カフェに珈琲と隠微な香りが混じり合い、俺は一体何をしてるんだと、はたと我に返ると、天羽さんが俺の顎に指先を置いて、唇を重ねてきた。
 それは思ったより優しいキスだった。ついばむように何度も角度を変えては降ってくる。
 薄く唇を開くと、たまらないといったように名前を囁かれて、息が出来ないくらい口内を弄ばれた。
 蕩けてしまうんじゃないかと。
 全身の力が抜けて、足がガクガクと震え、俺が思わず天羽さんにしがみつくと、天羽さんは優しく俺の背を撫ぜた。
 体の芯がまた熱を帯び始めて、いつもはイってすぐに引くはずの快楽の波が引かなかった。
 天羽さんは片手で俺の頭を支えて、終わらないキスに。
 俺の髪と、吐息が……乱れる。
 唇が離れ、とろりと天羽さんを見上げると、天羽さんはしごく真面目な顔で俺を見下ろした。
「……少し、早いな。女がこれで満足するかどうかだな」
 俺は天羽さんを睨み上げた。
「天羽さんが……!」
「俺がなんだ?」
「天羽さんが、そんな風に、触るから、でしょう……! いつもは……こんなに、早くない……!」
 天羽さんがゾクリとするような笑みを零し、綺麗に整った眉根を寄せた。
「そんな顔で、誘うな。抑えがきかなくなる」
「違う……そうじゃ、な……んんっ!」
 唇が重なった。絡まる舌。混じり合う唾液。吐息が妖しく乱れる。
 店長のキスは巧みで、口内を甘美に泳いでく。髪を撫でられ、強く抱きしめられ、あまりの心地よさに瞼が震え、頭も体も溶けてしまいそうになる。
 唇が離れると、天羽さんの腕の中で、乱れる息を整えようとするのが、やっとだった。
「……クイズの答えが分かったか?」
「ク、イズ……?」
 とろりと溶けてしまった頭と体で、問題はなんだったのか、思い出せない。俺がぼんやりと首をかしげると、尻の窄みに俺の体液を纏った店長の指先が、くるり円をひとなでした。
「………っ!」
 甘い痺れで息が詰まり、体が、かあっと熱くなる。
「汚れてしまったな」
 指先が体液を擦り付けるように、窄みを撫ぜる。
「あ、天羽さん、やめ……ん、んん……」
「顔を上げろ」
 ゆっくりと顎をあげると、唇を唇で塞がれた。天羽さんの舌が優しく、やわやわと絡まってくる。太ももに昂ぶりを押し当てられ、天羽さんの指先が窄みをほぐすように蠢いて、男同士だと、ここを使うんだぞ。指先が暗にそう言ってて。
 くぷり。窄みが指を飲み込んだ。
「ふ……っ!あ……っ!」
 侵入した異物。天羽さんの指先を感じて、背中から脳にゾクゾクとした熱が一気に登る。
「な、なんだ……こ、れ…」
「力を抜け」
 天羽さんは吐息を漏らして、ゆっくりと中をまさぐりながら、いつの間に取り出したのか、もう片方の手で、窄みにジェルを塗りつけた。
 たっぷりとジェルが足されると、滑りも良くなる。天羽さんは指先をまさぐるように動かしてくる。
「あ……ぁ……あ……う、ああっ!」
 甘く痺れる一点を突かれて、気持ちよさに体が思わず仰け反った。
「ここだな」
 天羽さんはジェルを足しながら、執拗に甘く痺れる一点を執拗に狙い、シャツをまくり上げると、固く尖った乳首を指先で捏ねてくる。
「あ、あ……っ!」
 音が。カフェに響いてる。
 嬌声を漏らしている自分が信じられない。中が性器と神経で結ばれていて、相乗効果でこんなに感じるものだなんて。
「中がとろけてきたのが、分かるか?」
 ぐちゅぐちゅと中を掻き回されて、息も絶え絶えになった俺は、ゆるく首を振った。何がどうなってるのか全く分からない。
 ただ俺の性器は完全に立ち上がって、先端から雫をこぼしてた。
「もうこんなになってるのか。回数で彼女を満足させてたみたいだな。何回くらいイけるんだ?」
 天羽さんが後孔を擦り上げながら、性器を握りしめて扱き始めた。
「あっ、ああっ……! ち、ちが……俺、いつも、……一回しか出来な……淡白な…ん、だ」
「本当に?」
 コクコクと頷くと、天羽さんの手の動きが加速する。
「あ、い……、あ、あも…うさ…」
「なら……俺が何度でもイかせてやる」
 ぐちゅぐちゅと中を掻き回されて、性器を擦り上げられる。天羽さんの舌が口の中まで侵入してきて、気がおかしくなるほど、甘い痺れに犯されていく。
「ダメだ……も、イク………あっ!」
「まだだ」
 天羽さんの指先がズルリと引き抜かれ、しゅるり。二人三脚のリボンが解かれる。
 ガクガクと震える体をくるりと返されると、目の前にはシルバーで装飾されたジュエリーボックス。
 天羽さんはパクンと蓋を開けると、コンドームとジェルを取り出した。
「クイズの答えは分かったか?」
「ク、イズ……?」
「まだ分からないのか。だからアホだと言うんだ」
 カウンターに手を付いた姿勢で、後ろから天羽さんが昂ぶりを窄みに押し当ててきた。
「あ、ああ……あ……っ!」
 ぐぷり。後孔がゆっくりと天羽さんの性器を飲み込んでいく。
 俺が天羽さんを飲み込んでいく。
 すべて飲み込むと、天羽さんの深いため息が後ろから聞こえて、俺の性器の先端から、雫が茎に伝って行くのを感じた。
「あ、もう……さん」
「いつになったら、真希は自分のアホさ加減に気が付くんだ。俺は」
 天羽さんが苛立ったように、俺の腰を掴んで、揺さぶり始めた。天羽さんが巧みなのか、自分が特別なのかは分からない。痛みは感じず快楽だけが俺を襲ってくる。
「もう待てない」
「う……ああ……っ!」
 背中に唇がシャツ越しに、ゆっくりと這っていく。
 通りから人の気配を感じる。
 珈琲の香りと、天羽さんの雄の香りが混じり合って目眩がする。
「ああ……あ……っ!」
 ゆっくりと後孔を突き上げながら、性器を扱かれる。それは経験したことのない気持ちよさで……ああ、でも天羽さんだから、天羽さんと繋がってるのが何故か不思議と幸せで、それに満たされて、感じでしまうんだと、不思議な気持ちで恍惚となった。
「真希……俺のものになれ……」
 囁きが甘く、行為を彩る。
 パンパンに膨らんだ欲望が渦を巻いて、外へと導きだされてく。
「ひ……あっ!」
 俺は天羽さんの性器を中に感じながら、天羽さんの手の中でイっていた。
 息が止まるほどイイ。
「ああ…真希…」
 天羽さんが強く突き上げるから、出しても気持ちよさが終わらない。こんなの知らない。目の前に火花が散って体がガクガク震えて、そんな自分がどうにかなってしまいそうで、悲鳴にも似た嬌声が上る。
「ああ――――っ! こ、壊れ、る……っ!」
「壊れたら……何度も、拾い集めて、また、壊して……やる」
 ディープストロークで、突き上げられる。
 気持ちが良くて、良すぎて、本当に壊れてしまうかと思った。でも壊されても、構築されて――そしてまた壊される。それはゾクゾクとした甘い誘惑で、この次もまた天羽さんに愛されるという意味を含んでる。
「あ、あ……そ、れは……永遠……に、続き…ます……?」
「俺から、離れられるか」
 天羽さんはそう呟くと、俺の耳たぶを噛んだ。
 がりっと音がするくらい強く。
 それが痛くて。甘くて。指先まで震える。脳が痺れる。下肢が脈打つ。
「う……あ、あ、ああ……っ!」
「く……っ! 締めつけるな……真希の中、うねってて……ただでさえ、ヤバイ」
「天羽さんも……一緒、に……壊れ、て…下さ……」
「煽るな。どれだけ…俺が…我慢してたと、思ってる…!」
 中を突き上げる動きが激しくなって、気が狂いそうにいい。天羽さんの体温がいい。匂いもいい。甘く痺れる一点を集中的に突かれて、揺さぶられて、嬌声を抑えられない。顔も作っていられない。そんな余裕なんてなかった。
 でも天羽さんは俺の外見なんて気にしない。そう思うとタガが外れたように、俺の素の姿を天羽さんにさらけ出した。
「あ、ああ…っ! あ…っ! は…っ! あ…っ!」 
 突き上げるリズムに合わせて、残滓を零してる性器を掴まれ、扱かれる。
 天羽さんを咥え込んだままの射精は、信じられないくらいの愉悦で、こんな激しい行為は知らない。ついていけない。そう首を振っても天羽さんはいやらしく腰を回し、聞いてくれない。
 中をぐるりと天羽さんの性器が擦り、腰が蠢いてしまう。
 「……っ、く……真希……っ!」
 ぐんっと中に質量が増すと、天羽さんが低いうめき声と一緒に果てて、中がビクビクと震えるのを感じた。
 名前を何度も呼ばれながら、キスの雨が背中に降り注がれる。
 キスが落ちてくるたびに、体がビクリ、ビクリと跳ねても、甘い痺れを癒すように、天羽さんの手が優しく全身を這っていく。俺の乱れた息が落ち着くまで天羽さんはずっとそうし続けた。
「いいか…真希、お前が彼女と、長く付き合えない理由、それは―――性的指向だ。真希は好きでもないのに、女と付き合う。性嗜好も、女より男がいい事に気がついていない……だから俺は真希の事をアホだと言うんだ」
「……もっとオブラートに包んだ表現、使ってもらえませんか? 例えば……背徳心に逆らえなかったとか」
「オブラート?……俺は真希がずっと好きで、早く気付いて欲しいと思ってた。こう言えば満足するか?」
「……天羽さん……」
「アホ」
「オブラートに包んで言えない天羽さんが、アホなんでしょう? でも天羽さんは……俺が告白されると、誰でも付き合う。本当に…そう思ってますか?」
「……違うほうがいい」
 後ろからそうっと抱きしめられ、天羽さんの額に浮かんだ汗が、首筋に触れた。


 1時間後。
 OZには珈琲の豊かな香りが広がり、カウンターの向こうではホッと一息付く会社員が珈琲を楽しんでる。
 俺と天羽さんはカウンターの中で、ティータイムの忙しさから一時解放されて、店内を眺めた。
 窓際には、誰がそこに置いたのか、OZと書かれた小さな看板が目に付く。
「ねえ天羽さん、この店の名前って、あのオズの魔法使いから取ったんですか?」
「ああ。『虹の彼方のどこかに、よりよい場所がある』この一文が好きで名づけた」
「でもそれは主人公のドロシーが、そう夢見てるだけでしょう?」
「真希は夢、見たくないか?」
 天羽さんが意味ありげに、俺を見つめたので、思わず下を向いた。
「俺はもう虹の彼方にたどり着いたから、見なくてもいいです」
 カウンターの中で、俺の小指が天羽さんの小指に触れると、自然と絡まり合う。あたたかい指先。色々彷徨って、幸せは目の前にずっと存在していた事に俺は気がついた。
「違うな。真希。これから、だ」
 低く重厚に響く声に顔を上げると、天羽さんは、音もなく引き出し開けた。
 引き出しの中に見えるのは。
 銀色の細長い棒。
 
 ――ああ、天羽さんはまた、ロクでもないこと、考えてる。
 
 
 カランとドアに付けられたベルが鳴り、お客さんの来店を告げる。
 木のぬくもりで包まれ、あたたかい日差しを取り込んだ小さなカフェに、また珈琲の香りが立ち昇り、天羽さんの爽やかな笑顔を揺らていた。
 
 
 (おわり)
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