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BLUE JOKE
BLUE JOKE ③
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6
それは突然の事だった。
我が家に一本の電話が鳴る。
俺は夕食が出来上がるのを待ちながら、桃香とテレビを見ていて、その電話には母さんが出た。
母さんは長電話だ。電話の会話に気にも留めないでいたけど、珍しく短い会話をした後で、電話を切ってた。
電話の相手は須賀原さん。仕事が忙しくなったから、当分バレーの練習には行けそうもない。そう言った内容の電話だったらしい。
須賀原さんはホストだ。夜の仕事だ。仕事が忙しくなったからって、土日の午前中に行われるバレーの練習に、来れないと言うのは、おかしい。
―――避けられてる。
須賀原さんは、俺を避けてる。
家族の事を想えば、須賀原さんを受け入れられない。そう言ったのは確かに俺だ。だからって俺を避けなくてもいいじゃないか。
須賀原さんの緑がかった綺麗な茶色い瞳を思い出すと、……胸が締め付けられるように痛んだ。そしてなんだか、そわそわして落ち着かない。ジッとしていられない。
俺はいてもたってもいられずに、須賀原さんの携帯に電話した。
指先が震えて、なんて言っていいのかも分かってない。そんな状況だったけど、電話した。
でも……つながったのは、ガイダンス。この携帯番号は、現在使われていないというものだ。
その時、俺は悲しみよりも、ドンっとした怒りが湧いた。
なんなんだ。この一方的な扱われ方! ムカムカムカっ!! 頭に血が昇っていくのが分かる。合って、一言文句言ってやらないと、気が済まない。
でも、俺は須賀原さんと繋がってるものが、携帯番号だけなんだと気が付いて、また余計にムカムカしてきた。
一度マンションに行ったけど、場所なんて覚えちゃいない。くそう。思い出せ。須賀原さんを結ぶもの。
そして俺は、ハタと気が付いた。
そうだ! 須賀原さんの勤めているホストクラブ名前は確か……「グレイスガーデン」
俺はネットで検索してそれらしき店を調べる。そしてホストクラブ「グレイスガーデン」は、都内にひとつしかなかった。電話番号も明記されてたが、ここは直接合って一発ガツンっと「無責任な事すんな」って言ってやらないと!
俺は、地図をプリントアウトして、電車に飛び乗り、ホストクラブ「グレイスガーデン」へと向かった。
そして俺はざわめく雑踏の中、途方に暮れた。
道を挟んだ向かいの看板は「グレイスガーデン」
俺の目指していた場所だ。
でも、どうする? いきなりホストクラブに押しかけて、私用で須賀原さんを呼び出す訳にもいかない。男の俺が一人ホストクラブに入店するのも、どうかと思う。第一ホストクラブで飲める金なんて、持ち合わせちゃいない。
俺、何やってんだろ。
そう思っても、足が動かない。もう、俺と須賀原さんを結び付けるものは、この「グレイスガーデン」だけ。
怒りも失せてた。と、言うより冷静になれば、怒りを利用して、俺は須賀原さんに会いたい。そう思ってたのかもしれない。
ギラギラしたネオンの隙間を夜風が縫って、俺の身を包んだ。
どうしよう……。
着の身着のまま飛び出した俺は、かじかんだ指先を隠すように、ジーンズのポケットの中に突っ込んだ時だ。後ろから低く艶やかな男の声を聞いて、ドキリとした。
「グレイスガーデンに、何か用か?」
振り返ると、シンプルなダークスーツを着た、いかにもホストですってオーラを醸し出した、なんだか妙に威圧感を感じさせる男がいた。
「えっと……」
俺が言葉を詰まらせていると、男は煙草に火を付け紫煙を吐き出し、自分の事を、グレイスガーデンのオーナーだと名乗のる。
名乗った吉野雅人(よしのまさと)は30歳位の面持ちで、妙に魅力的だ。これならホストクラブのオーナーでも、勤められるに違いない。そう思える男だった。
俺は吉野雅人さんに須賀原さんが、本当にここに勤めているのかを確認してみると、吉野雅人さんは薄く笑みを浮かべて頷いた。
そこで俺は須賀原さんとは、バレーボールの監督とコーチだという間柄を説明し、携帯が急に繋がらなくなったから、ここまで来たんだという経緯を説明する。
吉野雅人さんは、俺の話を聞くと「店で待てばいい。なんなら働くか?その顔なら稼げるぞ」そう魅惑的な笑みを浮かべて、俺をグレイスガーデンに案内してくれた。
と、言ってもそこは、従業員控え室のような場所だ。
須賀原さんは遅番で、出勤する時間はもっと遅いらしい。どうやら俺はここで、須賀原さんを待つことになるようだ。
俺は促されるまま、ソファーに座ると「リョウ」っていう優しげな男が、近づいて来て俺に話かけて来た。俺が名前と須賀原さんの間柄を説明すると、リョウさんは目を向いて驚いてた。須賀原さんがバレーボールの監督をしてるって事が、そんなに意外な事だったんだろうか。
そして、リョウさんはすこぶる男前なのに、急に女言葉に変わり、弾丸トークが始まった。ついてけない。
そんな俺の様子を見た吉野雅人さんが、リョウさんを制して、俺にこう言った。
「時間を持て余してるなら、待っている間、ホストをしてみないか?」
俺にとったら、ビックリ仰天の展開だ。
でも、時給も破格で、慣れないこの場所でジッとしているよりは、いいかと思った。ただでさえ気持ちがざわめいて、ジッとしていられない気分だ。
よし! 体験ホスト開始!!
……っても何も出来なかった……。
白を基調にした青くライトアップされた店内は、さわさわと、さざめくように豪奢に揺れている。
そんな中で、これでもかっていう位、洗練されたホスト達が、普段一体どんな暮らししてんの!? ていうような女性客相手を華やかに、もてなしてる。
俺と言えば、貸し出されたスーツに袖を通し、そんなテーブル席に置かれて、水割りの作り方さえ知らないまま、ガチガチに緊張して、居場所なさげに座っていた。
同じ席に付いてるホスト達は、それでも構わないと言った余裕の風情で、自分たちの世界を醸し出している。
そこに何も知らない俺が、水をさすような事も出来ないし、言えない。
でも夢のような世界に俺は飲み込まれた。お客さんは現実の世界を離れて、いい男に囲まれて、いいお酒飲んで、楽しそうにしてる。
どうせなら、俺も楽しみたいな。とは思ったんだけど、この店の客層は、ハイソサエティ過ぎる。
話題についてけない。変に知ったかぶりして口を挟もうもんなら、ひんしゅくを買ってしまいそうな会話を繰り広げてる。
だから、俺はただ話をただ聞いてるだけになる。話の内容は興味深いものから、くだんね。って思う内容まで。うんうん。頷く。
お酒も勧められるままに飲み、次第に気分も良くなってくると、酔ってきてるのは、お酒のせいなのか、雰囲気のせいなのか、分からなくなってきた。でも意味もなく楽しくなってきたのは、間違いない。
俺はたいした内容も話せなかったし、ホストの接客マニュアルなんて知らないけど、ここは純粋に楽しい。
そう、思った時だ。
誰かに腕をグイッっと引っ張られた。
「ここで何をしている!?」
俺の腕を掴んで、鋭い声を出していたのは須賀原さんだった。その声でテーブル席が静まり返る。
俺は須賀原さんの本名をこの静まり返った席で、呼んでもいいのか分からず、だからってなんて言ったらいいのかも分からず、ただ借りてきた猫みたいに、大人しく須賀原さんを不安げに見つめた。
すると須賀原さんは、俺に向けていた厳しい目をゆるりと和ませて、テーブル席のみんなに、魅力的ににっこりと微笑んだ。
「すみません。指導を受け持っていたこいつが、この席に迷い込んでいたのに驚いて、熱くなってしまいました」
場がほっと和むと、ホストの一人が、ククッと忍び笑いを漏らした。
「キヨさんも熱くなる時、あるんですね」
「俺をなんだと思っている」
須賀原さんの綺麗な眉が、片方だけ上がると、テーブル席がどっと笑いに包まれた。そしてそのどさくさに紛れて、俺は須賀原さんに掴まれた腕から、体を引っ張り上げられ、従業員控え室に戻された。
従業員控え室のドアが、バタンっと音を立てて閉まると、須賀原さんはドアに鍵をかけ、俺に詰め寄ってきた。
顔がものすごく怖くて、近い。
「ここに何しに来た!?」
「な、何しにって………」
ああ。そうだ。一日体験ホストの緊張感で、何しに来てたのかすっかり忘れるとこだった!
ハタと我に返った俺は、須賀原さんを睨み返す。そうだ。俺は須賀原さんに、ひとこと言ってやりたかったんだ!
「す、須賀原さんが、仕事が忙しくてバレーの練習に来れないって、母さんから聞きました! 須賀原さんホストなのに、時間的にそんなの、嘘くさいじゃないですか! 確かめようにも携帯繋がらないし! だからここに会いに来て確かめるしか、方法がなかったんですよ!!」
「………………」
須賀原さんは、俺の質問に何も答えず、ただ射すくめるような鋭い眼光で、俺を睨んだ。
緑がかった綺麗な茶色い瞳の中に、俺が映っていた。それがゾクゾクしたような、興奮を呼び起こしてく。
なんだ……? この感じ……?
俺の唇に、間近に迫った須賀原さんの顔から、ふわりと吐息がかかった。
甘い香り。
ドクドクと溢れ出すような高揚感で、眩暈がする。
「俺に会いたかったのか」
どうにかなりそうな甘い陶酔感の中で、低く響く須賀原さんの声。ドクン。と跳ねる鼓動に、身動きが取れない。
「答えろ。直太」
綺麗な顔に見つめられて、顔が赤くなっていく。ドキドキとうるさい鼓動は、須賀原さんに聞こえやしないだろうか?
「直太」
促される声。
ああ……。もう何も考えられない。
「そ、そうだ……俺は……須賀原さんに……ただ……会いたかただけかもっ…………んっ!」
須賀原さんが俺の首に手を回し、引き寄せ力強く抱きしめた。驚いて固まってしまう俺に須賀原さんの唇が、言葉を塞いだ。
しっとりと柔らかい須賀原さんの唇が触れると、とろりと思考が溶けていく。
ああ。俺は須賀原さんにこう欲しいと、ずっと願っていたのかもしれない。触れる熱い唇がそう言ってた。
俺はゆっくりと目を閉じ、須賀原さんの背中に恐る恐る手を回すと、須賀原さんはビクリと体を揺らして、俺の腰を強く引き寄せ、角度を変えて、深く唇を重ねてきた。
深く触れ合う唇に、ゾクゾクとしたような甘美な痺れが、脊髄から尾てい骨までを走しると、唇がおかしなくらい、ワナワナと震える。
つうっと須賀原さんの指先が、脇腹をなぞり、唇の隙間から熱い舌がぬるりと侵入してきくると、体がかあっと熱くなって、体がガクガクと震えた。
そんな自分の反応に驚いて、思わず腕を軽く突っぱね、須賀原さんを拒絶するように押し戻すが、須賀原さんはそんな俺を、さらに強く抱き寄せ、深く唇を重ねる。
ぬるぬると熱く絡まる須賀原さんの舌が、口腔内を優しく何かを求めるように彷徨う。歯列をゆるりとなぞられて、唇を喰まれ、啄むように吸われる。
逆らえない。
須賀原さんに抱きしめられ、キスをされる事が、こんなにもふわふわと漂う、夢のような世界だなんて思いもしなかった。
舌が絡まり、お互いの唾液が混ざり合う。それは気持ちいいだけの行為じゃない。心が芯から震えるような行為で、俺は思わず、須賀原さんにしがみついた。
敏感な舌の先を、須賀原さんの舌がなぞり、角度を変えながら深く求めてく。
敏感な粘膜を刺激され、吐息がもれ、響く水音が妙に卑猥で、俺は須賀原さんの腕の中で震えた。そんな俺の背中を須賀原さんの指先が、するりと滑っていく。
ただ、指が這っただけなのに、ビリビリと痺れたように、俺の体はしなった。須賀原さんの指先はシャツの裾をめくり上げて侵入し、触れるか触れないかの、ゆるりとした動きの指先が素肌を滑る。
「は……ん……っ!」
甘い吐息を漏が漏れてしまう。
須賀原さんの唇が、ゆっくりと離れた。目の前には須賀原さんの熱に潤んだ瞳。
俺の薄く開いた唇は、まだ須賀原さんの唇を欲しがってるように、熱い吐息を漏らしている。
「直太、そんな顔するな。正気じゃいられなくなる」
その声にハッっとして、俺は顔を逸した。……俺は……一体、どうしてしまったんだろう。
「……直太、俺から目をそらすな」
須賀原さんの指先が、優しく俺の顎に絡みつき、俺を正面へと向けさせた。ぶつかるのは、綺麗な緑がかった茶色い瞳。触れられた部分が、熱い。
「あの……俺、どうにかして……」
「俺が、おまえを、どうにかしてやりたいんだ」
額にキスが落ちた。
瞼にも落ちる。鼻先に、頬に、優しく落ちる。吐息が溢れる。
「須賀原さん……な、なんで……こんな事……」
「俺に溺れろ」
俺が須賀原さんのシャツをぎゅっと握り締めると、須賀原さんは優しい眼差しで、俺を見つめたまま、そっと唇に啄むようにキスを落とした。
唇が離れると、お互いの吐息が唇にぶつかり合って、混ざり合う。
そしてまた、啄むようなキスを、俺に落とす。
俺の身体がとろりと溶けたようになるまで、須賀原さんは、何度も俺を見つめ、キスを繰り返す。
「どうした?」
艶やかな声が首筋に降り、そのまま耳まで滑り出す。肌に滑る吐息が熱い。
「……………っ! ど、どうもしないっ!!」
「どうもしないのか?」
不服そうな須賀原さんの声が響く。
「あ……っ!ちょ、ちょっと……っ!………んんっ!」
吐息とともに、俺のシャツに侵入した須賀原さんの手が俺の胸をまさぐり、指先が胸の突起をなぞる。耳朶のコリコリした部分を須賀原さんの唇で、甘く噛まれると、俺の体は電流が走ったみたいにビクビク跳ねて、息が乱れた。
「あ、ああ………っ!」
「どうもしないのか?」
須賀原さんは舌で、俺の耳朶をねろりと舐め上げ、熱い吐息を髪に触れた。
「ふ……っ!ぁ……ど、どうもしてる……っ! だから、やめ……っ!」
「俺に、触れられているから?」
胸の突起を優しく摘まれて、指先でコリコリと捏ねられる。全身がドクドク波無って、立っていられない。
「あ……、そ、そんなこと……知らな……あ……っ!」
首筋に落ちた須賀原さんの唇が、音を立てて強く肌を吸った。
「直太、自覚しろ」
「じ、かく………?」
また唇にキスが落ちる。今度のは深くて激しくて、熱い。強く吸われて、逃げようもないほどに、舌が絡まる。口内を激しくまさぐられ、感じる部分を見つけ出すと、執拗に責められる。
「……ん、ん……っ!」
完全に勃ってしまった乳首は、キスに相反して、優しく捏ねられ、擦られ、摘まれる。ジンッと疼く熱が下肢に集まる。ドクドクと下肢に熱がこもっていく。
唇が離れると、須賀原さんが俺を見下ろし、ゾッとするほど艶やかに笑った。
「直太は俺に触れられて、感じている」
「………………っ!!」
違うとも言えない。俺は確かに欲情してる。誰のせいだと思ってるんだ! とも言ってやれなくて、キッと須賀原さんを睨み上げると、須賀原さんの緑がかった瞳が、ゆらりと揺れた。
「直太……その顔、俺にもっと、見せろ」
「み、見なくていいです……っ!」
「素直じゃないな」
須賀原さんの指先が、スラックスのジッパーをゆっくりと下ろしていく。
「す、須賀原さ……っ! な、何を……っ!」
「俺の手で感じている直太が……見たい。大人しくしていろ」
ジッとしてろって言われて、ジッとしてられる訳が無い。俺はピタリとフィットしたスラックスが窮屈に思うほど勃っていて、そんな状態になっているのを、見られる訳にはいかない。
俺が必死で抵抗し、身をよじると、須賀原さんはするりと身を翻して、後ろから容赦なく、俺を抱きすくめた。
「い、やだ……ま、待って……っ!」
スラックスを素早く下着ごとずり下ろされる。下肢にヒヤリとした空気が触れ、そそり立った茎があらわになる。
「………………っ!」
恥ずかしくて声も出ない。かがみ込んで隠そうとしたら、須賀原さんの手が優しく、俺の分身を包み込んだ。
「須賀原さ……っ! な、何、考えて………!?」
「直太だ……。直太の事しか考えられない。こうして俺の手で感じている直太が、可愛くてたまらない」
耳元で響く声、茎を須賀原さんの手で、数度擦り上げられたら、脳が沸騰した。須賀原さんの手で興奮して、それを見られてる。息が詰まる。首筋に熱い吐息が触れる。
「直太」
低い囁きが、体に響いて、ビクリと体が跳ねた。腰の辺りに須賀原さんの昂りが当たる。
……須賀原さんも、熱を抱えてる。
「す、須賀原さん……」
「大人しくしていろ。今の俺は暴走しかねない」
ぼ、暴走って、須賀原さんが暴走したら、俺はどうなるんだろう?
俺は怖くなって身動きが取れなくなる。
須賀原さんは、俺の名前を耳元で囁きながら、俺の茎をゆっくりと擦り上げ、シャツのボタンを外していく。
逃げないと……そう思うのに、体が動かない。
上半身を露わなると、須賀原さんの大きい手が肌を滑り、ぷつんと尖った乳首に触れた。
「………ふ………っ!」
熱が脊髄を駆け抜けて、上半身が反り返る。
「そうだ。俺の手の中で感じろ」
分身の先からじわり濡れた体液を、須賀原さんは親指でぬるぬると押し付けるように、裏筋を滑らし、全体を擦り上げる。
「い、やだ……やめ……す、須賀原……さ、ん……」
「俺に、こうして触れられるのは……嫌か?」
首筋を須賀原さんの舌がねろりと這い、両方の乳首を片方の手で淫靡に捏ねられ、分身をゆっくりと擦り上げられる。
俺は吐息を漏らしながら、首を弱々しく振った。
「……須賀原さんに、触れられてる、から、感じてる……それが……俺には、怖い」
「……直太」
体が宙にふわりと浮いた。
須賀原さんは俺を軽々と抱え上げると、俺をそっとソファーの上へと降ろし、スラックス下着ごと引き抜いた。
「な、何を………っ!」
「俺を煽ったのは、直太、お前だ」
須賀原さんは俺の太ももを掴むと、睨み上げながら、甘く喰む。
「ん……!あ………っ!」
ヒクリと体が揺れて、もう全身が性感帯になったように、情けないくらい感じてる。
それが怖くて、恥ずかしくて身体を抱え込もうとすると、須賀原さんが力ずくで抑えた。ぬるり。分身が須賀原さんの口内に包まれる。
「須賀原さん……っ!」
須賀原さんは目を細めて、俺を見つめ、じゅうっと音を立てながら、俺の分身を擦り上げる。舌がねろりと分身に絡まり、固くした舌が、鈴口を押し広げるようにぬるぬると絡まる。
「……はぁ………ぁ……」
俺はホストクラブの従業員室で、今更ながらの行為に眩暈を覚えた。
「須賀原さ……こ、こんな……ところで……んん……っ!」
須賀原さんはずるりと、咥えた分身から離すと、そのまま、ねろりと分身に舌を這わながら笑った。
そしてソファーの下にある引き出しから、チューブ状のものを取り出した。
「どこでなら、いいんだ?」
「……………っ!」
「安心しろ。ここのホスト達はみんな、ゲイだ。誰も邪魔しない」
「え……あ……っ!や……ま、待っ……っ!」
それってどういうこと? 言葉はつなげない。
再び、俺の分身が須賀原さんの口内に含まれ、尻の窄みに、ぬるりとした指先が襞をなぞると、ゾクリ。泡肌が立った。
「あ……いや、だ……っ!」
俺が須賀原さんの顔を押しのけようとすると、つぷり後孔に異物が侵入してきた。その異物感に眉をひそめると、指がぐりっと甘く痺れる部分を押し当てる。
「待って……中やめ……、や……っ、あ……っ」
後孔がこんなに感じるなんて、知らなかった。指で内部を弄られると、かあっと分身が熱くなり、たっぷり唾液を纏った須賀原さんの口内で、ドクンと脈打ってるのが分かる。
信じられないくらい、強烈な甘い痺れが全身をまとい、俺はあられもない嬌声を上げた。
「ああああっ……っ!」
ジンジンと疼くような内部への刺激に、目がとろんとなって、息が乱れる。
須賀原さんは、綺麗な茶色い瞳で、俺を見つめたまま、執拗に感じる内部の一点を、指先で擦り上げ、口腔内で俺の分身に舌を這わせる。じゅうっと先端を吸われると腰が跳ね、背が反り上がる。
後孔をぐちゅぐちゅと須賀原さんの指先で掻き回され、口内でせき立てるように分身を上下に擦り上げられる。それは今までに感じたことのない愉悦。
「や、あ……、あ……ん……、んんっ!
足のつま先がヒクリと震えて、身体にこもった熱を吐き出したい、強い欲求に駆られ、視界が滲み、俺は首をゆるゆると振った。
「須賀原さん……っ!俺、もう……っ!……んんっ!」
部屋に響く淫猥な水音が、乱れる息が、須賀原さんの熱い視線が、我慢出来ずに俺を果てへと導いてく。
「あ、あ、あ、……くっ……うっ……!」
淫靡な光の中に飲み込まれ、漂う波の中、熱が解放される。強烈な悦楽、須賀原さんの手で、口で、イカされてしまう……!
どくん。脈打つ分身から吐き出された体液を須賀原さんは、口腔内で受け止めて、嚥下してく。
「はぁはぁはぁ……」
今まで感じたことのない、絶頂感に息が乱れて、額には髪が汗で張り付いてる。
「直太」
息の整わない俺を須賀さんが、そうっと壊れ物を扱うように、抱きしめた。ふわりと香る須賀原さんの匂い。
「の、飲んだの?」
「ああ。俺はお前の全てが欲しい」
俺はすっぽりと須賀原さんの腕の中に収まり、ドクンドクンと響く須賀原さんの胸の鼓動と、かすれた低い声に、身体の芯がぞわり。と熱を孕んだ。
お、おかしい。なんなんだこの感覚。でも須賀原さんも欲情してる。俺に触れて欲情してるんだ。
でも須賀原さんは、息の整わない俺の髪を撫で、時折髪にキスを落とすだけ。俺が欲しいと言いながら、ただ、それだけを繰り返す。ただ慈しむような、優しい抱擁に胸がギュッと締め付けられる。
須賀原さんはホストだ。まあゲイらしいけど……。それでもホストだ。整ったハーフのような綺麗な顔して背も高く、立ち居振る舞いも色香を含んでる。歳もかなり離れてる。
俺はこのまま須賀原さんに、弄ばれてしまうんだろうか。
須賀原さんの中で、微かに身じろぎすると、須賀原さんが俺に啄むようなキスひとつ落した。
息を飲むほど、綺麗な緑がかった茶色い瞳の中で、俺が揺れてる。
これから、どうなってしまうんだろう。須賀原さんに求められたら、喜んで受け入れてしまうかもしれない。そんな自分に驚いた。
俺も須賀原さんのすべてが欲しい。家族も、未来も、関係ない、ただ須賀原さんのそばに居たい。触れていたい。純粋にそう思った。
ただ須賀原さんは、俺の事をどう思ってるんだろう。俺は「好きだ」と告白された訳じゃない。
不安げに須賀原さんを見つめると、須賀原さんは綺麗に整った眉をギュッと寄せ、俺の身体にふわりと、シャツを羽織らせた。
「直太、風邪をひく、服を着ろ……ああ、貸してもらったホストの服じゃない、自分の服に着替えるんだ」
そして頭をぐしゃり、ひと撫ですると、須賀原さんは優雅な足取りで、俺から離れ、煙草に火を付けた。
かちり。火が灯ると紫煙が揺れる。
行為は終った。……そう思った。
もそり、俺は大人しく、着てきたシャツに袖を通し、ジーンズを履く。
シャツのボタンをつけていると、須賀原さんは何も言わずに、煙草の灰を灰皿に押し付けて、従業員控え室のドアを開け、扉の向こう側に消えて行った。
それは突然の事だった。
我が家に一本の電話が鳴る。
俺は夕食が出来上がるのを待ちながら、桃香とテレビを見ていて、その電話には母さんが出た。
母さんは長電話だ。電話の会話に気にも留めないでいたけど、珍しく短い会話をした後で、電話を切ってた。
電話の相手は須賀原さん。仕事が忙しくなったから、当分バレーの練習には行けそうもない。そう言った内容の電話だったらしい。
須賀原さんはホストだ。夜の仕事だ。仕事が忙しくなったからって、土日の午前中に行われるバレーの練習に、来れないと言うのは、おかしい。
―――避けられてる。
須賀原さんは、俺を避けてる。
家族の事を想えば、須賀原さんを受け入れられない。そう言ったのは確かに俺だ。だからって俺を避けなくてもいいじゃないか。
須賀原さんの緑がかった綺麗な茶色い瞳を思い出すと、……胸が締め付けられるように痛んだ。そしてなんだか、そわそわして落ち着かない。ジッとしていられない。
俺はいてもたってもいられずに、須賀原さんの携帯に電話した。
指先が震えて、なんて言っていいのかも分かってない。そんな状況だったけど、電話した。
でも……つながったのは、ガイダンス。この携帯番号は、現在使われていないというものだ。
その時、俺は悲しみよりも、ドンっとした怒りが湧いた。
なんなんだ。この一方的な扱われ方! ムカムカムカっ!! 頭に血が昇っていくのが分かる。合って、一言文句言ってやらないと、気が済まない。
でも、俺は須賀原さんと繋がってるものが、携帯番号だけなんだと気が付いて、また余計にムカムカしてきた。
一度マンションに行ったけど、場所なんて覚えちゃいない。くそう。思い出せ。須賀原さんを結ぶもの。
そして俺は、ハタと気が付いた。
そうだ! 須賀原さんの勤めているホストクラブ名前は確か……「グレイスガーデン」
俺はネットで検索してそれらしき店を調べる。そしてホストクラブ「グレイスガーデン」は、都内にひとつしかなかった。電話番号も明記されてたが、ここは直接合って一発ガツンっと「無責任な事すんな」って言ってやらないと!
俺は、地図をプリントアウトして、電車に飛び乗り、ホストクラブ「グレイスガーデン」へと向かった。
そして俺はざわめく雑踏の中、途方に暮れた。
道を挟んだ向かいの看板は「グレイスガーデン」
俺の目指していた場所だ。
でも、どうする? いきなりホストクラブに押しかけて、私用で須賀原さんを呼び出す訳にもいかない。男の俺が一人ホストクラブに入店するのも、どうかと思う。第一ホストクラブで飲める金なんて、持ち合わせちゃいない。
俺、何やってんだろ。
そう思っても、足が動かない。もう、俺と須賀原さんを結び付けるものは、この「グレイスガーデン」だけ。
怒りも失せてた。と、言うより冷静になれば、怒りを利用して、俺は須賀原さんに会いたい。そう思ってたのかもしれない。
ギラギラしたネオンの隙間を夜風が縫って、俺の身を包んだ。
どうしよう……。
着の身着のまま飛び出した俺は、かじかんだ指先を隠すように、ジーンズのポケットの中に突っ込んだ時だ。後ろから低く艶やかな男の声を聞いて、ドキリとした。
「グレイスガーデンに、何か用か?」
振り返ると、シンプルなダークスーツを着た、いかにもホストですってオーラを醸し出した、なんだか妙に威圧感を感じさせる男がいた。
「えっと……」
俺が言葉を詰まらせていると、男は煙草に火を付け紫煙を吐き出し、自分の事を、グレイスガーデンのオーナーだと名乗のる。
名乗った吉野雅人(よしのまさと)は30歳位の面持ちで、妙に魅力的だ。これならホストクラブのオーナーでも、勤められるに違いない。そう思える男だった。
俺は吉野雅人さんに須賀原さんが、本当にここに勤めているのかを確認してみると、吉野雅人さんは薄く笑みを浮かべて頷いた。
そこで俺は須賀原さんとは、バレーボールの監督とコーチだという間柄を説明し、携帯が急に繋がらなくなったから、ここまで来たんだという経緯を説明する。
吉野雅人さんは、俺の話を聞くと「店で待てばいい。なんなら働くか?その顔なら稼げるぞ」そう魅惑的な笑みを浮かべて、俺をグレイスガーデンに案内してくれた。
と、言ってもそこは、従業員控え室のような場所だ。
須賀原さんは遅番で、出勤する時間はもっと遅いらしい。どうやら俺はここで、須賀原さんを待つことになるようだ。
俺は促されるまま、ソファーに座ると「リョウ」っていう優しげな男が、近づいて来て俺に話かけて来た。俺が名前と須賀原さんの間柄を説明すると、リョウさんは目を向いて驚いてた。須賀原さんがバレーボールの監督をしてるって事が、そんなに意外な事だったんだろうか。
そして、リョウさんはすこぶる男前なのに、急に女言葉に変わり、弾丸トークが始まった。ついてけない。
そんな俺の様子を見た吉野雅人さんが、リョウさんを制して、俺にこう言った。
「時間を持て余してるなら、待っている間、ホストをしてみないか?」
俺にとったら、ビックリ仰天の展開だ。
でも、時給も破格で、慣れないこの場所でジッとしているよりは、いいかと思った。ただでさえ気持ちがざわめいて、ジッとしていられない気分だ。
よし! 体験ホスト開始!!
……っても何も出来なかった……。
白を基調にした青くライトアップされた店内は、さわさわと、さざめくように豪奢に揺れている。
そんな中で、これでもかっていう位、洗練されたホスト達が、普段一体どんな暮らししてんの!? ていうような女性客相手を華やかに、もてなしてる。
俺と言えば、貸し出されたスーツに袖を通し、そんなテーブル席に置かれて、水割りの作り方さえ知らないまま、ガチガチに緊張して、居場所なさげに座っていた。
同じ席に付いてるホスト達は、それでも構わないと言った余裕の風情で、自分たちの世界を醸し出している。
そこに何も知らない俺が、水をさすような事も出来ないし、言えない。
でも夢のような世界に俺は飲み込まれた。お客さんは現実の世界を離れて、いい男に囲まれて、いいお酒飲んで、楽しそうにしてる。
どうせなら、俺も楽しみたいな。とは思ったんだけど、この店の客層は、ハイソサエティ過ぎる。
話題についてけない。変に知ったかぶりして口を挟もうもんなら、ひんしゅくを買ってしまいそうな会話を繰り広げてる。
だから、俺はただ話をただ聞いてるだけになる。話の内容は興味深いものから、くだんね。って思う内容まで。うんうん。頷く。
お酒も勧められるままに飲み、次第に気分も良くなってくると、酔ってきてるのは、お酒のせいなのか、雰囲気のせいなのか、分からなくなってきた。でも意味もなく楽しくなってきたのは、間違いない。
俺はたいした内容も話せなかったし、ホストの接客マニュアルなんて知らないけど、ここは純粋に楽しい。
そう、思った時だ。
誰かに腕をグイッっと引っ張られた。
「ここで何をしている!?」
俺の腕を掴んで、鋭い声を出していたのは須賀原さんだった。その声でテーブル席が静まり返る。
俺は須賀原さんの本名をこの静まり返った席で、呼んでもいいのか分からず、だからってなんて言ったらいいのかも分からず、ただ借りてきた猫みたいに、大人しく須賀原さんを不安げに見つめた。
すると須賀原さんは、俺に向けていた厳しい目をゆるりと和ませて、テーブル席のみんなに、魅力的ににっこりと微笑んだ。
「すみません。指導を受け持っていたこいつが、この席に迷い込んでいたのに驚いて、熱くなってしまいました」
場がほっと和むと、ホストの一人が、ククッと忍び笑いを漏らした。
「キヨさんも熱くなる時、あるんですね」
「俺をなんだと思っている」
須賀原さんの綺麗な眉が、片方だけ上がると、テーブル席がどっと笑いに包まれた。そしてそのどさくさに紛れて、俺は須賀原さんに掴まれた腕から、体を引っ張り上げられ、従業員控え室に戻された。
従業員控え室のドアが、バタンっと音を立てて閉まると、須賀原さんはドアに鍵をかけ、俺に詰め寄ってきた。
顔がものすごく怖くて、近い。
「ここに何しに来た!?」
「な、何しにって………」
ああ。そうだ。一日体験ホストの緊張感で、何しに来てたのかすっかり忘れるとこだった!
ハタと我に返った俺は、須賀原さんを睨み返す。そうだ。俺は須賀原さんに、ひとこと言ってやりたかったんだ!
「す、須賀原さんが、仕事が忙しくてバレーの練習に来れないって、母さんから聞きました! 須賀原さんホストなのに、時間的にそんなの、嘘くさいじゃないですか! 確かめようにも携帯繋がらないし! だからここに会いに来て確かめるしか、方法がなかったんですよ!!」
「………………」
須賀原さんは、俺の質問に何も答えず、ただ射すくめるような鋭い眼光で、俺を睨んだ。
緑がかった綺麗な茶色い瞳の中に、俺が映っていた。それがゾクゾクしたような、興奮を呼び起こしてく。
なんだ……? この感じ……?
俺の唇に、間近に迫った須賀原さんの顔から、ふわりと吐息がかかった。
甘い香り。
ドクドクと溢れ出すような高揚感で、眩暈がする。
「俺に会いたかったのか」
どうにかなりそうな甘い陶酔感の中で、低く響く須賀原さんの声。ドクン。と跳ねる鼓動に、身動きが取れない。
「答えろ。直太」
綺麗な顔に見つめられて、顔が赤くなっていく。ドキドキとうるさい鼓動は、須賀原さんに聞こえやしないだろうか?
「直太」
促される声。
ああ……。もう何も考えられない。
「そ、そうだ……俺は……須賀原さんに……ただ……会いたかただけかもっ…………んっ!」
須賀原さんが俺の首に手を回し、引き寄せ力強く抱きしめた。驚いて固まってしまう俺に須賀原さんの唇が、言葉を塞いだ。
しっとりと柔らかい須賀原さんの唇が触れると、とろりと思考が溶けていく。
ああ。俺は須賀原さんにこう欲しいと、ずっと願っていたのかもしれない。触れる熱い唇がそう言ってた。
俺はゆっくりと目を閉じ、須賀原さんの背中に恐る恐る手を回すと、須賀原さんはビクリと体を揺らして、俺の腰を強く引き寄せ、角度を変えて、深く唇を重ねてきた。
深く触れ合う唇に、ゾクゾクとしたような甘美な痺れが、脊髄から尾てい骨までを走しると、唇がおかしなくらい、ワナワナと震える。
つうっと須賀原さんの指先が、脇腹をなぞり、唇の隙間から熱い舌がぬるりと侵入してきくると、体がかあっと熱くなって、体がガクガクと震えた。
そんな自分の反応に驚いて、思わず腕を軽く突っぱね、須賀原さんを拒絶するように押し戻すが、須賀原さんはそんな俺を、さらに強く抱き寄せ、深く唇を重ねる。
ぬるぬると熱く絡まる須賀原さんの舌が、口腔内を優しく何かを求めるように彷徨う。歯列をゆるりとなぞられて、唇を喰まれ、啄むように吸われる。
逆らえない。
須賀原さんに抱きしめられ、キスをされる事が、こんなにもふわふわと漂う、夢のような世界だなんて思いもしなかった。
舌が絡まり、お互いの唾液が混ざり合う。それは気持ちいいだけの行為じゃない。心が芯から震えるような行為で、俺は思わず、須賀原さんにしがみついた。
敏感な舌の先を、須賀原さんの舌がなぞり、角度を変えながら深く求めてく。
敏感な粘膜を刺激され、吐息がもれ、響く水音が妙に卑猥で、俺は須賀原さんの腕の中で震えた。そんな俺の背中を須賀原さんの指先が、するりと滑っていく。
ただ、指が這っただけなのに、ビリビリと痺れたように、俺の体はしなった。須賀原さんの指先はシャツの裾をめくり上げて侵入し、触れるか触れないかの、ゆるりとした動きの指先が素肌を滑る。
「は……ん……っ!」
甘い吐息を漏が漏れてしまう。
須賀原さんの唇が、ゆっくりと離れた。目の前には須賀原さんの熱に潤んだ瞳。
俺の薄く開いた唇は、まだ須賀原さんの唇を欲しがってるように、熱い吐息を漏らしている。
「直太、そんな顔するな。正気じゃいられなくなる」
その声にハッっとして、俺は顔を逸した。……俺は……一体、どうしてしまったんだろう。
「……直太、俺から目をそらすな」
須賀原さんの指先が、優しく俺の顎に絡みつき、俺を正面へと向けさせた。ぶつかるのは、綺麗な緑がかった茶色い瞳。触れられた部分が、熱い。
「あの……俺、どうにかして……」
「俺が、おまえを、どうにかしてやりたいんだ」
額にキスが落ちた。
瞼にも落ちる。鼻先に、頬に、優しく落ちる。吐息が溢れる。
「須賀原さん……な、なんで……こんな事……」
「俺に溺れろ」
俺が須賀原さんのシャツをぎゅっと握り締めると、須賀原さんは優しい眼差しで、俺を見つめたまま、そっと唇に啄むようにキスを落とした。
唇が離れると、お互いの吐息が唇にぶつかり合って、混ざり合う。
そしてまた、啄むようなキスを、俺に落とす。
俺の身体がとろりと溶けたようになるまで、須賀原さんは、何度も俺を見つめ、キスを繰り返す。
「どうした?」
艶やかな声が首筋に降り、そのまま耳まで滑り出す。肌に滑る吐息が熱い。
「……………っ! ど、どうもしないっ!!」
「どうもしないのか?」
不服そうな須賀原さんの声が響く。
「あ……っ!ちょ、ちょっと……っ!………んんっ!」
吐息とともに、俺のシャツに侵入した須賀原さんの手が俺の胸をまさぐり、指先が胸の突起をなぞる。耳朶のコリコリした部分を須賀原さんの唇で、甘く噛まれると、俺の体は電流が走ったみたいにビクビク跳ねて、息が乱れた。
「あ、ああ………っ!」
「どうもしないのか?」
須賀原さんは舌で、俺の耳朶をねろりと舐め上げ、熱い吐息を髪に触れた。
「ふ……っ!ぁ……ど、どうもしてる……っ! だから、やめ……っ!」
「俺に、触れられているから?」
胸の突起を優しく摘まれて、指先でコリコリと捏ねられる。全身がドクドク波無って、立っていられない。
「あ……、そ、そんなこと……知らな……あ……っ!」
首筋に落ちた須賀原さんの唇が、音を立てて強く肌を吸った。
「直太、自覚しろ」
「じ、かく………?」
また唇にキスが落ちる。今度のは深くて激しくて、熱い。強く吸われて、逃げようもないほどに、舌が絡まる。口内を激しくまさぐられ、感じる部分を見つけ出すと、執拗に責められる。
「……ん、ん……っ!」
完全に勃ってしまった乳首は、キスに相反して、優しく捏ねられ、擦られ、摘まれる。ジンッと疼く熱が下肢に集まる。ドクドクと下肢に熱がこもっていく。
唇が離れると、須賀原さんが俺を見下ろし、ゾッとするほど艶やかに笑った。
「直太は俺に触れられて、感じている」
「………………っ!!」
違うとも言えない。俺は確かに欲情してる。誰のせいだと思ってるんだ! とも言ってやれなくて、キッと須賀原さんを睨み上げると、須賀原さんの緑がかった瞳が、ゆらりと揺れた。
「直太……その顔、俺にもっと、見せろ」
「み、見なくていいです……っ!」
「素直じゃないな」
須賀原さんの指先が、スラックスのジッパーをゆっくりと下ろしていく。
「す、須賀原さ……っ! な、何を……っ!」
「俺の手で感じている直太が……見たい。大人しくしていろ」
ジッとしてろって言われて、ジッとしてられる訳が無い。俺はピタリとフィットしたスラックスが窮屈に思うほど勃っていて、そんな状態になっているのを、見られる訳にはいかない。
俺が必死で抵抗し、身をよじると、須賀原さんはするりと身を翻して、後ろから容赦なく、俺を抱きすくめた。
「い、やだ……ま、待って……っ!」
スラックスを素早く下着ごとずり下ろされる。下肢にヒヤリとした空気が触れ、そそり立った茎があらわになる。
「………………っ!」
恥ずかしくて声も出ない。かがみ込んで隠そうとしたら、須賀原さんの手が優しく、俺の分身を包み込んだ。
「須賀原さ……っ! な、何、考えて………!?」
「直太だ……。直太の事しか考えられない。こうして俺の手で感じている直太が、可愛くてたまらない」
耳元で響く声、茎を須賀原さんの手で、数度擦り上げられたら、脳が沸騰した。須賀原さんの手で興奮して、それを見られてる。息が詰まる。首筋に熱い吐息が触れる。
「直太」
低い囁きが、体に響いて、ビクリと体が跳ねた。腰の辺りに須賀原さんの昂りが当たる。
……須賀原さんも、熱を抱えてる。
「す、須賀原さん……」
「大人しくしていろ。今の俺は暴走しかねない」
ぼ、暴走って、須賀原さんが暴走したら、俺はどうなるんだろう?
俺は怖くなって身動きが取れなくなる。
須賀原さんは、俺の名前を耳元で囁きながら、俺の茎をゆっくりと擦り上げ、シャツのボタンを外していく。
逃げないと……そう思うのに、体が動かない。
上半身を露わなると、須賀原さんの大きい手が肌を滑り、ぷつんと尖った乳首に触れた。
「………ふ………っ!」
熱が脊髄を駆け抜けて、上半身が反り返る。
「そうだ。俺の手の中で感じろ」
分身の先からじわり濡れた体液を、須賀原さんは親指でぬるぬると押し付けるように、裏筋を滑らし、全体を擦り上げる。
「い、やだ……やめ……す、須賀原……さ、ん……」
「俺に、こうして触れられるのは……嫌か?」
首筋を須賀原さんの舌がねろりと這い、両方の乳首を片方の手で淫靡に捏ねられ、分身をゆっくりと擦り上げられる。
俺は吐息を漏らしながら、首を弱々しく振った。
「……須賀原さんに、触れられてる、から、感じてる……それが……俺には、怖い」
「……直太」
体が宙にふわりと浮いた。
須賀原さんは俺を軽々と抱え上げると、俺をそっとソファーの上へと降ろし、スラックス下着ごと引き抜いた。
「な、何を………っ!」
「俺を煽ったのは、直太、お前だ」
須賀原さんは俺の太ももを掴むと、睨み上げながら、甘く喰む。
「ん……!あ………っ!」
ヒクリと体が揺れて、もう全身が性感帯になったように、情けないくらい感じてる。
それが怖くて、恥ずかしくて身体を抱え込もうとすると、須賀原さんが力ずくで抑えた。ぬるり。分身が須賀原さんの口内に包まれる。
「須賀原さん……っ!」
須賀原さんは目を細めて、俺を見つめ、じゅうっと音を立てながら、俺の分身を擦り上げる。舌がねろりと分身に絡まり、固くした舌が、鈴口を押し広げるようにぬるぬると絡まる。
「……はぁ………ぁ……」
俺はホストクラブの従業員室で、今更ながらの行為に眩暈を覚えた。
「須賀原さ……こ、こんな……ところで……んん……っ!」
須賀原さんはずるりと、咥えた分身から離すと、そのまま、ねろりと分身に舌を這わながら笑った。
そしてソファーの下にある引き出しから、チューブ状のものを取り出した。
「どこでなら、いいんだ?」
「……………っ!」
「安心しろ。ここのホスト達はみんな、ゲイだ。誰も邪魔しない」
「え……あ……っ!や……ま、待っ……っ!」
それってどういうこと? 言葉はつなげない。
再び、俺の分身が須賀原さんの口内に含まれ、尻の窄みに、ぬるりとした指先が襞をなぞると、ゾクリ。泡肌が立った。
「あ……いや、だ……っ!」
俺が須賀原さんの顔を押しのけようとすると、つぷり後孔に異物が侵入してきた。その異物感に眉をひそめると、指がぐりっと甘く痺れる部分を押し当てる。
「待って……中やめ……、や……っ、あ……っ」
後孔がこんなに感じるなんて、知らなかった。指で内部を弄られると、かあっと分身が熱くなり、たっぷり唾液を纏った須賀原さんの口内で、ドクンと脈打ってるのが分かる。
信じられないくらい、強烈な甘い痺れが全身をまとい、俺はあられもない嬌声を上げた。
「ああああっ……っ!」
ジンジンと疼くような内部への刺激に、目がとろんとなって、息が乱れる。
須賀原さんは、綺麗な茶色い瞳で、俺を見つめたまま、執拗に感じる内部の一点を、指先で擦り上げ、口腔内で俺の分身に舌を這わせる。じゅうっと先端を吸われると腰が跳ね、背が反り上がる。
後孔をぐちゅぐちゅと須賀原さんの指先で掻き回され、口内でせき立てるように分身を上下に擦り上げられる。それは今までに感じたことのない愉悦。
「や、あ……、あ……ん……、んんっ!
足のつま先がヒクリと震えて、身体にこもった熱を吐き出したい、強い欲求に駆られ、視界が滲み、俺は首をゆるゆると振った。
「須賀原さん……っ!俺、もう……っ!……んんっ!」
部屋に響く淫猥な水音が、乱れる息が、須賀原さんの熱い視線が、我慢出来ずに俺を果てへと導いてく。
「あ、あ、あ、……くっ……うっ……!」
淫靡な光の中に飲み込まれ、漂う波の中、熱が解放される。強烈な悦楽、須賀原さんの手で、口で、イカされてしまう……!
どくん。脈打つ分身から吐き出された体液を須賀原さんは、口腔内で受け止めて、嚥下してく。
「はぁはぁはぁ……」
今まで感じたことのない、絶頂感に息が乱れて、額には髪が汗で張り付いてる。
「直太」
息の整わない俺を須賀さんが、そうっと壊れ物を扱うように、抱きしめた。ふわりと香る須賀原さんの匂い。
「の、飲んだの?」
「ああ。俺はお前の全てが欲しい」
俺はすっぽりと須賀原さんの腕の中に収まり、ドクンドクンと響く須賀原さんの胸の鼓動と、かすれた低い声に、身体の芯がぞわり。と熱を孕んだ。
お、おかしい。なんなんだこの感覚。でも須賀原さんも欲情してる。俺に触れて欲情してるんだ。
でも須賀原さんは、息の整わない俺の髪を撫で、時折髪にキスを落とすだけ。俺が欲しいと言いながら、ただ、それだけを繰り返す。ただ慈しむような、優しい抱擁に胸がギュッと締め付けられる。
須賀原さんはホストだ。まあゲイらしいけど……。それでもホストだ。整ったハーフのような綺麗な顔して背も高く、立ち居振る舞いも色香を含んでる。歳もかなり離れてる。
俺はこのまま須賀原さんに、弄ばれてしまうんだろうか。
須賀原さんの中で、微かに身じろぎすると、須賀原さんが俺に啄むようなキスひとつ落した。
息を飲むほど、綺麗な緑がかった茶色い瞳の中で、俺が揺れてる。
これから、どうなってしまうんだろう。須賀原さんに求められたら、喜んで受け入れてしまうかもしれない。そんな自分に驚いた。
俺も須賀原さんのすべてが欲しい。家族も、未来も、関係ない、ただ須賀原さんのそばに居たい。触れていたい。純粋にそう思った。
ただ須賀原さんは、俺の事をどう思ってるんだろう。俺は「好きだ」と告白された訳じゃない。
不安げに須賀原さんを見つめると、須賀原さんは綺麗に整った眉をギュッと寄せ、俺の身体にふわりと、シャツを羽織らせた。
「直太、風邪をひく、服を着ろ……ああ、貸してもらったホストの服じゃない、自分の服に着替えるんだ」
そして頭をぐしゃり、ひと撫ですると、須賀原さんは優雅な足取りで、俺から離れ、煙草に火を付けた。
かちり。火が灯ると紫煙が揺れる。
行為は終った。……そう思った。
もそり、俺は大人しく、着てきたシャツに袖を通し、ジーンズを履く。
シャツのボタンをつけていると、須賀原さんは何も言わずに、煙草の灰を灰皿に押し付けて、従業員控え室のドアを開け、扉の向こう側に消えて行った。
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