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戦間期(1932〜1941)

『大和』建造一 駐在監督官

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 昭和一一年春、ドイツ駐在監督官に任じられた西島少佐は、ハンブルクとキールの造船工場を見学した。キールでは、駆逐艦が建造されていたが、これには溶接が多分に使われていた。しかし、その利点を使ったブロック建造はしておらず、鋲構造と同じやり方を用いているのを見て、鋼材と溶接棒の他はドイツにも遅れていないと考えた。
 ドイツが使っていた鋼材はST五二というものであり、これの引っ張り応力は、日本が使っているD鋼より弱く、抗弾性に劣っていたが、溶接性は遙かに高かった。
「このST五二の謎さえ解ければ、日本の溶接は世界に劣らない物となるに違いない」
 西島はそう考えていたが、ここで思わぬ邪魔が入った。
 ベルリンオリンピックも終わった九月。ヒトラーはベルサイユ条約を破棄し、再軍備四カ年計画を宣言した。これにより、ドイツは国を上げた軍備生産の活性化へと突入していった。それだけではない。造船所や工場への外国人の立ち入りが禁止されたのである。
 これには西島少佐も弱った。文献による調査を進めて見るも、実際的な運用法は見つからない。そこで彼は一計を案じた。彼は造船所を離れ、橋梁の現場に行ったのである。ここでは電気溶接が造船より遙かに広く使われており、西島少佐は満足することができた。

 日本に残っている人物も、無為に時間を過ごしてはいない。福田少将は艦上機の爆弾投下による実験において、鋲接と溶接の標的を作り、それぞれに爆弾を投下させた。
 結果は意外な物だった。鋲接鋼は爆発の衝撃によりリベットが飛び出し、隣接している区域にも被害が及んだのに対し、溶接鋼はその区域のみに限られていた。溶接は防御面においても優れているという面を見せつけたのであった。
 それだけではない。ドイツより送られてきたST五二鋼と電気溶接棒の研究が開始されたのである。この時、特に注目されたのは溶接棒であった。従来の溶接棒では、溶接したときに小さな気泡が鋼材の内部に入ったり、金属が冷えるときに引っ張られて溝ができたり、へこみができたりしていて、これらが強度の弱さに繋がっていた。しかし、ドイツから送られてきた溶接棒ではそれが無くなっていたのである。福田はこれが溶接棒の堅さの違いによって生じる物であると断定。即座にドイツと同様の高圧をかけ、成型する方式への転換を指摘した。
 他にも、ドイツの治金学は世界最高峰と言っても過言ではないほど進んでおり、西島少佐はそれらを貪欲に吸収していった。例えば、検査方法においてもドイツは優れていた。X線検査、疲労試験、その様な先進的取り組みが、官民問わず行われていた。

 昭和一一年末、海軍は第三次海軍軍備補充計画、通称マル3計画を纏めた。これは、戦艦二隻、空母二隻を始めとした六〇隻を超える軍艦艇を、昭和一二年から一六年にかけての五ヵ年で建造するという計画である。他にも、陸上航空隊、艦載機の拡充も含まれている、約一〇億円の予算をかける物であった。
驚くべきは、この内の二億円近くがたった二隻の艦にかけられていることだろう。そう、A140型の二隻である。
 当然、これの可否を巡って国会では議論が噴出した。何せ、友鶴事件や第四艦隊事件から然程歳月は経っていないのである。この二つの事件により生じた、艦艇の改修で予定外の出費、それも膨大な額の物が出されたばかりである。
 しかし、国際情勢の緊張や軍部の台頭を受け、結局この案は承認された。昭和一七年二月の事である。

 実はこれに先立って、A140の命取りになりかねない時間が起きていた。
機関の問題である。
 この時の案では、タービンとディーゼルが二基ずつであり、設計もそれに従い進んでいた。
 何故、全機をタービン乃至ディーゼルに統一しないのかと言うと、それには日本特有の問題があった。
 従来、高速性能と信頼が要求される軍艦艇には、蒸気タービンが使われていた。ところが第一次大戦後、ディーゼル機関の燃費の良さが主に民間内で注目されてきた。
 海軍も軍縮条約によって、保持できる軍艦艇のトン数に制限がかけられる様になり、その中での航続力上昇にディーゼル機関が有用とされた。
 当初海軍は、大型のディーゼル機関を外国から導入し、技術を得ようとしていた。
 しかし、これは費用の面で取りやめになってしまう。そこで、海軍は独自にディーゼル機関の開発に乗り出すのであった。これには数々の物語があった。艱難辛苦を味わいながら、しかし技術者の努力がそれを打ち破る。非常に残念であるが、これらの物語は本筋からずれるので割愛しておく。
 さて、それが形になったのが昭和九年。一一号内火機械が完成したのである。
 しかし、これが難物であった。
 この一一号内火機械は、潜水母艦『大鯨』に搭載されたのであるが、燃料の完全燃焼が出来ず、馬力は所定値の半分程度しか出さず、それどころか、黒い煙がモクモクと上がる有様であった。
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