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5.秘密の求婚
君がたとえ、俺のことを嫌いでも構わないから
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「……わかった。クリスティーナ、何があっても、君のことはこの俺が守る。だから、今日こそは勇気を出して、一緒に外の世界を見てみよう」
「……!」
はっとして顔を上げると、レスターは、いつもは鋭いアイスブルーの瞳を優しく細め、クリスティーナを見つめていた。
彼の温かな視線に、クリスティーナの胸に甘く優しい熱が灯る。
レスターは、右手でクリスティーナの手を引き、促すように左腕を腰にまわした。
これから外を見るのだと思うとやっぱり怖くて体がカタカタと震えたが、レスターの体温を間近で感じると、とても安心できた。
幾度も肌を重ねた彼の身体は、クリスティーナのそれとは違い、筋肉質で鋼のように固く、力強い。
レスターの側にいるだけで、本当に何もかもからクリスティーナを守ってくれるように感じられた。
よろけ出しそうになるのをレスターに支えられながら、クリスティーナはついに、厚いカーテンの引かれた窓の前に立った。
震える手で思わずレスターの胸にしがみつくと、彼はクリスティーナの額にそっとキスを落とした。
そして、クリスティーナの体に強く腕をまわしたまま、もう一方の手で、天井近くから落ちているカーテンの紐を引く。
すると、その瞬間――。
ぱっと、カーテンが左右に大きく開いた。
「あ……!」
眩い外の光に、思わずクリスティーナは目を瞑った。
瞼を伏せても、光が透けて見えてくる。
刺すように強く、……そして温かな、陽の輝き。
目を閉じたまま、漲るようなその力を全身に感じた。
隣に変わらず、レスターがいてくれること。
それを、彼の体温や呼気に注意を払い、しっかりと確認しながら。
……レスターの手は、カーテンの紐から離れ、再びクリスティーナの手を優しく包んだ。
「……目を開けられるか? クリスティーナ」
「は、はい……」
彼の大きな力強い手を震える手で握り返しながら、クリスティーナは勇気を出して、そっと瞼を開いた。
「――‼」
目を開いたクリスティーナは、大きく息を呑んだ。
溢れるような陽光の中に輝くのは、濡れたように光を弾く新緑の群れだった。
色鮮やかな花々に飾られた真っ白なバルコニーの向こうに、パルセノス王宮の壮大な庭園が広がっていた。
女神や天使たちが舞い踊る噴水は、きらきらと光る七色の虹をまとい、水流の描く美しい弧を宙に作り出している。
真っ青に晴れた空を鳥たちが自由に飛び交い、その楽しげな歌声が今にもクリスティーナの耳に届くようだった。
窓の向こうは、弾けるような生命の息吹に満ち満ちていた。
クリスティーナの手は今も震えていたが、それは、先ほどまでの恐怖から来る震えではなかった。
「……綺麗……」
気がつけば、クリスティーナは我知らずそう呟いていた。
そっと、本当にそっと、窓に手を伸ばして陽の温もりを宿したガラスに触れ、クリスティーナはぽろぽろと涙を零した。
優しく温かく、レスターは変わらずにクリスティーナを抱いていてくれる。
クリスティーナは、思わず心の内を隠さずにレスターに打ち明けていた。
「……レスター様……。わたしはずっと、外を見るのが怖かった。わたしを置いて、何もかもが変わってしまっているのではないかと思って……。外の世界がどうなっているかを想像する度に、せめて一瞬だけでもいいから、この命の尽きる前にもう一度目にしたいと憧れました。けれど、同時に恐ろしさもどんどん大きくなっていったんです。……でも、違いました。ずっと見ていなかったから知らなかったけれど、外の世界は、わたしが知らない間にも、こんなにも広く美しく、輝いていたんですね……」
彼は、クリスティーナの目から窓の外を隠さないように気遣いながら、その体をさらにそばへと抱き寄せた。
「君が……そんなにも怖がっていたことに、今まで気づくことができなくて済まなかった。クリスティーナ。これからは、何か怖いことがあったら、すぐに俺に言ってくれ。必ず俺が、君の力になるから」
そう言ったあとで、レスターは、クリスティーナに訊いた。
「このまま……、外に出てみるか?」
クリスティーナは、レスターを見上げ、小さく頷いた。
彼の側にいることができれば、何も怖くない。
今は、今だけは、クリスティーナにはそう思えた。
レスターが、外気から守るようにしてクリスティーナの前に立ち、窓を開ける。
ふわっと緑の香りが鼻孔をくすぐり、鳥たちが跳ねるような鳴き声を交わし合っているのがやっと耳に届く。
クリスティーナの前に道を開けたレスターに誘われ、クリスティーナはそっと白く輝くバルコニーへと足を降ろした。
繊細な彫刻の施された真っ白なバルコニーは、さまざまな色に色づき咲き誇るたくさんの花で飾られていた。
美しい花々の中で、クリスティーナは、緑に混じり風に乗って運ばれてくる甘い香りに包まれた。
無数の鮮やかな花弁に目を奪われていたクリスティーナだが、やがてそのすべてが切り花であることに気がついた。
花々は、繊細に茎を絡ませ合い、磨き上げられた純白のバルコニーの上で絶妙なバランスで美しく輝いている。
「あの……、このお花は……」
わずかに首を傾げてレスターを見上げると、彼はどこか決まり悪そうに肩をすくめた。
「君を少しでも喜ばせたくて、毎日違う花でこのバルコニーを飾らせていたのだ。……だが、とんだ的外れだったな。まさか君が一度も窓の向こうを覗いていないなどとは、思いもしなかった」
「あっ……! す、すみません! わたし、あなたが気遣ってくださっていることに、少しも気がつかなくて……」
「いや……。君がずっと虜囚の身だったことを思えば、当然だ。配慮に欠けたのは、俺の方だった」
「そんな……」
申し訳なさのあまりに瞳を揺らしたクリスティーナの頬に手を伸ばし、レスターはそっと指で撫でた。
「いつでも俺は、君が何を思っているのか真剣に考えている。……けれど、わからないことばかりだ。できればこれからは、俺を信じて、少しでも君の思っていることを教えてほしい」
そのレスターの瞳には、深い悲しみが映り込んでいた。
「……君がたとえ、俺のことを嫌いでも、構わないから」
「!」
目を見開き、クリスティーナは首を振った。
「わ、わたしがあなたを嫌いだなんて、そんなこと……」
しかし、クリスティーナがその先を言う前に、レスターの指が唇に当てられる。
何も言うなということだろうかと戸惑っていると、レスターは、そっとクリスティーナに口づけてきた。
唇が離れると、レスターは目を伏せ、バルコニーを飾る花を手に取った。
レスターが手に取ったのは、水に濡れたように輝く花びらが揺れる薄紅色の薔薇だった。
茎を編まれ、みごとな花飾りとなっているそれを、レスターはクリスティーナの長い銀髪に挿した。
「よく似合う。君には宝石やドレスもとても似合うが……。生きた花の方が、君らしい気がするな。君は、とても綺麗だ。この世の誰よりも、この世界にある、何よりも」
「レスター様……」
クリスティーナは、かぁっと赤くなって顔を伏せた。
胸がいっぱいになって、とてもレスターの瞳を見てはいられなかった。
きっと彼は、同情のあまり、クリスティーナを少しでも喜ばせようとしてこんなことを言ってくれるのだ。
勘違いしてはいけない、期待してはいけない。
そう自分に言い聞かせながらも、嬉しく思う気持ちはどうしても止められなかった。
(これ以上、この方を好きになってはいけないわ。わたしなどが想いを寄せても、レスター様にとっては、迷惑なだけだもの……)
無言で俯いているクリスティーナを、レスターはそっと抱いた。
「クリスティーナ。君のいない外の世界など、俺にとっては光の差さない無味な世界も同然だ。君がいなくても美しく輝く世界など、俺の中には存在しない。だから、二度とどんな世界をも恐れるな。俺が必ず君を守るから。君が……、この俺を、少しでも必要としてくれるのなら」
……しかし、クリスティーナはそれに答えることができなかった。
口にすべき言葉を、見つけ出すことができなかったのだ。
これ以上ないほど近くで互いの体温を感じながら――。
二人の心は、それでも、……悲しく離れていた。
---
ここまでお読みくださって、本当にありがとうございます!
♥やお気に入り登録などなどいただけたら本当に嬉しいです。
また、エールにて応援してくださった方、本当にありがとうございました……!
自分は同人活動として動いておりますので、作品ごとにイラストの発注などもしておりまして、とても嬉しいです!!
今後もできるだけ長く活動したいなと夢見ておりますので、励みにして頑張ります!!
お知らせ:5/26~公開予定の次作なのですが、やはりR18女性向け小説(逆ハー、現代舞台、大人ヒロイン)のみにすることにしました!
R18男性向け小説につきましては、調べてみましたところ、ここまで直球な内容はアルファポリス様では少ないようでして…!
活動を参考にしている同人作家様がこちらでもアップしていたので、自分もやってみようと思っていたのですが、やはり類似ジャンル作品が多いノクターン等でまずは活動してみることにしました。
「……!」
はっとして顔を上げると、レスターは、いつもは鋭いアイスブルーの瞳を優しく細め、クリスティーナを見つめていた。
彼の温かな視線に、クリスティーナの胸に甘く優しい熱が灯る。
レスターは、右手でクリスティーナの手を引き、促すように左腕を腰にまわした。
これから外を見るのだと思うとやっぱり怖くて体がカタカタと震えたが、レスターの体温を間近で感じると、とても安心できた。
幾度も肌を重ねた彼の身体は、クリスティーナのそれとは違い、筋肉質で鋼のように固く、力強い。
レスターの側にいるだけで、本当に何もかもからクリスティーナを守ってくれるように感じられた。
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震える手で思わずレスターの胸にしがみつくと、彼はクリスティーナの額にそっとキスを落とした。
そして、クリスティーナの体に強く腕をまわしたまま、もう一方の手で、天井近くから落ちているカーテンの紐を引く。
すると、その瞬間――。
ぱっと、カーテンが左右に大きく開いた。
「あ……!」
眩い外の光に、思わずクリスティーナは目を瞑った。
瞼を伏せても、光が透けて見えてくる。
刺すように強く、……そして温かな、陽の輝き。
目を閉じたまま、漲るようなその力を全身に感じた。
隣に変わらず、レスターがいてくれること。
それを、彼の体温や呼気に注意を払い、しっかりと確認しながら。
……レスターの手は、カーテンの紐から離れ、再びクリスティーナの手を優しく包んだ。
「……目を開けられるか? クリスティーナ」
「は、はい……」
彼の大きな力強い手を震える手で握り返しながら、クリスティーナは勇気を出して、そっと瞼を開いた。
「――‼」
目を開いたクリスティーナは、大きく息を呑んだ。
溢れるような陽光の中に輝くのは、濡れたように光を弾く新緑の群れだった。
色鮮やかな花々に飾られた真っ白なバルコニーの向こうに、パルセノス王宮の壮大な庭園が広がっていた。
女神や天使たちが舞い踊る噴水は、きらきらと光る七色の虹をまとい、水流の描く美しい弧を宙に作り出している。
真っ青に晴れた空を鳥たちが自由に飛び交い、その楽しげな歌声が今にもクリスティーナの耳に届くようだった。
窓の向こうは、弾けるような生命の息吹に満ち満ちていた。
クリスティーナの手は今も震えていたが、それは、先ほどまでの恐怖から来る震えではなかった。
「……綺麗……」
気がつけば、クリスティーナは我知らずそう呟いていた。
そっと、本当にそっと、窓に手を伸ばして陽の温もりを宿したガラスに触れ、クリスティーナはぽろぽろと涙を零した。
優しく温かく、レスターは変わらずにクリスティーナを抱いていてくれる。
クリスティーナは、思わず心の内を隠さずにレスターに打ち明けていた。
「……レスター様……。わたしはずっと、外を見るのが怖かった。わたしを置いて、何もかもが変わってしまっているのではないかと思って……。外の世界がどうなっているかを想像する度に、せめて一瞬だけでもいいから、この命の尽きる前にもう一度目にしたいと憧れました。けれど、同時に恐ろしさもどんどん大きくなっていったんです。……でも、違いました。ずっと見ていなかったから知らなかったけれど、外の世界は、わたしが知らない間にも、こんなにも広く美しく、輝いていたんですね……」
彼は、クリスティーナの目から窓の外を隠さないように気遣いながら、その体をさらにそばへと抱き寄せた。
「君が……そんなにも怖がっていたことに、今まで気づくことができなくて済まなかった。クリスティーナ。これからは、何か怖いことがあったら、すぐに俺に言ってくれ。必ず俺が、君の力になるから」
そう言ったあとで、レスターは、クリスティーナに訊いた。
「このまま……、外に出てみるか?」
クリスティーナは、レスターを見上げ、小さく頷いた。
彼の側にいることができれば、何も怖くない。
今は、今だけは、クリスティーナにはそう思えた。
レスターが、外気から守るようにしてクリスティーナの前に立ち、窓を開ける。
ふわっと緑の香りが鼻孔をくすぐり、鳥たちが跳ねるような鳴き声を交わし合っているのがやっと耳に届く。
クリスティーナの前に道を開けたレスターに誘われ、クリスティーナはそっと白く輝くバルコニーへと足を降ろした。
繊細な彫刻の施された真っ白なバルコニーは、さまざまな色に色づき咲き誇るたくさんの花で飾られていた。
美しい花々の中で、クリスティーナは、緑に混じり風に乗って運ばれてくる甘い香りに包まれた。
無数の鮮やかな花弁に目を奪われていたクリスティーナだが、やがてそのすべてが切り花であることに気がついた。
花々は、繊細に茎を絡ませ合い、磨き上げられた純白のバルコニーの上で絶妙なバランスで美しく輝いている。
「あの……、このお花は……」
わずかに首を傾げてレスターを見上げると、彼はどこか決まり悪そうに肩をすくめた。
「君を少しでも喜ばせたくて、毎日違う花でこのバルコニーを飾らせていたのだ。……だが、とんだ的外れだったな。まさか君が一度も窓の向こうを覗いていないなどとは、思いもしなかった」
「あっ……! す、すみません! わたし、あなたが気遣ってくださっていることに、少しも気がつかなくて……」
「いや……。君がずっと虜囚の身だったことを思えば、当然だ。配慮に欠けたのは、俺の方だった」
「そんな……」
申し訳なさのあまりに瞳を揺らしたクリスティーナの頬に手を伸ばし、レスターはそっと指で撫でた。
「いつでも俺は、君が何を思っているのか真剣に考えている。……けれど、わからないことばかりだ。できればこれからは、俺を信じて、少しでも君の思っていることを教えてほしい」
そのレスターの瞳には、深い悲しみが映り込んでいた。
「……君がたとえ、俺のことを嫌いでも、構わないから」
「!」
目を見開き、クリスティーナは首を振った。
「わ、わたしがあなたを嫌いだなんて、そんなこと……」
しかし、クリスティーナがその先を言う前に、レスターの指が唇に当てられる。
何も言うなということだろうかと戸惑っていると、レスターは、そっとクリスティーナに口づけてきた。
唇が離れると、レスターは目を伏せ、バルコニーを飾る花を手に取った。
レスターが手に取ったのは、水に濡れたように輝く花びらが揺れる薄紅色の薔薇だった。
茎を編まれ、みごとな花飾りとなっているそれを、レスターはクリスティーナの長い銀髪に挿した。
「よく似合う。君には宝石やドレスもとても似合うが……。生きた花の方が、君らしい気がするな。君は、とても綺麗だ。この世の誰よりも、この世界にある、何よりも」
「レスター様……」
クリスティーナは、かぁっと赤くなって顔を伏せた。
胸がいっぱいになって、とてもレスターの瞳を見てはいられなかった。
きっと彼は、同情のあまり、クリスティーナを少しでも喜ばせようとしてこんなことを言ってくれるのだ。
勘違いしてはいけない、期待してはいけない。
そう自分に言い聞かせながらも、嬉しく思う気持ちはどうしても止められなかった。
(これ以上、この方を好きになってはいけないわ。わたしなどが想いを寄せても、レスター様にとっては、迷惑なだけだもの……)
無言で俯いているクリスティーナを、レスターはそっと抱いた。
「クリスティーナ。君のいない外の世界など、俺にとっては光の差さない無味な世界も同然だ。君がいなくても美しく輝く世界など、俺の中には存在しない。だから、二度とどんな世界をも恐れるな。俺が必ず君を守るから。君が……、この俺を、少しでも必要としてくれるのなら」
……しかし、クリスティーナはそれに答えることができなかった。
口にすべき言葉を、見つけ出すことができなかったのだ。
これ以上ないほど近くで互いの体温を感じながら――。
二人の心は、それでも、……悲しく離れていた。
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ここまでお読みくださって、本当にありがとうございます!
♥やお気に入り登録などなどいただけたら本当に嬉しいです。
また、エールにて応援してくださった方、本当にありがとうございました……!
自分は同人活動として動いておりますので、作品ごとにイラストの発注などもしておりまして、とても嬉しいです!!
今後もできるだけ長く活動したいなと夢見ておりますので、励みにして頑張ります!!
お知らせ:5/26~公開予定の次作なのですが、やはりR18女性向け小説(逆ハー、現代舞台、大人ヒロイン)のみにすることにしました!
R18男性向け小説につきましては、調べてみましたところ、ここまで直球な内容はアルファポリス様では少ないようでして…!
活動を参考にしている同人作家様がこちらでもアップしていたので、自分もやってみようと思っていたのですが、やはり類似ジャンル作品が多いノクターン等でまずは活動してみることにしました。
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