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3.校内ベストカップル

初めてのキスも、あたしとしてほしかった

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 泣きながら瑠衣にSNSで相談すると、やがて返事が来た。

〈――いやいやいや、ちょっと待たんかーい! よー考えーや! 出会う前のことはどうにもならんて! ……いや、菜緒の気持ちはわかるよ? めっちゃわかる! だけどさ、そんなん言われたって桐生も困るって。過去は変えられないんだからさ。……はっきり言うぜよ。ぶっちゃけあたしが思うに、菜緒が悪いわい〉

「……」

 親友にスパッと斬られて、菜緒はなぜだか逆に安心した。
 急いで、菜緒は瑠衣に返事を返した。

〈やっぱり、瑠衣ちゃんもそう思う? ……でも、もやもやするの止められないよーっ〉
〈まあ、そうなっちゃうよね。いや、あたしもほんとに菜緒が言ってることもわかるんだよ? けど、そんなにもやもやするのって、桐生のことちゃんと好きになってるからじゃない?〉
〈そうなのかな―。……あたし、瑠衣ちゃんとこがほんと羨ましい。お互い初カレカノで、お互いファーストキスでしょ?〉
〈まあな〉
〈やっぱり最高だよねー、それ〉
〈とはいえ、だよ? 桐生だって相当菜緒のこと大事にしてると思うよ? 一年もキスすら待ってくれるとか、結婚まで手ぇ出さないとか、マジで菜緒好きじゃないと耐えられないから〉
〈うん……〉
〈このことで別れるかどうかで考えな。別れていいなら、気持ちのおもむくままに当たり散らせ。別れたくないなら、これ以上は言わない。これがワイの最適解さいてきかいや! オッケー?〉

 ……なるほど。
 瑠衣はやっぱり大人だ。

 菜緒は考えに考えた。
 これが翔真と別れたいくらい嫌なことだったのかどうか――……。

 ……つら過ぎて別れたい、半分。
 ……やっぱり好きだから別れたくない、半分。

 ――だと思った。

「……だってさぁ。そもそも、あたし、別に彼氏欲しいとか思ってなかったし」

 勝手な方の菜緒が、感じ悪く唇を尖らせる。
 翔真が言うから、付き合ってことにしたのだ。

 ……でも、翔真を思いやり、彼を好きな方の菜緒の意見は違った。

 今日まで翔真が菜緒の気持ちを尊重して何もせずに本当に友達のような感じでいてくれたことを思うと……、過去のことを怒って別れるのは申し訳ないと思えた。

 そういう翔真のことを、『まだお互い高校生だし、もう別に我慢しているとかでもなく、本当に納得してくれて付き合ってるから大丈夫だと思う』と瑠衣に以前言った時に滅法めっぽう怒られたのも効いている。

 瑠衣は、『菜緒が無理なら相手に合わせてキスとかエッチとかしない方がいいよ、絶対』といつも言うけれど、同時に、『それはそれとして、桐生の優しさに対する感謝は忘れちゃ駄目! 勝手にノーカンにすんなー』と口酸っぱく付け加えた。

 さらには、瑠衣の彼氏の敬ちゃんもほぼ同意見だそうで、『日南氏の気持ちが一番大事なことですから、そこを曲げる必要は絶対にありませぬが、日南氏を尊重していらっしゃる彼氏殿は本当に真剣に日南氏を想っておられるであろう旨、どうぞゆめゆめ忘れてやらぬよう、同じ男としてお願いたてまつる』……とのことで、このありがたいお言葉も地味に効いている。
 

 すると――、ふいに翔真から電話がかかってきた。
 びっくりして、菜緒はつい反射的に電話に出てしまった。
 電話越しに、翔真の声が聞こえてくる。


『……あ、ごめん。菜緒ちゃんの声聞きたくて、つい電話してしまった。……今って、ちょっと話しても平気?』

「うん……」


 菜緒が頷くと、少しの間沈黙が流れて……やがて、二人同時に口を開いた。


『「今日はごめん!」』


 菜緒が驚いていると、翔真が先に話し始めた。

『あの、今日は傷つけてしまって、本当にごめん。そういうことって、言った方がいいのかどうか、ずっと考えてたんだけど、わからなくて。でも、菜緒ちゃんを泣かせてしまって、本当に後悔してて……。俺、菜緒ちゃんと会う前は、付き合うとか好きとか、たぶん本当はよくわかってなかったんだと思う。だから……』

 自分勝手で――、さらに潔癖けっぺきな菜緒が出てきて、翔真の言葉尻ことばじりを捕らえて怒る。

「……よくわからない子と、キスしちゃ駄目だよ」

『あ、いや……。付き合ってる時は、その……。その人のことを好きだとは思ってました。でも、あの、あなたと会って、あの気持ちは本物じゃなかったと気がつきました』

 翔真が言う。
 それから、二人はしばらく無言だった。

 黙っている間にいっぱいいろいろ考えてしまって――。めいっぱいに泣きまくって、どんなに菜緒が可哀想でどんなに菜緒が傷ついたか一から十まで語り尽くして、怒りを余すところなく全部ぶちまけて、翔真に謝り倒させたくてしょうがなくなる。

 ……でも、菜緒はその感情的過ぎる衝動を、何とか我慢した。

 菜緒は、精いっぱい冷静になったつもりで、翔真に言った。


「……あのね。瑠衣ちゃんに相談したら、あたしが悪いって怒られちゃった」

『菜緒ちゃん悪くないよ。悪いの、馬鹿だった俺だから』

「そんなこと、ないよ。頭では、翔真君悪くないのわかってるの。でも、心がついていかなくて……」


 菜緒は、まだ考えていた――もうここで手を離しちゃおうか。
 それとも……。




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