葉城探偵事務所

彩城あやと

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葉城探偵事務所 第二話 ①

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第二話

 なんだか微妙な鳥の声鳴き声が窓の外から聞こえる。あれは、季節的な渡り鳥の声かな?
 梅雨の晴れ間に鳥たちが、ぎゅううっぢゅっ。と変な声で鳴いている。
 俺が叔父さんから、この葉城探偵事務所を引き継いで、早くも3週間がたった。
何も知らない俺が所長になって、この葉城探偵事務所がそれなりに運営してこれたのは、亨さん達とうららさんのおかげだ。
 だけど最近、楓さんが調査に乗り切ってくれないので、幽霊調査業務が芳しくいってない。
 亨さんも俺に気を使って何も言わないけど、経営は少し苦しそうだ。
 俺の覚悟がないかぎり、楓さんは今回の依頼も調査をしてくれないんだろうなぁ。
 俺は亨さんの横に腰掛け、目の前のソファに座る、若い三人組の男を見てそう思った。
 この三人組はさっき飛び込みでやって来た依頼人達だ。
 依頼人の三人は真っ白な包帯をところどころつけて、それでもおさまりきれない擦り傷や打ち身の跡なんかがあって、痛々しく見える。
 俺はいつも亨さんのうしろに控えて、依頼人さん達の話を聞くだけだったが、今日から亨さんの横に座らせてもらって、所長としてきちんと相談内容を聞かせてもらえる事になっている。
まぁ。ホント座って聞いてるだけで、何も出来ないし、亨さんも何も期待していなさそうだけど、たぶん所長の俺の立場を律儀に立てての行動に違いない。
 だって亨さんは常に俺に優しくて、細々と世話をしてくれる。
 隣に座ってる一見冷たそうな、カチッとビシッとした隙のない男は、俺に甘い。
 亨さんはメガネを指で押し上げて、四面四角に口を開いた。
「当社の方針と報酬内容をこちらの書類で確認頂けましたね?こちらの内容でよろしければ、今回の相談内容からお聞かせ下さい。」
 三人のうち、スキンヘッドのガタイのいい男が口を開いた。書類に目を通して、少し太い声で話し出した。
「この内容で構いません。
今回この探偵事務所に三人で来たのは、ちょっと気持ち悪い体験をしたからなんです。
その体験ってのが、10日前に俺たち三人は、日本海で翌朝早くから、波乗りをするために深夜に集まって、「トウクラ海岸」に行った時の体験です。
……ああ、すみませんブラインドを下げてもらえませんか?」
 は?何のことだろう。
 俺はいぶかしみながらも言われた通りに、ブラインドを下げる。
 部屋は薄暗くなり、三人のうちの一人がロウソクを取り出した。
 ぽう。
 薄暗い部屋に、ロウソクの明かりが灯り、不気味に揺れだす。
 なんだ怪談かよ!!
 演出にまでこだわってくれるなんて、奇特な依頼人さんだ。
 スキンヘッドの男は、ロウソクの明かり中、しっとりと体験談を語りだした。
「トウクラ峠。そこに行く途中のことです。
県境にある「ななつ峠」はご存知ですか?七つの急な勾配とカーブがあって、死亡事故が多いから、心霊スポットとしても有名な場所のことですよ。
俺たちは波乗りが目的です。何も肝試しがしたくてその道を通った訳ではありません。
でもね。
俺は視てしまったんですよ。
真っ暗な闇の中、車のライトに照らされて、道から体半分だけを出して、窪んだ眼光でこっちを見てる血だらけのヤツを、ね。
俺はハンドルを握ってました。スピードもそこそこ出てました。
道は狭くてソイツ避けて通ると、俺たちの車は海に落ちてしまう。迷ってる時間はありませんでした。仕方なくソイツを轢いて通るいしかなかったんです。あきらかにソイツは人間ではない。人間だったものーー幽霊でしたから。
でも、幽霊といってもやっぱり故意に轢いたんですから、焦りはします。
思わず、俺がぽつりと「轢いちまったけど、大丈夫かな?」って言ったら、車内のどこからともなく声が聞こえたんです。
『み え て た ん だ』って」
 ぎゃああっ!! こわい!!
 ドン引きの俺に、もうひとりの依頼人が「そうですよ」と話に割って入った。
 ロウソクの炎がゆらり。揺れた。
「俺たちにもその声、聞こえたんですよ」
「う、嘘!?」
「嘘言って、どうすんですか。
こいつがつぶやいたあと、「何を轢いたんだ」そう聞いてやろうとして、知らないしゃがれた声が車内に響いたんですよ。
しかもそれでは終わらなかったんです。その後もこいつが細くて狭い道で、何度も何度も真っ青な顔で「避けられねえ」ってつぶやいて車運転するんです。その後に、しゃがれた笑い声が車内に響くんです。
ずっと。
その「ななつ峠」を越えるまで、ずうっと。です」
 三人は青い顔を見合わせて、その光景を思い出しながら、うなずき合っている。
「まぁ。帰りは違う道を通って帰りました。だって不気味すぎるでしょう。アレはもう轢きたくない。だってアレが血まみれなのは、俺が何度も轢いたから。最後はそう思えて仕方なくなってしまってたんです」
 カチャリ亨さんがメガネを押し上げた。
「それで、ここにいらした理由は?」
 スキンヘッドの男は自嘲気味に口角を片方だけ上げた。
「ここに相談に来た理由。それは「ななつ峠」を通った七日後の事、俺は交差点で車に轢かれたんですよ。
 怪我はごらんの通り、たいしたものじゃなかったんですが、壊れた時計は七時七分七秒で止まってました」
 もうひとりの頭にぐるり、包帯を巻いた男が口を開いた。
「こいつから、事故にあった。そう連絡がきて、俺は震え上がりました。
俺も同じ七日後に車に轢かれてたんですよ。壊れた腕時計は同じ七時七分七秒」
 金髪にピアスの男が、身じろぎしてロウソクの炎を揺らした。
「俺も峠から七日後、車を運転してる時に、トラックが突っ込んできたんだ。壊れた車の時計は、七時七分七秒で止まってた。
聞いたら三人同時に違う場所で、同じ日に、同じ時間、車に轢かれてたんだ。
あの「ななつ峠」で轢いた幽霊の声を聞いたーー見た三人が、同じ「7」と言うメッセージを残されて、轢かれた。それがここに来た理由だ」
 ロウソクの火が、風もないのに、ふっと消えた。
 ぎゃぁぁ。こえー! 今晩寝られねぇ。
 体を抱きしめて震える俺の隣に居た、亨さんは音もなく静かに立ち上がり、ブラインドをシャッと小気味よい音を立てて開けた。
 外の光が室内に入り込む。
「なるほど。それは不思議な体験ですね。
その内容でしたら、初期調査としてまず、その幽霊をこちらで視ることに致しましょう。
ただ調査費用として五万円。諸事情により、その幽霊を視る事が出来ても、相談に乗れない場合もありますが、その場合でも相談料として一万円は頂戴致します。どうなさいますか?」
 三人は顔を見合わせて頷いた。
「それでいいです。金で解決するならそれでいい。それでお願いします。お祓いにも行きましたが、駄目だったみたいで、まだソイツが視えるんですよ。ソイツをホントなんとかして欲しいんです」
「……分かりました」
 亨さんは俺をチラリと見て、それでもいいかと目で合図した。
 俺がコクリと頷くと、亨さんは目を閉じて、メガネをはずす。
 やがて。
 ゆっくりと開かれた瞳は、禍々しいほどの色香を放ち、怪しい光を宿らせて、窓から射す光に揺れた。
 理知的な亨さんから、禍々しい空気を纏った楓さんへと変貌を遂げたんだ。
 甘く濃い香りが部屋に広がる。
 楓さんはきっちりと締められたネクタイをシュルッとはずし、シャツのボタンをゆるめて胸元をくつろげ、髪を優雅に掻き上げた。
「久しぶりだね。晴樹」
 楓さんは、依頼人の三人が目に入らないかのように、俺に笑いかけた。
「あのー。楓さん?」
「なんだい?」
「今回の依頼内容なんですが……」
「ああ。亨の中から、聞いてたよ」
「じゃあ……あの、視てもらえますか?」
「気が乗らないね。」
 楓さんは優雅に足を組みながら、意味ありげな流し目で俺を見た。
 薄く笑ってる口元がひどく艶かしい。
依頼達は目の前の楓さんへの変化に、目をみはっている。変化した楓さんは誰が見ても禍々しくて、その悪魔的な微笑に魅入られてしまうんだろう。誰かがゴクリと唾を飲んだ。
 確かに楓さんの見た目はすごくいい。……まあ。亨さんもなんだけど。……でも中身は自分本意で、勝手きまわりないんだよ。
 なんせ「視る」なら、俺の体にイタズラする事と交換だと言うくらいだから。
俺には所長の立場があるとはいえ、依頼の為に喜んでイタズラされるのはどうかと悩む。そこまで体を張るというのも、どうなんだろう。
う~ん。女の子なら、喜んでイタズラするのも、されるのも大歓迎なんだけど……相手が男ってのは、いただけない。
 楓さんが嫌いとかそういうのじゃないけど、男同志ってのにはやっぱ抵抗を感じる。
 そこは逆に男だろ!快楽に走ってしまえよっ!っとも思うけど、楓さんに一度でもイタズラされると、もう大事なものを失って元へと戻れない気がしてイマイチ踏み込めない。
 そう想い続けて、イタズラを二回踏み倒したので、楓さんはこの二週間「調査して欲しかったら、早くイタズラされれば?」って態度を崩してない。
 どうしたもんだろう。
 亨さんはこんな事になってるなんて知らない。俺はそんな事言ってないし……いや、一応同一人物なんだから、言えないだろう。
 そして亨さんは事情を知らないから、調査のためにメガネをはずす。
 でも俺がイタズラオッケー! なんて言うはずがないから、結局楓さんは依頼人の調査をしてくれない。
 それの繰り返しで最近、幽霊探偵事務所は、幽霊調査が出来ていない。
 亨さんも俺も視える幽霊といえば、うちに取り憑いてる地縛霊のうららさん位なので
このままでは幽霊探偵事務所として廃業になりかねない。
 ……仕方ない、俺も所長としての勤めもあるんだろうけど、今回も楓さんには悪いなとは思うけど。
 イタズラ報酬~! 踏み倒し大! 作! 戦!! 
 で行くか。
 うん。今回もうららさんに青いボール放ってもらおう。
 こんなんばっかりしてたら、楓さんもそのうち諦めてしまうかもしれないしな。 
 おおっ! ナイスアイディア! 俺って天才かも!
 俺はスッキリとした顔で楓さんに向かいぺこりと頭を下げて、こう言えた。
「ちゃんと「報酬」は支払います。だから依頼人さんの調査をお願いします」
「ふふっ。なんか晴樹あやしい。なんか企んでない?」
 楓さんはソファにゆったりとくつろぎながら、俺を見ておかしそうに笑った。
 意外と鋭い。
「俺は分かってて騙されてやらないよ。……そうだね。とりあえず今回は前払い報酬にしようか」
 俺の顔からさぁっと顔から血の気が引いてった。
前払いじゃ、ボールは使えない。イタズラされた後も楓さんでいてもらわないとダメだ。依頼人さんを視てもらわないと。
 ポチじゃ幽霊視えないだろうし、視たとしてもワンワン。しか言えないんじゃ何にも分からない。
 うわっ! そう考えると、俺は今から楓さんに、イタズラされ放題ってこと!?
 悪巧みなんて楓さんには通用しないの? でも今更断れないし。ああ。今回も後悔先にたたず……。
 どうしよう。
 いやいや、諦めたらそこで俺は終わりだ。諦めるな! 俺! どこかに逃げ道はあるはず。
 俺は考えを巡らせた。
「い、依頼人さんを待たせる訳にはいかないでしょう?後でちゃんと報酬を払いますから。ね?」
「10分」
「え?」
「君達、10だけ待てる?」
 呆然と事の成り行きを見守っていた、三人はろくでもない雰囲気に飲み込まれて、同時にコクコクとうなずいた。
 いや待たないで! さっさと解決してもらおうよ!
 ……いや待つのは俺だ。
 考えようによっては10分。10分だけだ。10分ではそう具体的な事も出来やしないだろう。ええい。乗りかかった舟だ。
 俺は唾を飲み込んで答えた。
「わ、分かった」
「ん。いい子だね。前払いで10分、残りはあとでいいよ」
 楓さんは目を細めて妖艶に微笑んだ。
「の、残り……!?」
 あ、後のは踏み倒そう。
 う。しかしこれが悪魔の微笑みってやつか。楓さんは男なのに、香り立つ妖艶さにゾッとしてしまった。
 楓さんは音もなく立ち上がって俺の手を取る。
「おいで。ギャラリーは必要ないだろう?」
 そりゃそうだ。
「君達は、少しここで、くつろいでるといい」
 楓さんが依頼人さんにそう言い放ち、俺はぺこりと頭を下げる。
 俺は所在なげに、扉を開けた楓さんの後ろについて、応接室を後にする。
 ああ……依頼人達はなんて思っただろうなぁ。
 楓さんは事務所を一度出て、隣にある仮眠室へ移動した。
 元々叔父さんの仮住まいの部屋だったが、今は仮眠室として使っていた。
 10畳ほどの部屋にはパイプベッドやテレビ、デスク、数個のカラーボックスや日用雑貨などが所狭しと散乱している。
 俺がたまに昼寝……じゃなかった、仮眠をとるのでうららさんがシーツなんかを洗ったり、ざくっとは掃除してくれるけど、私物だらけのこの部屋は、叔父さんか亡くなってから俺は遺品整理をしていない。ごちゃごちゃと散乱したままになってる。
 何か探偵業務に必要なものがあって気が付かずに、捨ててしまう事がないように、片付けてないって理由もあるんだけどね。
 ただ引き出しに入ってあるアダルティグッズは探偵事務所には関係なく、きっと独身だった叔父さんの趣味だったんだろうな。……叔父さんはこの部屋で、一体何をしてたのやら。
 楓さんはムッと熱気のこもった部屋に、エアコンのスイッチを入れ、快適な部屋へと変える。
「さあ、そこに座って」
 俺は楓さんの言われるまま、パイプベットに腰掛ける。
「か、楓さん10分でナニするんですか?」
「そうだね。んー。何して欲しい?」
 え!? 俺に聞く!? そうだなぁ。
「……日常会話?」
「ふふっ。日常会話? 例えば亨のヤツが、晴樹が屈んだ時にちらりと見える可愛い乳首に、目のやり場に困ってるよ。とか?そういう話が聞きたいのかい?」
「な、な、なっ…! 亨さんはそんな人じゃない!」
「んん? ホントの事だよ。あいつの頭ん中、晴樹、晴樹、晴樹。晴樹でいっぱいだ。知らないのかい? ふふっ、まあ、そんな亨の話なんかどうでもいいよ。……そうだね。やっぱり俺が何をするか決めよう」
「な、何する気ですか?」
「キス」
 楓さんは艶然と微笑んで、俺の両手に指を絡ませそのままベットに押し倒した。
 間近に迫る、綺麗に整った妖艶な笑顔。
「か、楓さん……」
「ああ。いいねその顔。赤くて可愛い」
 楓さんは熱い吐息をもらし、俺の喉から顎、頬へと唇を落とした。
 小さく音をたてて何度もキスされると、何だか意味もなく胸がせつなくなる。楓さんは瞼から眉、眉間にも何度も口づけた。
「……は……はなして……」
「なんで? キスしてるだけじゃない」
 楓さんはくすりと耳元で笑って、そのまま耳朶を吸った。そしてゆっくりと唇を重ねて、俺の唇を軽く吸う。焦れったいほどにソフトなキスだった。唇の裏を舐められ、歯列をなぞられて、瞼が震えた。
「……ふっ……」
 唇の間から漏れる自分の声に驚く。
「あっ……い、いやだ……」
 俺が顔を背けると、楓さんがくすりと笑った。
「晴樹は緊張してるのかい? ではその緊張をほぐしてあげよう」
 楓さんがゆっくりと立ち上がり、デスクへと優雅な足取りで歩いて行く。
 何をする気なんだろう。
 俺は、どうしたらいいか分からずに、両手で顔を覆った。
 ……ああ。このむず痒いような気持ちは一体なんなんだ。妖しい楓さんに飲み込まれてしまいそうになってしまう。駄目だ! 俺しっかりしないと。
 流されてしまわないように、俺がフン! と気合いをいれてると、ギシッとベットのきしむ音が聞こえて、楓さんが顔を覆ってた俺の手をそっとシーツに縫い付けた。
 楓さんのとろりとした顔が俺の顔に近づきキスは再開される。
「前払い報酬」その文字が頭に浮かんで、逆らえないままでいると、少し強引に俺の唇の隙間からぬるりと舌が入ってきた。
「…………!」
 舌と一緒に甘い液体が口の中に流れ込む。少し痺れるような甘い液体は口の中に広がり、楓さんの舌が強く絡まってくる。絡まる舌に身を震わせると、ごくり。その液体を嚥下してしまった。
「な、何!?」
「葉城が使ってた媚薬だよ。あいつは年の割に可愛い顔して、色々女に使ってたからね」
叔父さんが!?
 ちゃぷん。と小さな硝子の小瓶を振りながら、楓さんがくすりと妖艶に笑った。
「さぁ。これで晴樹の緊張もほぐれる」
「く、薬なんか使うなんて……! 信じられない!」
「ああ。外道だった葉城の甥っ子とは思えないセリフだね。可愛い顔して、その顔のままスレていない。晴樹はいいね。ふふっ。さぁ、少し早いが依頼人の元へと戻ろう。……薬は15分程で効いてくる。その間に依頼人の調査を済ませようか。……晴樹、おいで」
「触るな! 卑怯者…!」
 俺が調査終わってからも逃げられないように薬まで使ったのか!?
 俺が手を振り払うと、楓さんは綺麗に整った眉を片方上げて、それから不思議そうに首をかしげ、ガラスの小瓶に入ってる液体を一口飲んだ。
「ほら。これで晴樹と同じだ」
 楓さんはふわりと艶やかに笑って、俺に手を差し伸べてきた。
 ……ズレてる。
 俺が自分だけ薬を飲まされて怒った。と思ったのか?
違う。俺は、楓さんが依頼を済ませても、俺を逃がさないように媚薬を使って縛りつけた。そう思って怒ったんだ。
 ……俺には思いあたる節がある。はじめから、楓さんにイタズラされる気なんて、俺には毛頭ないんだ。
 うっ……それって、卑怯者はどっちなんだろう……。
「晴樹? さぁ、行こう」
 悠然と微笑む楓さんに、俺はため息をついて応接室に向かった。
 これ以上依頼人を待たせる訳にはいかない。



 応接室に入ると楓さんは、三人をぐるりと見回して、妖艶に微笑み口を開いた。
「峠にいたって幽霊、髪が肩まである女の人だね?」
「そ、そうです!」
「ふーん。ソレ、道から体半分出してたんじゃないね。単純に体が半分にちぎれているんだ。……ああ。睨まれた……ん? 何言を言っても、俺には聞こえないから無駄だよ。」
 楓さんは楽しそうに宙を見上げてくすくすと笑ってる。
 げげっ! なんか不気味。そこに居るのかよ。……三人も同じだ。顔色がハンパなく悪い。
 それでもスキンベッドの男がおずおずと口を開いた。
「あの……これから、どうすれば……」
「んん? どうしたいの?」
「あ……お祓いして下さい」




 第二話 ②につづく
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