11 / 15
第3章 赤い炎に照らされて
縮む、距離感
しおりを挟む「ね、宮代さんは? 何してる人だったの?」
ビールでもう目のまわりが赤くなってきている佐伯に話を振られて、沙織は目を白黒させた。
「えーと、あたしも結婚してて、小学生の子供が二人いて。歳は、この中で一番上だと思います。次は三十八です。夫とは、結婚十……三年目だったかな。
家で普通にお母さんやってました」
いい歳のおばさんだと早めにアピールしないと居心地の悪さが残りそうだったので、沙織はさっさと年齢と実情を告げた。
すると、佐伯が目を丸くした。
「へー。子供いるんだ。若いね、宮代さん」
「いや、全然若くないです。佐伯さん達とは違いますよ。髪とかも、白髪凄いし」
ぶんぶん横に手を振って、沙織は被りっ放しだったキャップを取った。
帽子を被っているから、白髪がぐんぐん伸びているのが見えないのかもしれない。
「生え際とか酷いですよ。子供産んでからほんと凄くて、年取っちゃったなあって」
何とか沙織が冗談めかして笑うと、すぐに西島が首を振って否定した。
「全然気にならないって。若いよ、ほんと。俺も最初会った時、同い年か年下かと思ったし」
「うん。ていうか、宮代さんって可愛いと思う」
佐伯が続いてそう頷いて、西島がさらに言う。
「宮代さん美人だし、そんな大きい子供がいるようになんてちっとも見えない」
二人の反応に、沙織は驚いた。
「いえっ、あの、可愛いとか美人とか、絶対ないですから……っ。本当にそんな、気を遣わないでください」
お調子者らしい佐伯のみならず、西島までもが見え透いたお世辞を言うので、慌てて沙織は話を逸らした。
「ええと、あの……。永瀬さんって、お子さんはまだなんですか? あっ、でも去年結婚したばっかりですもんね。なら……」
すると、向かいで飲んでいる永瀬が一人静かに答えた。
「いや、奥さん妊娠してまして」
「あ……。じゃあ、心配ですね」
まずいことを聞いてしまっただろうか?
でも、家族を心配する気持ちは沙織も同じだ。
すると、佐伯が缶ビールを傾けて言った。
「だけどさあ。こうも誰とも会えないと、どうしたらいいかわかんないよね、実際。
だから、宮代さんのSOS見た時さ、俺ら全員でガッツポーズよ? やっと人に会えたー! って。しかも、こんな可愛い女の人だし」
「そうそう。この辺探しまわって宮代さんの声が聞こえた時、本当に嬉しかった。無事に見つけられてよかったよ」
西島も頷く。
「見つけてもらって、本当に感謝してます。一人じゃもう、どうなっちゃうんだろうってばっかりでしたから」
沙織は、膝に額をつけるようにして頭を下げた。
それにしても、……盲点だった。
SOSに、年齢も書いておくべきだった。
名前だけ書いたら、確かに若い女と勘違いしてもおかしくないかもしれない。
彼らはたぶん、名前の字面だけで沙織が若い女だという印象を先走らせて、今もそれを引きずっているのだ。
可愛いだの美人だのなんて、彼らに会うまで久しく言われたことのない台詞なのに。
特に、こんな年下の若い男を相手には……。
「あのう……。青森からここまで歩いてきて、本当に誰とも会わなかったんですか? たとえば、その……行き倒れた人とかにも?」
沙織が訊くと、西島が神妙な顔になった。
「そう、なんだよね。がっかりさせて申し訳ないけど……。青森から来たから、山とか森とかいろいろ見たんだけど、動物とかは普通にいるっぽい。なのに、人間だけがいないんだ。宮代さんもおんなじ風に感じたと思うけど……。……死体とか、そういう形跡も一切なくて。俺らがいた施設くらい深い地下スペースがある建物もいくつも見つけたんだけど、誰もいなかった。
何があってこうなったのか、本当にちっともわからないんだよ」
……話しているうちに、地面に着いている西島の手がだんだん沙織に近い辺りに来た。思わず目を焚き火の方にやると、今度は佐伯と目が合う。どうやら、ずっと沙織を見つめていたようだ。
佐伯の目尻が、笑いを含んでいるように垂れている。
「本当に、不思議だよねえ」
酔いがまわってきているのか、両隣の男は、……どちらも少しずつ沙織の方に距離を詰めてきているようだった。
「ということは……。地下にいたから生き延びられたってわけじゃないのかもしれないですね、あたし達」
沙織は目を瞬いて、縮んだ距離感に気づかない振りをして小さくなって、また焚き火を眺めた。
「うん。そう思う」
佐伯の向こう隣に座っている永瀬が、沙織を見て頷いてくれた。
「積もった大雪が解けるのを待って、東北の大規模な街とかをまわって東京まで歩いて、やっと一人見つけたわけだけど。でも、さすがにもう何人かくらいは生き延びてるんじゃないかと思いたい。どこにいるかはわからないけどね」
「そうですね……」
何となく、永瀬は、西島と佐伯に挟まれて沙織が困っていることを察してくれているような気がした。
♢ 〇 ♢
……いざ寝るという段になって、どうなることだろうとハラハラしていたら、西島が寝袋を貸してくれた。
「え、でも……。西島さん、寝袋あるんですか」
「ない。から、どっかで探そう。地下まで店舗があるホムセンとか、あとはどっかの避難所とかがあれば、こういうのは絶対見つかるから。それまでは、宮代さんは寝袋使って。俺らは、交代で寝袋使うから」
「そうそう。気にしないで」
佐伯も頷く。
何度か押し問答して、永瀬にも諭されて、沙織は三人から少し離れたところで寝袋に潜り込んだ。
寝袋の中は、西島の匂いがした。
……何だか、最初に会ったあの時のように、西島の力強い腕に抱きしめられているような気がした。
---
読んでいただいてありがとうございました!
もしよろしければ、この後もぜひぜひ読んでみてください!
33
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
本命彼女はモテすぎ注意! ~高嶺に咲いてる僕のキミ~
玉水ひひな
青春
【あらすじ】
日南菜緒(ひなみなお)は人目を惹くほどに際立った美少女だが、とある理由から男の子が大の苦手になってしまった。
男の子からモテすぎるくらいにモテる菜緒だが、彼氏は要らないと思っていた。
そんな男達にとっては『高嶺の花』な菜緒に恋をしたのは、同じ学校に通う桐生翔真(きりゅうしょうま)。
翔真がプロを目指して打ち込んでいるスポーツを菜緒がたまたま好きだったことから、距離が近づく二人。
だんだん絆を深めていくが、ある時恐ろしい事件が二人を襲って……!
---
本作は、今年がビッグイベントのあるスポーツイヤーということで、【憧れのスポーツ選手の本命彼女になっちゃうような女の子を主人公にした小説を書きたい!】というところから着想した少女漫画風TLです!
前半の高校生編には「こんな青春送りたかった!」的な憧れを詰め込みまして、R18要素は主には後半からです。序盤は展開が遅く感じるかもしれませんが、お時間がある方は読んでいただけたらとても嬉しいです。
今回も、前作同様便宜上ヒーローがやっている競技は【スポーツ】とだけ記載してぼかしてあります。皆様のお気に入りのスポーツ選手との高校時代からの恋愛ストーリーとして妄想していただけたら幸いです。
今回のイラストはものかわ様にお願いしました!
素敵なイラストを描いていただいて感謝です! やっぱりイラストがあるとモチベーションが違います…!
※※読む前の注意事項※※
当作は試し読みです。
完結までのフル分量は13万字超で、DLsite、FANZA、BOOKWALKERにて電子書籍販売中です。
金額は前作分冊2同様税抜き500円です。
もしよろしければ、公開中の試し読みだけでも読んでいただけたら嬉しいです!
他にも女性向けで2作品上げていますが、特にアスリート好き、筋肉好きな方がいらっしゃいましたら、『目が覚めたら世界が崩壊していて、女に飢えたイケメンアスリート達に助けられました』を読んでいただけたら嬉しいです。
また、書き手の活動方針につきましては、近況ノートの「あらためて自己紹介をいたします!」という記事にまとめてありますので、もしよろしければお読みいただけたら幸いです。
11/20追記:kindleとpixivboothでも販売開始しました!
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる