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2.ちょっとだけ、友達以上な二人
今日……帰る前に少しだけ
しおりを挟む(……そっか。凄いな。桐生君)
また胸が温まる思いがして、夢のために頑張っている彼を菜緒は素直に尊敬した。
でも、そんなに努力家な男の子なのに、またおかしいくらいに目を泳がせているのが、……何だか面白い。
翔真の表情に密かにウケて、菜緒はちょっとお姉さんぶって彼をからかってみた。
「ね、今から家まで英語だけで話してみようか?」
菜緒が悪戯っ気たっぷりに提案すると、桐生は驚いたように目を見開いた。
「……え、ええっ⁉ い、今からっ……? 今日勉強始めたばっかりなのに、もうその段階? 俺、恥ずかしいんだけど。いきなり英語で会話はハードル高いって……!」
その激しい動揺っぷりに、ついつい菜緒はまた笑ってしまう。
「でも、言語は習うより慣れろだよ? 発音とか文法とかを細かく気にしなくても、日本人が思うより向こうの人って優しいから。こっちだって、外国の人が一生懸命日本語喋ってくれたら、多少変でも突っ込まないでしょ?」
「んー、……確かに」
「ね。だから、基礎英会話、アーユー・レディー?」
「発音最高。じゃ、頑張る。オーケイ、レディー・ゴー」
ぶっつけの英語縛り会話は大盛り上がりで、二人はずっと笑い通しだった。
そんな勉強会がそれから二回ほどあって――。
桐生と話しているとどんどん楽しくなっていく自分に気がついて、菜緒は頬を緩めた。
(……桐生君って、優しいな)
それに、桐生がやっているスポーツについて話すのも、他に一緒に話せる友達がいない菜緒にとっては貴重な時間だった。
そうこうするうちに――、春休みが終わって、二人は高校二年生になっていた。
♢ 〇 ♢
(……桐生君とは、またクラス離れちゃったなぁ)
ちょっとだけ残念な気持ちで菜緒が新学年のクラス名簿を眺めていると、背後からそぉーっと息を殺して近づいてきた親友に、ふいにぽんと肩を叩かれる。
「――おやおやおや? やけに残念そうな顔しちゃってぇ。菜緒はなーにを考えているのかな?」
「えっ、ええっ? る、瑠衣ちゃんっ?」
今年も同じクラスになった瑠衣が、いつの間にか隣に来てニヤニヤ笑っている。
赤くなって、菜緒は首を振った。
「べ、別に何にも考えてないって!」
「本当ー? あー、あやつと同クラなれなくて残念! ……とか考えてんのかと思ったけど?」
唯一桐生のことを相談している瑠衣に鋭く突っ込まれて、菜緒は慌てた。
「そ、そういうんじゃないよっ。ただ……、瑠衣ちゃんと今年も同じクラスになれてラッキーって思ってただけっ」
「へっへっへ。だろうねー! 菜緒のド本命はワイだからな!」
「そうそう、そうだよ!」
菜緒がこくこく頷くと、瑠衣はまたニヤニヤ笑った。
「……ま、二番が誰になったかはだいたいお察しなんですけどね?」
「こらっ。からかうんじゃないっ。……まだ全然そういうんじゃないし……」
菜緒が小さく呟くと、うんうん頷いて瑠衣が頭を撫でてくれた。
「そーかそーか。それでいいんだよ、菜緒は。ゆっくりでいいのさ。マイペースマイペース」
「……うん」
菜緒が素直にこくんと頷くと、瑠衣がまた探りを入れてきた。
「……で? 奴とはもう何回一緒に勉強したん?」
「もうっ。瑠衣ちゃん今日突っ込み鋭すぎだよっ」
「わかったわかった。……でも、ぶっちゃけ何回よ?」
「三、回……」
「数えてるとは! 可愛い奴め」
「ぜ、絶対誰にも言わないでよ……?」
「はいはい、はーい。漏らしたら最後、秒で噂がまわりそうだもんなー。言うわけないって」
瑠衣がまだ楽しそうに笑っている。
でも、大好きな親友の瑠衣との共通の話題――〈男の子のこと〉、が増えて、不謹慎だけれど、それも菜緒は嬉しかった。
♢ 〇 ♢
それから少し経ったある日のことだった。
勉強後の図書館帰りに、桐生にいつものように自宅のマンション前まで送ってもらうと、……少しだけ、空気が変わった。
「――あのさ、日南さん。今日……帰る前に少しだけ、話してもいい?」
桐生が、どこか気まずそうに菜緒を見つめている。
菜緒は、つい誤魔化すように呟いた。
「うん……でも、桐生君、寮だよね? 門限大丈夫?」
「まだ時間あるから」
スマホを確認して、桐生が頷く。
桐生の実家は県外だそうで、プロチームのジュニアユースに所属するために、高校に入ってからはずっと寮生活らしい。
そわそわした様子で、桐生があたりを見まわす。
「えっと……。どこで話そっか……」
「あ、あそこのベンチ、空いてるね……」
「う、うん」
……何だか、いろいろ察してしまう。
菜緒は、素直に彼の顔を見られなかった。
マンションのエントランス前にある小さなベンチに向かって、菜緒は桐生から目を逸らしながら歩いた。
菜緒が座ると、距離を開けて桐生も座る。
「……お隣、失礼します」
「うん……」
……少しの間、気まずい沈黙が続く。
視線をどこに持っていっていいかわからなくて夕空を見上げると、もう雲が薄紫色(うすむらさきいろ)に染まっていた。
空には、今にも一番星が輝いて見えそうだ。
初夏の風は爽やかで涼しく、二人の髪を優しく揺らしていた。
マンションの生垣では躑躅が鮮やかに咲き誇り、まるで大きな花束がいくつも並んでいるかのように見えた。
菜緒のマンションは駅から近いから、ガタゴトと電車が通り過ぎる音が時折聞こえた。プシューッと音を立ててホームで電車が止まって、駅員のアナウンスが流れて消える。
すると――沈黙を破るように、桐生がふいに口を開いた。
「……えっとさ。この間の中間テスト、もう返ってきた?」
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