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4.二度目の恋の始まりは、荒々しく
正直に答えてくれ——君が愛しているのは、本当に俺なのか? ★
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その夜も、クリスティーナはレスターの訪問を受けることとなった。
自分が姫だという誤解を解こうとしても、口を開けば、彼を怒らせてしまうだけだ。
ならば、ギデオンに従っていた時のように、彼の気の済むまで従っていた方がいい。
その方が、彼の気を害さない。
「……」
クリスティーナは、口を開かなかった。
自分を姫だと思い込んでドレスやこの豪奢な部屋まで用意してくれたレスターに、これ以上不快な思いをさせたくなかった。
瞳を伏せて床に視線を落としているクリスティーナを見て、レスターはふっと笑った。
「ずいぶんと悲しそうな顔をしているな……。その顔で、俺に何を期待している?」
「……え?」
柔らかな声に甘く問われ、クリスティーナは顔を上げた。
いつの間にかレスターは、息がかかるほどの距離にまで近づいていた。
その美しく整った相貌に、クリスティーナはぞくりと背筋を震わせた。
部屋を出る時に交わした会話のまま、彼は怒っているのだろうか?
一瞬、誤解を解こうと再び『自分は姫ではない』と説明しかけ――。
……クリスティーナは、途中でそれをやめた。
彼を怒らせるようなことは、もうしたくない。すべきではない。
亡き父の娘として、そして、誤解からでも姫として扱ってくれた、彼のために。
何も言うことのできないクリスティーナに、どこか酷薄な笑みを浮かべたままレスターは訊いた。
「優しくしてほしいのか? 君の内心を慮って、このまま俺に部屋を去っていってほしいか。それとも、何も言わずにすべてを理解して、ただ側にいてほしい、……か?」
「わたし、そんなつもりじゃ……」
「さも同情してほしそうな表情を浮かべておいて、よく言うな。君はそういう表情を、君が好きだというその男の前でもしたのか? ……その顔を見れば、大概の男は騙されるだろう。わかっていてやっているとしたら、とんだ食わせ者だな」
「他に好きな方なんて、わたしには……」
震える声で、クリスティーナはすぐに続けた。
「わ……、わたしがお慕いしているのは、レスター様です……」
「今にも泣き出しそうなその表情で、よくその嘘を続けられるな。どうやら君は、この俺を怒らせたくて仕方ないようだ」
「!」
息を呑んだクリスティーナの腕を、レスターの手が強く掴んだ。
その力の強さに、あらためて彼が自分にとってどういう男であるかを悟る。
祖国のために、逆らってはいけない人。
すべては、亡き父のため、育ててくれた母のため、このパルセノス王宮で優しくしてくれた人たちのため、それからクライールの町の皆のため……。
大切なもの、大切にすべきもの、大切なはずのもの。
それらが入れ替わり立ち替わり、クリスティーナの頭の中をくるくると巡る。
そこに、……わずかにレスターの面差しが混ざった。
ハンフィ救貧院にやって来たあの左利きの男の人とどこか似た、隣国エルザス王国の王子。
クリスティーナと、同じ運命を持つ人。
……結婚相手さえも祖国のために選ばねばならない、その身の何もかもを国に捧げなくてはならない人。
しかし、実際のレスターは、クリスティーナが抱くような同情を胸に覚えてはいなかった。
抵抗する素振りも見せないクリスティーナを、レスターは立ったまま抱いた。
そして、さも愛おしいものを扱うようにして長く柔らかな髪に手を差し入れ、その顔を覗き込む。
いたわるような優しい仕草とは裏腹に、眉間を深く寄せた彼の瞳は刺すように鋭く、冷静だった。
怒らせたくなくて言った愛の言葉は、却ってレスターの逆鱗に触れてしまったようだ。
その事実に気づいて焦ったが、『愛していない』と口にする方がはばかられた。
だからクリスティーナは、必死に言い募った。
「わたしは、本当にあなたを愛して……。……んぅっ」
言葉の途中で、クリスティーナの唇は昨晩と同じように激しく奪われた。
あっという間にレスターの舌がクリスティーナの柔らかな唇を割り、口腔へと侵入してくる。
強く熱く唇を求められ、後ろに倒れ込みそうになるのを何とかこらえて、クリスティーナはそのキスに応じた。
くちゅくちゅと舌を絡め合う音が鳴り、どちらのものともわからない唾液を喉を鳴らして呑み込む。
「んっ……、うく、んん……」
レスターの舌に合わせて懸命に自らの舌を動かすうちに、クリスティーナは、だんだんとまた体の奥が痺れ出すような感覚を覚えた。
まるで口腔と直に繋がっているかのように、太腿の付け根がじんと痛むように疼き、お腹の奥が熱くなる。
昨夜のように力強い手で体を触ってほしいという情動が自らの中に湧き出したことに気づき、クリスティーナは動揺した。
秘部に走った鈍い痛みが薄まると同時に、とろりとした粘液が体の奥から降りてくるのがわかる。
昨夜の愛撫によって目覚めさせられたクリスティーナの中の『女』が、確かにレスターを求めていた。
(……嘘……。……わたし……)
自分の体の変化に気がついて、クリスティーナは激しく戸惑った。
思わず唇を離そうとしたのだが、レスターはそれを許さなかった。
髪に差し込まれた指が強くクリスティーナの顔を押さえ、キスの継続を強要する。
「あっ……、ふぅっ……」
きつく舌全体を吸い上げられ、舌の根本がぎゅっと痛む。
ようやく解放されたと思ったら、まるでねぎらうようにして今度は優しく舌の隅々までを舐められる。
それでも彼の大きな手は、クリスティーナの体には伸ばされない。
気がつけばクリスティーナは、彼の胸に両手をかけ、しっかりとしがみついていた。
(これじゃ、まるで……。自分から、誘っているみたいだわ……)
そう思ったが、……彼の体から手を離すことはできなかった。
ようやく唇を離すことを許されると、クリスティーナは濡れた瞳でレスターの瞳を見つめた。
けれども、彼が今何を考えているのか、クリスティーナにはわからなかった。
これほど密に唇を交わしても、間近で見つめ合っても、彼の身体は――心は、クリスティーナのように動くことはないのだろうか……?
(レスター様……)
彼のしてくれるキスにわずかでも感情があると思ってしまうのは、もしかしたら彼も少しは自分について何か思ってくれているのではないかと考えてしまうのは、……クリスティーナが人の温もりに飢えているからなのだろうか。
何か言いたくても、何を言ったらいいのか、クリスティーナにはとても思いつかなかった。
しばらくクリスティーナと見つめ合ったあとで、レスターはわずかに眉間を寄せて呟いた。
「……クリスティーナ。どうして君は、俺に対して正直な気持ちを言ってはくれないんだ?」
「え……?」
「君が俺を愛していないと一言言ってくれれば、俺はこの部屋を去る。だが……、君に愛していると言われては、嘘とわかっていても、俺は止まることができなくなる。嫉妬のあまり、俺は君を傷つけてばかりだ。君を喜ばせたいと、ずっと考えていたはずなのに」
どこか苦しそうにそう言ったレスターに、クリスティーナは目を瞬いた。
(レスター様……?)
それは、今までの強い彼とは、まるで別人のような顔だった。
何を言われたのかと一生懸命に考えて、ようやく彼の言わんとしているところを理解する。
彼もまた、クリスティーナが彼にするように、自分に同情を寄せてくれていたのだ。
……いいや、それだけではない。
彼は今、クリスティーナを喜ばせたいと言ってくれた。
嬉しかった――それだけで、十分だと思えた。
「そんなに俺が怖いか? クリスティーナ」
その問いに、クリスティーナは首を振った。
「いいえ。そんなことはございません」
「なら、正直に答えてくれ。君が愛しているのは、本当にこの俺なのか?」
「それは……」
胸に、あのハンフィ救貧院で会った左利きの男の人の姿がよぎる。
しかし、彼の面影をクリスティーナは勇気を出して振りきった。
(もう……、あの人とは、二度と逢えないのよ)
彼のことは、もう……忘れなくてはならない。
叶うことのない淡い初恋を夢見るよりも、誰からも見捨てられた存在である自分を喜ばせたいと言ってくれたこの人のことを……。
誤解から来る関係でも、束の間の時だけでもいい、心から愛したい。
クリスティーナは、そう思った。
一瞬でもそれが真実になる瞬間が生まれるように願いを込めて、クリスティーナは言った。
「わたしは、あなたのことを愛しています。レスター様」
しかし、心からのクリスティーナの言葉にも、レスターは喜びはしなかった。
「……そうか。それが、君の答えなのだな」
---
ここまでお読みくださって、本当にありがとうございます!
♥やお気に入り登録などなどいただけたら本当に嬉しいです。
活動の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします。
また、宣伝なのですが、5/26~別作品のアップも開始する予定ですので、そちらも読んでいただけたら嬉しいです。
そちらは、平凡系大人ヒロインが主人公の現代舞台(一応…)の逆ハー物です!
自分が姫だという誤解を解こうとしても、口を開けば、彼を怒らせてしまうだけだ。
ならば、ギデオンに従っていた時のように、彼の気の済むまで従っていた方がいい。
その方が、彼の気を害さない。
「……」
クリスティーナは、口を開かなかった。
自分を姫だと思い込んでドレスやこの豪奢な部屋まで用意してくれたレスターに、これ以上不快な思いをさせたくなかった。
瞳を伏せて床に視線を落としているクリスティーナを見て、レスターはふっと笑った。
「ずいぶんと悲しそうな顔をしているな……。その顔で、俺に何を期待している?」
「……え?」
柔らかな声に甘く問われ、クリスティーナは顔を上げた。
いつの間にかレスターは、息がかかるほどの距離にまで近づいていた。
その美しく整った相貌に、クリスティーナはぞくりと背筋を震わせた。
部屋を出る時に交わした会話のまま、彼は怒っているのだろうか?
一瞬、誤解を解こうと再び『自分は姫ではない』と説明しかけ――。
……クリスティーナは、途中でそれをやめた。
彼を怒らせるようなことは、もうしたくない。すべきではない。
亡き父の娘として、そして、誤解からでも姫として扱ってくれた、彼のために。
何も言うことのできないクリスティーナに、どこか酷薄な笑みを浮かべたままレスターは訊いた。
「優しくしてほしいのか? 君の内心を慮って、このまま俺に部屋を去っていってほしいか。それとも、何も言わずにすべてを理解して、ただ側にいてほしい、……か?」
「わたし、そんなつもりじゃ……」
「さも同情してほしそうな表情を浮かべておいて、よく言うな。君はそういう表情を、君が好きだというその男の前でもしたのか? ……その顔を見れば、大概の男は騙されるだろう。わかっていてやっているとしたら、とんだ食わせ者だな」
「他に好きな方なんて、わたしには……」
震える声で、クリスティーナはすぐに続けた。
「わ……、わたしがお慕いしているのは、レスター様です……」
「今にも泣き出しそうなその表情で、よくその嘘を続けられるな。どうやら君は、この俺を怒らせたくて仕方ないようだ」
「!」
息を呑んだクリスティーナの腕を、レスターの手が強く掴んだ。
その力の強さに、あらためて彼が自分にとってどういう男であるかを悟る。
祖国のために、逆らってはいけない人。
すべては、亡き父のため、育ててくれた母のため、このパルセノス王宮で優しくしてくれた人たちのため、それからクライールの町の皆のため……。
大切なもの、大切にすべきもの、大切なはずのもの。
それらが入れ替わり立ち替わり、クリスティーナの頭の中をくるくると巡る。
そこに、……わずかにレスターの面差しが混ざった。
ハンフィ救貧院にやって来たあの左利きの男の人とどこか似た、隣国エルザス王国の王子。
クリスティーナと、同じ運命を持つ人。
……結婚相手さえも祖国のために選ばねばならない、その身の何もかもを国に捧げなくてはならない人。
しかし、実際のレスターは、クリスティーナが抱くような同情を胸に覚えてはいなかった。
抵抗する素振りも見せないクリスティーナを、レスターは立ったまま抱いた。
そして、さも愛おしいものを扱うようにして長く柔らかな髪に手を差し入れ、その顔を覗き込む。
いたわるような優しい仕草とは裏腹に、眉間を深く寄せた彼の瞳は刺すように鋭く、冷静だった。
怒らせたくなくて言った愛の言葉は、却ってレスターの逆鱗に触れてしまったようだ。
その事実に気づいて焦ったが、『愛していない』と口にする方がはばかられた。
だからクリスティーナは、必死に言い募った。
「わたしは、本当にあなたを愛して……。……んぅっ」
言葉の途中で、クリスティーナの唇は昨晩と同じように激しく奪われた。
あっという間にレスターの舌がクリスティーナの柔らかな唇を割り、口腔へと侵入してくる。
強く熱く唇を求められ、後ろに倒れ込みそうになるのを何とかこらえて、クリスティーナはそのキスに応じた。
くちゅくちゅと舌を絡め合う音が鳴り、どちらのものともわからない唾液を喉を鳴らして呑み込む。
「んっ……、うく、んん……」
レスターの舌に合わせて懸命に自らの舌を動かすうちに、クリスティーナは、だんだんとまた体の奥が痺れ出すような感覚を覚えた。
まるで口腔と直に繋がっているかのように、太腿の付け根がじんと痛むように疼き、お腹の奥が熱くなる。
昨夜のように力強い手で体を触ってほしいという情動が自らの中に湧き出したことに気づき、クリスティーナは動揺した。
秘部に走った鈍い痛みが薄まると同時に、とろりとした粘液が体の奥から降りてくるのがわかる。
昨夜の愛撫によって目覚めさせられたクリスティーナの中の『女』が、確かにレスターを求めていた。
(……嘘……。……わたし……)
自分の体の変化に気がついて、クリスティーナは激しく戸惑った。
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髪に差し込まれた指が強くクリスティーナの顔を押さえ、キスの継続を強要する。
「あっ……、ふぅっ……」
きつく舌全体を吸い上げられ、舌の根本がぎゅっと痛む。
ようやく解放されたと思ったら、まるでねぎらうようにして今度は優しく舌の隅々までを舐められる。
それでも彼の大きな手は、クリスティーナの体には伸ばされない。
気がつけばクリスティーナは、彼の胸に両手をかけ、しっかりとしがみついていた。
(これじゃ、まるで……。自分から、誘っているみたいだわ……)
そう思ったが、……彼の体から手を離すことはできなかった。
ようやく唇を離すことを許されると、クリスティーナは濡れた瞳でレスターの瞳を見つめた。
けれども、彼が今何を考えているのか、クリスティーナにはわからなかった。
これほど密に唇を交わしても、間近で見つめ合っても、彼の身体は――心は、クリスティーナのように動くことはないのだろうか……?
(レスター様……)
彼のしてくれるキスにわずかでも感情があると思ってしまうのは、もしかしたら彼も少しは自分について何か思ってくれているのではないかと考えてしまうのは、……クリスティーナが人の温もりに飢えているからなのだろうか。
何か言いたくても、何を言ったらいいのか、クリスティーナにはとても思いつかなかった。
しばらくクリスティーナと見つめ合ったあとで、レスターはわずかに眉間を寄せて呟いた。
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「え……?」
「君が俺を愛していないと一言言ってくれれば、俺はこの部屋を去る。だが……、君に愛していると言われては、嘘とわかっていても、俺は止まることができなくなる。嫉妬のあまり、俺は君を傷つけてばかりだ。君を喜ばせたいと、ずっと考えていたはずなのに」
どこか苦しそうにそう言ったレスターに、クリスティーナは目を瞬いた。
(レスター様……?)
それは、今までの強い彼とは、まるで別人のような顔だった。
何を言われたのかと一生懸命に考えて、ようやく彼の言わんとしているところを理解する。
彼もまた、クリスティーナが彼にするように、自分に同情を寄せてくれていたのだ。
……いいや、それだけではない。
彼は今、クリスティーナを喜ばせたいと言ってくれた。
嬉しかった――それだけで、十分だと思えた。
「そんなに俺が怖いか? クリスティーナ」
その問いに、クリスティーナは首を振った。
「いいえ。そんなことはございません」
「なら、正直に答えてくれ。君が愛しているのは、本当にこの俺なのか?」
「それは……」
胸に、あのハンフィ救貧院で会った左利きの男の人の姿がよぎる。
しかし、彼の面影をクリスティーナは勇気を出して振りきった。
(もう……、あの人とは、二度と逢えないのよ)
彼のことは、もう……忘れなくてはならない。
叶うことのない淡い初恋を夢見るよりも、誰からも見捨てられた存在である自分を喜ばせたいと言ってくれたこの人のことを……。
誤解から来る関係でも、束の間の時だけでもいい、心から愛したい。
クリスティーナは、そう思った。
一瞬でもそれが真実になる瞬間が生まれるように願いを込めて、クリスティーナは言った。
「わたしは、あなたのことを愛しています。レスター様」
しかし、心からのクリスティーナの言葉にも、レスターは喜びはしなかった。
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