17 / 25
3.校内ベストカップル
結婚しよう
しおりを挟む「瑠衣ちゃん、変わってなくて。すっごくすっごく優しくしてくれて、ほんとに救われたの。だから……。瑠衣ちゃんには、引かれるから内緒にしてほしいんだけど、本当は今の学校も瑠衣ちゃんが行くって聞いたから受けることにしたの。今また同じクラスなのも、パパとママが先生に事情話して、クラス離さないでもらってるからなんだ。もう瑠衣ちゃんがいるからイギリス戻らなくてもいいやって思っちゃうくらい、瑠衣ちゃんってあたしにとっては大きな存在で……。ベッタリし過ぎてうざがられたらどうしようって、思うんだけど」
菜緒が言うと、翔真がすぐに首を振った。
「そんなこと思わないって、絶対。俺、上野さんと話したことないけど、菜緒ちゃんから話聞いてると、本当にいい子だなと思うし」
「うん。瑠衣ちゃんは本当にいい子なんだ。翔真君とのことも、いっぱい話聞いてくれるし……」
言ってから、菜緒はまた続けた。
「……こっち、来てからもね。このマンション、交番近いから安心だと思って選んだんだけど、変な人に後(あと)を尾行(つけ)られたり、急に写真撮られたりすることあって……。学校からすぐ帰ると時間読まれちゃうかもだから、時間ずらしたりして……。……本当に、怖くて」
その告白に、はっとしたように翔真が菜緒を見つめた。
「……気づかなくてごめん。これからは、送り迎え絶対するから」
自分が悪いわけでもないのに謝った翔真に、菜緒はまた首を振った。
「こんなんだから、本当に、男の人が凄く怖くて。翔真君がそんな人じゃないっていうのは、わかってるんだけど……無理なものは無理で。――あたし、結婚してからじゃないと、キスとか、……他のこと、したくない」
「……」
「だから……翔真君も、あたしが無理なら、いいから」
やっと言いたかったことを全部言い終えると、菜緒はほーっと大きく息を吐いた。
ずっと重く圧しかかっていた肩の荷を、ようやく下ろせたみたいだった。
こんな大事なことを隠して翔真と付き合ってしまったことを、……どこかでずっと悪いと思っていた。
自分に何か期待していることがあるであろう翔真を騙しているみたいで……、後ろめたい気がして。
どんな反応をされるか怖かったけれど……、今やっと言えたのだ。
ほっとして、菜緒は苦笑を浮かべた。
「……超泣いちゃってごめん。鼻水出た。ハンカチ、出す……」
「……」
菜緒がハンカチで涙や鼻水を拭いていると――。
……やがて、翔真が口を開いた。
「――勇気出して、言いにくいこと言ってくれてありがとう。何にも気づかなくて、本当にごめん。上手く伝えられるかわかんないんだけど……。俺の気持ちも、聞いてくれる?」
……ぎゅっと、胸が引き絞られるみたいだった。
それでも、勇気を出して菜緒はおずおずと頷いた。
「う、うん……。話してくれる……?」
菜緒の表情を見て、翔真は、何とかしていい言葉を探すように、ゆっくりと話し始めた。
「……俺さ。正直、今まで、俺に対して、菜緒ちゃんがずっと壁作ってるなとは感じてて。そういうのって、……本当は俺のことが好きじゃないからなのかなってずっと不安だったんだ。だけど……。今違う理由聞けて、表現悪いけど、ほっとした部分もあって」
「ん……」
「あ、でも、もちろん凄くつらい思いをしたんだなって思ってるよ。盗撮した奴のこと、本当に許せないし……!」
慌てたように、翔真が言う。
何とか二人の間に誤解が生まれないように――行き違いにならないように、気をつけて慎重に丁寧に喋ってくれているのが、伝わってくる。
二人の間にある今日までそっと積み重ねられた繊細過ぎる何かが、……壊れないように、崩れないように。
「……でも、そういう奴らが怖いっていうのが、俺のことも怖がっちゃう理由なら、それは納得できるし、気持ちわかるし……待つから。というか、俺、結婚するまで菜緒ちゃんに何もしない。約束する」
――予想外の言葉に、菜緒は思わず目を瞬いた。
「えっ……? 本当に……?」
顔を上げると、頬を赤らめた翔真が、菜緒をまっすぐに見つめて深く頷いた。
「大丈夫。菜緒ちゃんの話聞いたら、完全に気持ち固まった。――俺と結婚しよう。菜緒ちゃん」
「……」
思わず、菜緒はぽかんとしてしまった。
目を見開いて固まっている菜緒を見て、また翔真が急いで口を開いた。
「あ、だから今何かさせてとか、そういうことじゃないから! 大人になったら、結婚しようってことだから。もちろんだけど、返事は今じゃなくていいし……!」
慌てている翔真を見上げて、菜緒はまた涙を零した。
「……嘘……。本当……? ……あたし、今日でもう終わりなんだと思ってた……」
菜緒が声を震わすと、翔真は何度も首を振った。
「そんなわけないって! 前にも言ったじゃん、俺から振らないって。菜緒ちゃんのこと本当に好きだし、……俺が絶対守るから。だから、終わりとか言わないで。ずっと付き合ってこう。な?」
翔真に言われて、菜緒は泣きながらこくこく頷いた。
「……やばい。めっちゃ嬉しいです」
「本当に? 俺と……、結婚してくれる?」
「うん……。……はい」
一生懸命に菜緒が答えると、翔真は目を泳がせてから言った。
「……ちょっとだけ、抱きしめてもいい? 軽く……に、するから」
俯いて、でもまたこくりと頷いた菜緒を、翔真は大きく腕を広げて、そっと温かく抱きしめてくれた。
「……俺、本当に菜緒ちゃんのことが好き。大好きです。愛してるって、こういう気持ちのことを言うんだと思う。これからもずっと、一生一緒にいよう」
菜緒は、無言で何度も頷いた。
二人は――、そのまましばらく黙って抱き合っていた。
……男子寮の門限が近づくと、名残惜しそうに翔真は帰っていった。
部屋に入って洗面台で顔を見ると、目も鼻も真っ赤で酷い顔で――。
菜緒は、恥ずかしくなった。
(こんな顔の子でもいいんだ、翔真君……)
そう思うと嬉しくて、菜緒は一人でまた泣いた。
やっとずっと不安だったことを全部打ち明けられて、心がすーっと軽くなっていくのを感じた。
++ 翔真 ++
男子寮に帰ると、翔真もまた――一人で喜びを噛み締めていた。
三か月以上も待ったのにキスすら断られた時は、正直なところ物凄く落ち込んだし、……少しだけ腹も立った。
だって、普通付き合って三か月以上といったら――。
……セックスをする頃合いだ。
でも、その後で菜緒に理由を訊くと、全部納得した。
菜緒は何も悪くないし、当然だと思った。
彼女の打ち明け話を聞く間にもどんどん菜緒を好きになって、〈この子を絶対離さない〉と強く思った。
(完全勢いだったけど……、結婚しようって言ってよかった。菜緒ちゃんも、『はい』って言ってくれたし……)
あの瞬間の胸の高鳴りは、……きっと一生忘れられそうにない。
やっとのことで、翔真は、菜緒も自分を好きでいてくれているのだと自信を持てた。
……だけど、興奮が徐々(じょじょ)に去って少し冷静になると、結婚するまで菜緒とキスもセックスもできないというのは、……やっぱり残念だった。
翔真は未経験だったから、初体験がだいぶ遠のいたと思うと焦りもあった。
(……でも、しょうがない)
菜緒のためなのだから、待とう。
つまりは、今翔真が考えるべきは、
(一秒でも早く、菜緒ちゃんと結婚しよう)
ということだった。
そのためには、打ち込んでいるスポーツで一刻も早く認められなければならない。
翔真は、プロ選手を夢見ていた。
プロになって収入を得られれば、菜緒にきちんとプロポーズができる。
(よし。絶対夢、叶えてやる……!)
この日から、翔真の練習に対する意気込みはさらに熱くなっていったのだった。
---
ここまで読んでくださってありがとうございます!
引き続きアップしていく予定ですので、読んでいただけたら嬉しいです。
いいねやしおりやお気に入り登録等々、嬉しい反応をいただけたら大変励みになりますので、ぜひよろしくお願いいたします!
また、電子書籍版の表紙イラストもアップしてみましたので、もしよろしければご覧ください!
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる