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番外編
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一方、その頃。
山本家次男、山本素喜は奮闘していた。
「う~ん、美味しいね。ホワイトチョコレートって、たまに食べるから美味しいのかな」
にこにこと笑いながら、美味しそうにホワイトチョコレートを食べている修治さん。一つ、また一つ、チョコレートは彼の口の中に入っていく。
ど……どうしよう!!
早くしないと無くなるし……!!
「チョコレートってコーヒーに合うよね」
そう言いながら、また一つ口に入れている。修治さんが意外に甘い物がいけるとは思わなかった。
手にした白いチョコレートをもじもじ弄っては、どう切り出そうかと悩んだ。その間にも、確実にチョコレートは減っている。
「あれ、素喜君は食べないの?」
「……た……食べる!」
「うん、美味しいよ」
ふわりと笑った優しい顔。ゴキュッと生唾を飲み込んだ俺は、意を決して立ち上がった。ギクシャクしながら向かいに座っている修治さんの背後に回り込む。少し明るい髪をしている修治さんの、硬い髪に額を押し付けた。
「素喜君?」
振り返ろうとした修治さんの背中に抱き付いた。教えてもらったことを必死に思い出す。
~*~
「修治をメロメロにする方法?」
「……め、メロメロって言うか……ドキドキさせる方法です」
「……ふ~ん」
ニヤッと、立川純が笑っている。俺は恥ずかしさに顔を俯かせていた。
修治さんに内緒で、純に会っていた。もうすぐホワイトデー。今年は俺にとって、とても重要な年になるから。
ホワイトデーで、様子を見るというか、試しておきたいというか。
「無いこともないよ」
「ほ、本当ですか!?」
「でもな~、大介に怒られそうだし」
「に、兄ちゃんには言わないから!」
「……う~ん、でもな~。ちょっと早いかな~」
純は渋っていた。なかなか教えてくれない。
助けを求めるように、彼の袖を握った。
「お願いします! 俺……自分がちゃんと修治さんをドキドキさせられるか心配で……」
「いやいや、絶対心配いらないし」
「でも!! ……俺……男だし」
キュッと唇を引き結んだ。奥歯を噛み締めるとフルフル震えてしまう。
「……あ、やばい。大介思い出しそう」
「……?」
「兄弟だね~」
ポフッと俺の頭に手を乗せた純は、にこりと笑った。
「分かった。でも、俺が教えたなんて、言わないでね。怒鳴られそうだ」
「絶対に言いません……!」
「了解。可愛い恋人の弟のためだ。一肌脱ぎましょう」
ポンッと俺の肩を叩いた純は、誰にも聞かれない場所へ行こう、とカラオケボックスに連れていってくれた。
そこで俺は、赤面しながら、修治さんをドキドキさせる方法を教えてもらった。
~*~
するなら今しかない。
手にしていたホワイトチョコレートの包装紙を破った。俺がずっと握っていたせいか、すでにちょっと溶けている。指に付くチョコレートを意識しながら、戸惑う修治さんの唇に当てた。
すると無意識に唇が開いている。チョコレートを口に入れようとして。
今だ……!
俺は全ての勇気を振り絞って、修治さんの唇にキスをした。チョコレートが口の中に入っていくのを感じる。
ここから……し、し…………舌で……!!
溶かし合って食べる。修治さんの中で。
プルプル震えながら大人のキスをしようとした俺は、
「……んごく」
という音に、ギュッと瞑っていた瞼を開いた。
「…………!!」
飲んでいる。
飲んでしまった。
丸飲みされた……!!
一口サイズのホワイトチョコレートは、噛まれることも、溶かすこともされずに丸飲みされてしまった。
「…………ぇっと……素喜……君?」
「……も、もう一回!!」
慌ててテーブルから新しいチョコレートを取った。残り三つしかない。
「め、目、瞑ってて! 飲まないで!」
「あのね、素喜君……」
「こ、今度は上手くやるから!」
飲み込まれる前に大人のキスをしなければ、カサカサチョコレートを取り出した俺は、修治さんの唇に当てたけれど。
大きな手が、俺の頭に乗せられる。
「落ち着いて、素喜君」
落ち着いてなんかいられない。俺は今年、二十歳になる。
二十歳の誕生日に、俺と修治さんは二人で大人になるのだから。
なおもチョコレートを押し付けた俺に、観念したように口を開いた修治さんが笑っている。
「……参ったな」
そう言って、チョコレートを口の中に入れてくれた。
今度こそ、ドキドキしてもらう。修治さんの膝に移動しながら、キスをしようとした。
そんな俺の体が抱き締められる。肩に顔が乗ってしまった。これではキスができない。
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