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葉城探偵事務所 願いを叶えましょう ⑤
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扉を開けると亨さんは、無表情な顔で出迎えた。
「大丈夫でしたか?」
生気のない声。黒曜石みたいな目の下が心なしか窪んでた。亨さんは俺に歩み寄ると、その両手で俺の頬を包み、親指で目元を撫でた。
「……泣いていました?」
「いや…泣かない。」
「貴方は泣いていることを、すぐに否定されますね。」
「泣いてない。」
俺は後ろめたさから、亨さんの目が見れなかった。
そんな俺を見ても亨さんは何があったのか、問いただそうとしなかったし、俺も言わなかった。
楓さんと過ごした時間は10分程度、少なくても「抱かれた」と思うような時間じゃない。余計な事は言わないほうがいい。
ただ「楓さんは亨さんの中に戻った」としか伝えなかった。
楓さんが消えてしまうかもしれないと思った時の、あの胸の痛みを思い出す。
あれは一体なんだったんだろう。
楓さんは、自分が消える覚悟で俺を抱こうとしてたのに。抱いても消えない状況だったのに。
俺を抱かなかった。
『晴樹の願いを、俺が叶えてあげよう。』その言葉が耳から離れない。
カタカタ。木箱が揺れた。
ちょっと驚いて、木箱を振り返ると青白い手が、オーケーサインを出してた。
準備出来たかって『手』が聞いてるんだ。俺がこくり頷くと、木箱はカタリ。揺れた。
「四ツ目ノ願イ、叶エテヤル」
四つ目の願い。誰が、何を、願ったんだ……。
息を飲む中、木箱の前に、ぽうっと光が灯った。青白い炎が燃えている。
「人魂……?」
ゆらゆらと人魂は燃えてる。その青白い炎は大きく小さく揺らいでる。
人魂は段々と大きく膨れ上がって行く。不思議と熱さは感じない。
大きく、大きく膨らんで……。そして、ぱっと炎が飛び散った。
「あぶない!」
亨さんが俺をかばうように抱え込むと、そこには聞き覚えのある声が耳に届いた。
「ふぅ。」
亨さんの腕の中から覗き込んむと、そこには見覚えのある幽霊がいた。
さらり揺れる長い髪。その頭に突き刺さった痛々しい弓矢。今にも滴りそうな真っ赤な血。
「お、落ち武者!?」
「サイレンないのに、せっしゃ、みえてる?」
「う、うん。それはもう、はっきりくっきり。もしかして、四つ目の願いって落ち武者が願ったの!?」
「せっしゃ、みえないから、かげうすい。きにしてた。チャンスとうらい。」
「…木箱開けた時にいたの?」
「そう。」
「見えないから、居るのか居ないのか分からなかった…。」
「しょうじょ、せっしゃ、みてた。でもせっしゃ、しょうねん、ちがう。」
「少女は、視えなかっただけで、落ち武者の存在を感知されていたという事ですか?」
「めは、あってた。」
落ち武者は血みどろの甲冑をガシャンっと揺らした。ぽとり。その血が落ちる。
「うかつ。うららさん、おこられる。」
以前よりクリアに見えるようになった落ち武者は、体を屈めて、落ちた血を拭った。
ハッキリ言って不気味だ。
ガシャガシャと揺れる血みどろの甲冑で血みどろの体を曲げ、頭にざっくり刺さったまんまの弓矢をガクガクと揺らして、床に落ちた血を拭いてる。
落ち武者は変に綺麗な顔立ちしてるもんだから、それが悲壮というか、滑稽というか…。
あ。どうしよう。オカルト社員が、この事務所に増えたって事になる。
えーっと 依頼人さん来たらどうしよう。驚くだろうなあ。
ドアをガチャっと開けると、そこには血みどろの落ち武者。
「せっしゃ、こわくない。」
うん。とっても不気味だよ。
んんー。オカルト事務所。お化け屋敷事務所。呼び名が変わるかな。
落ち武者は床に落ちた血を拭い終わるとそのまま膝をつきこう言った。
「これから、も、おねがい。」
きっと落ち武者は、これからもよろしくお願いします。って言いたいんだろうな。
「こっちこそ、よろしく。」
俺が手を差し出すと、落ち武者がにこり。綺麗に整った顔で笑い、手を差し出す。
俺も握手をしようと手を伸ばすと、亨さんはそんな俺の手をぎゅっと掴んで拒んだ。
「彼は姿が見えず、尾行に適してるから、雇っただけです。見えるなら、この事務所で雇う必要はありません。」
「ええ!? 」
給料も払ってないのに?それって、ひどくない!?
「落ち武者とは、そういう契約です。」
亨さんはメガネをキラリ光らせ、指で押し上げた。
「だいじょうぶ。せっしゃ、きえることも、できる」
落ち武者はふうっと消え、そしてまたしばらくして、すううっと姿を現した。
「ほら。」
「あ…。じゃ、依頼人さんが事務所に来た時は消えててね。きっと泡ふくから。」
「ぎょい。いま、だれもいない?」
「落ち武者、言ってる意味が分からない。」
「じむしょ、だれも、いない?」
「ああ。依頼人さんが居ないかどうか聞いてるの?」
「そう。」
「今はいないよ。」
「じゃあ、ねがい、かなえに、いってくる」
「え?落ち武者は、姿が見えるようにって願ったのかと思ったのに違うの?」
「ちがう。」
落ち武者は意気揚々と、甲冑を揺らしながら、応接室のドアを開けて、事務所に入ってく。俺は亨さんと顔を見合わせて、その後に続いた。
ガチャリ。扉を開くと、事務所では、まだ飽きもせず、隆盛くんと溝口さんが3DSで対戦して遊んでる。
働いてくれーって言ってやりたいが、する仕事がないんだろな。…暇だもん。この事務所。
「おおっ!ゲット!!」
はしゃいでる溝口さんと隆盛くんに、落ち武者がガシャガシャと音を立てて、二人に近づいた。
二人はその音に気がつき、振り返ると、ビックリして席から飛び上がった。
「ややっ!落ち武者殿。どうされました?見えるようになってるじゃないですか?」
「きばこ。ねがった。」
「は?」
うーん。落ち武者に説明は無理だろう。
亨さんが溝口さんと隆盛くんに、事の経緯を説明すると、溝口さんは唸った。
「私にも願いがあるんですけど、叶えてもらえますかね?」
「何を願う気?」
「ギャルのパンティ、おーくれっ!」
「……七つの玉を集めれば?」
「はるき、はるき、せっしゃの、ねがい、まだ。せっしゃ、コレ、したい。」
落ち武者は、3DSを指差すと、溝口さんと隆盛くんは喜んで、落ち武者の肩を叩き、そして頭を囲んでゲームに勤しみ始めた。
だから今勤務中だよ。…仕事はないから、別にいんだけどね。
四つ目の願い。それは落ち武者がゲームで遊ぶこと。
考えてみると、木箱に叶えてもらった願い、結果として落ち武者しか叶えてもらってない気がする。
亨さんも、俺も、楓さんも。当初願った形とは違う、結果になってる。
「やれやれ。亨さん、珈琲でも入れようか?」
「いえ。いりません。晴樹さん、少しよろしいですか?」
「ん? 何?」
俺はその時、あまりにも無表情すぎる亨さんに気付くべきだったんだ。
後悔先に立たず。
俺は何にも考えずに、事務所の扉を開けて、亨さんと一緒に仮眠室へと移動した。
7
ガチャリ。大きな音を立てて、ドアが締まると、亨さんが何も言わずに、俺をベッドに押し付けた。
「と、亨さん!?」
俺が驚いて振り返ろうとすると、亨さんは何も言わずに俺の両手をひとつにまとめ、ジーンズをずり下ろした。
「うあっ……っ!」
亨さんの指が一瞬、蕾を撫ぜたかと思うとその指が内部に侵入してきた。さっきの亨さんとの行為で、まだ中には亨さんの体液が残ってたのか、ぐじゅっとした音と一緒に、指が内部で蠢く。
「ひ………っ!あっ!」
「首筋のキスマーク、これは楓につけられたものですね。」
「………っ!」
うかつだった…! 楓さんが消えることに気を取られすぎて、そんなもの残されてたなんんて…!
「あ…う…っ!」
強く肩を噛まれた。
「や……っ!待って…っ!」
内部に侵入してくる指の数が増える。亨さんとの情事の後の余韻の中で、楓さんに触れられた熱がくすぶってる。
指が狙いをすまして、感じる部分を責め立てる。
いきなりそんなことをされたのに、かっと体は熱くなっていく。
「あ……ぁ……と…おる…さ…」
「その口で、楓の名を呼ばれましたか?」
「ちが……ああ……っ!…や、やめ……っ!」
「嘘だ。貴方はここが好きでしょう?」
じゅぶじゅぶっと音が響いて耳を塞ぎたくなる。俺が体を丸めるように突っ伏すと、俺の両手を掴んでた亨さんの手が離れ、代わりに俺の分身を握り、数度擦り上げた。
「ほら、ここも。」
「やめ…っ!…な、んで……ぁ……こん…なこと……っ!」
「貴方は何を願いました?」
ずるり。内部から指先が効き抜かれ、掴まれてた分身も開放されたかと思うと、パチン。ローションのキャップが開けられた音がする。
俺がその音に振り返ろうとすると、強引に尻たぶを開かれて、ぬるりとした指先がまた内部に忍び込む。
「傷付ける気はありません。ーーさあ。答えて下さい。」
一度亨さんを受け入れてたとは言え、増やされた指先が、圧迫感を生んでる。
「ふ……っ!あああ……っ」
体中にぶわりと汗が吹き出る。それは、快楽の兆し。俺がその熱に首を振ると、亨さんの指先が首筋をなぞる。ゾクゾクとするその感覚に身をすくめると、指先が引き抜かれて、亨さんの昂ぶりが押し当てられた。
「ま……って……あああ……っ!やめ…んん…っ!」
「貴方の願いは……?」
亨さんの楔が打ち込まれる。ゆっくりと後孔が飲み込んでいく。
「俺、の…願い、は……は…っ、あ…っ、亨さんと楓さ……ひとつに……う…あ…あ……っ!」
亨さんは揺さぶりながら、俺の分身を握りしめた。昂ぶった分身が、どくん。脈打つのが自分でも分かる。頬に当たったシーツがぐしゃりと乱れた。
「楓が、帰って来たのが…分かりました…。貴方は…統合を…願ったのでは、ない。」
「ひ……っ!あぁ……っ、」
ずんっと奥まで貫かれて、目の前がパチパチと光った。耳元に亨さんの熱い吐息があたる。
「貴方は…楓の消滅を…願わなかった……」
「………っ!」
「ずっと…貴方は私のすべてを認めて…愛して下さってるのかと…思っていました。統合を…望んでいるのかと…」
「ああ……っ!く…ぅ……っ、好き…だよ……と、おる……さ……だ…から、こんな……っ……」
愛されてる抱かれかたじゃない。亨さんの一方的な行為に眉根が寄る。
亨さんの首先が、首筋の一点に食い込んだ。ーーおそらく楓さんの残した赤い花びら。息が止まる。楓さんを拒めなかった自分を見透かされてる…!
乱暴に貫かれる痛みで、シーツを握りしめる。
亨さんの強い想いそのままに揺さぶられ、分身を擦り上げられる。拷問のように悦楽が与えられた俺の分身はビクリ、亨さんの手の中で震えて雫をこぼしてく。
「無理に統合しなくてもいい…それは私を…見ていたのでは…ないのですね……」
「く……ああ……ち、がう……」
ベッドがギシギシ揺れて、ぐじゅぐじゅと卑猥な音と、打ち付けられて肉のぶつかり合う音。
亨さんの手がシャツの中に潜り込み、俺の乳首を引っ張り、捏ねる。
後ろから貫かれて、乳首を捏ねられ、分身を上下に擦り上げられると、悦楽の海に落ちて行くのが分かる。でも落としたのも亨さんなら、救ってくれるのも亨さんしかない。
亨さんの律動に腰が揺れる。
「貴方が楓の存在を認めるなら…それでも構いません…ただ…貴方をこうして…抱けるのは…私だけ…」
「とお…る…さ……俺は…亨…さん…だけ……」
「もう…イキたくなりましたか?…貴方のお望み通り…何度でも…何度でも…私が…イカせてあげますよ」
亨さんの乱れた息が首筋に触れ、ゾクゾクとする感覚に体を反らせると、首筋をきつく吸われて、楓さんの残した花びらを消された。
そして亨さんは俺の開放目指して、感じる部分を執拗に突き回し、分身を上下に擦り合わせる。
「ああ……っ!あん……っ!亨…さ……と、おる…さ……っ!」
媚びるような自分の甘い声が悲しくて、唇を噛むけど、亨さんは、俺を許してくれない。
ぴたり。亨さんの動きが止まる。開放に向けての時間が止まる。膿んだ熱が体に閉じこもって、出したくて、出したくて、泣いて懇願するしかない。
これまで亨さんに抱かれて、愛されて愉悦を知ってしまった自分の体……。
でもこんな抱かれ方は初めてだった。
ひどい責め苦に首を振って、亨さんの名前を呼ぶ。
「晴樹さん……私を愛してる…そう言って下さい…」
言われたままに、何度も亨さんの言葉をなぞる。でもそれは開放されたいからじゃない。
本当に愛してる。
俺の気持ちが伝わってるいるのかどうか分からなくて、吐息を零しながら、振り返ろうとすると、強くゆさぶされた。
「ああ……く…う…ぅ」
どくん。と自分の中で蠢いてた熱が、外に放たれた。イキながら揺さぶられて、気持ちよさが終わらない。
はあっ。と息を吐くと、吐息が背中にあたり、ねろりと亨さんの舌が這い回る。
余韻にヒクヒクと揺れる体に、浅い律動が繰り返される。まだ終わらない。そう予告されるように、両方の乳首を亨さんは片手で、規則的に捏ねあげ、じんっとした熱に、俺は顔が赤くなるのを感じる。
イったばかりなのに、すぐに火がつくなんて……。
獣のような息遣い。ぶわりと湧き出る汗が混じり合って、亨さんの手が双珠をやんわりと包み、刺激する。
俺は女のように亨さんの楔を飲み込み、感じてる。
首筋を這う舌が乳首を捏ねる指先が、埋め込まれた楔が、体の中で熱になって、下肢に集まる。体が甘く蕩けてく。固く尖った乳首が触られるだけで、ぞくりとする。
「はっ……あ……あ……あ…」
「私の願いは………………。」
俺は沈みゆく意識の中で、乱れた息に混じって、ポツリと溢れた亨さんの言葉を聞いた。
なあに?聞こえない。
そう聞くことも出来ずに、俺は意識を手放していったーー。
誰かが大事そうに、俺の髪を撫でてる。
きっと亨さんだ。
額にキスが落ちる。
じゃあ、次にしてくれるのは、きっとキスだ。俺はうっすらと唇を開いて、亨さんのキスを待った。
するりと俺の頬を撫でる手、近づく吐息。
啄むようなキス。
俺は瞼を震わせて目を開ける。
外はもう夕暮れだった。雨が上がりオレンジ色した日差しが、窓から差し込んで来てる。
「晴樹さん…。」
目の前には亨さんがいて、俺を覗き込んでた。
夕暮れに染められた亨さんの顔は、感情を押し殺したポーカーフェイス。
そんな亨さんを俺はギュッと抱きしめた。
亨さんも楓さんも同じひとつの人間なのに、なんでこうなってしまったんだろう……。
日がゆっくりと沈んでく。
闇がーーーもうすぐやって来る。
葉城探偵事務所 願いを叶えましょう 終わる。
「大丈夫でしたか?」
生気のない声。黒曜石みたいな目の下が心なしか窪んでた。亨さんは俺に歩み寄ると、その両手で俺の頬を包み、親指で目元を撫でた。
「……泣いていました?」
「いや…泣かない。」
「貴方は泣いていることを、すぐに否定されますね。」
「泣いてない。」
俺は後ろめたさから、亨さんの目が見れなかった。
そんな俺を見ても亨さんは何があったのか、問いただそうとしなかったし、俺も言わなかった。
楓さんと過ごした時間は10分程度、少なくても「抱かれた」と思うような時間じゃない。余計な事は言わないほうがいい。
ただ「楓さんは亨さんの中に戻った」としか伝えなかった。
楓さんが消えてしまうかもしれないと思った時の、あの胸の痛みを思い出す。
あれは一体なんだったんだろう。
楓さんは、自分が消える覚悟で俺を抱こうとしてたのに。抱いても消えない状況だったのに。
俺を抱かなかった。
『晴樹の願いを、俺が叶えてあげよう。』その言葉が耳から離れない。
カタカタ。木箱が揺れた。
ちょっと驚いて、木箱を振り返ると青白い手が、オーケーサインを出してた。
準備出来たかって『手』が聞いてるんだ。俺がこくり頷くと、木箱はカタリ。揺れた。
「四ツ目ノ願イ、叶エテヤル」
四つ目の願い。誰が、何を、願ったんだ……。
息を飲む中、木箱の前に、ぽうっと光が灯った。青白い炎が燃えている。
「人魂……?」
ゆらゆらと人魂は燃えてる。その青白い炎は大きく小さく揺らいでる。
人魂は段々と大きく膨れ上がって行く。不思議と熱さは感じない。
大きく、大きく膨らんで……。そして、ぱっと炎が飛び散った。
「あぶない!」
亨さんが俺をかばうように抱え込むと、そこには聞き覚えのある声が耳に届いた。
「ふぅ。」
亨さんの腕の中から覗き込んむと、そこには見覚えのある幽霊がいた。
さらり揺れる長い髪。その頭に突き刺さった痛々しい弓矢。今にも滴りそうな真っ赤な血。
「お、落ち武者!?」
「サイレンないのに、せっしゃ、みえてる?」
「う、うん。それはもう、はっきりくっきり。もしかして、四つ目の願いって落ち武者が願ったの!?」
「せっしゃ、みえないから、かげうすい。きにしてた。チャンスとうらい。」
「…木箱開けた時にいたの?」
「そう。」
「見えないから、居るのか居ないのか分からなかった…。」
「しょうじょ、せっしゃ、みてた。でもせっしゃ、しょうねん、ちがう。」
「少女は、視えなかっただけで、落ち武者の存在を感知されていたという事ですか?」
「めは、あってた。」
落ち武者は血みどろの甲冑をガシャンっと揺らした。ぽとり。その血が落ちる。
「うかつ。うららさん、おこられる。」
以前よりクリアに見えるようになった落ち武者は、体を屈めて、落ちた血を拭った。
ハッキリ言って不気味だ。
ガシャガシャと揺れる血みどろの甲冑で血みどろの体を曲げ、頭にざっくり刺さったまんまの弓矢をガクガクと揺らして、床に落ちた血を拭いてる。
落ち武者は変に綺麗な顔立ちしてるもんだから、それが悲壮というか、滑稽というか…。
あ。どうしよう。オカルト社員が、この事務所に増えたって事になる。
えーっと 依頼人さん来たらどうしよう。驚くだろうなあ。
ドアをガチャっと開けると、そこには血みどろの落ち武者。
「せっしゃ、こわくない。」
うん。とっても不気味だよ。
んんー。オカルト事務所。お化け屋敷事務所。呼び名が変わるかな。
落ち武者は床に落ちた血を拭い終わるとそのまま膝をつきこう言った。
「これから、も、おねがい。」
きっと落ち武者は、これからもよろしくお願いします。って言いたいんだろうな。
「こっちこそ、よろしく。」
俺が手を差し出すと、落ち武者がにこり。綺麗に整った顔で笑い、手を差し出す。
俺も握手をしようと手を伸ばすと、亨さんはそんな俺の手をぎゅっと掴んで拒んだ。
「彼は姿が見えず、尾行に適してるから、雇っただけです。見えるなら、この事務所で雇う必要はありません。」
「ええ!? 」
給料も払ってないのに?それって、ひどくない!?
「落ち武者とは、そういう契約です。」
亨さんはメガネをキラリ光らせ、指で押し上げた。
「だいじょうぶ。せっしゃ、きえることも、できる」
落ち武者はふうっと消え、そしてまたしばらくして、すううっと姿を現した。
「ほら。」
「あ…。じゃ、依頼人さんが事務所に来た時は消えててね。きっと泡ふくから。」
「ぎょい。いま、だれもいない?」
「落ち武者、言ってる意味が分からない。」
「じむしょ、だれも、いない?」
「ああ。依頼人さんが居ないかどうか聞いてるの?」
「そう。」
「今はいないよ。」
「じゃあ、ねがい、かなえに、いってくる」
「え?落ち武者は、姿が見えるようにって願ったのかと思ったのに違うの?」
「ちがう。」
落ち武者は意気揚々と、甲冑を揺らしながら、応接室のドアを開けて、事務所に入ってく。俺は亨さんと顔を見合わせて、その後に続いた。
ガチャリ。扉を開くと、事務所では、まだ飽きもせず、隆盛くんと溝口さんが3DSで対戦して遊んでる。
働いてくれーって言ってやりたいが、する仕事がないんだろな。…暇だもん。この事務所。
「おおっ!ゲット!!」
はしゃいでる溝口さんと隆盛くんに、落ち武者がガシャガシャと音を立てて、二人に近づいた。
二人はその音に気がつき、振り返ると、ビックリして席から飛び上がった。
「ややっ!落ち武者殿。どうされました?見えるようになってるじゃないですか?」
「きばこ。ねがった。」
「は?」
うーん。落ち武者に説明は無理だろう。
亨さんが溝口さんと隆盛くんに、事の経緯を説明すると、溝口さんは唸った。
「私にも願いがあるんですけど、叶えてもらえますかね?」
「何を願う気?」
「ギャルのパンティ、おーくれっ!」
「……七つの玉を集めれば?」
「はるき、はるき、せっしゃの、ねがい、まだ。せっしゃ、コレ、したい。」
落ち武者は、3DSを指差すと、溝口さんと隆盛くんは喜んで、落ち武者の肩を叩き、そして頭を囲んでゲームに勤しみ始めた。
だから今勤務中だよ。…仕事はないから、別にいんだけどね。
四つ目の願い。それは落ち武者がゲームで遊ぶこと。
考えてみると、木箱に叶えてもらった願い、結果として落ち武者しか叶えてもらってない気がする。
亨さんも、俺も、楓さんも。当初願った形とは違う、結果になってる。
「やれやれ。亨さん、珈琲でも入れようか?」
「いえ。いりません。晴樹さん、少しよろしいですか?」
「ん? 何?」
俺はその時、あまりにも無表情すぎる亨さんに気付くべきだったんだ。
後悔先に立たず。
俺は何にも考えずに、事務所の扉を開けて、亨さんと一緒に仮眠室へと移動した。
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ガチャリ。大きな音を立てて、ドアが締まると、亨さんが何も言わずに、俺をベッドに押し付けた。
「と、亨さん!?」
俺が驚いて振り返ろうとすると、亨さんは何も言わずに俺の両手をひとつにまとめ、ジーンズをずり下ろした。
「うあっ……っ!」
亨さんの指が一瞬、蕾を撫ぜたかと思うとその指が内部に侵入してきた。さっきの亨さんとの行為で、まだ中には亨さんの体液が残ってたのか、ぐじゅっとした音と一緒に、指が内部で蠢く。
「ひ………っ!あっ!」
「首筋のキスマーク、これは楓につけられたものですね。」
「………っ!」
うかつだった…! 楓さんが消えることに気を取られすぎて、そんなもの残されてたなんんて…!
「あ…う…っ!」
強く肩を噛まれた。
「や……っ!待って…っ!」
内部に侵入してくる指の数が増える。亨さんとの情事の後の余韻の中で、楓さんに触れられた熱がくすぶってる。
指が狙いをすまして、感じる部分を責め立てる。
いきなりそんなことをされたのに、かっと体は熱くなっていく。
「あ……ぁ……と…おる…さ…」
「その口で、楓の名を呼ばれましたか?」
「ちが……ああ……っ!…や、やめ……っ!」
「嘘だ。貴方はここが好きでしょう?」
じゅぶじゅぶっと音が響いて耳を塞ぎたくなる。俺が体を丸めるように突っ伏すと、俺の両手を掴んでた亨さんの手が離れ、代わりに俺の分身を握り、数度擦り上げた。
「ほら、ここも。」
「やめ…っ!…な、んで……ぁ……こん…なこと……っ!」
「貴方は何を願いました?」
ずるり。内部から指先が効き抜かれ、掴まれてた分身も開放されたかと思うと、パチン。ローションのキャップが開けられた音がする。
俺がその音に振り返ろうとすると、強引に尻たぶを開かれて、ぬるりとした指先がまた内部に忍び込む。
「傷付ける気はありません。ーーさあ。答えて下さい。」
一度亨さんを受け入れてたとは言え、増やされた指先が、圧迫感を生んでる。
「ふ……っ!あああ……っ」
体中にぶわりと汗が吹き出る。それは、快楽の兆し。俺がその熱に首を振ると、亨さんの指先が首筋をなぞる。ゾクゾクとするその感覚に身をすくめると、指先が引き抜かれて、亨さんの昂ぶりが押し当てられた。
「ま……って……あああ……っ!やめ…んん…っ!」
「貴方の願いは……?」
亨さんの楔が打ち込まれる。ゆっくりと後孔が飲み込んでいく。
「俺、の…願い、は……は…っ、あ…っ、亨さんと楓さ……ひとつに……う…あ…あ……っ!」
亨さんは揺さぶりながら、俺の分身を握りしめた。昂ぶった分身が、どくん。脈打つのが自分でも分かる。頬に当たったシーツがぐしゃりと乱れた。
「楓が、帰って来たのが…分かりました…。貴方は…統合を…願ったのでは、ない。」
「ひ……っ!あぁ……っ、」
ずんっと奥まで貫かれて、目の前がパチパチと光った。耳元に亨さんの熱い吐息があたる。
「貴方は…楓の消滅を…願わなかった……」
「………っ!」
「ずっと…貴方は私のすべてを認めて…愛して下さってるのかと…思っていました。統合を…望んでいるのかと…」
「ああ……っ!く…ぅ……っ、好き…だよ……と、おる……さ……だ…から、こんな……っ……」
愛されてる抱かれかたじゃない。亨さんの一方的な行為に眉根が寄る。
亨さんの首先が、首筋の一点に食い込んだ。ーーおそらく楓さんの残した赤い花びら。息が止まる。楓さんを拒めなかった自分を見透かされてる…!
乱暴に貫かれる痛みで、シーツを握りしめる。
亨さんの強い想いそのままに揺さぶられ、分身を擦り上げられる。拷問のように悦楽が与えられた俺の分身はビクリ、亨さんの手の中で震えて雫をこぼしてく。
「無理に統合しなくてもいい…それは私を…見ていたのでは…ないのですね……」
「く……ああ……ち、がう……」
ベッドがギシギシ揺れて、ぐじゅぐじゅと卑猥な音と、打ち付けられて肉のぶつかり合う音。
亨さんの手がシャツの中に潜り込み、俺の乳首を引っ張り、捏ねる。
後ろから貫かれて、乳首を捏ねられ、分身を上下に擦り上げられると、悦楽の海に落ちて行くのが分かる。でも落としたのも亨さんなら、救ってくれるのも亨さんしかない。
亨さんの律動に腰が揺れる。
「貴方が楓の存在を認めるなら…それでも構いません…ただ…貴方をこうして…抱けるのは…私だけ…」
「とお…る…さ……俺は…亨…さん…だけ……」
「もう…イキたくなりましたか?…貴方のお望み通り…何度でも…何度でも…私が…イカせてあげますよ」
亨さんの乱れた息が首筋に触れ、ゾクゾクとする感覚に体を反らせると、首筋をきつく吸われて、楓さんの残した花びらを消された。
そして亨さんは俺の開放目指して、感じる部分を執拗に突き回し、分身を上下に擦り合わせる。
「ああ……っ!あん……っ!亨…さ……と、おる…さ……っ!」
媚びるような自分の甘い声が悲しくて、唇を噛むけど、亨さんは、俺を許してくれない。
ぴたり。亨さんの動きが止まる。開放に向けての時間が止まる。膿んだ熱が体に閉じこもって、出したくて、出したくて、泣いて懇願するしかない。
これまで亨さんに抱かれて、愛されて愉悦を知ってしまった自分の体……。
でもこんな抱かれ方は初めてだった。
ひどい責め苦に首を振って、亨さんの名前を呼ぶ。
「晴樹さん……私を愛してる…そう言って下さい…」
言われたままに、何度も亨さんの言葉をなぞる。でもそれは開放されたいからじゃない。
本当に愛してる。
俺の気持ちが伝わってるいるのかどうか分からなくて、吐息を零しながら、振り返ろうとすると、強くゆさぶされた。
「ああ……く…う…ぅ」
どくん。と自分の中で蠢いてた熱が、外に放たれた。イキながら揺さぶられて、気持ちよさが終わらない。
はあっ。と息を吐くと、吐息が背中にあたり、ねろりと亨さんの舌が這い回る。
余韻にヒクヒクと揺れる体に、浅い律動が繰り返される。まだ終わらない。そう予告されるように、両方の乳首を亨さんは片手で、規則的に捏ねあげ、じんっとした熱に、俺は顔が赤くなるのを感じる。
イったばかりなのに、すぐに火がつくなんて……。
獣のような息遣い。ぶわりと湧き出る汗が混じり合って、亨さんの手が双珠をやんわりと包み、刺激する。
俺は女のように亨さんの楔を飲み込み、感じてる。
首筋を這う舌が乳首を捏ねる指先が、埋め込まれた楔が、体の中で熱になって、下肢に集まる。体が甘く蕩けてく。固く尖った乳首が触られるだけで、ぞくりとする。
「はっ……あ……あ……あ…」
「私の願いは………………。」
俺は沈みゆく意識の中で、乱れた息に混じって、ポツリと溢れた亨さんの言葉を聞いた。
なあに?聞こえない。
そう聞くことも出来ずに、俺は意識を手放していったーー。
誰かが大事そうに、俺の髪を撫でてる。
きっと亨さんだ。
額にキスが落ちる。
じゃあ、次にしてくれるのは、きっとキスだ。俺はうっすらと唇を開いて、亨さんのキスを待った。
するりと俺の頬を撫でる手、近づく吐息。
啄むようなキス。
俺は瞼を震わせて目を開ける。
外はもう夕暮れだった。雨が上がりオレンジ色した日差しが、窓から差し込んで来てる。
「晴樹さん…。」
目の前には亨さんがいて、俺を覗き込んでた。
夕暮れに染められた亨さんの顔は、感情を押し殺したポーカーフェイス。
そんな亨さんを俺はギュッと抱きしめた。
亨さんも楓さんも同じひとつの人間なのに、なんでこうなってしまったんだろう……。
日がゆっくりと沈んでく。
闇がーーーもうすぐやって来る。
葉城探偵事務所 願いを叶えましょう 終わる。
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