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第4章 男達の、視線の牢獄
漂い始めた、不穏な空気
しおりを挟む眠れないと思っていたが、いつの間にか寝入っていたようで、早朝になって、沙織は目を覚ました。
三人を起こさないようにトイレに行って顔を洗って歯磨きして、化粧するか一瞬迷って結局やめる。
地上へ戻ると、沙織は目を瞬いた。
「え……? 西島さん……?」
「ああ、うん、どうかな」
そう言って、西島がはにかんだ。
沙織は目を丸くした。
あんなにもじゃもじゃ伸びていた西島の髭が、綺麗に当てられていたのだ。
髪も短くなっている。
「宮代さん、俺の髭とか髪が怖いのかなと思って。ずっと男だけでいたから、見た目とか全然構わなくなっててさ。でも、宮代さん、穂高は大丈夫みたいだったし。やっぱり女の人はああいうの嫌かなと思って……」
(……あ、あたしのため?)
二重に驚き、困惑した。
どうやら、隠そうとしていても、沙織が西島達を怖がっているのは伝わっていたらしい。
髭を剃って出てきた西島の顔は、思っていたよりも優しげだった。
顔の造形は整っていて、顎や鼻筋もがっしりとした強さが感じられる。
佐伯はきっともっと若い頃は女の子みたいな顔立ちをしていただろうが、西島の顔立ちは、彼とは正反対に男らしかった。切れ長の眼元には、彼の賢さや俊敏さが表われているようだった。
こちらの反応を西島が窺っているのに気がついて、沙織ははっとした。
自分のために髭を剃ってくれた西島を何とか喜ばせようと、沙織は躊躇いがちに頷いた。
「あ、えっと……、似合ってると思います。あの、あたしはその方がいいです。その……西島さんが面倒じゃなければ」
「そう? ならよかった」
ほっとしたように、西島が微笑んだ。
その笑顔は彼を少し幼く見せて、何というか……可愛らしかった。
西島が自分のことを懸命に考えてくれたのがわかって、沙織はかすかに胸が温かくなるのを感じた。
「あーよかった。宮代さんに笑われたらどうしようかと思った」
「笑わないですよ、そんな、絶対」
本当に安堵した様子の西島を見て、沙織は思わず微笑んだ。
(子供を思い出す……、かも)
上の子はもうだんだん沙織に素っ気無くなってきたけれど、下の子はまだ小学校低学年だ。甘えたい盛りで、沙織のご機嫌(きげん)をすぐ取ろうとする。
(……そっか。息子に対するみたいにすればいいんだ)
そういえば、昨夜の佐伯の話しかけ方も息子に似ていると思ったんだった。
よし。その路線でいこう。
すると、佐伯も起きてきた。
「おはよー。……え、修二? うお、早起きしたと思ったら、髭剃ってたのかよ」
「うん。宮代さんが怖がるかもしれないと思ってさ。彰人も、これからは穂高を見習ってちゃんとしろよ。女の人がいるんだから」
「へー……」
細めた目で佐伯が西島を見て、それから沙織を見た。
それは何となく、嫉妬……めいた目つきだった。
沙織はまた、男の厄介な性質を思い出した。
男は狩猟の生き物だとかで、……ライバルがいると余計にムキになるのだ。
それも、こういう自分に自信があるようなタイプの男達だと、……特に。
慌てて、沙織はまた口を開いた。
「何だか、うちの息子のこと思い出します。あっ、上の子なんですけど。最近髭が生えてきたから、処理に困ってるみたいで……」
何とか笑い話に持っていって、沙織はほんの少し漂った剣呑な雰囲気を流そうとした。
すると、西島が首を傾げた。
「上のお子さん? 何歳だっけ?」
「小学六年生なんですけど。あたし、女姉妹だったから、髭剃りとかってよくわからなくて。あ、でも、怪我しないでくださいね? 髭を剃った時ってよく血が出たりするみたいだから、化膿したら大変だし……」
一生懸命所帯じみたお母さんな話題を持ち出して、沙織は冗談めかして笑った。
自分が馬鹿みたいに思えて、目玉がぐるぐるまわっている気がした。
そのうちに顔を洗った永瀬も現われて、四人は朝食を済ませた。
全員集まると、沙織が頑張って喋らなくても話好きらしい西島か佐伯がいつも何か喋って笑っていた。
永瀬はやっぱり無口なようで、沙織と同じく二人の会話に耳を傾けている。
……けれど、笑い話が始まってもなお、四人のどこかに、不穏な気配がいつまでも少しだけ流れ落ち続けていた。
---
読んでいただいてありがとうございました!
6/15追記:6/16~電子書籍販売に伴いまして、本日試し読みエピソードを本エピソードまで残して公開終了いたしました。
お読みくださった皆様、お気に入り登録、エール、いいね、しおり、そして感想をくださった皆様、本当に嬉しかったです!!
当作はマイナージャンルを超えてほぼ見ないジャンルの内容でしたので、反応をいただけただけで本当に幸せでした!!!
電子書籍販売サイト等の告知は明日当作品の新エピソードとして公開いたしますので、よろしくお願いいたします!
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