目が覚めたら世界が崩壊していて、女に飢えたイケメンアスリート達に助けられました

玉水ひひな

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第1章 世界にただ一人、取り残されて

瓦礫の街の探索

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 ……それからはもう、地獄みたいな毎日だった。
 誰にも会えない。
 誰もいない。
 自分しかいない。
 世界にたった一人、自分しか。

 ……あのコンビニが、沙織の拠点となった。

 売り物の軍手を拝借して、コンビニの控え室に転がっていたリュックサックを引っ張り出し、友達と会うために着ていた淡い色のシャツに細身のデニム、厚手のカーディガンという出で立ちで、日のあるうちは崩れ切った地上を歩きまわって人を探した。履いていたパンプスは脱ぎ捨て、これまた控え室で見つけた運動靴を拝借した。日差し避けに、黒いキャップも借り出して。
 夜になると、あのコンビニに帰って売り物の非常用アルミシートにくるまって一人寝た。

 記憶にある最後の日は、三月初旬。
 今はたぶん、その少し先の季節なのだと思う。


 何度も、何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、救助が来る夢を見た。


 夫や子供達に再会する夢を見た。
 大泣きして喜び合う夢を見た。

 ……でも、全部夢だった。
 目が覚めれば、沙織は一人きりだった。

 一人きりで絶望していても、お腹は空くし、トイレにも行きたくなる。
 ……生理も来る。
 こうなる前はピルを飲んでいたから、久しぶりに見る経血の量に沙織は辟易へきえきとした。

「……うわ、最悪。血って、こんなに出るんだっけ……」

 ……トイレは、何とか駅舎のものを使うことができた。水さえ確保できれば、流すことができたから。
 水は、地上でも崩壊した駅舎地下でも、あちこちから流れ出ていた。


「……誰か、誰かいませんかー⁉」


 時折、沙織は崩壊した街の真ん中で大きな声で叫んでみた。
 ……けれど、一度も返事はなかった。

「……家に帰る道、瓦礫で埋まってるじゃない……」

 沙織は、ぽつりとそう呟いた。
 自宅へ続く方面を瓦礫の山がはばんでいるのを見たその時に、家に帰るより、まずは誰か他の人と会うことが先決だとわかった。


 それ以降、沙織は瓦礫の街を歩きまわって、辿り着いたあちこちにSOSの目印になる旗を立てた。
 コンビニから持ってきた紙を、その辺に落ちている棒切れに貼りつけて。


【SOS。○○区住民・宮代沙織、生きています。この先まっすぐ、××駅にいます】


 つたない英語力も駆使して同様の英文も添えて、あらゆる方向の崩壊した道路上に旗を立ててまわった。
 ……けれど、一向に助けは来なかった。

 日を数え始めて、あっという間に二週間ほどが過ぎた。

 面倒だったけれど、この頃から日焼け止めは欠かさずに塗った。
 沙織は昔から肌が弱く、日焼けしても肌が真っ赤になるだけで、黒くはならない。
 代わりに、火傷やけどみたいになってしまうことがあるのだ。
 何かあっても病院も医者もない現状では、怪我や病気を予防するための手間は惜しまない方がいいと思われた。


 そんな風に、何とか以前の日常に近い暮らしをして理性を保ちながら、それでもふと家族の安否を思うと、無性に不安と恐怖に駆られた。

(――皆! 皆、どこにいるの……⁉)

 ……気が狂いそうなほどに悩んで苦しんで至った結論は、〈考えちゃ駄目だ〉ということだった。
 
 それでも考えてしまう夜は、そんなに好きではなかったアルコールに浸ってコンビニに置いてあった漫画雑誌や週刊誌を擦り切れるまで読み明かした。
 こうなる前は興味もなかったのに、今はエンタメやフィクションがとても助けになった。
 自分でも可笑しいくらいにケラケラ大声で笑って、泣いて、寝た。
 ……人間には、逃避先が必要なのだ。


(……パパぁ……。パパに……、会いたいよぉ……)


 まだ幼い息子達を愛している。
 ……しかし、それ以上に沙織は夫を愛していた。

 世界がこんな風になってしまったというのに、夢に夫が現れた夜は、沙織はそのまま自分で陰部を慰めた。
 妄想の中で、自分の指が夫のそれに変わる。

(……『沙織ちゃん、遅くなってごめん。もう大丈夫だよ。俺が絶対守るから、何にも心配いらない』)

 どっぷり依存していた夫の声を脳内で作り出して、滴ってきた愛液に指を濡らして、沙織は陰核を撫でた。

「は……、んぅ……」

 ころころと指先で陰核を転がし、ほんの少し爪で当てて強く刺激し……。膣内にまで人差し指を挿入すると――。

「あ、ぁん、んっ……」

 沙織の身体を熟知した夫の指が、中の浅いところを刺激する。陰核と一緒に擦ると、……あっという間に沙織は果てた。

「あん、あぁんっ……」

 ……久しぶりの絶頂は、こんな状況なのに、悲しいほどに気持ちよかった。
 夫が恋しくて、現実が恐ろしくて、逃げたくて。
 その晩からは、沙織は毎夜自慰に耽った。
 週刊誌や漫画雑誌に載っている卑猥な男女の絡みを見てすることもあった。
 孤独のあまり、……本当に頭がおかしくなってしまったようだった。


 ♢ 〇 ♢


「旗を立てたより、もっと先まで行ってみようかな……」

 そう考えついたのは、目が覚めてから一か月目のことだった。
 あのコンビニを離れるのは怖かったが……、地下をいくら歩きまわっても、生きた人間とは会えまいと感じた。

「……大丈夫。誰もいないんだもん。遠くに行ったって、ここに戻ってくれば怖いことなんかないよね」

 旗を立てたさらに先まで歩いて、そこにもさらに旗を立てて、近くの建物の影で座り込んだ最初の夜は怖くて眠れなかった。
 けれど、コンビニに慌てて戻ってまた探索に繰り出して、そんな夜を三度もこなすと、……やっぱり慣れた。

 人っ子一人、犬一匹いない。
 沙織以外、本当に誰もいなかった。

 もしこれが、日本だけを襲った異常事態なら、海外からとっくに救援が来ているはずで……。
 この東京という大都会にすら、その兆候がないということは……。


「う、うぅっ、ひ、っく、うぅ……」


 その先を考えるのをやめて、沙織はさめざめと泣いた。



 ……もしかすると、沙織は世界にたった一人取り残された、人類最後の生き残りなのかもしれなかった。




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読んでいただいてありがとうございました!
もし本作の続きが気になってくださった方がいらっしゃいましたら、引き続きぜひぜひ読んでみてください!

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