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戦争初期(1941~1942)
日米開戦二 南遣艦隊
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「東洋艦隊が、発見されたか」
『リパルス型戦艦二隻見ゆ。針路三四〇、速力一四ノット。一五一五』。『伊六五』からのこの電文が、小沢中将の元に届いたのは、一七時を過ぎてからである。つまり、この電文は、発進されてから二時間も経過して、漸く彼の元に知らされたのだ。小沢中将は、怒ると言うより、呆れてしまった。二時間前と言えば、まだ彼の艦隊は、マレー半島近海ににいたし、十分に対処出来たであろう。
「ともかく、船団の安全を図らなければ、いかんな」
小沢中将は、即座に三つの命令を出した。輸送船の避退、陸攻部隊(第二二航戦)の索敵攻撃、南遣艦隊の集結である。南遣艦隊は戦艦『大和』、重巡『最上』『三隈』『鈴谷』『熊野』、軽巡『鬼怒』『由良』『川内』、駆逐『吹雪』『白雪』『初雪』『狭霧』の一二隻で構成されていた。『鬼怒』『由良』は本来は潜水戦隊の旗艦であるのだが、小沢中将は、喫緊の情勢故に、彼らにも集結するように命令した。
この時、南遣艦隊の北方には、金剛型二隻で構築され、近藤信竹中将率いる第三戦隊がいた。近藤中将は、南遣艦隊だけでは危ないと、直ぐさま合流するように、命令した。一方の、小沢中将は、一刻も早く駆けつけなければ、船団が壊滅的被害を受けてしまう、と旗下の艦隊のみで、Z部隊に立ち向かうつもりであった。これは、必ずしも無謀な行為では無い。何せ、小沢中将率いる南遣艦隊の旗艦は、『大和』なのだから。
帝国海軍は、シンガポールに『プリンス・オブ・ウェールズ』と『リパルス』が派遣されたことを知ると、重巡以下の艦艇で構築されている南遣艦隊では、厳しいのではないかとされた。そこで白羽の矢が立ったのが、日本海軍最強の戦艦でありながらも、使い道がはっきり決まっていなかった『大和』である。
『伊六五』は一七時に英艦隊を見失ってしまった。しかし、それまでの情報から、英艦隊の現在位置は予想できる。その為、夜の間には、船団と接触するはずである。それなのに、そういう報告は無い。つまる所、英海軍は陸軍の船団の居場所を知らないのである。
英艦隊を発見するために『大和』は水偵を発信させる。いや、『大和』だけでは無く、南家艦隊の巡洋艦からも発艦していた。
小沢中将は、東洋艦隊を発見できるか出来ないかは、五分五分であると考えていた。夜間で有る為に、航空機からの索敵は成功しにくく(例え水偵が三座であるにせよ)、場合によれば、明朝の接触となるかもしれない。その場合は、基地航空隊の支援が期待できる。とは言え、夜間の接触に成功する可能性も、十分に有り、その場合には、日本海軍の想定しているアウトレンジ戦法は成立しないだろう。流石に夜間に三〇〇〇〇メートルの遠距離から砲撃は出来かねる。それに、この『大和』も竣工から、五ヶ月しか経っておらず、慣熟訓練も満足な物であるとは言いにくい。
「一体、日本の船団は何処にいるんだ」
フィリップス中将は、焦りを覚えていた。マレー半島の守備隊からは、味方の不利を伝える物ばかりである。しかも、それは各地から報告されており、彼は船団の位置をつかみ損ねていた。
「レーダーに感あり。方位三五〇、敵機!」
「針路、そのまま。或いは、海軍の方と接触するかもしれないがな」
「了解しました」
南遣艦隊には、新戦艦が配属されているとの話もある。しかし、こちらには、戦艦級の軍艦が二隻ある。『プリンス・オブ・ウェールズ』も、条約後の新戦艦であり、敵戦艦と互角に張り合えるだろう。例え、敵艦と接触しても、有利に進めることが出来るだろう。船団は、それからゆっくりと潰せば良い。フィリップス中将はそう確信していた。
「『大和』四番機が敵戦艦を発見しました。方位一七五。距離一〇〇浬、針路〇度」
「そうか。接触を保つように伝えよ。取舵!針路一五〇」
小沢中将は、懐中時計を見る。現在が二一時であり、彼我の速力を鑑みるに、日付が変わるまでには、接触出来るはずだ。恐らく、我々は、一番に敵艦と砲戦を交わす部隊になるだろう。ここからが正念場だ。
砲撃距離としては、比較的近い二〇〇〇〇メートルになっても、敵の様子は見えなかった。海域は暗闇が支配しており、あちらからもこちらは見えない筈だ。
「観測機を、発進させよ」
小沢中将の命令に従い、四機の観測機が発進する。彼らはまもなく敵艦隊上空に辿り着き、吊光弾を投下した。暗闇にくっきりと敵の姿が浮かび上がる。
「戦艦二隻に、駆逐艦四隻か。我々が言えたことでは無いが、アンバランスだな」
小沢中将は、そう言い命令を下す。
「砲撃、開始!目標『プリンス・オブ・ウェールズ』!七戦は『リパルス』を狙え!」
「電探に感あり。敵戦艦と思われる」
どうやら、先制打は敵に与えることになりそうだな。フィリップス中将はそう思ったが、自分の勝利を疑うことは無かった。
「了解した。砲撃用意。しかし、敵も相応の距離まで発砲は出来んはずだ。砲撃戦用意」
フィリップス中将が、そう命令を下した時であった。突如、『プリンス・オブ・ウェールズ』の周囲が光によって照らされた。
「光弾か!」
フィリップス中将はそう叫ぶ。
「射撃管制レーダーの準備は完了したか。よし、こちらも砲撃開始だ」
かくして、日英両方の最新鋭艦同士の戦いが、始まった。
『リパルス型戦艦二隻見ゆ。針路三四〇、速力一四ノット。一五一五』。『伊六五』からのこの電文が、小沢中将の元に届いたのは、一七時を過ぎてからである。つまり、この電文は、発進されてから二時間も経過して、漸く彼の元に知らされたのだ。小沢中将は、怒ると言うより、呆れてしまった。二時間前と言えば、まだ彼の艦隊は、マレー半島近海ににいたし、十分に対処出来たであろう。
「ともかく、船団の安全を図らなければ、いかんな」
小沢中将は、即座に三つの命令を出した。輸送船の避退、陸攻部隊(第二二航戦)の索敵攻撃、南遣艦隊の集結である。南遣艦隊は戦艦『大和』、重巡『最上』『三隈』『鈴谷』『熊野』、軽巡『鬼怒』『由良』『川内』、駆逐『吹雪』『白雪』『初雪』『狭霧』の一二隻で構成されていた。『鬼怒』『由良』は本来は潜水戦隊の旗艦であるのだが、小沢中将は、喫緊の情勢故に、彼らにも集結するように命令した。
この時、南遣艦隊の北方には、金剛型二隻で構築され、近藤信竹中将率いる第三戦隊がいた。近藤中将は、南遣艦隊だけでは危ないと、直ぐさま合流するように、命令した。一方の、小沢中将は、一刻も早く駆けつけなければ、船団が壊滅的被害を受けてしまう、と旗下の艦隊のみで、Z部隊に立ち向かうつもりであった。これは、必ずしも無謀な行為では無い。何せ、小沢中将率いる南遣艦隊の旗艦は、『大和』なのだから。
帝国海軍は、シンガポールに『プリンス・オブ・ウェールズ』と『リパルス』が派遣されたことを知ると、重巡以下の艦艇で構築されている南遣艦隊では、厳しいのではないかとされた。そこで白羽の矢が立ったのが、日本海軍最強の戦艦でありながらも、使い道がはっきり決まっていなかった『大和』である。
『伊六五』は一七時に英艦隊を見失ってしまった。しかし、それまでの情報から、英艦隊の現在位置は予想できる。その為、夜の間には、船団と接触するはずである。それなのに、そういう報告は無い。つまる所、英海軍は陸軍の船団の居場所を知らないのである。
英艦隊を発見するために『大和』は水偵を発信させる。いや、『大和』だけでは無く、南家艦隊の巡洋艦からも発艦していた。
小沢中将は、東洋艦隊を発見できるか出来ないかは、五分五分であると考えていた。夜間で有る為に、航空機からの索敵は成功しにくく(例え水偵が三座であるにせよ)、場合によれば、明朝の接触となるかもしれない。その場合は、基地航空隊の支援が期待できる。とは言え、夜間の接触に成功する可能性も、十分に有り、その場合には、日本海軍の想定しているアウトレンジ戦法は成立しないだろう。流石に夜間に三〇〇〇〇メートルの遠距離から砲撃は出来かねる。それに、この『大和』も竣工から、五ヶ月しか経っておらず、慣熟訓練も満足な物であるとは言いにくい。
「一体、日本の船団は何処にいるんだ」
フィリップス中将は、焦りを覚えていた。マレー半島の守備隊からは、味方の不利を伝える物ばかりである。しかも、それは各地から報告されており、彼は船団の位置をつかみ損ねていた。
「レーダーに感あり。方位三五〇、敵機!」
「針路、そのまま。或いは、海軍の方と接触するかもしれないがな」
「了解しました」
南遣艦隊には、新戦艦が配属されているとの話もある。しかし、こちらには、戦艦級の軍艦が二隻ある。『プリンス・オブ・ウェールズ』も、条約後の新戦艦であり、敵戦艦と互角に張り合えるだろう。例え、敵艦と接触しても、有利に進めることが出来るだろう。船団は、それからゆっくりと潰せば良い。フィリップス中将はそう確信していた。
「『大和』四番機が敵戦艦を発見しました。方位一七五。距離一〇〇浬、針路〇度」
「そうか。接触を保つように伝えよ。取舵!針路一五〇」
小沢中将は、懐中時計を見る。現在が二一時であり、彼我の速力を鑑みるに、日付が変わるまでには、接触出来るはずだ。恐らく、我々は、一番に敵艦と砲戦を交わす部隊になるだろう。ここからが正念場だ。
砲撃距離としては、比較的近い二〇〇〇〇メートルになっても、敵の様子は見えなかった。海域は暗闇が支配しており、あちらからもこちらは見えない筈だ。
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「光弾か!」
フィリップス中将はそう叫ぶ。
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