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番外編
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俺はドキドキしていた。
修治さんもドキドキしていた。
大人のキスまでして良いと、兄からようやく許しが出た。
「……修治さん」
抱き付いた広い胸は、凄い鼓動を打っていた。俺も一緒になって緊張してしまう。
もっと強くギュッと抱き付いた俺は、靴を脱いで上がる準備をした。スニーカーを脱ぎ捨て、早く修治さんにして欲しくて見上げたけれど。
彼は真剣な目で俺を見下ろしていた。
「修治さん……?」
不安になって呼び掛ければ、ギュッと握り拳を作っている。そうして俺の腕を掴むと、部屋の奥まで引っ張っていった。前に住んでいたアパートから引っ越して、今は俺達のアパートの近くに住んでいる修治さん。いつでもお泊まりができるようにと。
そしてベッドも大きくした。ダブルベッドになったそこへ連れていってくれる。
とうとう、俺は少し、大人になれるんだ。
ベッドにポスッと座った俺は、隣に座った修治さんを熱く見上げた。パンダのぬいぐるみ達は、ベッドに備え付けの棚の上から見守っている。
俺、大人になるよ!
意志を伝えるように修治さんの袖を握った。彼は掛けていた黒縁眼鏡をそっと外した。
優しい、温かい瞳が俺を見ている。顔を寄せ、俺の唇にそっと親指を当ててくる。確かめるように、撫でてくれる。
ドキドキ、ドキドキ、緊張した。紅潮する頬に、大きな手が触れている。
「僕も……大人のキスは……したことないんだ」
「しゅ、修治さんも……?」
「うん。だから……下手かもしれないけど」
傾いてくる顔。ギュッと目を瞑って待ち受けた。
重なった唇。緊張でフルフル震えてしまう。感じ取った修治さんは、触れては離して、離しては触れてを繰り返す。
いつもの、とても甘いキスを繰り返してくれた。
頬に柔らかく当たる唇。
鼻先も掠めていく。
チュッと音をたてておでこにもしてくれた。
頬を包む手が優しく撫でながら、また唇にしてくれる。
ふわりと、芳ばしいコーヒーの匂いがして温かくなった。緊張していた体から力が抜ける。とろんと力が抜けた俺の唇に、修治さんの親指が重なった。
「……素喜君」
なんて優しい声だろう。耳を澄ませた俺は、ゆっくりとベッドの上に寝かされていた。閉じていた瞼を開くと、修治さんが覆い被さってきている。
優しい目元が赤くなり、相変わらず真剣な目をした修治さん。
俺の黒髪を掻き上げるように両手を添えてくる。
「……も……我慢……できな……!」
苦しそうに顔を歪めている。
何が我慢できないのだろう。聞こうとした唇が塞がれた。いつも微笑んでいる唇が、俺の唇を覆うように触れている。
そして。
舌が、俺の唇を撫でていた。
「…………!」
ヒクッと肩が揺れた。修治さんの舌が、俺の唇に当たっている。
何で?
何で!?
分からなくて、歯を食いしばってしまう。
一気に緊張を取り戻した俺の頭を大きな手が撫でてくれた。
「……口……開いて」
「……修治さん……?」
「大人のキス……しよう?」
囁かれ、真っ赤になった。引き結びそうになった唇を震わせながら、恐る恐る開いた。
スルリと、修治さんの舌が入ってくる。ビックリして噛みそうになって、慌てて力を抜いた。今噛めば修治さんの舌を傷付けてしまう。
でも、何で舌を入れるのだろう?
唇をなぞるように舌で触れられていると、俺の体に寄り添うように修治さんが体重を掛けてきた。
俺の足と、修治さんの足が、交差する。いつも寝ている時に、すり寄ったりはしていたけれど。
なんとなく、恥ずかしくなる。浅い所を舌で探られながら、体から火が噴きそうなほど緊張した。
「素喜君……」
甘い声が、時折囁いた。その度に、腰がむずむずした。
「……ぁ……はぁ……素喜君……」
「…………!!」
無意識だろうか、修治さんの大きな手が、俺の手を握り締めている。指を絡められ、ドキドキが最高潮に達した。
熱い。
たまらなく熱い。
そして。
幸せだ……!
握られている手を俺も握り返した。恐る恐る、俺も舌を伸ばしてみる。ツンッと舌先が、修治さんの舌先に当たった。
ビクッと、彼の体が揺れている。閉じていた瞼を開いた修治さんと、俺の目が、重なった。
ああ、修治さんでも、こんなに赤くなるんだ。
じわっと何かが押し寄せてきた気がする。一度唇を離した修治さんは、もう片方の手も握り締めている。顔横へ付けるように握り合わせた手が、俺達を一つにした。
言葉もなく、唇を触れ合わせる。握り締めた両手が汗ばむほど、体が熱くなってきた。
「ぅん……ぁ……修治さん……」
体がじんじんする。
もっと触れてほしい。
求めるように彼を呼んだ。
大きな手を力いっぱい握り締める。
「素喜君……」
舌先を触れ合わせては、頬や首筋にもキスしてくれた。耳たぶにもキスした修治さんが、俺の頬に自分の頬を擦り寄せてくる。
そうしてまた、唇が重なった。俺の右手から手を外した修治さんが、腰を強く抱いてくる。
密着した体。俺も空いた右手で修治さんの背中に腕を回した。
唇が熱い。
熱くてたまらない。
もっと。
もっと深く。
一つになれるくらい、触れ合いたい……!
願いが通じたのか、遠慮がちに触れ合っていた修治さんの舌が、深く入り込んできた。
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