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初恋トルネード
4-2
しおりを挟む「いてーって!」
「兄ちゃんの超鈍感! 麻紀ちゃん泣かせる奴は俺が許さないし!」
「……おい……蓮司?」
「兄ちゃんどこ見てんだよ!? 好きな人が居るならそれで良いんだよ! 麻紀ちゃんだってちゃんと分かってるし、俺だってちゃんと支えるし! でも兄ちゃん、その人からも逃げたじゃん!」
「……蓮司」
「働いてること盾にして、逃げてるだけじゃん!!」
パシンと一発、俺の頬に重たい平手が入った。頭が掻き回されたようにグラついた。
なおも振りかぶった蓮司の手を見ても、止めなかった。見上げたまま、痛みを待っていたけれど。
「ほら、そこまでだ。息子共」
「……親父~!」
「お~よしよし。泣け泣け~」
蓮司の手を取った親方が、そのまま抱き込んで引き離した。こみ上げた涙を流す息子の背中をポンポン、叩いている。
俺はそれを、ぼうっと見ていた。
親方の、大きな手が俺の頭も撫でてくれた。
「不器用な男だな~、お前は。一つのことしかできねぇ性格らしい」
「……逃げてる……訳じゃねぇんだ。ただ、分かんねぇ」
「生きてりゃ何度も迷うさ。よし、こんな時は飲むに限る!!」
台所からかすめてきた酒瓶が、俺達の真ん中に置かれた。コップも三つ、ある。
ノロノロと起き上がりながら、苦笑した。
「蓮司は駄目っすよ。未成年っすから」
「ちっ。かてーな。こんな日くらいぶれーこーだろう?」
「……時代遅れ……っすかね~、俺」
胡座をかいて座った俺に、泣いた蓮司と、酒を注いでいる親方が見つめてくる。親子である彼らが、少しだけ羨ましかった。
「中卒からずっと、働いてきて。誰が誰を好きかなんて、興味ねぇし考えてる余裕もなかったすから。一つ一つ、やりたいこと消して、てめーが今できる事っつったら、家族守ることだけだった。あいつ等が笑ってられるようにって、それだけだった」
中卒の働き口は少なかった。それも安い。下にたくさんの弟と妹が居るのに、母さんも正社員として雇ってくれる会社はなくて。
とにかくアルバイトを続けたけれど。それでは安定した収入が得られない。募集で見つけた大塚大工店に飛び込んだのは、住み込みであったし、真面目に技術を習得していけば、実力で上に上がっていけるからだ。
一番下の美春がせめて中学を卒業するまでは、ここで働いて稼ぎたい。その想いだけしかなかった。
「女見る余裕があるなら、弟達に玩具買ってやりてーって思っちまって。おかしいっすかね、俺」
派手な服を着ている女達から、よく声は掛けられた。でも俺の目に映るのは、薄着の女達ではなく、弟や妹達が喜びそうな玩具ばかりで。
側に居てやりたいけれど、生活を支えるために外に出た。家の食い扶持が一人減るだけでも、食費が浮く。
そんな事ばかりを考えていた。思えば、恋がどんなものなのか、考えたこともなかった。
素喜も同じだったのだろう。次男として俺が居ない間、家族を支えようと必死だったのかもしれない。俺以上に不器用な彼が、精一杯アルバイトに出ていたことは母さんから聞いている。
だからだろうか。男であるのに、包み込むような修治の雰囲気に惹かれたのは。素喜の張った肩を撫で下ろした彼のおかげで、今は安心して家を空けていられる。彼も一緒になって、山本家を支えてくれている。
まだ、遊ぶ時間は無い。
まだ、働くことしか考えられない。
駄目なんだ。
他のやりたいことを見つけた時、家族を置いていってしまうかもしれない。働きながら余所に目を向けられるほど、俺は器用じゃない。
「家族が笑ってるなら……それで良いって……」
「……兄ちゃん!! ごめん!!」
突然、飛び込んできた蓮司を受け止めた。俯いていた俺の肩にグリグリ顔を押し付けている。
「俺、兄ちゃん頑張ってんの知ってるのに酷いこと言った!! ごめん!!」
「……お前は素直だな。良い男になるよ」
「たりめーだ、俺の息子だかんな」
親方の手が蓮司の頭を叩き、その手が俺の頭も小突いた。
「お前も良い男だぞ? 不器用すぎるが、家族想いなら俺と張れる!」
「……親方……」
「後はてめーしだいだな。色濃い沙汰はよ、結局、本人がどうにかするしかねぇからな」
ずいっと、コップに注がれた酒が差し出される。
未だ、一度も飲んだことはない。
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