SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

文字の大きさ
上 下
68 / 123
初恋トルネード

4-2

しおりを挟む

「いてーって!」

「兄ちゃんの超鈍感! 麻紀ちゃん泣かせる奴は俺が許さないし!」

「……おい……蓮司?」

「兄ちゃんどこ見てんだよ!? 好きな人が居るならそれで良いんだよ! 麻紀ちゃんだってちゃんと分かってるし、俺だってちゃんと支えるし! でも兄ちゃん、その人からも逃げたじゃん!」

「……蓮司」

「働いてること盾にして、逃げてるだけじゃん!!」

 パシンと一発、俺の頬に重たい平手が入った。頭が掻き回されたようにグラついた。

 なおも振りかぶった蓮司の手を見ても、止めなかった。見上げたまま、痛みを待っていたけれど。

「ほら、そこまでだ。息子共」

「……親父~!」

「お~よしよし。泣け泣け~」

 蓮司の手を取った親方が、そのまま抱き込んで引き離した。こみ上げた涙を流す息子の背中をポンポン、叩いている。

 俺はそれを、ぼうっと見ていた。

 親方の、大きな手が俺の頭も撫でてくれた。

「不器用な男だな~、お前は。一つのことしかできねぇ性格らしい」

「……逃げてる……訳じゃねぇんだ。ただ、分かんねぇ」

「生きてりゃ何度も迷うさ。よし、こんな時は飲むに限る!!」

 台所からかすめてきた酒瓶が、俺達の真ん中に置かれた。コップも三つ、ある。

 ノロノロと起き上がりながら、苦笑した。

「蓮司は駄目っすよ。未成年っすから」

「ちっ。かてーな。こんな日くらいぶれーこーだろう?」

「……時代遅れ……っすかね~、俺」

 胡座をかいて座った俺に、泣いた蓮司と、酒を注いでいる親方が見つめてくる。親子である彼らが、少しだけ羨ましかった。

「中卒からずっと、働いてきて。誰が誰を好きかなんて、興味ねぇし考えてる余裕もなかったすから。一つ一つ、やりたいこと消して、てめーが今できる事っつったら、家族守ることだけだった。あいつ等が笑ってられるようにって、それだけだった」

 中卒の働き口は少なかった。それも安い。下にたくさんの弟と妹が居るのに、母さんも正社員として雇ってくれる会社はなくて。

 とにかくアルバイトを続けたけれど。それでは安定した収入が得られない。募集で見つけた大塚大工店に飛び込んだのは、住み込みであったし、真面目に技術を習得していけば、実力で上に上がっていけるからだ。

 一番下の美春がせめて中学を卒業するまでは、ここで働いて稼ぎたい。その想いだけしかなかった。

「女見る余裕があるなら、弟達に玩具買ってやりてーって思っちまって。おかしいっすかね、俺」

 派手な服を着ている女達から、よく声は掛けられた。でも俺の目に映るのは、薄着の女達ではなく、弟や妹達が喜びそうな玩具ばかりで。

 側に居てやりたいけれど、生活を支えるために外に出た。家の食い扶持が一人減るだけでも、食費が浮く。

 そんな事ばかりを考えていた。思えば、恋がどんなものなのか、考えたこともなかった。

 素喜も同じだったのだろう。次男として俺が居ない間、家族を支えようと必死だったのかもしれない。俺以上に不器用な彼が、精一杯アルバイトに出ていたことは母さんから聞いている。

 だからだろうか。男であるのに、包み込むような修治の雰囲気に惹かれたのは。素喜の張った肩を撫で下ろした彼のおかげで、今は安心して家を空けていられる。彼も一緒になって、山本家を支えてくれている。

 まだ、遊ぶ時間は無い。

 まだ、働くことしか考えられない。

 駄目なんだ。

 他のやりたいことを見つけた時、家族を置いていってしまうかもしれない。働きながら余所に目を向けられるほど、俺は器用じゃない。

「家族が笑ってるなら……それで良いって……」

「……兄ちゃん!! ごめん!!」

 突然、飛び込んできた蓮司を受け止めた。俯いていた俺の肩にグリグリ顔を押し付けている。

「俺、兄ちゃん頑張ってんの知ってるのに酷いこと言った!! ごめん!!」

「……お前は素直だな。良い男になるよ」

「たりめーだ、俺の息子だかんな」

 親方の手が蓮司の頭を叩き、その手が俺の頭も小突いた。

「お前も良い男だぞ? 不器用すぎるが、家族想いなら俺と張れる!」

「……親方……」

「後はてめーしだいだな。色濃い沙汰はよ、結局、本人がどうにかするしかねぇからな」

 ずいっと、コップに注がれた酒が差し出される。

 未だ、一度も飲んだことはない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...