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番外編
3-2
しおりを挟む「………………ごめん、大介」
「いつものことだ。気にすんな」
「冗談だったんだけどな~」
溜息をついた純の肩を抱いた。そのまま二階にある俺の自室の方へ促した。
「気にすんなって。気にしてっともたねぇぞ」
階段を上がり、襖を開けると中に入れた。暗い室内に電気を点ける。明かりに照らされた純は、苦笑しながら胡座をかいて座った。
「面白家族だね」
「ああ。騒がしいな」
「でも、なんかあったかい」
「そうだな」
俺も座った。久しぶりに純とこうして向かい合う。
男だな。どう見てもやっぱり男だ。肩幅もあるし、骨格もしっかりしている。なよった男ではない。
それなのに。
……何でこいつはエロくさいんだよ……!
内心、焦っている。エッチ目的でやってきたと、まあ、冗談だった訳だけれども、聞いてしまってから体が少し熱くなっていた。
俺は変態なんだ。純はそんな気はないのだから。
会えただけで良いと思わなければ。
「う~ん、まさかの展開にビックリだ。手土産まで持ってきたのに、渡す暇も無かったよ」
純が持っていた紙袋からカサカサ箱を取り出している。地元では有名なお菓子の詰め合わせだった。
「ちなみに、これホワイトデーね」
そう言って、丸い小さな箱を出している。自分でリボンを解いた純は、白いチョコレートを取り出した。一つずつ包装されたホワイトチョコレートを開けている。
そして俺の口に一つを押し込んでくる。
「ちょ、待てって。俺、甘いの苦手で……」
「…………大介」
口から出そうとしたホワイトチョコレート。それをまるで阻止するかのように純の唇が重なった。そのまま押し倒された俺は、呆然と見上げてしまう。
……お、おい。
これは……何だ……?
……お……おお!?
ちょ……マジか!?
ありえねぇ……!!
俺の脳内が大混乱を起こしている。まるで誤作動を起こした機械が緊急停止したみたいだ。体が動かない。
「……ん……もう一個……食べる?」
口内で溶けたホワイトチョコレート。純の唇にも移っている。
それはつまり、彼が俺の口内で色々とした訳で。訳が分からず受け止めてしまった俺は、もう、体中の力を抜かれていた。
新しいホワイトチョコレートは、純の口に入っていく。それを凝視してしまう。
「甘いね~」
ふふ、と笑った純は、また重ねてくる。俺の顔に覆い被さるように体重を掛けてきた。硬直している俺の頬を撫で、角度を変えては唇を合わせてくる。
溶けたホワイトチョコレートが流れ込み、甘い匂いに目眩がした。飲み込むと、それはあまりに甘くて、甘すぎて。
体が震えてしまう。知らず腕が上がっていた。純の背中を抱き締めてしまう。
「……ぁ……はぁ……ん……大介」
唇に囁かれ、理性が吹っ飛びそうだ。
「……純!」
抱き締めたまま反転した。俺からキスをしてみる。溶けてしまったチョコレートはもう無いのに、どうしてこんなに甘いのだろう?
絡めた舌は俺を痺れさせてばかりいる。
純の息も上がっては、俺の耳を擽った。
「ん……大介……」
無意識だろうか、俺の頭を撫でている。顔を起こし、少し長い純の髪を掻き上げてやった。
イケメンと、世間では呼ばれている純。綺麗な顔立ちをしているのに、飾らない男。
「もう一つ、食べる?」
エロくさい誘いに、乗ってやった。三つ目を掴んだ俺は、包装紙を破ってチョコレートを手にすると、純の唇に置いた。
見つめ合いながら、唇を合わせた。
お互いの唇の温かさで少しずつ溶けていく。俺の頭を撫でていた純は、もっと来いと言うかのように体を引き寄せてきた。
密着すると体がどうしても興奮してしまう。男の性か。
絡んだ足も、触れ合わせた甘い唇も。
握り締められた手にも。
血液が沸騰した。もう、このまま純を抱いてしまいたい。
ずっと、押し込めてきたから。
純に会いたいと。
会って、話して、こうやって触れ合いたいと。
「……良いか?」
「聞かなくても分かるでしょ? すんごい誘ってるじゃん」
「だよな」
「あ、でも……ぁ……」
里帰りした時にしか会えなかったから。まさかホワイトデーごときで来てくれるなんて思わなかった。彼だって就職準備で忙しいだろうに。
いくら意地っ張りな俺でも、今日はたまらなく嬉しいと思える。
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